ソードアート・オンライン~黒の剣士と灰の剣聖~ 作:カノン・キズナ
第1層のボスが攻略されて、第2層にいけるようになって数日たった。今私は第2層主街区《ウルバス》の喫茶店でお昼の休憩をしていた。なぜかアルゴさんとユウキも居るけど。
「ここの料理美味しいねえ、ボクつい毎日食べに来ちゃうよ」
「いつも私がいるタイミングで食べに来てない?」
「あ、バレちゃった? アスナとお昼したくてさー」
ここ数日どういうわけかユウキは一人で行動していることが多い。数日前まで同じパーティだった、キリト君とカイト君が居ないのだ。ユウキに聞いても、ちょっと野暮用なんだとしか答えてくれない。
「まあまあアーちゃん、良いじゃないカ。数少ない女性プレイヤー同士親交を深めるのモ」
アルゴさんならなにか知っているかもしれない。
「…そういえば、あの人最近全然前線に出てこないんですけど、どこでサボってるか知ってます?」
「…ふーン…」
そう言うと、彼女はニヤリと笑いテーブルに半身を預けるくらいこちらに乗り出してきた。
「気になル?気になっちゃったネ?教えてほしイ?」
「いや…別にそういうわけじゃ」
「教えてほしいんだネ?」
相手が、自他ともに認める情報屋でなければあるいは知ってたら教えてくださいと言っていたかも知れない。だけど目の前の人だけは別だ。迂闊に知りたいと言ったら情報料を請求された挙げ句、明日には攻略組の女性プレイヤーに熱愛発覚なんて噂が独り歩きしかねない。
「お金は出しませんからね。ただ明日はフィールドボス戦だからどうしてるのか気になっただけで…」
「な・い・しょ・なノ」
聞きようによっては、甘いセリフに取られそうな言い方でアルゴさんはそう言った。
「キー坊かラ、アーちゃんにだけは教えるなって言われてるからサ」
「どういうことですか?」
「さア、顔にヒゲでも生えテ、アーちゃんに見せられないんじゃないかニャ―」
鼠が猫の真似をするというのもなんだか不思議な話ね。
「まあ、無事なことがわかればそれでいいです」
「なんなラ、アーちゃんの毎日の様子をキー坊に報告してあげてもいいヨ。今日アーちゃんが心配で仕方がないっテ、泣きついてきたヨみたいな感じデ」
「なっ!泣きついてなんかいませんし!心配も別にあんまりしてません!」
少しホッとはしたけど…
「ニャハハ、ごめんごめン」
「あんまりしてないけど、心配はしてるんだね。アスナも素直じゃないねー」
「もうユウキ!」
このふたりを放っておいたら、私はいつまでもからかわれ続ける気がする。なんだろうこのお転婆な妹に苦労させられる感覚は。私に妹は居ないけど。
私がこのお茶のようなものを再び飲もうとした時、外から何かを叩く音が聞こえてきた。
「お、この音ハ」
「もしかして鍛冶屋さん?」
「みたいだネ、最近ようやくNPCじゃないプレイヤーの鍛冶屋が出てきたらしいんダ。しかもなかなかいいウデをしているらしイ」
鍛冶屋か、私もそろそろ《ウインドフルーレ》を+5以上に強化したい。そのための素材が《ウインドワスプ》という大きな蜂型のモンスターが落とす素材なんだけど、これが確率が低いのかどうも集まりが悪い。明日のフィールドボス戦に参加しようと思っているのもボスを倒すまで、目的のモンスターが無限に湧き続けるからだ。
「ねえユウキ、明日のフィールドボス戦私とパーティ組まない?素材集めのために、周囲に湧くモンスターをたくさん狩りたいの」
「ボクは良いよ。…多分ふたりも間に合うだろうし」
「ん?なに?」
「んー、なんでもない。じゃあアスナ明日もよろしくね」
――――翌日
攻略組の顔ぶれは1層とそんなに変化はない、唯一有るとすれば以前はリーダーだったディアベルさんがいないことだろう。今はリンドという人と、ボス戦の時私に伝言をお願いしたキバオウさんが主に攻略組の中心になっている。
「ジブン、相方はどうしたんや?2層来てから前線でも、よう見かけんが」
「知らない、そもそも彼は3人パーティだったし私はソロなの。誤解しないで」
どうやらキバオウさん的には私とキリトくんはコンビなのだと思われているらしい。ユウキが言うには、とても組んだばかりのコンビには見えなかったよと言っていたけど。
「ほんならちょうど5人のパーティがおるし、話通しとこか?」
「言ったでしょ、ソロだって」
