ソードアート・オンライン~黒の剣士と灰の剣聖~   作:カノン・キズナ

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第10話 ビーター

 ボスの消滅に伴って、センチネルも消え去り薄暗いエフェクトだったボス部屋も、明るくなり涼しい風とともに激戦の熱を押し流そうとしていた。

 

 だが誰も、何かを話そうとはしなかった。恐らく終わったという実感が無いのだ、俺ももしかしたらまだベータと違う何かが有るのではと、疑心暗鬼にありまだ構えた剣を下ろせないでいる。すると小さな白い手がそっと俺の手をおろした。さっきまでの戦闘で俺に色々なものを見せてくれたアスナだった。

 

 

 改めてフードを外した彼女を見ると、あるいは男なら誰でも惹かれるのではないかという美貌をしていた彼女の顔を思わず見入り続けてしまった。だが彼女は今だけかもしれないが嫌な顔をせず軽く微笑みながら俺に囁いた。

 

 

「お疲れ様」

 

 

「ああ、ありがとう」

 

 

 その時ようやく俺は終わったんだと、実感することができた。1ヶ月間8千人のプレイヤーを苦しめてきた第1層がようやく終わったのだ。そして、それに呼応するかのようにシステムがアイテムとコルの配布を始めた。それを見て他のプレイヤー達からやっと終わったと歓声が上がった。

 

 

 そんな中、一人の大きな影が俺達のところに近づいていた。両手斧使いのエギルだ。

 

 

「…見事な戦闘だった、コングラッチュレーション今日の勝利はあんたたちのものだ」

 

 

 途中の英語を、流暢な発音で言ってのけた巨漢はニッと笑い拳を突き出してきた。

 

 

「俺よりも今日の一番はカイトさ。あの時あいつが居なければどうなってたか」

 

 

 気の利いたことは言えなかったが、間違いなく本心だ。あの瞬間カイトは最後まで諦めていなかった。だからこそギリギリのタイミングでスキルキャンセルも成功したのだろう。

 

 

「―――なんでだよ!」

 

 

 突然の叫び声が俺の背後で弾けた。怒りも含んだその叫び声で広場の歓声は静まり返った。

 

 

「―――俺達のリーダーは、そこで讃えられているべき人は、ディアベルさんだろうが!」

 

「――そいつらは、ボスの情報が違うことを知っててディアベルさんを見殺しにしようとしたんだぞ!」

 

 

 そう叫んだ、剣士の言い分はひどく言いがかりでしかない。確かに俺はカタナスキルを知っていたしボスの武器がタルワールじゃないことにも気づいた。けどそれは、直前になってカイトに言われて初めて気づいたものだ。

 

 

「―あいつ、パーティメンバーにボスの武器が違うと聞いて直ぐにカタナだって言ってた、きっと情報と違うこと知ってたんだ!」

 

 

 こうなるような気は薄々していた。その理由は戦闘前になる。昨日アルゴから聞いた依頼人キバオウは不思議な事に会議の時と装備が全く変わっていなかった。俺に4万コルも払う用意がありながら交渉が決裂して浮いたそのお金で装備を新調するということをしなかったのだ。

 

 

 そこで俺は気づいた。もしかしたらしないのではなく出来ないのではないかと。キバオウもまた誰かに依頼され俺との交渉役になっているのではないかと。そして戦闘中キバオウはさらに気になることを俺に話した。

 

 

―――戦闘中

 

 

「アテが外れたやろ。いい気味や」

 

 

 センチネルとの戦闘が落ち着いた頃後方で本隊のサポートをしていたキバオウが急に話しかけてきた。

 

 

「……なんだって?」

 

 

「下手な芝居すんなや。こっちは知っとるんや。あんたがボス戦に潜り込んだ動機っちゅうもんをな」

 

 

「動機って、ボスを倒す以外になんの理由があるんだよ?」

 

 

「だから、まさにそれが狙いやったんやろうが!」

 

 

 俺とキバオウの会話は恐らく噛み合っていない。俺が言っていることとキバオウが言っていることになにかのズレが有る。その核心を、キバオウは告げた

 

 

「わいは知っとんのや、ちゃーんと聞かされてんのやで――あんたが昔、汚い立ち回りでボスのLA取りまくっとったちゅうことをな」

 

 

「なっ……」

 

 

 LA、ラストアタックボーナスそれは各層のフィールドボスやフロアボスに最後に攻撃したものがもらえるボーナスアイテムだ。基本的にそのアイテムは激レアなユニーク品であることが多く、俺は確かにβテスト時にそういうスタイルだったことも確かだ。

 

 

 キバオウは俺がβテスターあることだけでなく、当時の俺の動きまで知っている…いや聞いている、でも誰から?

