「あ……痛つつつ……」
「あいかわらずヘタねぇ」
「しょうがねぇだろ、この大人数じゃ……」
ポップのルーラで移動してきた俺たちは、重なり合うようにして地面に転がっていた。
「おい! いつまでマァムさんにしがみついとるんだっ!」
蹴り飛ばされたポップとチウが、言い争いを始めて騒ぎ立てる。
そんな二人を横目に、服についた土を払って周囲を見渡す。
ここは“ランカークス”。
テランやベンガーナの東方にある、小さな村の外れの小道だ。
のどかな田舎の風景を見ていると、魔王軍のことなんて忘れてしまいそうになる。
「それにしても、本当に伝説の武器なんてあるのかね、こんな田舎の村に」
チウは、いつの間に言い争いを終わらせたのか、小さな村を眺めながら言った。
かなり失礼な物言いだが、ここへ来ることになった理由が“占い”ということを考えれば、仕方ないとも思う。
「正確には、占い結果は“ダイの探しものがこの村にある”だったけどな」
「むむ。なんだねキミは。どっちでも同じことじゃないか」
「いや、武器そのものとは限らないってことだよ。たとえば、武器の材料とか、伝承とか、呪文とか……。とにかく“武器”だけじゃなくて、いろいろ見てみようってこと」
「ふうむ、なるほど。聞き込み調査をするときは、言葉に気をつけなければ見逃してしまうこともあるということか……。キミ、なかなか良いアドバイスだ。その調子で頼むぞ」
「ど、どうも……」
なぜか上から目線で褒められる。
はは、笑うしかねぇや。
こうして俺たちは、ダイの力に耐えられる武器を求め、ポップの故郷“ランカークス”へと足を踏み入れた。
+
「ちっちぇ〜村だぜ……何も変わってねえ。――おっと、そこ右だ」
こそこそと歩きながら、ポップが実家の武器屋までの道を案内する。
ここへ来るまでずっと渋っていたポップだが、やはり故郷が懐かしいのだろう。普段よりも口数が多く感じる。
しばらく歩くと、ポップの実家と思われる武器屋にたどり着いた。
店の前では、椅子に乗って看板をかけようとしている女性の姿があった。
「か、母さんっ!」
椅子から落ちそうになる女性に駆け寄り、ポップが下敷きになるようにして受け止める。
その女性――ポップの母親は、息子との再会に涙を浮かべ、強く抱きしめた。
「本当は会いたくてしょうがなかったのね……」
そんな二人の様子を、少し離れたところから見つめながら、マァムがつぶやく。
――バタンッ!
「お、親父……」
騒ぎを聞きつけたのか、店の中からポップの父親らしき男性が現れる。
このまま母親と同じく感動の再会になるのかと思いきや――父親は無言でポップの肩と股ぐらを掴んで、豪快に抱え上げる。
「このクソガキがぁぁぁっ!!」
す、すごい! なんという荒業を!
抱えたポップを地面に叩きつけるだけでは飽き足らず、そのまま殴るわ蹴るわの怒涛の責め。
「親に心配ばっかりかけやがって、このロクデナシがぁっ!」
「お、おじさん落ち着いてっ!」
さすがにマズいと思い、ダイたちと一緒に慌てて仲裁に入った。
+
「この村にはたいした伝説なんてない、平凡な村だよ」
ポップの父親――ジャンクに事情を説明したものの、返ってきたのは予想通りの返答だった。
それでも、このまま引き下がるわけにはいかず、とりあえず店の中を見せてもらうことにする。
「思ったよりずっといい武器がそろっているけど……」
それでもダイの力には耐えられないだろう、とメルルは言葉に出さずに表情で語る。
周りのみんなも同じ感想を持ったようで、少しがっかりした雰囲気が漂っていた。
……それにしても、何なのこいつら。目利きでもできるんか?
俺にはどの武器を見ても違いなんてさっぱり分からんぞ。
手にとった武器をそのまま元に戻す作業を繰り返して心の中で嘆く。
「ん?」
ダイが店の隅に立てかけてある一本の剣に気づき、手に取る。
「この剣……何か不思議な力を感じる。他の剣にはない凄みがある……。でも、これでも多分ダメだと思う」
「ふむ、さすがだな。そいつは確かに特別製だ。最近知り合った“ロン”って魔族が作った剣だよ」
「なんだってっ……親父、それってまさか、“ロン・ベルク”って名前じゃないのか?」
「あ、ああ。そうだが……」
その後、ポップはヒュンケルの魔剣や魔槍を作った名工、ロン・ベルクのことをジャンクに説明し、彼のもとへ案内を頼んだ。
ついに、ダイのための武器作りか。
……はあ、会うの嫌だなあ。
俺は数年前、ロン・ベルクと会った時のことを思い出し、深いため息をついた。
+
「ええっ!? ロン・ベルクを知ってるの!?」
ロン・ベルクのもとへ向かう道すがら、俺が彼に会ったことがあると伝えると、みんな驚いた顔で目を丸くした。
「ああ、何年か前にね」
「じゃあなんで今まで黙ってたんだよっ! 分かってりゃもっと話が早かったってのに!」
「だってぇ、魔剣とか魔槍のこと知らなかったし。それに、魔族が鍛冶屋やってるってだけで、いちいち話すようなことでもないじゃん」
ポップが声を荒げるが、そこは前から考えていた言い訳でうまく乗り切ることにする。
低く唸りながら反論を飲み込んだポップは、ふと何かに気づいたように俺の木刀を指さした。
「……まさか、お前。何か作ってもらったのか? その木刀、ロン・ベルク製じゃないだろうな?」
「いや、違う。この前も言ったけど、気を流してるから頑丈なだけで、ただの木刀だよ。ていうか鍛冶屋って木刀なんて作るの?」
「あ〜〜もうっ、じゃあお前は何を作ってもらったんだよっ!」
焦れたようにポップが叫ぶと、他のみんなも気になるのか、ちらちらとこちらを伺っていた。
「親父さんなら分かると思うけど、そのロン・ベルクって人、結構な変わり者でさ。俺のことは気に入らなかったみたいで、結局何も作ってもらえなかったんだよ」
俺の言葉に同意するように、ジャンクは目を閉じて静かに頷いた。
「そんなぁ……じゃあ、俺たちが行ってもダメなのかなぁ」
俺とジャンクの反応に、ダイは不安そうな表情を浮かべる。
「大丈夫。俺と違って、ダイならきっと気に入られるって」
……それに、俺が気に入られなかった理由は、めちゃくちゃシンプルだったしな。
+
森の奥にひっそりと佇む、小さな小屋。
ここに、ロン・ベルクがいるという。
しかし、どうやら留守のようで、ノックしても中から返事はなかった。
どうしたものかと立ち尽くしていると、背後から足音が聞こえる。
振り返ると、そこにはひとりの男の姿があった。
「困るな、ジャンク。お前以外の人間をここに連れてくるとは……む?」
その男――ロン・ベルクは、俺の顔を見るなり、心底嫌そうな顔をして酒瓶をぐいと傾けた。
……めっちゃ嫌われてるっ!