ソードアート・オンライン~黒の剣士と灰の剣聖~ 作:カノン・キズナ
別にゲームだからといってボス部屋の目の前にワープできるはずもなく、普通にトールバーナから迷宮区まで行軍するのだが、幸い進軍途中に目立った被害やアクシデントはなく無事ボス部屋前の扉にたどり着き、今は決戦の前の小休止をしているところだ。
「ねえ、あなた他の…MMOゲーム?ってのもやってたの?」
「そうだけど、急にどうしたんだ?」
「他のゲームでも、こんな感じだったの? …なんていうか遠足みたいな感じ?」
隣のフェンサーさんの表現は間違っていないかも知れない、ここに来るまでに会話や笑い声が尽きる様子がなかった。もし現実世界でこの様子を見れば、遠足かピクニックにでも行く集団なのかと思われたかも知れない。
「他のゲームは違ったよ、マウスとキーボードでチャットをするだけだからな。まあ俺はあんまりそういう輪の中には入らなかったけど」
「―――本物も、こんな感じなのかしら」
「へ、本物?」
思わず意味がわからず聞き返した。
「もし、本当にファンタジー世界があったらその世界の人達はこういう戦いの前はどんな気持ちだったんだろうって話よ」
彼女の考え方は本当に不思議だ。今までそんな事考えたこともなかった、けど今この時剣を握りモンスターと戦いダンジョンを攻略する俺達は、たとえそれが仮想であってもそういう世界の人間に限りなく近いのだろう。
「それを、日常として生きている人たちなら……多分、俺達が晩飯にレストランに行くときとの感じとそんなに変わらないんじゃないかな。今みたいに話したければ話して黙りたければ黙る、このボス攻略レイドもいずれはそうなると思うよ。ボス攻略を日常に出来ればね」
俺がそう言うと、彼女は可笑しそうに笑った。
「ごめんなさい、でも変なこと言うんだもの。究極の非日常で日常なんて」
「確かにそうかもしれない、けど今日で丸4週間だぜ。仮に第1層を攻略してもまだ99層ある、俺はあと2年…いや3年はかかると覚悟した。3年もあれば非日常が日常になってるさ、いや…きっと日常にしなきゃいけないんだゲームをクリアするまでは」
部分的に省略されていることも有るけど、毎日眠り食事をしている生活は現実のそれと大差はない。これは遊びではない、あの男はそう言った。現実と離れたところかもしれないけど現実とつながっている、だってここで経験して感じたことは現実世界に戻っても覚えているのだから。
それなら俺は、戦い続けるだけじゃなくこのゲームから脱出出来るまでこの世界で生きていきたい。ゲームかもしれないけど、ここで過ごした時間は偽物ではなく本物だから。
「…強いのね、私には無理だわ…この世界で何年も生きていくのは。今日の戦闘で死ぬことよりも怖く感じるもの」
「上の層に行けば、もっと良いお風呂も有るんだけどなー」
「ほ、ほんと?」
そう言った瞬間しまったという顔をしたと同時に一昨日のことを思い出したのか、キッと睨まれてしまった。
「良いんだよ、この世界で生きていく理由なんてなんでも。大事なのは、ゲームだからって自分らしさをなくさないことだと思う」
「…自分らしさ、か」
しばらくして、休憩も終わり全員が隊ごとに整列した。もうじきディアベルの合図でボス部屋に入るだろう。
「いいかボスの取り巻きで出てくる《ルインコボルトセンチネル》は迷宮区のコボルトよりも強敵だ、全身を鎧で覆っているから君のリニアーじゃまともに攻撃は通らない」
「わかってるわ。攻撃は喉元一点だけ、でしょ」
「そうだ、俺が敵の武器を弾くからすかさずスイッチで飛び込んでくれ。カイトたちも基本は同じだ、カイトが弾いてユウキが飛び込む。1匹ずつ確実に倒していこう」
「わかった」
「わかったよ」
そしてディアベルが静かに剣を掲げ、周りを見渡しながら頷いた。
「―――行くぞ!」
俺的には、4ヶ月ぶりの第1層ボス部屋だったが以前に見たときと同じはずなのにずいぶん広く感じたのは、多分以前とは決定的に違うものが一つ存在するからなのだろう。
全員が中に入ったところで松明に明かりがつき部屋の奥で巨大な玉座に鎮座する《イルファング・ザ・コボルトロード》の姿が現れた。
「グルルラアアアアッ!!」
その姿は俺がβテスト時に見たものと同じだった。2メートルを超える体躯、赤金色の隻眼、そして巨大な石斧と盾、腰の後ろには俺の身長と大差ない大きさのタルワールが差されていた。
「ん?なんだか…違和感を感じるような」
直に戦端が開かれようとしたときに、カイトがそう呟いた。
「違和感?なんだ、ラグでもあったか?」
「いやそういうのじゃないんだけど…、なんだろうあのボス何か引っかかるような…」