 

 

「……キバオウ、あんたにその話をしたやつはどうやってβテスト時の情報を知ったんだ?」

 

 

「決まってるやろ、えらい大金つこて鼠から買ったんや、攻略部隊のハイエナをあぶり出すんや言うてな」

 

 

 それは間違いなく嘘だ、あのアルゴが自分で決めている掟を破るわけがない。とすればこの中にいるんだβ時代の俺を知ってるもうひとりのβテスターが。

 

 

 

――――

 

 

 

 そこまで気づいたところで俺は、今この状況で俺から戦力を剥いで得をするのは誰かと考えた。仮にうまくいっても、4万コルも使うのだそれなりのリターンこの場合はLAになるのだろうそれがないと割に合わない。とすればいま一番可能性の高いのは、最前線でアタッカーもしつつ全体の指揮を執るディアベル以外にないのではないかと。

 

 

 恐らくキバオウとディアベルはグルだ。会議のときのあの騒ぎも予定の一つだったんだろう。カイトとエギルのせいで中途半端になってしまったが、恐らくボス戦の終わった後の反省会でまた吊し上げが行われるだろうと思っていた。

 

 

 広場の多くが、どうして攻略本にもないことを知ってるんだという空気になっていた。そしてその疑問に答えたのは俺の予想通りキバオウ―――

 

 

 

 ではなかった。戦闘の時とうって変わって彼は何かを我慢するように口を結んだまま立ち尽くしている。まるで言おうかどうしようか迷っているようなそんな感じがした。だが、彼の指揮するパーティの一人が俺を指さして叫んだ。

 

 

「俺知ってるぞ。あいつはディアベルさんにLA取られるのが嫌でボスの動きが違うことをギリギリまで黙ってたんだ。――図星だろ、《βテスター》さん」

 

 

――あいつ、ベータテスターだったのか

 

――LAボーナス欲しさに、ディアベルさんを見殺しにしようとしたのか

 

 

 そんな声が、周りから聞こえてきた。どう反応するのがいいのか考えていると周りの声を遮ったのは、アスナだった。

 

 

「待って!β時代の情報は私達も攻略本で得ていたわ。あのボスの情報について大きな差はなかったはず。ただβ時代と同じだと思い込んだ私達が窮地に陥りそうになった時、彼はもっと先で得ていた知識を応用して教えてくれた。そう考えるのが自然じゃない?」

 

 

「いいや違うね、アルゴとかいう情報屋とそいつはグルだったんだ。βテスター同士共謀して、善意のふりをして俺達を騙して、自分たちだけ美味しいところを掠め取っていこうとしたんだ」

 

 

 ――この流れは、まずい

 

 

「あの人はそんな人じゃない!! 誰が言ったの! 出てきなさい!!」

 

 

「あんたさっきから随分ベータ共の肩を持つな。もしかしてあんたもグルなのか…?」

 

 

 ――このままじゃ、事態は一番最悪な方へ進んでしまう。

 

 

「まてよ、それならボスの攻撃を捌いてた俺だってグルだってことになるけど」

 

 

「あんたも、あいつと同じパーティだった。その可能性は十分にあるよな」

 

 

 

 俺一人なら、どんな糾弾だって謗りだって受ける。でも今の状況は俺を助けてくれようとしたアスナやその助け舟を出したカイトにまで及ぼうとしている。――どうすればいい、どうすればこの状況を…。

 

 

 うつむいた俺に、まだ表示されたままのシステムメッセージが目に入る。獲得コル。そしてアイテム、LAボーナス……

 

 次の瞬間、一つの手段が思い浮かんだ。同時に今まで感じたことのないくらいの葛藤が頭をよぎった。もしそれをすれば俺は今後どうなるかわからない。命すら危なくなる可能性もある。

 

 

 しかし俺一人の犠牲でアスナやカイト、アルゴを守れるのなら…

 

 

「ハハハッ、冗談だろそいつらは正真正銘のビギナーさ」

 

 

 どんなに心無い言葉でも吐いてみせる。

 

 

 

――――SIDE アスナ

 

 

 

 誰が話しているのかわからなかったけど、そいつのあまりにもひどい言いがかりに思わず剣を抜こうとすらしてしまった瞬間、隣の少年はいつもの優しそうな顔つきとはぜんぜん違う冷笑を浮かべてそう言っていた。

 

 

 

「困るなぁ、フェンサーさん。そう懐かれたら仲間だと思われちゃうだろ?これだから世間知らずのユートーセーは、自分が利用されているなんてこれっぽっちも疑いもしない」

 

