ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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 呪文の応酬を繰り広げる二人の魔導士の傍ら、マァムは静かに眼前に立つ老人と相対していた。

 一見して隙があり、しかしながら隙がない。矛盾する二つの要素を併せ持ち、ブロキーナはマァムの攻撃を待っていた。

 

 武神流拳法開祖。拳聖と謳われた世界最強の武闘家ブロキーナ。安易な攻めをすれば即座に沈黙させられてしまうだろう。

 しかし、いつまでも睨みあっていても意味はない。

 

「いきます! ーーっふ」

 

 深く息を吸った後、呼吸を止めて地面を滑るように駆けだした。

 ブロキーナの間合いよりも数センチほど手前で拳を打ち込む。身長差はそのままリーチに直結する。そしてそれは戦いを圧倒的に優位に運べることを意味している………もっとも、それは常識の範疇にすぎないが。

 

 マァムの拳が届く前にブロキーナは半歩近づき打点をずらした。

 避けることも可能であったが、あえてブロキーナは拳を受ける。しかし打点をずらされた拳には体重が乗っていない。頬に接触させる形で体を回転させたブロキーナにダメージはない。

 

「っぐ!?」

 

 回転の勢いを利用して右肘をマァムの脇腹へ叩き込み、続けて腕をマァムの右腕に絡めて投げ技へと繋げる。

 地面に叩きつけられ、マァムは息を吐き出す。しかし、その瞬間にはもう反転し、体のバネを活かしてブロキーナから距離を取っていた。

 

 片膝をつきながらも、まだ臨戦態勢は解いていない。ブロキーナが向かってくるのならば猫のような俊敏さで即座に応戦可能だ………がしかし、強すぎる。

 

 たった一瞬の攻防でマァムはブロキーナとの力の差を感じ取った。

 

 免許皆伝だとブロキーナは言った。と、同時にそれだけでは勝てないとも。

 マァムの知るブロキーナは冗談を言うことはあっても、相手を下に見るような冗談を口にするタイプではない。だからその言葉にウソはないと思った。がしかし、ここまで圧倒的な差があるとは………。

 

 再び息を深く吸い込み、マァムは弧を描くような軌道で背後をとる。

 先ほどまでの滑らせるような体捌きとは真逆の疾走。強靭な脚力にものを言わせた爆発的な加速は、三歩の内にトップスピードまで引き上げる。

 

 奇襲。相対しているにもかかわらず一瞬のうちに視界から消えてみせた。

 それならば、これを奇襲と呼ぶのに何の不自然さもない。

 

 背後から左側頭部への左拳。体重こそ乗らないこの拳は、軽いが故に正確無比な精度と速度を以ってブロキーナへ迫った。

 ブロキーナは身じろぐことさえしなかった。だというのに——。

 

「ここかな?」

 

 振り向きもせずに難なく殴打を払って退けた。続く連続攻撃もまるで意に介さず捌き続ける。

 

 ブロキーナの体は枯れ枝の様に細かった。

 剛腕かと問われれば答えは否だ。しかし非力かと問われればこれもまた否である。

 

 彼の体には無駄な筋肉など一切ない。故に常人よりも身が細いのだ。

 腕を掲げれば鉄格子のような強靭な防護壁ができ、腕を振るえば巨木の如く薙ぎ払う。胴体に必殺の一撃を打ち込もうとしなやかな筋肉と受け身により受け流される。武人の体とはそういうものなのだ。

 

 そして厄介なことに、ブロキーナの体術は神憑りの域にある。まるで一枚の羽毛か木の葉を掴もうとしているかのように捉えることが出来ない。

 

 最高の攻撃力に、最高の防御力。その両方を兼ね備えているうえに、こちらの攻撃は当たらない。

 まるで冗談のような戦闘能力にマァムは改めて師への尊敬を感じた。それから、そんな相手を倒せという無理難題に思わず笑い飛ばしてやりたくなった。

 

 おまけに回復呪文まで使えるなんて、さすがにインチキじゃありませんか?

 

 柄にもなくそんな言葉が口をついて出そうになるがなんとか我慢する。

 

「っ!?」

 

 砲撃でもあったかのような激しい爆発音にマァムは上空を仰ぎ見た。

 そこには体から煙を噴出させながら飛び回るポップの姿があった。

 

「……ポップ君も苦戦しているようだね」

 

 マァムの視線を追い、ブロキーナも空を仰いだ。

 その姿は隙だらけで、とても戦っている最中のものとは思えない。

 

「キミたちは戦う前にこう考えていた。ワシらは強いが年老いている。逆に自分たちは若く力もついている、と。その考えは間違っていない。ワシもマトリフ殿も、キミたち二人の力はワシらを上回っている——そう結論をつけた」

 

 不可解な言葉に、マァムの瞳が揺れた。

 力が上? ならばこの現状をどう説明する。

 

 ブロキーナは顎に手をやり、マァムを見た。サングラスで隠れた瞳はマァムの一挙手一投足を本人よりも正確に把握していた。

 武を修める者は、相手の瞳から次の挙動を探る術を学ぶ。それだけではない。呼吸や重心、構えた歩幅などの多くの要素から相手の動きは予測することができる。そして拳聖ブロキーナともなれば観察眼をもってすればマァムの初動に先んじて動きを予見することなど造作も無かった。

 

 今も、地につけたマァムの指先が、重心の移動によってわずかに葉を沈み込ませていることを、ブロキーナは見逃さなかった。

 見るのではなく観る。この技術に関していえば、武神流ではなく格闘すべてにおいての基本であり、当然マァムも体得している技能ではある。しかしその練度には天と地ほどの開きがあり、彼我の差は瞭然としたものとなっていた。

 

 ゆえに、マァムはブロキーナに敵わない。だというのに、ブロキーナはマァムの方が力は上だと言う。理解不能だ。

 

 一滴の汗が頬を伝う。

 

 陽はゆっくりと昇り、二人の足元の影は気づかないほどに静かに形を変えていく。

 戦いはまだ始まったばかりである。

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