カイトはβテスターじゃないから、コボルトロードは見たことないはずなんだけど…俺は気のせいじゃないか今は目の前に集中しようぜと、言った
そして、コボルトロードが石斧を振りかぶりタンク隊がそれを受け止めたのが合図となり周囲に予定通りセンチネルが現れた。
「行くぞみんな!ここまでは予定通りだ、さっきの作戦どおりに行くぞ!」
――――SIDE アスナ
迷宮区の奥から私を助け出した3人はたった3人であそこにいるだけの実力は有るのだろうと予想はしていた。事実カイト呼ばれていた少年とユウキって女の子はかなりの強さだと思う、パーティを組んで1月程度しか経ってないとは思えないほど、お互いの動きに隙がない。というよりお互いの隙を絶妙にカバーしている。
でも、その二人すら霞むような強さをみせているのが私とコンビを組んでいる剣士の彼だ。いや強いという言葉だけでは説明しきれない何かが彼にはある。パワーやスピードといった尺度すらも超越した《先の次元》を感じさせるなにか。
その何かは私にはまだわからない。けどすべての動きが最適化され、これしかないという動きでセンチネルの武器を弾いている。後は私が仰け反った状態のコボルトの喉元にただリニアーを打ち込むだけ。今なら最初に会った時彼が、私の戦闘がオーバーキルで効率が悪いといった意味がわかる。
無駄を省いた事で余裕が生まれ、あの時迷宮区で一心不乱に敵を狩っていた時とはぜんぜん違う心構えで今は戦えている。また昨日彼に言われて新調した、ウインドフルーレも実に手によく馴染んで、まるで剣先までが自分の体の一部と錯覚するほどだ。
これがこの世界での《戦い》なら、以前まで私がしていたのはぜんぜん違うものなのだろう。そしてその戦いにはまだ先がある。少なくとも隣で戦っている剣士はずっとずっと先にいる。偽物の世界であるにもかかわらず、彼は現実世界と変わらずに生きていくことが大事だといった。
たまに気取った喋り方をしつつ、でもその言葉の端々に何処か優しさを感じさせる彼が見ているもの。彼の見ているものを私も見てみたい、出来ればその隣で。どうしてそう思うのかはわからないけど、偽物の世界で今感じているこの気持ちは間違いなく本物だ。
―――――SIDE カイト
コボルト王との戦いは、かなり順調と言っていい推移を見せていた。本隊が今3本目の体力ゲージを半分ほどまで減らしたところだ、今の所目立った被害なし。あのディアベルというプレイヤーの指揮もかなり落ち着いて的確だ。
そして、ひたすらセンチネルの相手をしているこっちも同じく順調だ。正直想定以上と言えるのがキリトとコンビを組んでいるあのレイピア使いのアスナの奮戦だった。一昨日迷宮区で遠目で見た時かなりの実力だとは思っていたけど、キリトの話じゃ俺達以上の初心者ということだった。
それが今では、多少はキリトが彼女に合わせているところもあるけどそれを差し引いても遜色ないくらいの戦闘を見せていた。
「すごいね、キリトとアスナ」
「そうだな、キリトは最低限説明しただけだっていってたけど」
「それであれだけ戦えてればもう才能だよね。ボクたちも負けないように頑張らなくちゃ」
「まあもうじき、ボスの体力も最後の1本になりそうだから終わるまで油断するなよユウキ」
「任せといてよ。それに危なかったらカイトが助けてくれるんでしょ?」
「やれやれ、うちのパーティのお姫様たちはどちらも手強い」
キリト達が、センチネルを一体倒し少し余裕が出たところで俺はさっき感じた違和感をもう一度思い出していた。キリトは気にするなっていったけど、やっぱり気になる。最初にボスの姿を見た時なにか感じたのは間違いない…それが何だったのかどうしても分からない。
――もう一度ボスの情報を思い出せ、取り巻きにセンチネル3体、ボスの見た目は情報通り、装備は石斧にバックラーそして腰に差されたタルワール…何も間違いはないはず
「難しい顔してどうしたのカイト?」
「やっぱりあのボスなんだか変な気がしてさ、でも何が変なのかわからなくてさ」
「ボクは特に感じなかったけどなー、だって石斧にバックラーは情報通りだし、動きも違いはないし――――そういえばボクよく知らないんだけどタルワールってどんな武器なの?」
「え?タルワールってのはイスラム圏の武器で先端が湾曲してる刀のことだよ、俺達が使える武器で一番近いのは曲刀かな」
「ふーん――あれ?でもさっきちらっと後ろ見た時曲がってなかったような気がするんだけど…」
「曲がって…ない?」
俺はすかさずボスの方を見た、あいにく今いる角度からじゃ腰に差してる武器の先端部分はよく見えない。―と味方のパリィで偶然ボスの背中がこちらを向いた。
――――確かに武器の先端は曲がっていなかった、いやあれはタルワールじゃない!
