「人間というものは、何を考えているのか分からぬな。あの魔族の小僧を殺したところで、一体何になる。勝機を逃してまでやることとは思えぬが」
先の攻防でわずかに怯んだ様子のマキシマム。
しかし、いまだに包囲網を敷いていることに優位を感じてか、余裕の笑みすら浮かべている。
「あのガキは、あんたが思っているより厄介なんだよ」
ピロロの正体を知る俺も、危険因子であるあいつをこの段階で葬ることができて安堵した。
その態度が気に入らなかったのか、マキシマムは途端に視線を鋭くして俺を睨みつける。
「小僧が厄介だと? ――我輩を倒すことよりも、あの小僧を殺すほうが大切だと言いたいのかっ! キサマ、その侮辱的な物言い、後悔することになるぞ!!」
お前ら一応味方同士だろうが、そんなに怒るなよ。確かに子供以下の扱いされたら腹立つのも分かるけど。
とりあえず宥めなきゃ。さっきから言ってるけど、もう時間がないんだってば。
「あいつが死んだ今、あんたと事を構えるつもりはもうない」
両手を軽く挙げて、闘争の意思がないことを示す。
「むぅ、命乞いという訳か? 今更そんな話を聞き入れると思うかね」
言葉とは裏腹に、マキシマムは注意深く俺の動きを観察する。
構わず俺は一方的に告げる。
「死の大地はもうすぐ吹き飛ぶ。ハドラーに埋め込まれている“黒のコア”のせいでな」
「な、なんだと……黒のコア!?」
黒のコアと聞いて、マキシマムは目を見開いた。
魔界では黒のコアは有名らしい。
「もう一度言う。ハドラーの体内には黒のコアが埋め込まれている。埋め込んだのは大魔王バーンだ。昔、勇者アバンにやられた後、復活させる際に仕込んだのだ」
「何をバカな……でたらめを言うな!!」
「でたらめかどうかは、あれを見てみろ――」
言いながら、さっき背後に転がしておいたキルバーンの頭部を指差す。
マキシマムはそれを見てから、何か言いたげに俺を再び見返す。
「いや、スキャンで確認してくれ」
説明不足だったが、今は冗談を言っている場合じゃない。
「スウゥパアァァスキャァン!!」
……それ、声に出す必要ある?
キルバーンの頭部をスキャンしたマキシマムは、信じられないものを見たかのようにたじろいだ。
「く、黒のコア……まさか……いや、しかし……。もしかして我輩の体にも埋め込まれているのか!?」
不安げに胸に手を当てた後、自問自答するように呟く。
バーンが黒のコアを埋め込んだのはハドラーだけで、キルバーンの場合は別の理由なんだが……。
どうやらバーンへの猜疑心から上手く勘違いしてくれたようだ。
ここぞとばかりに畳み掛ける。
「それは分からない。だがよく考えてみろ。あんたは俺を倒しにここへ来た。しかしバーンはそれを止めたか? すぐ隣ではハドラーがダイやバランと戦っている。いつ爆発してもおかしくない状況だぞ」
言外に「お前はもう見捨てられている」と告げてみる。
うまくいけば、打倒バーンの仲間として加わってくれるかもしれない。そうなれば御の字だ。
オリハルコン軍団は普通に強いし。
「こ……ここへ来たのは我輩の判断だ。バーン様はこのことを存じておらぬ。しかも、我輩はハドラーに黒のコアが埋め込まれているのを確かめたわけでもない。確かにキルバーンには黒のコアが埋め込まれているようだが、それがハドラーにもある証拠にはならん」
疑り深いやつだ。いや、敵の言うことをすぐ鵜呑みにするほうがアホか。
「それに、本当にハドラーに黒のコアが埋め込まれていたとして、もしそれが爆発したらそこの黒のコアも誘爆してお前たちも全滅するだけだ。魔族の小僧の様子からすると黒のコアのことは知っているようだが、回収する必要がどこにある? あの小僧が危険を顧みずに出向いてくるとは思えんぞ」
ぐぬぬぬ、こいつ――間違いない。論理派(ロジカリスト)だ……!
くそ、負けてたまるか!
口では理屈を並べ立てているが、動揺しているのは間違いない。ここで押し切ってみせる。
「おいおいおい、ちょっと待てよ。あんたにとって今一番得になることを考えようぜ。確かにあんたの言う通り、今ここでハドラーに黒のコアが埋め込まれているか確認する手段はない。でも、否定する証拠だってないんだぜ? だったら自分も死ぬ覚悟で俺の首を取りに来るか? 本当にそれでいいのか? 俺の言ってることが本当だったら、あんたもドカンだぜ」
こういうのは勢いが大事だ。
とにかく不安を煽って、一気に捲し立てて思考を奪う。騙しているようだけど、ちゃんと本当のことだ。
「もう時間がない。俺とあんたの実力を考えりゃ、決着がつく前にハドラーは爆発する。どっかの誰かの戦いに巻き込まれて無駄死にするなんてマヌケな真似、したくないだろ」
「む、むぅ……」
何やら唸って考えをまとめているようだが、どうやらタイムリミットが迫っているらしい。
遠くで一瞬、稲光のような閃きが見え、少し遅れて雷鳴が轟いた。
恐らく――いや、確実にバランのギガデインだ。
この先の展開は言わずもがな。間を置かずに大地が鳴動し始める。
「話してる場合じゃねえ! 早く穴を掘らねえと!!」
穴を掘ると言いながら、ビッグバンインパクトばりに拳を地面に何度も叩きつけ、避難場所を確保しようとする。
「うおおおおぉぉぉぉ!!!!!」
10回目くらいか。十分な深さの穴が完成し、キルバーンの頭を抱えて穴に飛び込む。
その最深部で身を縮め、爆発に備えた。
呆然と見ているだけだったマキシマムも、俺が何をしているか察し、穴へ飛び込んできた。
「皆の者、続けぃ――とうっ!!」
「っぐは!? お、重い……」
オリハルコン軍団全員が穴に飛び込んだせいで俺は下敷きになる。
いや、お前ら飛んで帰るとかリリルーラ使えよ、と言いたいが、そんな余裕はないので無視。
むしろちょうどいい。オリハルコン軍団にオーラを流して強化し、壁代わりにする。
大陸を吹き飛ばす爆弾相手に、地面に隠れるだけなんて心もとないからな。
原作のポップたちは無事だったけど、位置の問題でダメだったなんてこともあるだろうし。
オーラを流し終えて数秒後、耳を疑うような爆音が鳴り響いた。
地中にいるはずなのに、台風のような強風が襲いかかる。
この世の終わりのような不気味な衝撃を全身に受け、ただただ事態が収まるのを待つ。
多分、時間的には3秒も経っていない。
早く外に出たい。光が欲しい。
人間とはなんて小さい存在なんだと、思い知らされている気分だった。
例えるなら、目隠しをしたままバンジージャンプをさせられているような感じか。
まぁ簡単に言うと、死ぬほど怖い。