ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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67 死闘

 あまりの出来事に、一瞬、思考が停止する。

 唯一の脱出手段といえる“同行”が、オシャカになったのだ。これはもう、絶望と言うほかない。

 

「どうした? 顔色が悪いぞ」

 

 破れて半分になったカードを手放し、俺は視線を上げて、ハドラーとミストバーンを視界に収める。

 

「察するに、キメラの翼のような効果を持つアイテムだろう。もし攻撃用であれば、ダイやポップと共に仕掛けてきたはずだ」

「お見通しか。そこまで分かってて、あいつらに逃げられるなんてな。本当は見逃したんじゃないか?」

 

「オレはバーン様に忠誠を誓っている。であれば、バーン様に仇なす者は誰であろうと、殺すのみ。私情は挟まん」

「それにしちゃ、ずいぶん楽しそうな顔してるけどな」

「ふふふ……ダイと戦うために、この身を魔獣へと変えた。あっさり決着がついてしまっては、その甲斐があるまい」

 

 チッ。悠長に構えやがって。ムカつくぜ。

 だが、好都合でもある。いまのうちに、この場を切り抜ける手段を考えなければ。

 

 そうだ――確かポーチの中に“フェニクス薬剤”が、まだ数本残っていたはずだ。

 

 あれを使って持久戦に持ち込めば、あるいは……いや、ダメだ。ハドラーはともかく、ミストバーンがいる限り、それは通用しない。

 持久戦も正攻法も無意味。奴がいる限り、勝機はない。他の手を考えるんだ……!

 

 俺の思考をよそに、ハドラーが何かを思いついたように口を開いた。

 

「どうだ、オレと一対一の勝負をしないか?」

「……なんだと?」

 

 疑問を抱いたのは俺だけではない。

 ミストバーンもハドラーに視線を向け、その真意を探ろうとしている。

 

「なに、簡単な話だ。ダイとは万全な状態で戦いたい。そのためにも、少しでも多く戦って、感覚を慣らしておきたいのだ。それに、お前もそれなりに腕は立つ。このままオレたちに殺されたのでは、死んでも死にきれまい」

 

 ミストバーンは沈黙を保ったまま、動かない。

 おそらく、超魔生物と化したハドラーの戦いぶりを観察するつもりなのだろう。

 

 俺はそっと視線を逸らし、海のほうをちらりと見やる。

 だが、その動きを見逃さなかったハドラーが、にやりと笑った。

 

「ふふふ……泳いで逃げるつもりか? やめておけ。素直に戦ったほうが、まだマシというものだ。覚悟を決めたらどうだ」

「……なるほど、いいこと言うじゃねえか。さすがは魔軍司令殿。できる男は違うな」

 

 俺の雰囲気が変わったのを感じ取り、ハドラーとミストバーンがわずかに身を引く。

 

「ハドラー。お前の言う通りだ。いい加減、覚悟決めて全力でやってやるよ。だが――せっかく本気でやるんだ。手を抜かれちゃ困るぜ?」

「無論。手加減などするつもりはない」

「はあ……分かってねえなあ」

 

 俺はわざとらしく、大きなため息をついた。そして、木刀を地面に突き立てる。

 

「――二人まとめてかかってこい」

 

 息を呑むハドラーとミストバーン。

 一瞬の空白のあと、凄まじいまでの殺気が俺を包み込む。

 

「……いい度胸だ」

「身の程をわきまえろ、虫ケラが」

 

 二人の殺意を一身に受け止めながら、俺は静かに、左手の小指と右手の人差し指に嵌めていた指輪を外した。

 

 

 +

 

 

 死の大地の一角。そこでは今、悪夢のような死闘が繰り広げられていた。

 ぶつかり合う殺意と殺気。それは熱気と衝撃波となって大気を震わせ、爆ぜさせる。

 

 その暴風の中を、疾風のごとく駆け抜ける三つの影。

 余人の介入を許さぬ激しい戦い。その凄まじさは時を追うごとに増し、未だ決着の兆しは見えない。

 

 ハドラーとミストバーン。世界でも屈指の怪物二人を相手に、トーヤは互角の戦いを繰り広げていた。

 二人の殺意にさらされる緊張と重圧は、未だかつてない集中力をトーヤに引き出させる。

 

 気配もなく背後に回り込んだミストバーンが、暗黒闘気の気弾を放つ。

 加減など一切ない。「二人まとめて相手にする」などという傲慢は、万死に値する――それがミストバーンの流儀だ。

 

 雨のように降り注ぐ無数の闘気弾。しかし、そのどれひとつとして命中しない。

 トーヤは、絶妙な間合いでハドラーとの距離を保ちながら、闘気弾の雨を軽やかにかわしていた。

 

「ぬううああッ!」

 

 闘気弾の煙を裂いて、ハドラーが猛然と肉迫する。

 削岩機のごとく地面を抉る突進。その一撃を、トーヤはわずかに下がって木刀で受け止め、軸をずらして受け流す。

 

 直後、空いた左手でハドラーの”ヘルズクロー”が振るわれるが――。

 

「……おっと。当たらないな」

 

 その爪は、虚しく空間を裂くだけだった。

 