さよか、と言ってキバオウさんは納得してくれたらしいがもうひとりの方はそうではないらしい。リンドさんがこちらに来ていた。
「あんな奴義理立てする必要もないだろう。ボス本体の攻略に参加したいならちゃんとパーティを組むべきだ」
キリト君の気持ちも知らないくせにとも思ったけど、今ここで彼と言い合いすることになんの意味もないしそんなことをされてもキリト君が一番困るだろう。
「別にいいでしょ、私は雑魚狩りに専念するから。攻略本によるとボスを倒すまでは出続けるらしいから、アイツの素材を集めてる私にはちょうどいいの、それに手伝ってくれる人もいるし」
「ジブン以外に誰かおるんか?」
「この間彼と同じパーティだった女の子よ。昨日手伝ってくれるって話したし」
ちょうどいいタイミングで向こうからユウキが来ていた。その横には数日見かけなかったカイト君を連れて。
「やっほーアスナ、ごめんね。ちょっと遅れちゃって」
「アスナ、お久しぶり」
「数日間も姿を隠して何してたわけ?それにあなたがいるってことはキリト君もいるんでしょ?どこ?」
「…さあ、さっきまではいたんだけど。どこ行ったんだろ…」
一瞬カイト君の目が横の茂みの方を向いた、なるほどそこにいるのね。
「キバオウさん、蜂狩り私達以外に一人追加ね」
「どういうことや?」
私は茂みの方へ行って、必死に姿を探した。
――いる間違いなく、姿は何故か見えないけど
「そこね!出歯亀の現行犯!」
――――――SIDE キリト
「なんでバレたんだ!?」
おかしい、絶対におかしい。俺はわざわざ隠蔽スキルも使って茂みに隠れていた。ハイディング率は90%を超えていたはずだ。索敵でもなければ見つけられないはずなのに、アスナは何故かいとも簡単に見つけて見せた。
「覗き見してたバツとして、私の素材集め手伝いなさい」
「! ビーター!」
俺が姿を見せてキバオウと一緒にアスナと話していた男がそう呼んだ。最初はディアベルかと思ったが姿は似ているが、彼じゃない。
「牛さんには手出しさせないから安心して。あなた達がしっかりしてる間はね」
「まあ好きにすればええんちゃうか?」
「ちっ、余計なことはするなよ」
キバオウとあの男で若干反応が違うのが気になったけど、どうやら俺はボス戦に入ることを許されたようだ。アスナの手伝いで雑魚狩り専門だけど。とはいえ、今この場にいる人間の殆どが1層ボス部屋での一幕を知っている。
どうにも俺には周りの目が好意的なものには見えなかった。よく見ると友好的にしてくれた、あの大柄な両手斧使いのエギルも居ないので余計に周囲の視線が痛い。
「あー、アスナ悪いんだけど小心者の俺としてはこの針のムシロはちと厳しいかと」
それに、俺と一緒にいると彼女もビーターと疑われてしまう可能性もある。それだけは避けたい、と思ったのだがどうやら彼女にはそれすらもお見通しだったようだ。
「見くびらないで。―――あなたが進もうとしてる道に関しては何も言わない。けど私の意見も尊重してもらうわ、他人に何を言われようと私には関係ないこと。あなたの…仲間だと思われることが嫌なら、最初から声をかけないわ」
「恐れ入ったよ、全部お見通しとは」
「あなたがこのゲームのプロなら、女子校育ちの私は心理戦のプロよ。いくら偽物の身体でも相手の顔色を読むくらい朝飯前よ」
フードの奥でアスナが微笑んだ。どうも彼女の笑顔は見慣れていないせいかつい見とれてしまう。
「だから言っただろ、アスナもいるから大丈夫だって」
「キリトがいない間、すごく心配してたしね」
「ちょっと、ユウキ!」
まあ心配してたかどうかはさておき、どうやら俺は随分恵まれているらしい。少なくとも3人俺のそばに居てくれる仲間がいる。
『平均レベルはこっちが上なんや!四の五の言わんとアタックはわいらに任せい!』
急にキバオウの声が聞こえてきた。見るとさっきも居たディアベルそっくりなやつと言い合いをしてるみたいだ。
『いいや!ディアベルさんの想いを受け継ぐ俺達《ドラゴンナイツ》が最前線に立つ!』
『なぁにがドラゴンじゃ寒イボ立つわ! 男やったら虎やろ虎!!』
どうやらフィールドボス《ブルバス・バウ》の役割分担で揉めているようだ。
『格好だけディアベルはんと同じにしたからいうて、後継者気取るんはやめてもらおか。ディアベルはんの意志を正しく引き継いどるんは、ワイらの《アインクラッド解放隊》や!』
