いつも通り酒を買い、小屋へ戻ろうとすると一人の青年がいた。
何処にでもいる普通の青年だ。・・・まあ、服装は変わってるが。
「どうしてこんな森の奥にいる、遭難者か?」
親切心ってわけでもないが、気がついた時にはそう尋ねていた。
どうやら青年は人を探しているらしい。
嫌な予感がした。きっとコイツも俺に武器が作って欲しくてやってきた口だろう。
「そうか、見つかるといいな」
だから俺は白を切ってこの場を去ろうとした。だというのにーー
「それには及びません。たった今、見つかりましたから。魔界の名工、ロン・ベルクさん」
一癖ありそうな野郎だな、と俺は思った。
・・・・・・。
・・・。
「帰れ」
短く告げると、俺は青年を追い返した。
思いの外あっさりと小屋から出て行った。家までついてきたからもっと粘着質なやつかと思ったので安心した。
次の日何気なく外へ出ると、そいつは小屋の前にいた。
どうやら座り込みをしているらしい。俺が剣を作ってくれるまではここを離れないそうだ。
「そうか」
そっけなく一言返すと、俺は小屋に戻る。
別段驚きはしなかった。噂を聞きつけて似たようなことをする輩はごまんといる。
そしてこういう奴は放っておけばいい。相手にするだけ時間の無駄だ。
・・・。
数日後。
外は雨が降っていた。あの青年はまだ小屋の前にいる。
何をするでもなく雨に打たれて座り続ける青年の姿。
その姿を見て、何故か無性に腹が立った。
「ーーいい加減にしろよ小僧。でないと地獄をみることになる」
追い返すために凄んでみせると、青年は顔をほころばせた。
「なら、勝負をして下さい。剣の勝負で俺が勝ったら武器を作ると約束して下さい」
その言葉に違和感を覚えた。
剣で勝負? 俺が剣士だということを知る者は少ない。それが地上となれば皆無といっていいだろう。
だが、俺はその違和感をすぐに払拭した。深い理由などない、単に腕っ節で解決しようという短絡的な思考の持ち主なのだろう。
それにコイツ自身が出した条件だ。さっさと負かして追い返してやろう。
勝負が始まると、青年は腰にぶら下げていた木刀を構えた。
こちらは真剣を構えているのだが、青年は怯む様子がない。・・・案外肝が座っているのかもしれないな。
あるいは舐めているのか。どちらにしろ俺は少し脅かしてやろうと剣を振りかぶると、青年の眉間めがけて振り下ろす。
俺の放った鈍い太刀筋は、ゆっくりとした速度で青年に向かって落ちていく。しかしそれでも並みの人間では対応できるものではない。
慌てふためく青年の姿を予想するも、俺は舐めていたのが自分の方だと思い知らされた。
「ーーッ!?」
あろうことか木刀で俺の刀身を受け止め、力任せに俺の体ごと振りぬき押し返した。
後方へ数メートル程飛ばされた俺は、雨水をはじきながら地面を踏みしめる。
信じられなかった。闘気を流しているとはいえ、たかが木刀が俺の剣の一撃を防ぐなんて。
だから俺は勝負のことなど忘れて木刀を斬ることに執心した。
その後何度か打ち合うと、俺の意図を察したのか青年も木刀で受けの体勢をとった。
構わず何度も何度も剣を振り下ろした。
がむしゃらになって剣を振る。しかし木刀は斬れなかった。
どれくらいそうしていただろう。俺が力任せに剣を振りぬくと、木刀が青年の手から飛ばされていった。
飛んでいく木刀を呆けたように視線で追うと、青年が言葉を発した。
「剣を手放してしまっては負けを認めざるを得ませんね」
青年は木刀を拾うと、雨に濡れた両手を服で拭った。
そして一週間も粘って剣を作って欲しいと懇願したくせに、負けを認めてあっさりと帰っていった。
・・・・・・。
・・・。
ダイの剣を作り終えた俺は、酒瓶を片手に昔のことを思い出していた。
最高の気分だったのに、台無しだな。
トーヤ、か。奇妙な男だ。
何を目的にしているのかまるで理解できない。
今回はダイの剣が目的だったとはっきり分かる。しかし3年前のあれはなんだ?
結果だけ見れば負けたから引き下がっただけだが・・・。
あの日以来、俺の心境に変化があった。
酒を飲んでいても剣のことを考えていた。
知り合ったばかりのジャンクから仕事の依頼を請けていたのは剣を作りたかったからかもしれない。
頭の片隅ではいつも最強の剣を思い描いていた。
心の奥底で、かつての夢を追い求め始めたのだ。
・・・認めよう、俺は嫉妬していた。
3年前、俺は鍛冶師としてヤツに負けた。それが尾を引いているんだ。
俺の剣ではヤツの闘気剣を斬れなかった。だが、次は必ず斬ってみせる。
ダイの剣を作り終えたばかりだというのに、俺の心はまるで満たされていない。
飲みかけの酒瓶を投げ出し、俺は再び小屋へと戻るのだった。
ちょっと短め。
一応ダイの剣は完成しましたが、今回はロン・ベルクsideでした。
次回はVS鬼岩城&ミストバーンですね。