俺たち七人の攻撃に、バーンは先とは違い苦戦を強いられている。
「海鳴閃ッ!!」
「ハアァ――海波斬っ」
ヒュンケルとダイは威力を落とし、速度重視の戦法に切り替えた。
間合いの外から一気に接近してのヒット・アンド・アウェイで間断なく攻め続ける。
俺・クロコダイン・マァムの三人は二人のサポートだ。自らの躰をブラインドにして、盾となる。
当然ダメージの蓄積は半端じゃないが、ここが正念場だ。堪えきってみせる。
ポップはというと、遥か後方でメドローアを構えて必殺の瞬間を狙っていた。
一撃必殺のメドローアは、それだけで相当なプレッシャーを与えていることだろう。バーンは意識をポップから外すことは出来ない、ポップがそこに居るという事実が最大級の牽制となっていた。
そしてこの戦い、一番の鍵となっているのは――。
「――ック!?」
大空高く飛び立ち、獲物を狙う鷹の如く、超スピードとパワーでバーンを翻弄させているバランに他ならない。
海波斬や海鳴閃などとは比べ物にならない速度。それが奇襲する様に攻め立ててくるのだ。いくら大魔王とて俺たちを相手取りながら防ぎきれるものではない。
バランに肩口を大きく切り裂かれたバーンは苦痛に顔を歪めながら怒りに眼を細める。
傷はあっという間に塞がってしまうが、それでも体力は削れているはず。その証拠に、僅かずつであるが動きが鈍くなっている。
「閃華裂光拳っ!!」
「おらアアアァッ」
「うおおおオオォォ!」
全くの同時だった。
”勝てる”――その確信がもたらした必然だった。あるいは、心の弱さだったのかもしれない。
目の前に迫る勝利に、俺たちは飛びついてしまった。
ブラインドに徹していた筈の俺たちは、示し合わせることもなく、完全に同時に攻撃回った。
しかし、防御から攻撃に転じる僅かな隙を、バーンは逃さない。
光魔の杖を手放すと、バーンは空間を埋め尽くさんばかりの光弾を生み出し、四方へ爆散させる。
「イオラの嵐だッ、みんな伏せろ!?」
遠くからポップの叫び声が届く。
イオラの嵐――否、そんな生易しいものでも無い。
空間が爆発したかの様だった。
着弾を待たずして爆発したそれは、次々と空宙で連鎖爆発を繰り返し、目に見えるすべて吹き飛ばした。
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「惜しかったな、もう少しだったのに」
嘲笑うバーンの声に眼を開くと、目の前には竜闘気を爛々と輝かせたバランとダイ。そして、傍らには俺のように地に伏すみんなの姿があった。
マァムとクロコダインは気絶しているのか、ピクリとも動かない。ポップとヒュンケルも、意識こそあるものの動ける状態では無さそうだ。
むしろ、まだ生きているのが不思議なくらいだった。
疑問と共に、朦朧とする意識が少しずつクリアになっていった。
「っ!? お前らっ何を――」
やっているのか、と問おうとするも、そんなものは愚問でしかなかった。
「無事だったんだね、トーヤ」
未だ続いている魔法攻撃を、竜闘気で弾き返して、ダイは小さく笑った。
苦しさと嬉しさが混ざったような笑顔が、心に痛くのしかかる。
完全に足手まといとなっていた。
俺たちがいるから二人は攻撃できず、自分たちの身を守ることさえ出来ないのだ。
「ヒュンケル、ポップ……動けるか」
「……くっ……な、何とかな」
「あ……ああ、俺もだ……っ……」
二人に声をかけると、明らかにムリをした声が返ってくる。
俺も躰にムチを打って立ち上がると、マァムとクロコダインの様子を確かめた。
「大丈夫、息はある。二人共まだ生きている」
安堵するように息を吐き、皆に二人の無事を伝える。
それも束の間、直ぐに気を引き締める。この状況を打破しなければ意味が無い。
だが、そんな時間はもう無さそうだ。
「――ぅぅッ……くッ……」
「ディーノ!?」
ダイが片膝をついて苦悶の声を発する。竜闘気を使いすぎたんだ。もうダイに戦う力は残っていないだろう。
バランはまだ大丈夫そうだが、一人じゃとても捌ききれる物量じゃない。
もう戦えるのは俺とバランの二人だけ……。
「やべぇな、何とか反撃しないと……このまま全滅だぜ」
「しかし、イオナズン級の呪文の応酬だぞ。躱して近づくこともままならん。かと言ってバーンの魔法力が尽きることなど有り得んだろう」
「ここは、俺に任せとけ」
立ち上がり、バーンへと向かおうとする。
すると、俺の腕をダイが弱々しく掴んだ。
「どうするの……あんなの避けられっこないよ」
「そうも言ってられねえよ――俺が突っ込むから、その隙に皆と安全な場所に」
「無茶だよッ、待っ――」
制止するダイの言葉を遮るように駆ける。
雄叫びを上げ、バランの横をすり抜けると、全力で降り注ぐイオラの弾幕へと飛び込んでいった。
「愚か者め、避ける隙間など無い。塵も残さず消し飛ばしてくれる」
バーンの呪文が飛来する。
奴の言葉通り隙間なんてまるでない。無数の爆発が起こり、爆炎が舞う。
「トーヤッ!!」
ダイの心配する声が耳に届く。
そんな声に応えるように、俺は大きく叫ぶ。
「いたくねー!! 避けらんねぇなら、ガマンするだけでー!」
”幽助先生”の機転を思い出し、光弾の壁を突き破る。
しかし、それは言葉通りやせ我慢だった。呪文の威力は決して弱くなかった。一撃受ける毎に肉は削れ、血に塗れていく。
「よくやる。しかしその体たらくでは余に触れることすらできぬぞ」
そんなこと言われなくても分かっている。ボロボロになったシャツは血でベッタリと肌に張り付いて不快感マックスだし、腕なんかは惨たらし過ぎて直視するのも憚られるくらいだ。
バーンは光魔の杖を構えると、優雅な所作で振りかぶる。
「甘く見てると痛い目見るぜ!」
「その威勢だけは認めてやろう」
もはや感覚すら無くなった脚で地面を蹴って、それでも勢いは止まらない。むしろ更に加速する。
併せるように光魔の杖が、綺麗な弧を描いた。
槍のように遠い間合いから繰り出される一撃を、ボロボロの左腕で腰の木刀を抜き放ち、受ける。
その破壊力と切れ味により、長年愛用した木刀は容易く砕け散った。木片が飛び散り、宙を舞う。
木刀と共に深々と切り裂かれた左腕の切り傷は、炭化して鮮血すら出なかった。
「これで終いだ」
「うるせえってんだよッ」
叫び、俺は右手に持っていた”魔弾銃の弾頭”を握り潰した。
潰された弾頭からはベホマの光が溢れ、俺の傷ついた躰は回復していく。
「何だとッ!?」
「っらああああアアアアアァァ!!」
最後の一歩を地面を蹴り砕いて踏み込む。
全体重と勢いを載せた左拳で、バーンの顔面を殴り抜いた。