ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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 二人の頬を汗が伝った。目の前で繰り広げられる光景に、ただただ言葉を失う。

 鼻孔を突き抜ける強烈な臭気。嗅いだことのない異臭に、思考が追いつかない。

 

 強烈な臭い。その場に取り残されたポップとマァムは、ようやく疑問を抱くに至った。

 

 ーーいったい彼らは何をしているのか。

 

 この作業が始まる前、マトリフとブロキーナは確かに言った。昼食の準備をすると!

 そこは問題ではない。むしろ分かっているからこそ、理解できないのだ。

 

 マトリフは鮮やかな手捌きで、串刺しにしている“蛙のようなナニカ”をくるくると回す。ブロキーナが素手で千切っては煮えたぎる湯の中へ放り込むナニカ。それらは食卓に並ぶべきモノではなかった。

 

 茫然自失として眺めていると、完成してしまったらしい。

 丁寧にもテーブルクロスのような生地を地面に敷いて食器を次々と配置していく。そうして彼らの目の前に次々と並べられていくのは『蛙の姿焼き』『茹でたミミズと野菜(どうみても雑草)のサラダ』『芋(芋虫)のスープ』の3品だった。

 

 頭皮から信じられない量の汗をかきながら二人は思う。

 まだだ、まだ間に合う。おそらく、たぶん、きっと………早く止めに入るんだ。今ならまだ引き返せる可能性は1%くらいならあるに違いない。

 

 二人の思考は、まったく同じルートを辿っていた。

どちらからともなく顔を見合わせ、アイコンタクトを交わし――頷く。止めるなら今ーー

 

「「できたぜ(よ)」」

 

 だが、時すでに遅し。

 信じられないことに、これが今日の昼食らしい。

 

「い、いや……えっと……」

「なんだ、歯切れが悪いな。言いてぇことがあるならハッキリ言いやがれ」

 

 もしかして冗談……? そう思って師匠たちの顔を窺うが、どうやらマジらしい。

 ポップもマァムも田舎育ちであるし、食用のセミやハチ・ハチの子程度なら食べたことはあった。しかし、これは食べたことがない。というか、そもそも食べたくない。というか、誰かが食べてるところも見たくない。

 

(おいマァム、お前、修行中にこんなの喰ってたのかよ!?)

(食べてないわよ! 老師の小屋の近くに畑があったし、それに麓の村の人たちが「魔物を追い払ってくれてありがとう」って、いろいろくれたもの)

(じゃあなんでだよっ!?)

 

 と、聞こえないように小声で話すポップとマァム。

 

 内容こそ聞こえていないものの、何をコソコソ話しているのかまるで見当がついていないマトリフとブロキーナ。悲しいことに、これは冗談でも意地悪でもない。彼らにとって、これは普通の食事らしい。

 

絶望に打ちひしがれるポップたち。しかし、もはや是非もない。諦めの境地となけなしの勇気を振り絞り食器に手を伸ばしたその時だった。

 

「ポップさーん! マァムさーん!」

「あれ、メルル?」

「おーい、こっちよー!」

 

 遠くから自分たちの名を呼ぶ声に気がつき、マァムが手を振った。

 

 

 +

 

 

 突然やってきたメルル。

 「こんな森の奥まで、何の用だ?」と理由を尋ねると、アバンからの言伝を受け、行方をくらましたトーヤを探している途中だという。「それじゃあ、なんでここに来たんだ?」と尋ねると、「みんなの気配を感じたから」と、当然のように答えた。

 

 強い占いの力を持つメルルは、予知や千里眼に近い能力を有している。人探しということであれば彼女以外に適任者はいないだろう。

 

「トーヤは今、まともに戦えねえんだろ? しかも、ほとんど指名手配みたいなもんじゃねえか。平気なのかよ?」

「安心しな。トーヤにはマリン嬢ちゃんがついてる。そこらの荒くれもの程度ならどうとでもなるだろ。それより、アバンからの伝言ってのは?」

「ええ、それが──って、なにやってるんですか!?」

 

 何気ない会話の中、メルルはマトリフの手元をみて悲鳴に近い声をあげた。

 蛙の串焼きに嚙り付こうとする手を止め、マトリフは不思議そうにメルルを見る。そしてやや間をおいてから合点がいったのか、喉を鳴らして笑った。

 

「ああ、悪ィな。こんなゲテモン、見るのは慣れてなかったか。喰ってみれば味は良いんだぜ。試してみるか?」

「い、いえ。遠慮して、おきます」

 

 差し出された蛙串から目を背けて拒絶する。その姿をより一層楽しそうに笑うマトリフ。その横で『うまいのにね』なんて言いながらブロキーナが別の串に嚙りついた。

 

 メルルは、ありえないものを見たかのような目でポップとマァムを見つめた。

 そのありえないものを、今まさに食べさせられそうになっている二人の目は、どことなく虚ろだった。

 

「ポップさん達も………」

 

 カルチャーショックを感じずにはいられないメルルだった。

 そしてため息をつきながら、持ってきたバッグを開けた。

 

「では、これは無駄になってしまいますね……せっかく、皆さんのお弁当を作って──」

「「食べます!!!」」

 

 メルルが言い終わる前に食い気味に立ち上がり二人が叫んだ。

 救世主か女神か、とにもかくにも今この瞬間メルルはポップ達の救いの神にも等しい存在となった。

 

「という訳なので、すみません老師。せっかく作ってもらったんですが、老師たちの料理はまた今度いただきます。ね?」

「あ、ああ。オレ達はメルルとあっちの方で食べるよ。だって、あのほら、そう……メルルにはこの料理、見てるだけでキツいだろ?」

 

 少し遠くの開けた場所を指さしてポップが言う。

 そんなポップにマァムは親指を立てる。もし同じ場所で食事を摂ったなら、メルルの料理だけでなくこのゲテモノまでも食さなければならない可能性があるからだ。よって少しでも離れなければならない。切実に。

 

 メルルを引き連れ、そそくさと移動を開始するポップとマァム。その後ろ姿を、ブロキーナとマトリフは首をかしげながら見送るのだった。

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