ソードアート・オンライン~黒の剣士と灰の剣聖~   作:カノン・キズナ

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第12話 壊れた愛剣

「何よさっきの」

 

 

「空中ソードスキルだよ。結構タイミングがシビアなんだけどうまくいったな」

 

 

「…また私の知らないスキルを」

 

 

アスナがそう文句をいうのを尻目に、俺は眼前に出たラストアタックボーナスを確認していた。

 

 

「あいつのLAはと、へぇこれは」

 

 

チャクラム?また随分変わったアイテムだな、投剣枠で投げた後に戻ってくるから実質弾切れを起こさないわけか。使えるやつが持てばかなり便利かもしれないな。俺は使えないけど。

 

 

「キリト、危ない!」

 

 

アイテム画面を凝視したいた俺は、カイトに言われるまで後ろから接近するウインドワスプに気づかなかった。

 

 

カンッ!という乾いた金属音と共に俺のアニールブレードが弾かれていた。

 

「あっ」

 

 

「あああーーー!」

 

 

アスナがそれを追いかけたが、くるくると飛んだ俺の愛剣はそのまま崖のそこまで落ちていってしまった。

 

 

「ありゃりゃ、落ちたか」

 

 

「落ちたかじゃないわよ!大事な武器じゃないどうするの!?」

 

 

「まあスナッチされた訳じゃないし、後で回収するよ」

 

 

「あとでって…、一体どうやって」

 

 

ここで実演して見せてもいいんだけど、なにぶん今いるのはフィールドのど真ん中だからさすがにちょっと危ない。

 

 

「まあ次の街に行こう、そこで説明するよ。―――おーいカイト行くぞー」

 

 

「まったく油断してるから、街に着くまで後ろに下がってろよ」

 

「わるいわるい、頼むぜ」

 

 

そして今までの事態で俺がすっかり忘れていたことをアスナがしっかり思い出させてくれた。

 

 

「キリト君、ちゃんと説明してもらいますからね。最後のソードスキルの事とか、LAボーナスの事とか、そもそもここ数日何してたのかとか―――デザートでも食べながらね」

 

 

「あ、勝負の事覚えてらっしゃったんですね」

 

 

俺の奢りが確定した瞬間だった。

 

 

 

 

―――――

 

 

 俺が、あのデザートのことを知ってるのは当然βテスト時に隅々まで調べたからだけど、まさか2層に来て数日でアスナがそのことを知っているとは思わなかった。やっぱりあれなのかな、女の子だからそういうのに興味がある的な感じなのだろうか。

 

 

「ちなみに、アスナはどうしてこんな穴場的なレストランの存在を知ってるんだ?」

 

 

「別に最初はデザート狙いだったわけじゃないわ。アルゴさんに人気の少ないNPCレストランがないか聞いたらここのことを聞いたのよ」

 

 

 なるほど情報源はアルゴだったか。まあ頻繁にアスナの話が出てきてたし仲が良さそうに見えたけど。

 

 

「まあアルゴは情報も早いし正確だけど、アイツの辞書に《依頼人の秘密厳守》って言葉は無いから気をつけたほうが良いぞ」

 

 

「そうだねえ、この間アルゴと話してたら『キー坊の情報は2千コルだナ』って言ってたし」

 

 

「ずいぶん安いなおい、ってかユウキはアルゴとなんの話してたんだ」

 

 

「意外と安いのね、試しに買ってみようかしら」

 

 

「ちょ、ちょっと待てよ! それなら俺だってアスナの情報を…」

 

 

 そこまで言ったところで、俺は口を紡がざるを得なかった。ものすご~く冷たい目でアスナに笑顔で睨まれたからだ。

 

 

「眼の前に私がいるにもかかわらず、アルゴさんに聞かないと分からない情報って何かしら?キリト君」

 

 

「いえ…なんでもないです」

 

 

 俺はアスナの鋭い視線をごまかすためと、さっき知りたがっていたことを教えるため話をそらした。

 

 

「そういえば、武器回収のはなしなんだけど今から実践するからちょっと見てろよ」

 

 

「えーと、こうやって…でもってここに入って…」

 

 

 俺がシステム画面を操作しているのを、アスナを含め3人は不思議そうな目で見ていた。そして操作が終わり実行するかどうかの画面になり俺は《YES》を操作する。すると床に大量のアイテムや装備などが乱雑にオブジェクト化した。

 

 

「な、なにこれ?」

 

 

「まあ見てろって」

 

 

 そして俺はその荷物の山を漁り、荷物の下の方にあったほんの数時間前まで俺の背中に背負われていた剣を見つけアスナに見せた。

 

 

「ほらあったぞ」

 

 

「???」

 

「一体何やったんだ?