『ふん、大層な名前に見合った実力があるとは思えないがな』
俺達が前線から離れている間に一体何があったんだ?いつの間にか妙な派閥みたいなのもできてるし。
「なあアスナ、2層に来てからずっとあんな感じなのか?ディアベルはどうしたんだ?」
こっちを向いたアスナは少し呆れたような顔で反応した。
「なんにも知らないのね、本当にどこに居たのよ? ――ディアベルさんなら、1層に残ったわ」
「え?なんでまた」
彼のあのリーダーシップは貴重なものだ。恐らく今こうしてあのふたりが揉めているのもこの場に彼が居ないからだろう。
「あの後、みんなに謝ったのよ。自分もβテスターでLA狙いだったって、ボスが太刀を持ってたことも気づいてたけど曲刀と同じだろうと油断してたって」
「…そうだったのか」
「それで、みんなを危険な目に合わせた償いも込めて、1層に残ってビギナー達のサポートに専念したいって」
「それが、彼なりの償いか。ナイトとしての」
どうやらディアベルは俺の思っていた以上の男みたいだ。俺の妨害をしてLAを狙おうとはしたけど、それと同時にテスターとビギナーの仕切りを無くそうともしていた。
「で、そんなディアベルがいなくなった後の状況がこれか」
「お互い3層についたらあの名前でギルドを作るそうよ」
「うへえ、勘弁だな」
「そういえばキリト君この間言ったわよね、『ギルドに入るべきだ』って」
「うーん、そうは言ったけど…彼のところならともかくあそこはなあ」
あの二人のギルドに入ってアスナが輝く未来がいまいち見えない。
「彼?」
「斧タンクのあの人だよ。今日は来てないみたいだけど」
「ああ、エギルさんね。トラブルがあって今日は来れないって連絡があったわ」
心細いなあ、あの頼もしさがないのは残念だ。
「それで、そのかわりにいるのがあいつらか」
俺は、見慣れない集団に目を向けた。5人のパーティみたいだが1層のときも含めて、見たことのない連中だ。だが全員の装備が恐ろしく高価なものばかりだ。
「カイト、下で見たこと有るか?」
「いや、知らないな。あんなに装備が豪華な集団見てれば絶対覚えてるし」
「攻略組に居てもおかしくないような連中が、一体どこでくすぶってたんだ?」
「そうね、レベルはあんまり高くなさそうだけど装備が良くて固いのよね。レベル+3くらいの底上げは有るでしょうね。前線で見るようになったのは最近だけど」
随分良く見てるなと俺は感心していた。俺が不在だった間に結構勉強したのかもしれないな。
「それで、彼らにもなにか愉快な名前があったりするのか?」
そう聞くとアスナは少し恥ずかしそうにこう続けた。
「れ、レジェンド・ブレイブス」
「ぶっ!」
日本語に直すと恐らく、伝説の勇者たちとかになるんだろう。きっと形から入るタイプでレベルと装備があってないのはそういうことなんだろう。
『見事である!これで5回連続強化成功ではないか!』
人だかりの有るところから、随分と張った声が聞こえてきた。
「あの人リーダー格の人よ。名前は確か…オルランドさん」
「随分キャラが仕上がってるな。キリトもあんなあ喋り方してみたらどうだ?貫禄が出るかも」
「えー、キリトがあんな話し方してたらボクちょっと近づきたくないなあ」
「その時は私の半径5mには近づかないでね」
誰もやるなんて言ってないのにひどい言われようだ。
「そんなことより、あれ鍛冶屋か?こんな前線にいるんだな」
「アルゴさんの話だと、最近ようやく現れたプレイヤーの鍛冶屋だそうよ」
「へえ、そりゃあ人気もでるな」
SAOはMMORPGだからもちろん生産職も有る。だけど手間がかかり面倒な上、みんなはどうしても戦闘職をやりがちになる事もあって、序盤は特に見かけないんだが。
『おーい、野郎どもー始めるでー』
「野郎じゃないのもいるんだけど」
「まあまあ、今日もよろしく頼むぜフェンサーさん」
「別にキリト君と組むのは一時的なものだから勘違いしないでよ」
――――――
「22!」
正直ウインドワスプは強くはないが楽ではない。不規則に飛行するにもかかわらずこっちは長さの決まった剣しか使えないからだ。だからこそ隙を見極め、確実に攻撃を当てる必要がある。
「24!」
そんな蜂モンスターを主武装は大差なくレベルやスペック的にはこちらのほうが上であるにもかかわらずアスナは俺を超えるスピードで狩り続けける。比較的攻撃力の低いレイピアであれだけの速度が出せるということは、少ない手数で確実にクリティカルを出しているということだ。
