ヤバい、と思った時にはもう体が勝手に動いていた。
あと数歩のところまで迫ったハドラーに、反射的にメラを放ちつつ後ろへ跳ぶ。
視界を覆うように炎が広がるが、そんなもの、超魔生物と化したハドラーには目眩ましにもならない。
俺はとっさに木刀を逆手に抜き、盾代わりに構えた。大怪我は覚悟のうえで、衝撃に備える――が、その瞬間。
「ぐあっ!?」
ハドラーと俺の間で、突如として呪文の爆発が起きた。
爆風に巻き込まれた俺の体は宙に舞い、踏ん張る暇もなく吹き飛ばされる。
背後にいたダイが慌てて俺を受け止めようとするが、間に合わず、二人揃って地面を転がった。
「イテテ……だ、大丈夫?」
痛みに顔をしかめながら、ダイが上体を起こしつつ尋ねる。
どうやらさっきの爆発は、ダイのイオラだったようだ。おかげでハドラーの攻撃は回避できた。
「……かなり乱暴だが、助かったぜ、ダイ」
軽く痛みをこらえながら立ち上がり、自分の体をざっとチェックする。
痛みこそあれど、怪我自体は大したことなさそうだ。
「お、おいっ! 大丈夫か!? ダイ、トーヤ! ――あんたも助けに来てくれたんだな……俺のせいで、すまねぇ」
ポップが駆け寄ってくる。
自分の軽率な行動を悔やんでいるのだろう。俺の顔を見るなり、バツが悪そうに謝った。
「気にすんな。――それより、こいつらぶっ倒して皆で帰るぞっ!」
まだ落ち込み気味のポップには言いたいことが山ほどある。
けど、それは後だ。今は戦闘中。次の攻撃がいつ来てもおかしくない。俺はハドラーたちから目を離さず、ポップを背に庇うようにして木刀を構えた。
視線の先には、超魔生物ハドラー、ミストバーン、キルバーン。
どいつもこいつも、まさに化け物。3対3と言えば聞こえはいいが、戦力差は歴然だ。
「ポップ、呪文はあとどのくらい使える?」
「中級呪文なら……3、4発ってとこか……。くそっ、これじゃ戦えねえ……」
「いや、それだけ撃てれば十分だ。――だけど、念のためにこれも使え」
そう言って、魔法力を回復させる“メンタルウォーター”をポップに手渡す。
「トーヤ、あいつらは半端じゃない。特に今のハドラーは、剣があっても一筋縄じゃいかないよ」
俺がオーラを高めるのを見て、ダイが隣に立ち並びながら忠告してくる。
だが、心配はいらない。俺にだってこいつら3人と戦うつもりなんて毛頭ない。さっきの啖呵は、わざとあいつらに聞こえるように言っただけだ。
「逃げるぞ。幸い、みんな脱出手段は持ってる。――お前も、ルーラくらいならまだ唱えられるだろ?」
今度は二人にだけ聞こえるよう、小声で告げた。
「うん、わかった」
「でも、普通にルーラを唱えたって捕まっちまうぜ……相手は三人だ。隙を作るにしても分が悪すぎる」
頷くダイに対して、ポップが疑念を口にする。彼の言う通り、ルーラを使ったからといって、そう簡単に逃げられるわけじゃない。
ルーラは瞬間移動といっても、実際にはワープではない。魔法力を用いての超高速移動に過ぎないのだ。
つまり、相手にその速度に対応する能力があれば、簡単に追いつかれる。
そもそも、ここに誘い込まれたと気づいたときにポップがすぐにルーラで脱出しなかったのが、その証拠だ。
だからこそ、多少なりとも隙を作る必要がある。
だが、ダイはまだ余力がありそうとはいえ、満身創痍だ。ポップもメンタルウォーターで魔法力は回復したとはいえ、ハドラーたち相手では厳しい戦いになる。
つまり、今この場で、奴らとまともに戦えるのは俺一人。
本当は原作通りに、ダイだけを残して行きたかった。だが、今の状況で残せば、本当に死んでしまいかねない。
それでは元も子もない。
原作とは違ってしまうが、ここは全員で逃げるのが最善だ。
「フフフ、作戦は決まったのかな?」
「ん?」
浮いていたはずのキルバーンとミストバーンが、ゆっくりとハドラーの隣へ降り立った。
「わざわざ死にに来るなんて、人間って本当に変わってるよねぇ。でも、ハドラー君とダイ君の一騎打ちを邪魔するなんて、イケナイなぁ」
「卑怯者~っ! 一対一の勝負なんだぞっ!」
キルバーンの肩に乗った、小さな子供が俺に向かって叫ぶ。
「今来たばかりなのに知るわけねぇだろ、バカ」
「おやおや、口が悪いねぇ。彼はハドラー君の邪魔だから、殺しちゃおうか。ね、ピロロ?」
キルバーンは大鎌を両手で構え、攻撃の体勢に入る。沸点低いなこいつ……本体が子供だからか?
しかもキルバーンだけじゃない。ミストバーンまでが爪を構え、こちらを睨んでいる。どうやら、いきなり総力戦になるようだ。
俺は一歩前に出て、再び小声で二人に話しかけた。
「いいか、作戦はこうだ。俺が正面から突っ込む。ダイ、お前は全体を見渡して牽制してくれ」
「わかった」
「ポップは呪文をひたすら撃ってくれ。とにかく派手にな。注意を逸らせばそれでいい」
「よ、よしっ!」
「あとは、それぞれ逃げられると思った瞬間にルーラで離脱しろ。いいな?」
「「おう!」」
一際大きな声で気合を入れ、俺たちはハドラーたちへ向かって突き進んだ。
+
俺は一人で、ミストバーンとハドラーという二人の化け物を相手にしていた。
作戦は成功し、ダイとポップは隙を突いて飛び立っていった。
だが、俺だけはうまく脱出できずにいた。
せめてもの救いは、キルバーンがいないことだ。ヤツはダイとポップのルーラの光を追って消えた。
最初からポップを狙っていたからだろう。それでも、あの様子なら二人はきっと逃げ切れるはずだ。
問題は……俺だ。
二人の猛攻に膝をつきながら、必死に思考を巡らせる。
「意外だな。あんたはダイを追わなくていいのか?」
何か手がかりを得ようと、無理にでも会話を試みる。
「ふん、邪魔をしておいて何を言うかと思えば……ダイは必ずこのオレが倒す。だが、そのときにまたお前のような邪魔者がいては厄介だ。だから今、先に片づけることにしたまでのことよ」
ハドラーの言葉の最中、ミストバーンの爪が音もなく飛んでくる。それを木刀で弾くが、すぐさまハドラーが追撃を仕掛けてきた。
”覇者の剣”の一閃を木刀で受け止める。しかし、勢いは殺しきれず、俺の身体はそのまま岸壁まで吹き飛ばされた。
両手は痺れ、肩が悲鳴を上げる。
「……っ痛、バカ力しやがって」
舌打ちしながらも、俺はこの一瞬に賭ける。
ミストバーンの爪はまだ伸びきったまま、ハドラーも一撃を放った直後で動きが鈍っている。そして、一撃で距離も開いた。
今しかない!
痺れる手を懐に突っ込み、“同行”を取り出して使用する。だが――。
「な、なんだと!?」
“同行”は効果を発動することなく、ミストバーンのもう片方の爪に貫かれてた。