ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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75 連戦

「っぐ…ぁぁ」

 

 辛うじて立ち上がり、トーヤは最後の力を振り絞って霊丸を放とうと構えを取る。

 背中の傷は深く、もはや残された攻撃手段はこれだけ。だが指先にオーラは集まらず、蓄積したダメージに腕は震え、照準すらまともに定まらない。

 

「やはりね。ふふふ、トドメを刺さずに用心していた甲斐があったよ。これでもう“レイガン”とやらは怖くない」

 

 トーヤの様子に、勝利を確信したキルバーンは構えもせず、余裕の足取りで近づいてくる。

 

「……やはり……?」

「キミはダイ君と、あの魔法使いの次に厄介だと思っていた。だから、絶対にボクの手で葬ろうと決めていたんだ」

 

「どういう、意味だ……」

「おっと——」

「っぐえっ!?」

 

 突如襲いかかってきたキルバーンが、トーヤの首を掴んで岩壁へと叩きつけた。その拍子に、トーヤの手元から何かが転がり落ちる。

 

「キミのことは、あのベンガーナの戦いからずっとマークしてた。戦い方も、ある程度パターンは読ませてもらったよ」

 

 キルバーンの視線の先、足元には小さな小瓶。彼はそれをチラリと見やると、無造作に踏み砕いた。

 トーヤは、砕けたガラス片を悔しげに一瞥する。そして、思考を巡らせる。

 

 先ほどの霊丸は、狙いもタイミングも完璧だった。なのに、なぜキルバーンはこうして動いているのか——。

 その答えは単純だった。

 

 霊丸は「当たっていなかった」のだ。キルバーンの身体に残る無数の裂傷が、その証拠。

 人形であるキルバーンにとって、多少の刃で再起不能になるはずもない。つまり、彼はファントムレイザーの刃へ自ら飛び込み、霊丸を回避したということ。

 

 その事実に気づいたトーヤは、キルバーンの言葉を思い出す。

 

 『トドメをささずに用心していた甲斐があった』

 

 つまり——。

 

「霊丸で迎撃することは予想済み……いや、誘導されてたってことか」

「ご明察。ふふふ、思い込みってのは怖いよね。“刃があるからそこへは動けない”なんて人間の理屈は、ボクには通用しないのさ。そしてなにより、“待ち伏せされてる”なんて、思いもしなかっただろう?」

「……ッ!? 道理で……刃の数がやけに多かったわけだ」

 

 最初にファントムレイザーを左脚に受けたとき、トーヤは仕掛けられた瞬間を視認できなかった。

 だがそれは、感覚を狂わされ始めていたせいだと思い込んでいた——それこそが罠。

 

 キルバーンは笛の音で感覚を狂わせる力を持ちながら、あえてそれを遅らせていた。霊丸という切り札を使わせるために。

 追い詰めたのではなく、追い詰めさせられた。

 

 そして今、トーヤはキルバーンの思惑どおり、敗北の縁に立たされている。

 周到にして狡猾。それが「死神」キルバーンの戦い方だった。

 

「ボクにかかれば、こんなものさ。でも、ハドラー君やミストならもう少しは善戦できたかもね。相手が悪かった、それだけの話だよ」

 

 首を掴む手に、さらに力がこもる。もはやトーヤには逃れる力は残っていない。

 

「……相手が悪い、か。ハハ……確かにな。マジで強いぜ、お前。まさか心理的な死角まで計算に入れて罠を張るとは思わなかった……」

 

 せめてもの抵抗に、トーヤはその手を掴んだまま離さない。

 

「ん? 何のマネだい?」

「お前の言うとおりだよ。思い込みってのは怖い……霊丸が1発しか撃てないなんて、誰が言った?」

「なっ……!? しまっ——」

 

 気づいた瞬間、離れようとしたキルバーン。しかし、もう遅い。

 

 至近距離から放たれた霊丸が、キルバーンの首から下を吹き飛ばし、海の彼方へと消し去った。

 残されたのは首だけ。キルバーンはトーヤの目の前に、転がり落ちる。

 

「バ……バカな……。あれだけの威力の技を……連続して放てるなんて……バーン様並……だ……ねえ……」

 

 その言葉を最後に、キルバーンは事切れたように沈黙した。

 

 

 +

 

 

 目の前で動かなくなったキルバーンの生首を見て、地面に腰を下ろす……というより、完全に崩れ落ちた。

 

 あ、危なかった。キルバーンが勝手に「霊丸は1発しか撃てない」と思い込んでたから助かったけど、そうじゃなかったらマジで死んでた。

 闘気基準で考えると、あんな技を何発も撃てるのはおかしいって思うのが普通なのかもな。

 

 たしかに霊丸は反則級の威力がある。グランドクルスより強い気がするし(ラーハルト戦のとき横で見てた)。

 そう考えると、グランドクルスを日に4発、しかも1分おきに使えるって、冷静に考えてぶっ壊れだよな。俺が敵ならキレる。

 

 ……それに、2発目の霊丸を構えた時、まだ1分経っていなかった。それでオーラが集まらなかったのを見て、ヤツは「やっぱり1発きりだ」と判断したんだろう。

 まあいいや。結果的に助かったんだし。

 

 キルバーンの手がまだ俺の首に引っかかったままだったので、それを引き剥がして地面に投げ捨てた。

 

「どっちにしろ、マヌケなやつだな――っ熱ッ!?」

 

 腕が落ちた拍子に跳ねた血液が腕にかかり、俺は慌てて地面を転げ回る。

 そうだ、こいつの血液って魔界のマグマ並とか言ってたな。あっぶねえ。

 

 誰もいない荒野でアツアツおでんリアクションとか、我ながら恥ずかしいわ。

 

 っていうか、まだ気を抜くのは早い。

 キルバーンは死んじゃいない。今目の前で転がってるのは、ただの人形の首だ。本体はきっとどこかに隠れてる。

 

 油断大敵ってやつだ。

 俺はすぐにポーチから回復薬を取り出して、一気に喉へ流し込む。

 

 ……しかし、来ないな。

 てっきり、ここぞとばかりに畳み掛けてくると思ったんだが。

 

 まあいい、なら移動だ。

 早くしないとハドラーが爆発しかねないし、その前にあの場に戻らなきゃ。

 

 その前に……こいつをどうにかしないと。目の前に転がってる生首。

 これ、黒のコアが入ってるからヤバいやつなんだよな。

 

 どうしよう……海に沈めるか?

 

 でも、海底で爆発したら津波が起きるかもしれんし、それはそれでシャレにならん。

 放ってはおけないけど、これ持ったまま戦うのはリスキーすぎる。

 

「うわッ!? な、なんだ?」

 

 生首の処理について悩んでいたその時。突然、空から無数の金属の塊が降ってきた。

 俺が何が起きたか分からずあたふたしている間に、それらは次々と人の形に変わっていく。

 

 そのシルエットに見覚えがあった。理解が追いつくのと同時に、奥の方から甲高く喚くような声が響いた。

 

「ガ〜ハッハッハッハ〜! 我輩は大魔宮最大最強の守護神……キング!!! マキシマム!!!おまえの命は今日ここまでよ!!」

 

 ……今日ぜったい厄日だわ。

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