 

 その言葉に一瞬ショックを受けた。世間知らずなのは、私自身理解している。でも彼から利用しているという言葉は一番似合わないような気がした。

 

 あの日、私を助け色々なことを教えてくれた彼には間違いなくそんな思いはなかったはず。だとすれば今の彼の言葉は間違いなく、私や彼友人を助けるものだ。

 

 

「それに、元βテスターだって? 俺をあんな素人連中と同じにしないでほしいな」

 

 

「な、なんだと?」

 

 

「よく思い出せよ、βテストの倍率はとんでもないものだったんだ。運良く受かった連中の中で本物のMMOプレイヤーが何人居たと思う? 殆どがほとんどがレベリングの基礎も知らないような初心者だったよ。今のあんたらのほうがマシさ」

 

 

 彼と多く会話を交わしたわけじゃないけど、それが本心でないことは直感的に感じた。わざとらしい程の侮蔑的な物言いで周囲の空気は戦闘前の緊張のように冷たくなっていく。

 

 

「でも俺はあんな奴らとは違う。俺はβテスト中に誰も登れなかったところまで登った。ボスのカタナスキルもここよりずっと上の層でカタナを使うモンスターが居ることを知ってたんだ。他にも色々知ってるぜ、鼠なんか問題じゃないくらいにな」

 

 

――なんだよ、それ

 

――そんなのチーターじゃないか

 

――β上がりのチーターだ

 

――ベータのチーターだからビーターだ

 

 

 そんな声が多く聞こえてきた、彼はそれを意に介することもなくウインドウを触っていた。そして、今まで来ていたジャケットのような装備ではなく、黒いコートに装備を変えて言い放った。

 

 

「《ビーター》!いいねえその呼び名気に入ったよ、ラストアタックボーナスと一緒に俺がもらった! 間違っても今後はそのへんのテスター共と一緒にしないでほしいもんだな」

 

 

 私はようやく、彼がしようとしていることに気づいた。会議のときから根付いていたβテスターへの不満をビーターとして一身に受けようとしているということに。

 

 

「2層の転移門のアクティベートは俺がしておいてやる。あんたらは街に戻っておとなしくしてろ。よくいるんだよボスを攻略した勢いのまま次の層へ行って初見Mobに殺されるやつが」

 

 

 彼はそう言って、ボス部屋を出ていった。私の横には彼のパーティの二人とエギルさんが来ていた。

 

 

「…全くあいつは」

 

「ほんと世話がかかるね」

 

 

 このふたりは、彼の思惑に気づいているようだった。

 そしてそれはエギルさんも同様だった

 

「なあ、あれが本心じゃないって事は…」

 

 

「言われなくても分かってます!」

 

 

「君は残ったほうがいいかも知れない、あのバカと同じだと思われるかも知れないから。エギルさんもまた2層で会いましょう」

 

 

 そう言って、彼らもボス部屋を出ていった。

 

「残るのか君も?」

 

 

「言いたいことが色々有るから、彼と少し話してきます」

 

 

「…じゃあ、アイツに伝言頼めるよな?」

 

 

 エギルさんからの伝言を聞きボス部屋から出ようとした時だった。

 

 

「ちょい待ちぃ」

 

 

 そこにはキバオウさんと、ディアベルさんが立っていた。

 

 

「…伝言、ワイからも頼むわ」

 

「オレからもお願いするよ、しばらく会えなくなるだろうし」

 

 

 急にディアベルさんがそんな事を言いだした。

 

 

「どういうことですか?」

 

 

「彼らに命を助けられて、その上彼に全て背負わせるのはさすがにオレのナイトとしての心が我慢出来ないんだよ」

 

 

 

 

 

――――SIDE キリト

 

 

 

 ボス部屋を超えて2層への扉を開けるとそこには絶景が広がっていた。1層とはガラリと変わり、2層は岩山が連なり2層の入り口はその山の中腹にあった。下を見下ろすと、2層主街区ウルバスが見える。少しくらいはこの絶景に見惚れる時間くらい有るだろう。

 

 

 

「全く、あんな重いもの背負ってお前はどれだけ筋力値にステータスを振る気だ?」

 

 

「それで軽くなるなら喜んで筋力極振りにするよ」

 

 

「ムキムキのキリトかー、ボク想像できないなあ」

 

 

 なんというか予想通りカイトたちも上がってきた。心の何処かできっと来てくれると思ってはいたけど、いざ実際にそうなると少しうれしかった。

 

 

「アスナはどうした?」

 

 

「一応上がって来ないほうがいいとは言ったよ。まあ一応な」

 

 

