ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

64 / 127
63 詰問

 工房って……暑いよな。窓、開けちゃダメかな?

 暇だし、さっさと終わらせてくれないかなあ。いや、マジで暇。

 

 ロン・ベルクがダイの手をじっと見つめ続けて、すでに数時間。

 なぜかダイと一緒に小屋に残された俺は、やることもなくイスに座ってぼんやり待ち続けていた。

 

「おい、お前」

 

 さらに数十分が経過した頃、気が抜けていたタイミングでいきなり声をかけられた。

 

「え、あ、俺ですか? トーヤです。名前は、トーヤ」

「……お前は一体、何者だ?」

 

 突然の質問に、俺だけじゃなくダイやジャンクまで首をかしげる。

 

「な、何者って言われても……」

 

 どう答えりゃいいのかわからず、尻すぼみに返事をする。

 すると、それまでずっとダイの手のひらを見ていたロン・ベルクが、ゆっくり顔を上げて言った。

 

「……なぜ、オリハルコンを持っている?」

「そ、それは……偶然、手に入れて……」

 

 いや、みんなはそれで納得してくれたんだけどな。

 ロン・ベルクだけは、どうにも出所が気になって仕方ないらしい。

 

「オリハルコンとは神々が創りし金属。世界中探しても、ごくわずかしか存在しない伝説の素材だ。その希少性ゆえ、地上にあるオリハルコンの在処はすでにほとんど判明している。……つまり、お前が持っていることなど、本来あり得ん話なのだ」

「……そういえば、ロモスの王様もそんなこと言ってたな。地上に残された僅かなオリハルコンで、覇者の剣と冠を作ったって」

 

「地上だけじゃない。魔界ですら、滅多にお目にかかれん代物だ」

「へえ……神様が……。そんなにすごいものを、トーヤが持ってるなんて」

 

 オリハルコンの名は知っていても、その価値はピンと来ていなかったのだろう。

 ダイは驚きと興味が入り混じった目で、俺に問いかけるように視線を向けてきた。

 

 ……うわ、やっちまったな。

 いくら伝説の金属って言っても、そこまで貴重なもんだったとは。

 現代知識の弊害とでもいうべきか……“伝説”って言葉が、俺の中で安っぽくなってたみたいだ。

 

 ため息をひとつついて、俺は腹をくくった。仕方ない、事情を説明するか。

 

「……あれ、俺が作ったんですよ」

「なにっ!? お前が……作った、だと!?」

「神様が作った金属を、トーヤが!?」

「うん。まあ、いわゆる錬金術ってやつでさ。素材さえ揃えば、俺でも作れるんだ……もちろん、めっちゃ難しいけど」

 

 ――あーあ。

 なんか最近、自分の能力バラしまくってる気がするなあ。

 

「そっか、だからトーヤは不思議なアイテムをたくさん持ってたんだね。いつも使ってたカードみたいなやつも、錬金術で作ったものだったんだ」

「ええっ!? 気づいてたのか!?」

 

「うん。トーヤって、ルーラ使うときいつも背中向けて、なにかしてたでしょ? あれ、気になってたけど……話したくないことなのかなって思って、聞かないでいたんだ。……みんなも気づいてると思うよ」

「……マジで?」

 

 うっわ、めっちゃ恥ずかしいんですけど。

 完璧に隠してたつもりだったから、毎回「ルーラッ!」とか声に出して演出してたのに。バレてたんなら、道化以外の何者でもないじゃないっすか……。

 

 そうして俺は、自分の作ったアイテムやカードを取り出して、みんなに説明することになった。

 その間ずっと、ロン・ベルクの表情だけが一切崩れないのが、なんか……めっちゃ気になった。

 

 

 +

 

 

「余計な世話かもしれんが、あの男には気をつけろ」

 

 俺は目の前に座る坊主――ダイの掌を見つめながら、忠告を口にした。

 今この小屋にトーヤはいない。話を一通り聞いた後、準備の邪魔になると判断して追い出したからだ。

 

「……あの男って、トーヤのことですか?」

「そうだ」

「……どうしてですか?」

 

 今日出会ったばかりの男に仲間を貶され、気分を害したのだろう。

 ダイの表情にはわずかな険しさが浮かんでいる。

 

「ヤツは何かを隠している。もしかしたら魔王軍……いや、別の魔界の勢力の人間かもしれん」

「そ、そんなことありません! トーヤは俺たちの大切な仲間です。そんなこと、絶対にない!」

 

