アジトから北に広がる山岳地帯。
乾いた岩や砂が吹き荒れる、荒れ果てた大地。渓間からは時折強風が吹き抜け、野生の鳥さえも見当たらない。そこに、二人の戦士が立っていた。
クロコダインの頭上高く、ノヴァが跳躍する。
「ハァアアアッ!!」
ノーザン・グランブレード。
闘気の剣を天高く振り上げ、一気に敵を斬り伏せる技。その威力は絶大で、ヒムには通用しなかったものの、それは単に相手の実力が常軌を逸していただけに過ぎなかった。
「ヌウウッ!」
クロコダインは右手に闘気を集中させ、迎撃の構えに入る。獣王激烈掌ではなく、獣王会心撃だ。
獣王会心撃は強力な技であるが、ノヴァの闘気剣にはその威力が及ばない。前者はオリハルコンを砕くほどの力は持たず、後者はそれを引き裂くほどの力を秘めているからだ。
真っ向からぶつかれば、その結果は見えている。それでもクロコダインは動じることなく、大地にしっかりと根を張るように立ち尽くしている。
二つの技が衝突し、空気が爆散した。
その瞬間、クロコダインが微かに笑ったのを見て、ノヴァは自分の意識が薄れるのを感じた。
+
「無茶をしますよね、ほんと。」
ノヴァは砕けた剣を見ながら、クロコダインに愚痴をこぼす。後頭部には大きなたんこぶができていた。
まさか正面からぶつかって、闘気剣が敗れるとは思っていなかった。クロコダインを軽んじていたわけではなく、ノヴァはそれだけ自分の技に自信を持っていたのだ。
「すまん、今回の修行にはお前の力がどうしても必要だったんだ」
クロコダインは素直に謝った。
以前から闘気を使っていたクロコダインだが、ダイやヒュンケルと比べるとその練度はかなり低かった。
魔王軍時代に必殺の威力を誇った獣王会心撃も、この先の戦いでは決定打にはならないだろう。獣王激烈掌も同様だ。それはつまり、足手まといになってしまうということを意味していた。
ではどうする?
たった数日でパワーやスピードを上げることはできない。ならば答えは簡単、新たな必殺技を身につけることだ。
とはいえ、それが簡単にできる話ではないのだが…。
ヒントはあった。
トーヤが言っていた。「2つの力を掛け合わせても上手くいかなかった」と。
それを聞いて、クロコダインは逆のことを試みた。
「さて、ノヴァよ。最後に一戦、真剣に戦ってみようか?」
「アハハ、やめてくださいよ。もし本気で戦っていたら、必殺技なんて撃つ暇もなく、ボクは負けてましたよ」
クロコダインの提案に、意外にもノヴァは殊勝なセリフを返した。
初めて会った時の高慢な態度からは想像できないほど、素直になっていた。そのギャップにクロコダインも驚きつつ、頬を掻いた。
そのとき、不意にノヴァが遠くを指さした。
「ん? あれはなんでしょうか」
平原の向こうに、遠目でも分かるほど大量のモンスターが見えた。
+
クロコダイン達はガルーダに乗り、上空からモンスターの群れに近づいた。
遠くから見たときにも感じたが、やはり異様だった。
モンスターたちの動きには、異常なほどの統制が感じられた。進軍と言っても過言ではない。しかし周囲を探っても、指揮者らしき者の姿は見当たらない。
遥か先には、いくつかの小さな村や集落が見える。
数は多いが、モンスターたちは低レベルなものばかりだ。男手さえあれば撃退は可能だろう。しかし、あまりにも不可解だ。あの程度のモンスターを送り込むことや、あの程度の村を襲うことの意味が分からない。
「スライムやドラキーばかりだ。どうするべきか…」
「うむ…………狙いは分からぬが、このまま放っておく訳にはいくまい」
「そうですね。――ハァッ!」
ノヴァは彼らの行く手に闘気弾を投げ込んだ。
着弾の衝撃でモンスターたちは甲高い声を上げ、揉みくちゃになりながら進行を止めた。その隙にクロコダインとノヴァが飛び降り、彼らの前に立ち塞がる。
そして二人の前に現れたモンスターたちを見て、クロコダインとノヴァは表情を強張らせた。
「こ、こいつら……本当にモンスターなのか?」
近くで見たスライムやドラキーたちの身体には、黒い線が模様のように浮かび上がっていた。
見ようによっては血管のようにも見え、脈動しているかのように蠢いているのが気味悪さを増している。そして何より、彼らの眼だ。
自我がない、操られている、正気を失っている、といった様子ではない。まるで最初から生き物ではないかのように感じられた。
いや、考えていても仕方がない。結局、やることは一つだ。
【マヒャド】
ノヴァは手始めに最前列の者たちを氷漬けにした。正体や目的が気になるが、今は考えても無駄だ。ならば、倒すだけだ。
「喰らえっ!」
氷漬けにしたモンスターの壁を飛び越えて、次々と闘気弾を投げ込み、モンスターたちを爆散させる。
所詮は下級のモンスターだ。わざわざ剣を抜くまでもなく、これだけで制圧できる。
あっという間の出来事。クロコダインが手を出す間もなく、事は終了した。
二人は転がるモンスターの死骸を見て、一先ず安堵した。
「一度アジトに戻ろう。仲間にこの奇妙な出来事について報告し、意見を求めるべきだ。」
この黒い模様について尋ねてみるかと、ノヴァは死骸を掴み上げた。
「――づッ!?」
ノヴァは死骸を掴んだ瞬間、手から微かに煙が立ち上り、焦げた臭いが漂ってきた。
何事かと駆け寄ったクロコダインが見たのは、ノヴァの手が焼け焦げるように煙を上げている光景だった。
+
「蛆虫どもが足掻きおって」
世界中に放たれた悪魔の目玉から送られてくる映像を見つめながら、ザボエラは薄暗い部屋で悪態をついた。
自分の安全を守るために、トーヤを生贄にしようというのに、愚図な人間どもは正義だ誇りだと、くだらない御託を並べているせいで、計画が進展しない。
だが、ザボエラは人間を見下しつつも、滅ぼすつもりはなかった。
なぜなら、愚図には愚図なりの役割があり、滅ぼすのではなく利用するものだと考えているからだ。
この世のすべてを、ただ自分の手中に収めるために。
故に支配。世界征服という単純明快かつ悪辣な構造こそが、ザボエラの理想だった。
「小僧め、感づいた訳でもあるまいに………悪運だけは強いようじゃな」
当初、トーヤを捕らえるためにモンスターを送り込む予定だったが、出撃の直前にトーヤが姿を消したため、中止を余儀なくされた。
悪魔の目玉を通して見た映像では、とても動き回れるようには思えなかった。これは偶然か、あるいは誰かの差し金によるものか…。
「まぁ、どうでもよい」
トーヤの捜索は、雑魚モンスターを送り込み、わざと迎撃させることで炙り出せばいい。
時が来るまで、こっちはこっちでやることがあるのだ。両軍がどう動こうと、構うものか。
ザボエラはこれから起こる未来を思い描き、嗤った。
すべては、我が理想の世界のために。