 そう言うと、カイトはちらりと後ろを見た。そこにはフードを付け直したアスナが立っていた。

 

 

「来るなって言われただろうに」

 

 

「すぐに戻るわよ。あなたに言いたいことがあったから」

 

 

 そう言って彼女は俺の横まで来て俺と同じ景色を見て溢れるように呟いた

 

 

「綺麗ね」

 

 

「ああ」

 

 

「エギルさんとキバオウさん、それからディアベルさんから伝言」

 

 

 エギルはなんとなくわかる気がした、きっと彼も俺の言葉の意味に気づいている気がしたから。

 

 

「エギルさんからは、『2層のボス攻略も一緒にやろう』って、キバオウさんは…」

 

 

 アスナは小さく咳払いをしてから頑張って真似をしたのか下手な関西弁で再現を試みた。

 

 

「……『今日は助けてもろたけど、ジブンのことはやっぱり認められん、わいはわいのやり方でクリアを目指す。それからディアベルはんを助けてくれておおきに』だって」

 

 キバオウがあの時黙っていた理由がわかった気がする。きっと過程はどうあれディアベルを助けてくれた奴を告発するようなことをしていいのか悩んでいたんだろう。

 

 

「それからディアベルさんからは、『嫌な役回りを任せる形になってすまない、この謝罪と助けてくれたお礼はいつか必ずさせていただく、ナイトとして』だそうよ」

 

 

「謝罪はともかく、お礼はカイトの方にしてほしいな。俺はあの瞬間何も出来なかったから」

 

 

 その後少しの沈黙が続いて、俺はさっきのことを謝ろうと思った。

 

「ええと…その…あれだ、さっきは…その…ごめ―「ごめんなさい!」

 

 

 俺が言おうとしていたセリフを先に言われてしまい、俺は思わずえ?と聞き返してしまった。

 

 

「…私が余計なことをしたせいで、あなたに重荷を背負わせてしまったわ本当にごめんなさい」

 

 

「いいんだって、あれは俺が自分で墓穴をほったんだ。大した問題じゃない。それに君があの時みんなに檄を飛ばしてくれなきゃ、レイドが壊滅していた可能性だってあった。」

 

 

「だけど、私の力なんて…」

 

 

「…いや、多分君にはみんなを一つにする力がある。俺の剣技なんかよりずっと大切な力だ。俺なんかには真似できない貴重な力だ…。だからいつか信頼できる人に誘われたら、君はギルドに入るんだ。ギルドに所属しないソロパーティには絶対的な限界があるから」

 

 

 それは、カイトたちも同様だ。1ヶ月で俺にも引けを取らないプレイヤーに成長した。初見であれだけの剣劇をボスと繰り広げたカイトのあれもまた才能だろう、いずれ先陣を切って戦うだけの力がつく。その時俺の隣ではなく、アスナと一緒に大勢の人間の先頭に立つべきだろう。こんなビーターの横ではなく。

 

 

「今はまだ、そういう事は考えられないかな。初めてこの世界で目標が出来たの。いつかじゃなく、目の前の目標」

 

 

「へえ、なに?」

 

 

「内緒、いつかその時が来たら話してあげる」

 

 

「…もしかして、クリームパンとお風呂?」

 

 

「……」

 

 

 よこでカイトが吹き出したように笑うのと同時に、目の前にはアスナのレイピアが俺に向けられていた

 

 

「…いえ、なんでもございません…申し訳ないです…」

 

 

「というか私もあなたに教えてほしい事があるのだけど」

 

 

「は、はい?」

 

 

 そう言ってそっぽを向きながら彼女は苦情とやらを俺に言った。

 

 

「あなた戦闘中に私の名前読んだでしょ、どうせユウキに聞いたかアルゴさんから買ったんでしょうけど。そっちだけ知ってるなんてフェアじゃないわ」

 

 

「え?」

 

 

「え、じゃなくて……やっぱり利用してただけの人間には教える必要もないってこと?」

 

 

 そこで俺はようやく気づいた。初めてアスナとパーティを組んでから今まで、一度も名前を呼ばれていなかったことに。

 

 

「そういえばパーティ組んだことないって言ってたな」

 

 

「そうだけど、それが?」

 

 

「視界の左端くらいにHPゲージが見えてるだろ?そこに書いてあるはずだよ」

 

 

「左端…」

 

 

 どうやら、いまいちよく分かっていないらしくアスナの顔も一緒に左に動いたため反射的に彼女の頬を触って顔が動かないようにした。

 

 

「ほら顔を動かすと、HPバーも動いちゃうよ。視線だけを向けるんだ」

 

 

「こう?――何だこんなところにかいてあったのね。ええっと…」

 