 俺の言葉を否定するように、ダイは勢いよく首を振った。

 そのやりとりを、部屋の隅で静かに伺っているジャンクの視線を感じる。

 

「ヤツは“オリハルコン”を作ったと言っていたな。……ありえん話だ」

「ありえないって……さっきロン・ベルクさんも言ってたじゃないですか。俺は錬金術士じゃない、剣を作ってほしければオリハルコンを用意しろ、って」

 

 確かにそう言った。だが、それは「錬金術士なら用意できる」という意味ではない。

 

「……あれは言葉の綾というやつだ。オリハルコンは神々が作りし金属だ。ただの人間――いや、たとえ魔族であろうと、作り出すことなど不可能」

「え? でも、素材さえあればできるって、トーヤは……」

「その“素材”だが、あの男は何と言っていた?」

「えっと……“竜のつの”と“油”と“金属”……だったかな」

 

 トーヤが話していた内容を思い出し、ダイは指折り数えながら答えた。

 

「おかしいと思わんか?」

 

 俺の問いに、ダイはしばらく考え込む。そして何かに気づいたのか、慌てて声をあげた。

 

「りゅ、竜のつのなら別におかしくないです! つい最近ドラゴンと戦ったし、そのときに手に入れたんだと思います!」

「確かに“竜のつの”も十分に貴重なものだ。だが……俺が言いたいのは、そこではない」

 

 ――どうしてヤツは、そんな大切なことを俺たちにあっさり話したのか?

 

「……大切なこと?」

「“材料”だよ。錬金術士に限らず、俺たちのような職人にとって、技術や技法は命よりも重いことがある。本来、オリハルコンの生成方法――とりわけその素材なんて情報は、誰にも明かすはずがない。命の次に大事な秘密のはずだ」

「それは……でも、俺たちは素材があっても作れないんだし、そんなに気にすることじゃ……」

 

 仲間だからだろうか。ここまで説明しても、ダイは話の本質から目を逸らすように、トーヤのことをかばう。

 いや、俺自身、なぜあの男のことでここまでムキになっているのか、よく分からない。

 

 放っておけばいい。俺は地上最強の剣を作り、それを地上最強の少年に託すだけ。

 本来、それだけで満足なはずなのに……。

 

「いいか、よく聞け。トーヤは錬金術ができることをお前たちに隠していた。お前の反応を見る限り、”不思議なアイテム”ってやつのことも、ついさっき知ったばかりなんだろう」

 

 俺はいつになく真剣な眼差しで、正面からダイを見据える。

 ダイも、俺の只ならぬ様子を感じたのか、静かに耳を傾けていた。

 

「だからこそおかしいんだ。自分の正体すら明かしていない人間が、どうして”オリハルコン”の材料という、命にも等しい秘密を話す?」

 

 ハッキリとした声で告げる。

 お前の仲間は危険だ――手を切ったほうがいい、と言外に伝えるように。

 

「あいつの行動には一貫性がない。正体を隠したかと思えば、妙に重要な情報をベラベラ喋る。材料の件にしたって、作るところを直接見たわけじゃないだろう? もしかしたら全部デタラメで、”錬金術”ってのも、俺が偶然その言葉を使ったから、それに乗っかっただけかもしれん」

「ロン・ベルクさん。……確かに、あなたの言う通りかもしれない。だけど、俺は――俺はトーヤを信じるよ」

 

 忠告もむなしく、ダイは少しも迷いのない目で、真っ直ぐ俺を見つめてきた。

 

「確かにトーヤは、何かを隠してる。錬金術ってのもウソかもしれない。でも、トーヤが俺の大切な仲間だってことは……それだけはウソじゃないから」

「……そうか。ならば、俺からはもう何も言うまい」

 

 なぜ、あんな得体の知れん奴を信用できるのか。

 俺には到底、理解できない。

 

「――そろそろ鍛冶に取りかかる。ジャンク、手を貸してくれ」

「おう、こいつは大仕事になるぜ」

 

 ――元々、ただのお節介だ。

 ダイがそう言うのなら、それまでのこと。

 

 俺は俺の仕事をするだけだ。

 

 炉から取り出したオリハルコンを打つ。

 鎚から伝わる音と手応え――それだけで、この素材が最高の代物だと分かる。

 

 オリハルコンだからか。それとも、あの男が用意したからか。

 ふと、そんな考えが頭をよぎる。

 

 剣を打つときに雑念が入るのは、初めてのことだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。