「おいキリト!ボスの持ってる武器がタルワールじゃないぞ!」
「え?そんなはず…」
次の瞬間歓声が上がった、ボスの体力ゲージがラスト1本になったのだ。そして情報通りボスは石斧と盾を捨て腰に差してあった武器を抜く、情報のタルワールではなくそれは太刀だった。
「嘘だろ、あれは刀だ…もっと上層にならないと出てこない武器種だ!モーションがぜんぜん違う!本隊が危ない!――――――ディアベール!逃げろー!」
キリトのその言葉を聞くと同時くらいにボスは刀専用の重範囲系ソードスキル《旋車》を放っていた。前線に居た全員が攻撃を喰らい、しかも同時にスタンを食らっていた。体力は見える人間だけでも一撃で半分は削れるほどの威力だった。
「くそっ!間に合え!」
それを見た俺は、反射的にボスの方へと走り出していた。今までの敵の思考パターンを考えれば、次に待っているのは硬直が解除した後の追撃だからだ。もちろん刀のモーションなんて見たことはない、パリィや防御が出来るかは分からない。けどこのままじゃ間違いなく犠牲者が出る。それだけは我慢できなかった。
「ウグルオッ!!」
そしてコボルトロードはディアベル目掛けて追撃の構えをした。間に合うかどうかは紙一重というところで俺はボスに向けてホリゾンタルを打ち込んだ。
――――SIDE キリト
その場の誰もが…俺ですらあの状態で狙われたディアベルは死んだと思った。だがそうはならなかった。カイトが間一髪のタイミングでボスの攻撃を弾いたのだ。
初見の武器モーションをただでさえタイミングの難しいスキルキャンセルを決める。その芸当の難しさは俺が4ヶ月ほど前に体験したことだ。10層迷宮区に出てくる《オロチ・エリートガード》がSAO初の日本刀を持った侍型のモンスターだった。
俺はどうしても、そのモンスターの出るエリアを突破できず刀のモーションをようやく覚えたところでβテストが終わってしまったのだ。つまりこの中で…いやβテスターの中でも刀モーションを知っているのは恐らく俺だけだろう。
だからこそカイトのやったことは衝撃だった、あいつは動きを知らない。だから敵の動きを見て条件反射だけで敵の攻撃を相殺している。だがいつまでも続く保証はない、だからこそ俺もカイトの援護をしないと。
そう思ったところで、一つだけ迷いが出る。隣の彼女…アスナだけは絶対に死なせない。彼女には間違いなく才能がある、俺が僅かにアドバイスしただけですぐに適応してみせた。その才能の煌めきを花開く前に散らせることはこのゲームに魅せられたものとして容認できない。
俺はカイトの元へ走り出す瞬間、彼女に後方で様子を見て危なくなったら逃げろと言うつもりだった。だが彼女は俺が口を開く前に、きっぱり宣言した。
「私もついていくわ、パートナーでしょ。それに、あなたの友達が命がけで頑張ってるのに一人後ろで見てられないもの」
「…わかった頼む」
「ボクも行くよ!」
「まて、ユウキはボスの攻撃範囲に入らない程度のところで待機していてくれ俺がカイトとスイッチしたらすぐにあいつのカバー頼む」
「わかったよ」
周りを見ると予想外の事態とディアベルのピンチが重なり、皆が軽いパニック状態になっていた。このままでは今の状況から持ち直しても、ボスを倒すのもままならない。何かこの状況を一変させる物が必要だ、だがテスト時も基本ソロで通していた俺に大部隊を鼓舞するだけの言葉が見つけられない。
「うろたえるな!!」
その激が隣の彼女だと気づくのにそう時間はかからなかった。今まで決して人前で外さなかったフードを外し更に続けた。
「幸いまだ誰も死んでない。ここさえ持ちこたえれば第2層も見えてくるわ!みんなもう一息力を出して!」