 

 アスナの瞳がぎこちなく動き、文字列を捉えたようだ。

 

 

「…キリトくん?」

 

 

「…うん…」

 

 

「みてカイト知らない人が見たらこれからキリトがアスナにキスするんじゃないかと勘違いしそうだよね」

 

 

「そうだな、俺達一応後ろ向いておくか」

 

 

 そんな、ふたりのからかいで俺はようやく今の状況に気がついた。慌てて手を離し、逆方向に身体をひねった。

 

 

「そ、それにしてもいい景色だなあ!」

 

 

 恐らく俺は相当滑稽な動きだったろう。数秒後アスナがくすくすと笑いだした。

 

 

「ごめんなさい、言うことも言ったし聞きたいことも聞いたし、私そろそろ戻るわ」

 

 

「…わかった、またなアスナ。先に行ってるよ」

 

 

「ええ、すぐに追いつくわ」

 

 

 

 

―――――SIDE カイト

 

 

 

 アスナは、俺とユウキにも挨拶をしてボス部屋の方へ戻っていった。なぜだろう、戦闘中もさっきのやり取りを見ていたときもそうだけど、二人を見ていると不思議と気持ちがいい。説明しにくい感情では有るけど。

 

 それしかはまらないパズルのピースのように。まるで、ずっと昔からそうなることが決められていたかのように。ふたりの戦闘もほんのちょっとしたやり取りもなぜだか知らないけど心地が良い。

 

 俺はある予感がした。きっとこのふたりは将来このデスゲームの攻略をトップランナーとして引っ張る存在になるのではないかと。そしてこのふたりなら、先生の造ったこのシステムで定められた世界を変えるようなそんな可能性を見せてくれるのではないかと。

 

 

 もしそうなら、俺はこのふたりのこれからを見ていたい。そして、このふたりを側で護っていきたい。もちろん俺にはまだまだそんな力はないけど。アスナの言う眼の前の目標、俺にとってはこれがそうなのだろう。

 

 

「良かったじゃないか、キリトのことを理解してくれてる人は少ないけどたしかにいるんだ」

 

 

「ああ、今はそれだけで嬉しいよ。でも本当にいいのか?カイトもユウキも俺についてくると面倒に巻き込まれるかも…」

 

 

「むしろキリトって、自分で面倒に突っ込んでいくタイプだよね。ボクたちがついてあげなきゃ何処まで行くかわからないし」

 

 

「そうだな、それにビーターはともかくLAボーナスを持っていったのはお前だけじゃないぞ」

 

 

「え?」

 

 

 俺はウインドウを操作し、先程の戦闘で入手していた装備に変更する。それはキリトの黒いコートによく似た色違いの灰色のコートだった。

 

 

「カイト、それは…」

 

 

「《コートオブシルバーグレイ》、多分お前のコートの色違いだ、これで確実にお前のお仲間認定だな」

 

 

「知らないぞどうなっても」

 

 

「いいさ、俺がそう決めたんだから」

 

 

「わかった、もう何も言わないよ。それより早くアクティベートに行くとしよう。アルゴから早くしろって催促のメッセージが飛んできた」

 

 

 キリトに見せてもらうとそこには、『2層にたどり着いたのなラ、アーちゃんとイチャイチャしてないで早くアクティベートしてほしいナ』と書かれていた。

 

 

「なんでアスナがここにいたこと知ってるんだ。しかもイチャイチャって…」

 

 

「そこの扉で誰か覗いてたんじゃないか?エギルさんとか」

 

 

「あり得る。ん?追加でメッセージがきたな」

 

 

『随分迷惑をかけたみたいだナ、キー坊』

 

 

『お詫びに、なんでも情報をタダで売ってやるヨ』

 

 

「なるほど、でなんの情報を買うんだ?」

 

 

「そうだな、折角の機会だあのヒゲの理由でも聞いてみるか。前聞いたら『それは10万コルだナー』って言われたから」

 

 

 そういいながらキリトは、笑って返信をした。そして俺達は2層主街区《ウルバス》へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




休みなので一気にかきあげました。
ようやく1層終了になります。


そして、前回先延ばしにしたカイトくんの気持ち。それはキリトとアスナのこれからを側で見ていきたいという思いです。

カイトくんのこの気持は作品を通して一切ブレることはありません彼の行動の全ての原点はここになります。


そして、カイトくんが手にした、シルバーのコート。すいません分かりやすくて。今後キリト同様に彼はシルバーやグレーの装備を着続けることになります。タイトルの灰はここからきています。



さて次回はようやく第2層、強化詐欺事件をメインにやっていきます。


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