「っらああああアアアアアァァ!!」
全体重を載せた拳が顔面にめり込んだ。
たたらを踏んでよろめきながらも、呪文を唱えるため手を掲げるが、足元はふらふらと覚束ない。
ダメージは相当なものと窺える。
畳み掛けるべく駆け出そうとして、後ろから首根っこを掴まれた。
「うげッ!?」
一体何を考えているのか、千載一遇のチャンスをバランによって阻まれる。
「な、なにす――」
「黙っていろッ」
抗議の声も虚しく、俺は猫よりもぞんざいに掴まれたまま、バランに連れられ空高く飛び上がる。
”止まってくれ”と言おうとするが、その前に背後から派手な爆発音が響いた。
つい先程まで俺が居た場所……バランがいなければ直撃だった。
「ようやく向こうも本気で来るらしいな」
「なにが…………っ!? くそっ、時間切れか」
はるか上空から見下ろすと、そこにはバーンと一緒に立つミストバーンの姿があった。
しかもフードを剥いだ状態で、だ。
ミストバーンのやつ、やっぱり形勢が不利と判断するなり参戦してきやがったか。
こうなる前に決着をつけたかったのに……。
「ミストバーンには気をつけろ。もしかしたらバーンよりも強いやも知れん」
「……ああ、知ってるよ」
俺はバランに吊るされたままダイたちを見下ろすと、ポップがマァムの魔弾銃を片手にみんなを介抱していた。
よし、これでみんなまた動けるな。
「バラン、とりあえず降ろしてくれ。これじゃ満足に動けない」
「わかった」
「ちょっ!? 落とせとは言ってねえエエ!!」
一瞬の浮遊感の後、俺は真っ逆さまに落ちていく。
頭から地面に突っ込みそうになるのを猫のように躰を丸めて回転させると、見事に両足で地面に着地することに成功した!
踵から頭の天辺まで衝撃が抜けてじんじんと痺れる脚に呻く。
「だ、大丈夫?」
「あ、ああ。でもあとで、病院行かなきゃ……」
心配するダイから顔を背けて滲む涙を拭う。
普通あの高さから落とすか? バランのやつ頭おかしいわ。あとで絶対文句言ってやる。
痛みに耐えてロボットのようにぎこちなくみんなの元へ歩みを進めると、ダイ以外は俺なんか完全無視でミストバーンの方を向いている。冷たいなぁ。
「オレたち軍団長の中でもっとも謎の多い男だったが……人間――いや、魔族か」
「この気配……あの二人、似ている」
「似てるって、バーンとミストバーンがか? まさか――」
「――ハイハイそこまで!!」
パンパンと手を叩いて何やら考察を始めたヒュンケルとクロコダインを止める。
今はそんな話をしてる場合じゃないから。
「ポップ、メドローアの準備をしてくれ」
「え? あ、ああ、わかった」
頷いて準備を始めるポップを尻目に俺は手を口に添えて大声で叫ぶ。
「バラン、お前も降りてこいよっ!! おーい! って……あれ? 聞こえねえのかな。おーい!」
何度も怒鳴るように叫んでいるのにバランは宙に浮いたまま一向に動く気配がない。
なんだってんだよ、早くしろよ。
「な、なんだぁ!?」
ポップのマヌケな声に視線を再びバーンたちへ戻す。
すると予想だにしない出来事が起きた。
ミストバーンの躰が発光し、ブレてバーンの躰と重なっていく。
「ま、まさか!?」
光の先には吐き気を催すほどの圧倒的存在感。
間違いない、これはバーンの真の姿。一体何故このタイミングで……。
「お前たちの力は十分評価に値する。敬意を表して本来の姿で相手してやろう」
バーンの静かな声が辺りに響く。
困惑しながらも頭を振り、俺は再度呼びかける。
「バラン何してる!! 早く――ってお前はッ!?」
「……これは一体、どうなっている」
バランへ向かって叫んでいると、そこにはいつの間に現れたのかハドラーと親衛騎団+ヒムに首を締められたザボエラの姿が見えた。
どうやらこの状況に驚いているようだが、面倒くせぇこっちは取り込み中だ。
だがナイスなタイミングと言えなくもない。
「よく聞けッ、ハドラー!! バーンは自分の躰を二つに別けて片方をミストバーンに預けてたんだ! あれはミストバーンから預けてた肉体を元に戻した本当の大魔王の姿だ! つまりメチャクチャ強くなったってことだ! 倒すから協力しろォッ!!」
「――っ!? 肉体を二つに……ミストバーンが……」
今の状況をとても簡潔にわかりやすく大声で説明してやると、ハドラーを含めこの場にいる全員が少なからず動揺しだす。
特にバーンの視線が痛いほどに突き刺さるが気にしない。
「な、なにを突然訳の分からねえこと言ってやがる。それになんでテメエ等に協力しなきゃならねえんだ」
「うるっせえなクソゼロ歳児! ハドラーの体内には黒のコアって言うガチでヤバイ爆弾が仕掛けてあって、さっきのもの凄い爆発はそのせいなの! それ仕掛けたのバーンだし、お前らの大将が殺されかけたんだからお前らが協力する理由としては十分だろうが!」
疑問を投げかけるヒムを勢いで黙らせる。
良いぞ運が向いてきた。バランもいるしダイもベホマで回復済み。
しかも復活したハドラーはパワーアップしている筈だし、親衛騎団だっている。バーンが真の姿になるのは想定外過ぎる事態だったが、このメンツなら勝機はある。
思わず顔をほころばせてダイ達を振り返ると、何故か皆の表情は硬いままだった。
なんだよ……どうしたんだ?
「――――る」
「……え?」
いらえは短く単純なものだった。
聞こえなかった訳じゃない。ただ、信じられなかったのだ。
当たり前だと思っていた。
アバンにも言われていた。なのに俺は”心配ない””大丈夫だ”と言って聞く耳を持たなかった。
軽んじていた、高を括っていた。それがどんなに甘い考えか――信じて疑わなかった。
「聞こえなかったのか? 断るといったのだ」