ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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74 死神

 キルバーンの姿を視界に捉えた瞬間、常人では視認すら不可能な速度で一撃を放つ。

 不意を突いた絶妙な斬撃に、確かな手応えを感じた――。

 

「残念、ハズレだよ」

 

 ――しかし、木刀の一撃をひらりと躱したキルバーンは、大きく後退しながら不敵な笑みを浮かべていた。

 

「この死神ヤロウ……なんでこんなところにいやがる」

 

 独り言のように呟きながら、キルバーンの本体――操り手である子供の魔物を探る。

 “円”の有効範囲は二十メートルほど。だが、その範囲内にそれらしい気配はない。

 

 黒のコアが仕込まれてるんだよな、あの頭部には……。

 うかつに攻撃すれば、爆発で共倒れだ。かといって、手をこまねいていれば相手の思う壺。

 

 舌打ち一つ、俺はキルバーンと正面から向き合う。

 

「侵入者の排除も僕の仕事だからね。ヒュンケル君はミストのお気に入りで手を出せないし……だから君を狙うことにしたんだ」

 

 言葉を終えると同時に、キルバーンは地を砕いて間合いを詰めてくる。

 こちらは棒立ちのその姿を狙い、今度こそ捉えたと確信して木刀を袈裟斬りに振り下ろす!

 

 ――が、またしても空振り。

 刃は地面を砕き、土煙だけが舞い上がる。

 

 回避の瞬間を捉えることすらできなかった。……まずい。

 焦りからか、動きが単調になっている。そんな隙を、あの死神が見逃すはずもなく――。

 

「――ッ痛ァッ!?」

 

 余裕を持ってかわしたはずの一撃が、しかし肩口を裂いた。

 咄嗟に傷を押さえながら後退。間合いを取り直す。

 

 追撃はしてこない。キルバーンは悠然と大鎌を回しながら、またしても涼しい顔だ。

 

 ……笛の音で、感覚が狂ってきてるな。下手すりゃ、このまま動けなくなる……。

 

「ふふふ、頑丈だね。今のは腕を切り落とすつもりだったのに……まだちゃんとくっついてるんだから」

 

 肩から手を離し、傷の具合を確かめる。幸い浅い。

 念でオーラを纏っているせいで、俺の身体は並の攻撃では致命傷にならない。

 

 キルバーンからすれば、分厚いタイヤでも斬りつけた感触だっただろうな。

 ならば好都合。体力を削られる前に、大鎌を叩き壊してぶちのめすのみ!

 

 気持ちを切り替え、全身に力を込める。

 戦闘能力そのものは、こちらが上のはず。絡め手さえなければ勝てる相手だ。

 

 なら、やることは一つ。力押しだ――!

 

「うおおおぉぉぉッ!」

 

 暴風のようなオーラを纏い、すべてを薙ぎ払う勢いで突撃する。

 苛烈な、捨て身とも言える突進だった――が。

 

「――ッぐっ……!」

 

 突如、脚を貫く激痛。勢いを殺せないまま、地面に転がる。

 必死に上体を起こし、左脚を見やる。

 

 視界には映らない何かが、傷口を伝って血を流していた。

 知っているぞ、これは――。

 

「ファントムレイザー。君の周囲には、抜かれたが最後、誰にも見えなくなる“透明な刃”が仕込まれているのさ。ふふふ……気に入ってもらえたかな?」

 

 大鎌を肩に担ぎ、にじり寄ってくる死神。

 その笑みは、どこまでも残忍だった。

 

 

 +

 

 

 百を超える攻撃は、すべて空を切っていた。

 攻撃を空振るたび、間断なく反撃を受け、傷は確実に増えていく。

 

 一撃一撃の威力こそ低いが、それでも無視できるものではなかった。

 

「おらぁ!!」

 

 幾度となくキルバーンの幻影を振り払い、そのたびに反撃を喰らい傷ついていく。

 それでもトーヤは、攻撃の手を緩めることはできなかった。

 

 やおら大鎌を振るうキルバーンから、耳をつんざくような笛の音が響き渡る。

 その音は、鎌から発せられる殺意そのもの。トーヤの神経に作用し、じわじわと五感を狂わせ始めていた。

 

 まだ完全に術中にはまっているわけではないが、間合いや打点がわずかにずれ、攻撃がかわされてしまう。

 このまま聞き続ければ、いずれ全身が麻痺し、身動きすらできなくなるだろう。

 