俺も、彼女の素顔をはっきりと見るのは初めてだった。艷やかな栗色のロングヘアでアバター解除されてないのではないかと疑うくらいの美しい顔だった。まるで夜空に現れた流星のように。
「タンク隊、俺達に続け!ピヨった前線の人間を後退させるんだ!」
「わ、分かったでもお前たちはどうする」
会議のときに、エギルと名乗った斧使いを始めとしたタンクの人間を何人か呼んだ。
「あいつと一緒にボスを引きつける! ―――行くぞアスナ!手順はセンチネルと同じだ!」
名前を読んだ瞬間ちらりとこっちを見た気もするが、直ぐに視線を戻して応じた。
「解ったわ!」
前方ではカイトと打ち合い繰り広げていたコボルトロードがバックステップした次の瞬間太刀を左の腰だめに構えようとしていた。
「………ッ!!」
俺はとっさに剣を左腰に据え転倒寸前まで身体を倒し右足を全力で踏み切った。全身が薄青い光に包まれボスとの10メートルほどの距離を一気に駆け抜ける。片手剣基本突進技《レイジスパイク》だ。
同時にボスが構えた太刀が緑に輝き、切り払われた。カタナ直線遠距離技《辻風》居合系の技で、今まで動体視力だけでなんとか捌いていたカイトでもあれだけは見てから防ごうとしても間に合わない。
「う……おおッ!!」
咆哮とともに突き上げた俺の剣と、ボスの太刀の軌道が交差した。甲高い金属音を残して俺もボスも2メートル以上ノックバックした。そうして、生まれたボスの隙を俺の突進に迫るほどのスピードで追ってきたアスナが見事に捉えた。
「カイト!大丈夫か!?」
「ああ、いまユウキにポーションをもらった。もうしばらくいける」
「俺達であいつの攻撃を捌きつつタゲを取る。アスナは隙を見て攻撃を仕掛けてくれ、範囲攻撃が来るから包囲だけはするな!」
「分かったわ!」
「ユウキ!援護頼む!」
「任せて!」
俺とカイトが交互にボスの攻撃を捌き、隙ができた瞬間アスナとユウキが攻撃を仕掛ける。そんな状態を続けつつ俺は頭の片隅でさっきのことを思い出していた。
場の空気を一変させたアスナの力。この戦いを無事に生き残れば彼女はきっとアインクラッドに名を轟かすだろう。誰よりも早く、誰よりも美しい剣士として。いや剣士だけじゃない、きっとその流星の如き輝きで攻略者達を導く存在になる。
見てみたい。いや側で見ていたい。そのためにも彼女は絶対に護ってみせる。
その後数分続いた激戦でボスの体力はあと僅かまで減っていた。だが俺達の集中力もだいぶ限界まで来ていた。ボスの咆哮に対応できず俺とカイトが一瞬ディレイが入る。そしてボスの目線は同じ位置に居たアスナとユウキに向いた。
次の一撃で決めないとまずい。そう思った俺はカイトに一瞬目配せをしてお互いに頷いた。
「「何処見てんだ木偶の坊、俺達のお姫様に……色目使ってんじゃねえぞ!!」」
俺とカイトは同時に《バーチカルアーク》を放った。そしてコボルト王は力を失いガラス片となって身体を四散させた。
そして俺の視界には【You got the Last Attack!!】という紫のシステムメッセージが瞬いていた。
というわけで終わりました。第1層ボス戦
構成上少々予定を変更してカイトくんの意思表明は次回に持ち越しです。
ディアベルは生存させました。少し迷いましたが
アスナの描写は悩みましたが、キリトへの恋心の種の意味も込めて少し表現変えました。
そして、最後の攻撃を同時にさせた意味。まあ恐らくバレバレだとは思いますがこの作品のタイトルの意味の一端が次回明らかになります。
そして遅ればせながらUAが1500を超えました。ありがとうございます
今後も頑張っていきます