 この戦いが始まってから何度目だろう。ハドラーもミストバーンも、攻撃を仕掛けた瞬間にトーヤに間合いを外される。

 

 トーヤを中心に張り巡らされたオーラは、直径およそ二十メートル。

 その領域内で起こるあらゆる動きを、トーヤは正確に感知している。死角は存在しない。

 

「こっちからも行くぜッ!」

「ッく……!?」

 

 体勢の崩れたハドラーの懐へ、木刀の一撃が炸裂する。

 振り下ろされる連撃。予想外の威力に、ハドラーは防戦一方に追い込まれる。

 

 トーヤは“隠”を使い、オーラの大半を隠していた。

 “凝”を使えないハドラーにとっては、極めて厄介な戦術だ。

 

 加えて、指輪を外したことでトーヤのオーラ量はさらに膨れ上がっている。

 それは今の超魔ハドラーをすら、わずかに上回るほど。そんな相手が搦め手を使えば、苦戦は避けられない。

 

 だが――いかにトーヤが二人に匹敵する実力を持とうと、結局は一人。

 一人で二人に勝つことなどできるはずがない。単純な足し算の理屈だ。

 

 ではなぜ、トーヤはまだ生きているのか?

 その答えは、ハドラーとミストバーンの“連携の欠如”にあった。

 

 どちらかが攻撃する時、もう一方は沈黙する。

 これでは二人がいる意味がない。むしろ、お互いのリズムを乱し合い、力を発揮できていない。

 

 それこそがトーヤの狙い。彼が絞り出した唯一の活路だった。

 ――しかし。

 

「だいぶ息が上がってきたようだな」

 

 ミストバーンの声が、無慈悲に響く。希望など存在しないと告げるかのように。

 

 トーヤは尋常でない量の汗を滴らせながら、ミストバーンを睨みつけた。

 いくら相手が本調子でなくても、相手は二人。体力が持つわけがない。

 

 トーヤはポーチから“フェニクス薬剤”を取り出し、一気に飲み干すと、木刀を強く握り直した。

 

 

 +

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ちょっとは手加減とか……はっ、はぁ……ねえのかよ……」

 

 息を荒げ、片膝をついたトーヤが苦しげに声を漏らす。

 1時間にも及ぶ死闘は、ついに終焉の時を迎えようとしていた。

 

「俺たち二人を相手によくぞここまで戦った。敵ながら見事だ。トドメは、苦しまずに逝けるよう俺の最高の技で刺してやろう」

 

 魔炎気を纏いながら、ハドラーは超魔爆炎覇の構えを取る。

 その前に、トーヤは素早くポーチから小瓶を取り出し、口に含んだ。

 

「っ!?」

 

 次の瞬間、トーヤの身体の自由が奪われる。ミストバーンの《闘魔傀儡掌》だ。

 ハドラーの隣に降り立ったミストバーンが、掌をこちらに向けたまま静かに告げる。

 

「トドメを……ハドラー」

「うむ。――トーヤと言ったか。何か言い残すことがあれば聞いてやろう」

 

「なら、一つだけ……勝負ってのは、最後の最後まで分からないもんなんだぜ」

「くっ、あっはっははは! その闘志、やはり見事。しかしこれで終いだッ!」

 

 剣を構え、闘気をさらに高めるハドラー。だが、トーヤは怯むことなく、口の端を僅かに吊り上げる。

 

「甘いんだよ――喰らえッ、霊丸……!」

 

 そうつぶやくと、人差し指を二人の足元へ向けた。

 着弾と同時に炸裂した霊丸の爆発は、地面ごと周囲を吹き飛ばし、まるで隕石が衝突したかのような衝撃が大地を覆う。

 

「――うおおぉッ!?」

 

 絶叫とともに岩盤へ叩きつけられるハドラー。反対に、声一つあげぬまま空気の奔流に飲み込まれていくミストバーン。

 粉塵が舞い、岩の破片が雨のように降り注ぐ中、低く響く地鳴りとともに戦いは幕を下ろした。

 

 

 +

 

 

「大丈夫かい、ミスト」

 

 静寂を取り戻した大地を上空から見下ろしていると、いつの間にか現れたキルバーンが、親しげに声をかけた。

 

「キルか。いつからいた?」

「結構前からかなあ。君とハドラー君があの男と戦ってるのを、10分くらい見てたよ」

 

「……奴はどうなった?」

「自分の放った技の爆発に巻き込まれて、海に飛ばされていったよ。しばらく浮かんでこないから、死んだんじゃないかなぁ」

 

 軽い調子で話すキルバーンに、ミストバーンは無言で視線を向ける。

 

「心配しなくても大丈夫だよ。人間は水中じゃそんなに長く息を止められないんだ。知らなかったのかい?」

 

 冗談めかして笑うキルバーンには取り合わず、ミストバーンは遠くの海をじっと見つめた。

 

「その男についてはボクに任せておいてよ。この辺り一帯を見ていれば、必ず水面に顔を出す。しばらく見張っておくよ。ダイくんと魔法使い君を逃しちゃったから、ボクも頑張らないとねえ」

 

 飛び去るキルバーンを見送りながら、ミストバーンは倒れているハドラーの元へと静かに降り立った。

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