ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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68 遭難

 ちくしょう、しつこい野郎だ。

 俺は海底の岩場に身を隠しながら、心の中で悪態をつく。

 

 ……おっと、そろそろ新しいのをなめないと。

 ポーチからアイテムを取り出し、口に放り込む。

 

 【 エアドロップ 】

 ・なめると中から空気が沸き出てくるアメ。なめている間は水の中でも呼吸ができる。

 

 残り少なくなってきた“エアドロップ”に、不安が胸をよぎる。

 先の戦いで、なんとかハドラーとミストバーンの追撃を振り切った俺だったが、未だ窮地に立たされていた。

 

 今は“隠”を使って海底に潜んでいるからまだいいが、ヤツは鼻が利く。いつまで隠れていられるか分からない。

 それに、エアドロップも残り4つ。1つでだいたい30分――つまり、俺が海底にいられるのはあと2時間が限界だ。

 

 それまでにできるだけ遠くへ逃げなきゃならないし、そもそも逃げ延びたとして、この広大な大海原からパプニカまでどう帰るのか――悩みは尽きない。

 だが、今は目の前の問題をなんとかしないといけない。

 

 俺は岩場から、そっと顔をのぞかせて追手の姿を探る。……が、見えねえ。

 水中じゃ視界はぼやけるし、遠くなんて見えたもんじゃない。何よりここは海底、かなり暗い。

 

 まだ浅い方だから多少の光は届いているが、これより深くなれば一気に真っ暗になる。

 このまま海底を移動し続けるのは無理だろう。

 

 “円”を広げると、すぐ近くにヤツの気配。

 “隠”を使っていれば、よほどのことがなければバレない……だが、ここまで接近されては時間の問題だ。

 

 ……仕方ない。ここは多少ムチャでも、一気に抜けるしかない。

 覚悟を決め、俺は岩場から飛び出した。

 

 “念”で強化した腕力と脚力にすべてを任せ、水中をがむしゃらに突き進む。

 “円”で感じ取る限り、ヤツはまだ岩場の近くにとどまっている。

 

 よし、そのまま動くなよッ――。

 

 祈るような気持ちで水をかき分けていく。

 ……そのときだった。ヤツの動きが変わった。

 

 岩場を離れたヤツは、信じられない速度でこっちへ向かってくる。

 

 ――速いッ。とても逃げきれない。

 

 逃げ切りは不可能だと判断した俺は、すぐに身体を反転させ、迫り来る巨大な顎を両手で受け止めた。

 だが、水中では踏ん張りなんて利かない。巨躯に押しやられ、水圧が身体の自由を奪っていく。

 

 なんとかその巨体から逃れるが、ヤツはすぐに距離をとり、またも体当たりのように襲いかかってくる。何度も、何度も。

 

 ――いい加減にしろよ、このクソ鮫がああぁ!!

 

 心の中で怒鳴り返しながら、本日二度目となる霊丸を放った。

 

 

 +

 

 

 大自然と野生の脅威にさらされること数時間。

 

 俺はついに陸地へと辿り着いた。……まあ、「辿り着いた」というか、海流に飲まれて漂着しただけなんだけど。

 あんなバケモノとの戦いを生き延びても、こんな形で死にかけるんだから、世の中って本当にわからない。

 

 とはいえ、状況は未だに絶望的だ。まず、現在地がわからない。ここはどこやねん。

 ちなみに、日に4発しか使えない霊丸もすでに使い切っている。

 

 ハドラー達に1発、巨大なサメに1発、超巨大な海流に飲み込まれたときに1発、難破船の残骸を避けるために1発。

 ハドラー達はともかく、酷い目に遭いすぎだろう。……いや、もしかして海ってこういうものなのか? だとしたら、二度と潜りたくない。

 

 などと色々と思うところはあるが、生きていたんだから良しとしよう。

 気持ちを切り替え、周辺の探索に意識を集中させる。

 

 海岸に流れ着いた俺は、岸から続く森へと入り、高い場所を目指していた。

 上から周囲を見渡せば、村や町が見つかるかもしれない。

 

 道中で木の実を食べ、湧き水で喉を潤しながら先を急ぐ。

 

「何もねえな、くそが」

 

 思わず声が漏れた。自分以外に誰もいないと分かってはいたが、黙っていられなかった。

 だが、文句のひとつも言いたくなる。見渡す限り、木と山と海。人里なんてありゃしない。

 

 “同行”もないし、ここがどこかも分からない。どうしたもんかな……。

 

「ん?」

 

 途方に暮れていると、遠くに微かに煙が見えた。

 かなり遠いな。目測だが、15キロほど先か。

 

 煙はひとつ。集落ではなさそうだ。考えられるのは、山火事、温泉の湯けむり、もしくは旅人の野営か。

 正直、ヒトがいる可能性は低い。集落がない以上、こんな場所を旅する奇特な奴なんて、そうそういないだろう。

 

 ……うーん。でも、一応行ってみるか。どうせ他にできることもないしな。

 

 ――結論から言うと、来て正解だった。

 人間、考えるよりもまず行動だね。危うくスルーするところだったよ。

 

 焚き火を五人で囲みながら、お茶をごちそうになる。いやぁ、ほっとするなあ。

 

「こんなに美味しいお茶を飲んだのは、生まれて初めてですよぉ」

 

 俺はお茶を手渡してくれた男に、素直に礼を言った。

 

「あっはは、そいつは良かったな。遭難してたんだろ? 今まで大変だったろぉ」

 

 そう言って笑顔で俺の肩を叩いたのは、でろりん。原作の最初でゴメちゃんを拐ったニセ勇者だ。

 

 彼らは魔王軍の脅威から逃れるため、この地へやってきたらしい。

 一度滅ぼされた国――オーザムなら、もう一度狙われることはないだろう、という考えのようだ。

 

 彼らのおかげで、俺は現在地を知ることができた。ここは、オーザムのあるマルノーラ大陸の最南端にある海岸だそうだ。

 

「ワシらも助かったぞい。あんたのお陰で、こうして食料にもありつけたからのう」

 

 まぞっほ、へろへろ、ずるぼんの三人は、嬉しそうに焼き魚にかぶりついている。

 お茶こそごちそうになっているが、彼らが今食べている食料は、全部俺が用意したものだ。

 

 発見当時、彼らはニセクロハツ(椎茸そっくりの毒きのこ)とクサフグ(毒魚)を食べようとしていた。

 キアリーやどくけしそうがあるこの世界なら、もしかしたら助かったかもしれないが……俺がいなければ、確実に毒にあたっていただろう。

 

 この世界で学んだサバイバル術が、こんなところで役立つとはね。嬉しい誤算だ。

 

 とはいえ、助かったのは俺も同じだ。

 場所を把握できたのも大きいが、なによりも――。

 

「本当にありがとうございます。”キメラのつばさ”まで頂いてしまって……」

 

 この状況を打破できる、最強のアイテムを譲ってもらえたのだ。感謝してもしきれない。

 

「良いってことよ。これからも大変だと思うけど、お互い頑張ろうぜ」

 

 およそ一週間分の食料の袋を抱えて、でろりんはとてもいい笑顔をしていた。

 ……せめて、こっちを見てくれ。

 

 こうして俺は”キメラのつばさ”を使って、無事にパプニカへ帰ることができたのだった。

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