さまよう鎧の軍勢を前に、俺たちは思わず足を止めた。
ポップが悔しげに歯噛みする。こうして立ち止まっている間にも、敵は鬼岩城の内部から次々と雪崩れ出てくる。
「我が魔影軍団は不死の軍団。暗黒闘気のある限り、何度でも蘇る」
悪魔のような声――魔影軍団の軍団長ミストバーンが、心までも挫こうとするかのように冷たく告げた。
「じゃあ……奴らの軍勢は……無限、なのか……」
「く、くそ……。いくらやっつけても減らねえなんて」
迫り来る軍勢に、ポップとチウ、それにバダックも怯む。
共に戦うマァムやクロコダインでさえ、僅かに顔色が悪い。
だが、俺は違った。
皆と違い、余裕があった。なぜか。
「みんな、諦めちゃダメだっ! あの鬼岩城とミストバーンさえ倒せば、俺たちの勝ちなんだから!」
“ダイの剣”を背負い、みんなを励ます我らが勇者・ダイが、ここにいるからだ。
やっぱり勇者は頼りになるわぁ。
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メルルが敵の危険を察知し、作戦会議のために小屋に入ると、剣はほとんど形になっていた。
本来なら“覇者の冠”を取りに行き、その後ロモス王の許可を取る必要がある。
だが、その行程を飛ばしたことで、“ダイの剣”完成までの時間が大幅に短縮されたのだ。
そのおかげで、鬼岩城がパプニカに上陸する前に駆けつけることができた。
“ダイの剣”さえあれば、巨大ロボットもかくやと言わんばかりの鬼岩城も、容易く撃退してくれることだろう。
――なんて考えていると、いつの間にか合流していたヒュンケルが、いつになく真剣な表情をしていることに気づいた。
「どうしたんだ、難しい顔して。何か気になることでもあるの?」
「……ミストバーンは俺が倒す。一人でな」
「お、おい。何バカなこと言ってんだよっ!」
会話を聞いていたポップが声を荒らげてヒュンケルに抗議する。
同じく聞いていた皆も、不安げな様子を隠せない。
「すまんが、こればかりは譲るつもりはない。お前たちは鬼岩城を頼む」
「な、なんだとっ。こら、ヒュンケルっ! こんなときに勝手言ってんじゃねぇぞ!」
尚も続けるポップだが、ヒュンケルは無言のまま答えない。
頑として譲る気配のない彼に、クロコダインを除く皆は困惑していた。
「ど、どうするよぉ……」
助けを求めるように、ポップは俺とクロコダインに視線を送ってきた。
……これでも年長者ですからね。ここは見事に仕切らせていただこう。
「ミストバーンと鬼岩城の両方を相手にするのは骨が折れる。ここは二手に分かれて戦おう」
「なら俺は鬼岩城の方へ行くよ。レオナも心配だし。みんなはどうする?」
ダイがそう言うと、皆それぞれどちらに行くか悩みだす。
だが、そんな迷いを断ち切るように俺は口を開いた。
「二手に分かれるからといって、必ずしも人数を半分にする必要はない。鬼岩城はダイ一人で十分だろう。残りはミストバーンだ」
「え、ダイを一人で行かせるつもり?」
心配そうにするマァムに、ダイは自信満々に笑って返す。
「へへ、大丈夫だよ。この剣さえあれば負ける気がしないんだ」
「よし、決まりだな。まずはミストバーンと鬼岩城を引き離すぞ――安心しろ。お前がやられない限り、手は出さないって」
不満そうなヒュンケルに、言い訳するように肩を叩くと、有無を言わせず先を急ぐ。
そう――ミストバーンを刺激してはいけない。
鬼岩城を倒すことだけを考えれば、それでいいんだ。俺たちはあくまで時間稼ぎ。
ダイがいるという安心感の裏で、一抹の不安が胸をよぎる。
しかし、これ以上悩んでいる時間はない。その不安を頭の片隅に追いやり、俺たちは鬼岩城へ向けて、ひた走った。
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崩れ去った鬼岩城の残骸の山。
