「見ろよこれ! 200ゴールドだぜ。へっへっへ」
異様に大きな宝箱から小銭を拾いあげ、でろりんは下品に笑った。まぞっほもそれを受け取ると袖の下にそっとしまい、にやりとする。
へろへろとずるぼんの二人は別の場所で騒がしくしている。
「………ふぅ」
マリンは彼らの様子に心底ため息を吐き、壁に寄りかかるように背中を預けた。つまり、彼らを諫めるのは諦めたということだ。
俺も思わず彼女に倣って壁に背中を預け、腰を下ろした。
ここは破邪の洞窟。今はちょうど地下100階だ。とりあえず目指しているのは、アバンが拠点としていた地下150階だ。そこへ行き、アバンが精製した輝聖石を手に入れること。そして食料諸々も補給することだ。そうすれば――。
「こんなペースで最下層まで下りられるのかしら」
「そうだなー」
地上の終わりまであと丸2日といったところか。
それまでに俺たちは前人未踏の迷宮――破邪の洞窟の最下層まで下りる予定である。傍から見ればバカなことをしていると思うかもしれないが、それでもやる。だからこそやる。というか、他に手がねえのである。
先刻、自宅(洞窟)へ戻ろうとしたところ、謎の集団が占拠していた。
何事かと様子見をしていたところ、でろりん達が駆けつけてきてくれた。
彼らから、俺が魔王軍の謀略によりお尋ね者となっているとの情報を聞いた。つまり自宅を占拠していた謎の集団とは俺をひっ捕らえようと目論む輩だったということだ。そして逃げ続けるのも骨が折れるなと考えて、今に至る。
ここ(破邪の洞窟)ならば一般人ならモンスターに阻まれて追ってはこれないし、もしかしたら現状を打開するスーパーアイテムが眠っているかもしれないと考えたからだ。これぞ濡れ手に粟。一挙両得。一石二鳥。とどのつまり、やるしかない。
「それで体の調子はどう?」
「どう、って言われてもな。ほれこんな感じ」
手を握って開いてを繰り返す。
うむ、問題ない。
「気をつけてね。闘気を使うと途端に体が蝕まれるってマトリフ様がおっしゃってたから」
「そうだな。さっきもオーラちょっと練ったら頭痛に吐き気、眩暈のフルコンボだった」
俺の体は依然として暗黒闘気に侵されている。
正確には、暗黒闘気そのものが残っているわけではない。ダイに触れた瞬間に注入されたそれは、俺の深層心理に深く刻み込まれ、オーラを練るたびに"似た何か"へと変換されてしまう。そして、それが俺の体を侵食する。したがって、絶の状態でいれば全く問題ないが、戦うためにオーラを練ろうものなら、深刻なダメージを受ける。
つまり、今の俺は心を穏やかにしていないといけないのである。
ムカつくとか腹立つとか、目くじらを立てるなんて行為は自殺行為となるため、なるべく平常心かつ寛容な気持ちでいなければならないのだ。故に、自宅が荒らされようが、我が身可愛さにその辺の奴らに敵に差し出されそうになろうが、気にしてはいけない。
そう、かれこれ1時間もここ(破邪の洞窟100階)に留まっているけど、気にしてはいけないのだ。
段々と青筋を浮かべだす俺を見て、マリンは一瞬、口元を引き締めた後、静かな笑顔を浮かべた。
その笑顔には、少しの哀しみと、ほんの少しの憂いが滲んでいるように感じられた。まるで、俺がそのまま無理をして突き進まないようにと、どこかで気にかけているような、そんな表情だった。
俺がおかしいのか?