ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

73 / 127
72 残る者たち

 アバンに別れを告げた俺は、オーザムへ向かう前にひとまずパプニカへ戻ってきていた。

 アポロ、マリン、そしてロン・ベルク――三人にはどうしても渡しておきたい物があったからだ。

 

 まずアポロには、すでに渡すものを渡してある。

 

 「俺が戻らなかったら開けてくれ」とだけ伝えて手渡したせいで、かなり不安そうな表情をしていたが、何か思うところがあったのか、それ以上は何も聞かずに受け取ってくれた。

 

 次にマリンに渡そうとしたが、見つからなかった。

 先に城の一室でロン・ベルクの姿を見つけたので、アポロにしたのと同じようにアイテムの入った袋を手渡す。

 

「なんだこれは?」

 

 訝しげに袋を見つめ、ぞんざいに持ち上げるロン・ベルク。

 

「もし、俺が死の大地から戻らなかったら開けてください」

「そうか」

「ウェイト、ウェイト! なに開けてるんですか!? “戻らなかったら”って言ってるでしょ!」

 

 袋の中身を漁り始めたロン・ベルクに慌てて止めに入るが、まったく聞く耳を持たない。

 そして袋の中の手紙に気づくと、そのまま読み始めてしまった。

 

 何度も飛びかかって手紙を奪い返そうとするが、あっさりと躱されてしまう。

 しかもその最中でも、目はしっかりと文章を追っている。……さすが達人。

 

 これ以上やっても無駄だと悟った俺は、手紙を取り返すのを諦め、大きくため息を吐いた。

 手紙には、この世界が辿るであろう未来と、アバンが立てた作戦が書かれている。

 

 もし俺がバーンを倒せなかった場合に備えた、保険のようなものだ。あくまで可能性の話なので、本当は誰にも知られないほうが良かったんだけど……。

 

「安心しろ。別に言いふらしたりはせん」

 

 手紙を読み終えたロン・ベルクは、袋の中のアイテムを手に取り、まじまじと見つめながら弄り始めた。

 

 まあ、それなら別にいいけど。

 それよりも――

 

「よく信じますね。誇大妄想って笑われてもおかしくない内容ですよ?」

「別に信じたわけじゃない。この手紙どおりになったら、そう動けばいい。ただそれだけの話だ。どちらにせよ騒ぎ立てるようなことじゃない」

「……そ、そうですか」

 

 淡白というか、合理的というか、あるいは本当に興味がないだけなのか……。

 相変わらず、よく分からない人だ。

 

「それにしてもなんだこれは。オモチャみたいじゃないか。こんなもんで、本当に何とかなるのか?」

 

 さっきまで弄っていたアイテムを眺めながら、そんな失礼な感想を口にする。

 

「適当に扱わないでくださいよ。世界の命運がかかってるんですから、ホントに」

「ふん。そうならんように、お前さんが大魔王を倒してこい」

「まあ、そうなんですけど……」

 

 それきり、ロン・ベルクは俺のことなど意に介さず、再びアイテムの分解・解析(?)に没頭し始めた。

 時折ぶつぶつと「なるほど」「違うな」「いや、こっちか」とか呟きながら作業する姿は、完全にヤバい人である。

 

 ……マリンを探そう。

 このままここにいても埒が明かない。

 

 部屋を出ると、背後からロン・ベルクの大きな笑い声が響いてきた。

 

「できるっ、できるぞ!! この方法なら確実にッ! うはははは――っ!!」

 

 こわい。

 

 

 +

 

 

「じゃあ、俺はもう行くよ」

 

 城の屋上。そこでマリンに短く別れを告げる。

 アポロやロン・ベルクと同じように、アイテムの入った袋を渡すと、カードを取り出して出立しようとした。

 

「……私は反対よ。あなたはここに残って、みんなのサポートに回りましょう」

 

 背後からかかった声に、俺の動きが止まる。

 その表情からは、言葉の真意を読み取ることができなかった。

 

「あなたのアイテムがあれば、復興にも大いに貢献できると思うし……それに、思いがけない敵が攻めてきても十分に対処できるじゃない」

「大魔王を倒せばすべてにケリがつく。最優先すべきは、あくまで大魔王討伐だ」

 

 そんなことはマリンだって分かっているはずだ。なのに、いまさらなぜ?

 

「で、でも……あなたが行く必要はないじゃない」

「俺だって、厳しいながらも戦えるだけの力はある。ダイたちのためにも、少しでも協力しなきゃ」

「だ、だけど――」

 

 マリンは何度も、行く必要なんてないと食い下がってくる。

 その言葉を聞くうちに、俺はようやく気づいてしまった。いや、むしろどうして今まで気づかなかったのか。

 

 単純な話だった。

 少し前、マリンは「あなたが大魔王を倒せるとは思えない」と言った。

 

 あのとき俺は、その言葉を敵との内通や、やる気のなさを責めているのだと受け取ってしまった。

 でもアバンも言っていたじゃないか――俺は鈍感だと。

 

 我ながら、本当にその通りだと思う。マリンはそんなことが言いたかったんじゃない。ただ――

 

「……俺のこと、心配してるのか?」

 

 それだけのことだった。

 

「と、当然よ。だ、だってあなた、この間も殺されかけたのよ? 大魔王を倒せても、あなたが死んでしまったら意味がないじゃない」

 

 ああ、そうか。考えてみれば、当たり前のことだった。

 誰だって、大切な何かを守るために戦おうとしている。

 

 戦いに勝ったけど、大切なものを失いました――じゃ、意味がないんだ。

 ……こういうことを自分で言うのは、自惚れてるみたいで嫌なんだけど、これはそういう話だ。

 

 つまり、マリンは俺のことを失いたくないんだ。

 もしもこれで勘違いだったら、自殺級の大打撃。大魔王討伐どころじゃなくなる。

 

 ……ほんとに、合ってるよな?

 

 でも前に一晩一緒に過ごしたけど、あれについては何の言及もないし。

 触れられたくない事実だから黙ってるのか? それとも俺から何か言うのを待ってるのか?

 

 考えれば考えるほど、思考は袋小路に迷い込んでいく。

 

 あーもう、わっかんねぇ!

 小賢しいことは考えるな、恋愛は心でするもんだ!

 

「マリンっ!」

 

 突然大きな声で名前を呼ばれ、マリンはビクッと肩を震わせる。

 俺は大きく息を吸い込み、赤くなった顔を隠すように一気に思いの丈をぶちまけた。

 

「マリンのことが好きだっ! 大魔王を倒したら……結婚してくれ!!」

 

 言い終わると同時に踵を返し、マリンの反応を見ることなく空の彼方へ飛び立った。

 “同行”の光の中、浮かれているとも不安ともつかない感情に包まれながら――

 

 「いい年して、女子中学生より恋愛脳じゃないか……」

 

 と、自嘲するのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。