その上に腰を下ろして、水平線をぼんやりと眺めていた。
ミストバーンとキルバーンを追って、ポップが一人で行ってしまったのだ。
あの二人を相手にするなんて、無謀もいいところだ。すぐにダイがトベルーラで後を追って飛び立っていった。
空を飛べない俺たちには、無事を祈ることしかできない。
……それはそれとして、今、俺はこれからのことを考えていた。
さっきまでの不安は杞憂だったようで、鬼岩城は原作どおり、あっさり撃退できた。
ミストバーンもヒュンケルの光の闘気で押し返して、なんとか持ちこたえた。
原作通りとは言わないまでも、かなり近い展開だ。
さて、次は――超魔生物ハドラーとの戦い。オリハルコン軍団との激突。その後は……。
うん、こうして整理してみると、まだまだ危険は山積みだな。
けど、悪くない流れだ。理想的と言っていい。
俺がこの世界に来たことで、微妙な変化はあっても、大筋には大きな影響を与えていない。
今回だって“ダイの剣”の完成は早まったけど、物語の根幹は揺らいでいない。パプニカの被害も想定より軽く、復旧もそう時間はかからないだろう。
――ストーリーに余計な影響を与えず、被害を最小限に抑える。
それが今の俺にできる、ベストな立ち回りだ。
飛び立つ前、ダイにはしっかり回復薬を飲ませた。
これでハドラーにやられるリスクも減ったし、氷海に投げ出されても原作よりはだいぶマシなはず。
クロコダインがポップを迎えに行く流れも変わらないはずだし、その後、ダイが敵地に取り残されてから助けに行けばいい。
予定を整理しながらイメージトレーニングをしていると、遠慮がちにマァムが俺の元へやってきた。
「ねえ、トーヤ。あなたの力で、何とかならないの?」
「ん?」
「不思議なアイテムをいくつも持ってたでしょ? それで……ダイたちを助けに行けないのかなって」
――ムリ。そう即答したかった。
けど、その瞬間、脳裏に電流が走った。
――やっべ、俺……さっきダイに“同行”のこと、バラしちまったじゃん。
他の仲間にはまだ話してないけど、このままじゃダイが戻ってきたときに全部バレる。
いや、絶対話すだろ、あいつ。
【同行(アカンパニー)】
・発動者を、行ったことのある場所か会ったことのある人の元へ飛ばす呪文。
・カード名を読み上げ、「オン」と唱えた後、対象の名前を宣言すると発動。
“同行”の能力は、ダイに嘘偽りなく説明してしまった。
つまり、俺は今ここからでもダイやポップはもちろん、ミストバーンやキルバーンの元にだって飛べてしまう。
だとしたら、今ここで動かないのは明らかに不自然だ。
下手すりゃ、仲間から不信感を持たれかねない。
それはまずい。
瞬時に言い訳を構築し、マァムに笑顔を向けた。
「安心しろ。これを使って、すぐ連れ戻してくるよ」
そう言って、俺はカードの効果を皆に説明し、しぶしぶ迎えに行く“フリ”をすることにした。
「こんな便利なものがあるなら、どうしてすぐに行かなかったのよっ」
説明を聞き終えたマァムは、珍しくむっとした顔をしていた。
……エイミも、いつもこんな感じで怒ってたな。
「まあ落ち着け。カードで飛んだ先が空だったら落ちるだけだ。助けるにしてもタイミングってもんがある」
「あっ、そ、そうよね……ごめんなさい、私ったら……何も考えずに……」
――とっさにしては、いい言い訳だった。
俺は「迎えに行くだけだし、一人で十分だ」と伝えて、周囲を静めた。
そして、しばらく経ってから。
カードを手に、俺は立ち上がる。
「じゃあ、行ってくる。アカンパニー、オン。ダイ」
カードが光り、浮遊感が全身を包む。
視界が開けると、目の前にはダイ――そして、炎の闘気をまとったハドラーが、すぐそこまで迫っていた。
どうやら俺、戦闘のど真ん中に飛び込んじまったらしい。
あ、これアカンやつや。