このゲームにおける正確さはある程度はプレイヤースキルでカバーできる。というかアスナの場合武器がすでに彼女の足を引っ張っている。あれだけのクリティカル率を出すのは本人のセンスと経験だ。武器の素材集めだと言っていたから、俺達が居ない間も彼女はひたすらあの蜂を狩っていたのだろう。
その光景を見て、俺はなんだか嬉しかった。ほんの1週間前は死ぬために戦っているといった彼女が、今は強さを目指して戦っているからだ。その理由は教えてくれなかったが。
「ねえ、キリト君ひとつ提案が有るんだけど」
「ん?」
蜂と戦っていた彼女が、おもむろに俺の背後に来て背を向けながらそう言った。
「次の街のレストランに有る《トレンブル・ショートケーキ》って知ってる?」
「なにそれ?美味しいの?」
どこで話を聞きつけたのか、ユウキもこっちに来ていた。
「知ってるよ、うまいけどクソ高いやつな」
一応ベータ時代にあった料理やデザートは一通り網羅しているつもりだ。その中でもあれはかなりの美味しさを誇るが、同時に美味しさをなくしかねない程の値段もする。
「もしかしておごり?」
アスナはふっと笑って蜂に突っ込んでいった。とんでもない言葉を残して。
「負けた方のね! 27、28!」
「面白そう! カイト、ボクたちもやろう!」
「やれやれ、しょうが無いな」
「やったー」
ユウキは楽しそうだが、俺は気が気ではない。今のペースだと確実に負ける、イコール奢りが待っている。
「27!」
「29!」
全然追いつけない。慌てて次のを探していた時、一体奇妙なモンスターが居ることに気づいた。今ここで戦ってる俺達には目もくれずボスの方へと向かう蜂が居たのだ。
「何だアイツ、ボスの方へ飛んでいって一体…」
そのまま見ているとボスの胴体に止まり尾の針を思いっきりボスに突き刺した。
「ンモオオオオオオ!!!!」
あーあれは痛そうだ、などと呑気にしている場合じゃない。ハチに刺されたショックでボスが大暴れを始め、とっさのことで対応できなかった本隊が一気にピンチに陥っていた。
「アスナ!勝負は一旦お預けだ、牛いくぞ!」
「えー?もー!」
俺達がボスのところへたどり着いた時ちょうどボスの突進をレジェンドブレイブスの連中が受け止めていたところだった。すかさず俺とアスナがボスの足へ切り込む。
「グッジョブ!スイッチだ」
「かたじけない!」
こんな時も喋り方の崩れないオルランドが後退したのを確認しながらボスを引きつける。
「攻略本には弱点は頭のコブだって書いてあったけど―――あんなの届かないじゃない!」
その背丈は1層のボスコボルトロードよりも大きく見えた、いくらなんでもあんなに高くはジャンプできない。
「私達みたいな軽装で、あの突進は受けられないわよ!?」
「本来は《投剣》スキルで戦うんだろうが、あんな趣味スキルこんな序盤で鍛えてないしなあ。仕方ないアレ試してみるか」
「あれ?」
手がないわけじゃない、だがそれをするためには一撃でボスを倒せるまで体力を削る必要がある。
「突進中の頭には手を出すな! 回避できなくなるぞ、代わりに前足を狙ってダウンを狙う!向かって左を頼む」
「分かったわ」
「チャンスは通り過ぎる一瞬!レイピアならクリティカル必須!膝関節だ!」
「了解!」
そしてボスが突っ込んできたのをかわし、俺が右足をアスナが左足を狙ってお互い一撃を繰り出す。だがアスナの方がわずかのにブレてダウンまではいかなかった。
「ごめんなさい!」
「いやここまで削れれば大丈夫だ、後は…」
俺はボスの頭目掛けて思いっきりジャンプした。もちろんそれだけでは届かない。だからこそ俺はジャンプが最高点に到達するのに合わせ突進技《レイジスパイク》をコブ目掛けて突き出した。
「モッ、オオオオオオ!!!」
「よし!決まった」
結局俺がまた後ろからLAをかっさらうという芸当をして、リンドとキバオウの顔が苛ついていたのは言うまでもない。
かなりの急ピッチの投稿になりましたがひとまずフィールドボス終了です。
強化詐欺編は出来れば3話くらいで終わらせたいなと思いつつ、長引く可能性も…
今のところは漫画版のプログレッシブをベースにしています。
小説ともにらめっこしながら、構成を考える日々
うまく合わせていけると良いなと思います