 だからこそ、一刻も早くキルバーンを倒さなければならないのだが――。

 

「……っくそ。鬱陶しい」

 

 脇腹を掠めそうになる透明な刃に、舌打ちして悪態をつく。

 キルバーンの使う見えざる刃――“ファントムレイザー”が、それを許さない。

 

「どうしたんだい? もう諦めたのかな」

「うるせぇな、ちょっと待ってろ」

 

 すでに四方は刃に囲まれ、下手に動けば即座に致命傷。

 さらに最初に受けた左脚の傷は深く、機動力を著しく損なっていた。

 

 汗と血が混じり合った液体が頬を伝い、ぽたりと地に落ちる。

 その様子を見て、キルバーンは楽しげに嗤った。

 

「いい表情だ。もっと苦しむ顔が見たいな。死の間際に見せる戦士の顔に勝る芸術はないよ、ふふふ」

「ちッ、罠でチマチマやるだけの能無しが偉そうにしやがって」

 

「フッ……なめてもらっちゃ困るな。ボクの特技は暗殺や呪法だけじゃない。普通に戦っても、それなりの実力はある。だけどね――」

「ッぐぁ……!」

 

 一瞬で間合いを詰めたキルバーンの鎌の柄が、トーヤの鳩尾を深く抉る。

 

「どんな才能がある奴も――」

「がはッ」

 

「どれだけ努力を重ねた奴も――」

「げほッ」

 

「ボクの罠にはめれば、簡単に死んでいった――」

「っぐは……」

 

「どんなに強い奴だって、関係ない。簡単に死ぬんだよッ!」

 

 刃の檻に囲まれ、身動きの取れないトーヤをあざ笑いながら、キルバーンは縦横無尽に動き、嬲り続ける。

 

「こんなに気持ちのいい殺し方は他にない! 一度味わうと病み付きになるんだよッ!!」

 

 再び檻の外から凶刃を構え、キルバーンが襲いかかろうとする。

 全身をズタズタにされ、血を吹きながらも立ち上がるトーヤを仕留めるために――。

 

「だからどうした――クズ野郎!!」

 

 迫り来るキルバーンに向けて、トーヤが霊丸を放つ。

 眩い光の奔流がキルバーンを呑み込み、瞬間、あたりは土煙と沈黙に包まれた。

 

 

 +

 

 

「はぁ、はぁはぁ……やったか……はぁはぁ」

 

 土煙の向こうを見据えながら、未だ笛の音の影響で満足に動かない身体を、壁に凭れるようにして休める。

 五感を狂わされたトーヤは、キルバーンをまともに捉えることすらできなかった。さらに、どこにあるのか分からない“ファントムレイザー”に四方を囲まれ、動くことさえままならなかった。

 

 ――ではなぜ、霊丸を当てることができたのか。

 

 その秘密は、奇しくもファントムレイザーそのものにあった。

 

 ファントムレイザーは、トーヤだけに襲いかかる刃ではない。仕掛けたキルバーン自身であっても、触れれば傷を負う。

 つまり、キルバーンが檻の中に足を踏み入れた以上、彼とて無制限に動き回れるわけではない。動ける範囲は、トーヤと同じく制限されてしまう。

 

 だからこそ、トーヤはその一瞬を待ったのだ。待ち続けたのだ。

 五感をすべて奪われる前に、決着をつけなければならなかった。極めて低い勝率の、命を懸けた賭けだったが――。

 

 もう少しキルバーンが慎重に動いていれば、結果は違っていただろう。

 

「よいしょっと」

 

 トーヤは木刀を杖代わりにして、ふらつく足で立ち上がる。

 そして、海へ潜るために歩き出した。

 

「ふぅ……思った以上に強かった。危うく、こんなところで死ぬとこだったぜ……さすがは――え?」

 

 そこまで言った瞬間、背中に衝撃を受け、再び地面に叩きつけられる。

 

「ぐあああぁぁぁッ!」

 

 遅れてやってきた激痛に絶叫を上げながら、トーヤは自分を見下ろす影に視線を向ける。

 

「て、てめぇ……」

「やれやれ。少し気が早いんじゃないかな? キミはここで死ぬんだよ」

 

 大鎌の先から滴る鮮血。

 その下で、死神キルバーンは静かに佇んでいた。

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