 

「すごーい、ボクにも出来る?」

 

 

「今やってみせたのは、《所有アイテム全オブジェクト化》さ」

 

 

「はぁ…?」

 

 

 いまいちピンときていない様子のアスナにさらに説明する。

 

 

「ちょっとチート臭いけど、きっと開発者側の救済措置だろうね。そのかわり操作順はかなりややこしくしてあるし、装備中のアイテムで3600秒、所有してるだけのアイテムなら300秒以内でしか使えないんだよ」

 

 

「少し釈然としないけど、仮に落としても回収できるってことね?」

 

 

「まあもう一つ条件があって、武器の場合は同じ手に別の武器を持ち替えてないことが条件の一つだ」

 

 

「落としたからって別の武器を装備したらだめってこと?」

 

 

「そういうこと、まあフィールドのど真ん中だと中々そうもいかないんだけど」

 

 

 ちょうど説明が終わったタイミングで、本日のメインのデザートが登場した。

 

 

 

「わぁ、すごーい!アルゴさんの情報に『《トレンブル・ショートケーキ》は一度試して見る価値有るヨ』っていいてたのを聞いたときから興味あったんだ!」

 

 

 

「それは何よりです。そういえばカイトたちの方はどっちが奢るんだ?」

 

 

「引き分けになってな。ワリカンになった」

 

 

「羨ましすぎる…」

 

 

「諦めろ、こっそりあのスキルまで使って勝てなかったんだ。――それに、あの笑顔を見れれば男としては満足じゃないか?」

 

 

 眼の前にはケーキを一口頬張り、満面の笑顔を浮かべているアスナがいた。確かにカイトの言うとおりかもしれない、俺の財布的には大ダメージだが。ほんの1週間ほど前まで刺々しい空気をまとい絶望へとひた走っていたような彼女が、そこからは想像できないような笑顔でいるのだ。

 

 きっと、今のアスナが素のアスナなんだろう。それを見られただけでもこのケーキを奢ったかいがあるというものだ。

 

 

「なにキリト君?さっきからじっとこっち見て。そんなにケーキが欲しかった?」

 

 

 まさかアスナの笑顔に見とれていたなどと言うわけにもいかず、ケーキを物欲しそうに見ているように写ったことを否定できなかった。まあ実際食べたいけど。すると彼女は傍らのバスケットからフォークを取り出し、俺に渡しながら続けた。

 

 

「私もそこまで鬼じゃないわ。3分の1までならキリト君も食べていいわよ」

 

 

「それはありがたい。このままお預けを食らうのも辛かったんだよ。それじゃいただくとしますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、おいしかった」

 

「ボクもうお腹いっぱいだよ―」

 

「現実世界でもあんなに美味いもの食べたこと無いかも」

 

「βより美味しかった気がするのはなぜだろう…」

 

 

 

 それぞれ一様にお店の入口でさっきのケーキの感想を述べていた。それに味以外じゃなくβと確実に変わっていることがある。あのデザートを食べてから、HPバーの横に幸運判定ボーナスの表示が出ている。これは明らかに正式サービスで追加されたものだろう。あとで情報をアルゴに売りつけてやろう。

 

 

「うーん、今から15分じゃフィールドに出るには時間が足りないわね」

 

 

 どうやらアスナも同じことを考えていたらしく、肩をすくめた。

 

 

「たしかにそうなんだけど、せっかくのバフだしなあ」

 

 

 

 なにかこのバフを役立てられるものはないか一生懸命考えていたが、これと言って思い浮かばない。

 

 

「なあ、カイトなにかないか?運に頼れるようなこと」

 

 

「そうだなあ、カジノの類は上の層にいかないと無いんだろ?」

 

 

「ああ、7層まで行かないとないな。――いっそアスナに「付き合ってください」って懇願してみるか?」

 

 

 

「それが幸運バフのシステムアシストでうまくいくなら止めはしないけど」

 

 

 まあ無理だよなあ…。

 

 

「ねえキリト君。付き合ってくれる?」

 

 

「そりゃもう喜んで…………ん!?」

 

 

 何気なく言われたアスナの言葉にサラッと答えた後に頭が言葉を理解した。まさかアスナの方から……?

 

 

「この子の強化!」

 

 

「あ…そう…ですよね。うん分かってたけど…」

 

 

 アスナのお願いは男女として付き合ってほしいではなく、主武装の《ウインドフルーレ》の強化に付き合ってくれということだった。隣でカイトが必死に笑いをこらえてる、人の気も知らないで。

 

 

「くくくっ、残念だったなキリト」

 

 

「うるさい」

 

 

 

――――

 

 

 俺達は広場で鍛冶屋をやっているプレイヤー、つまり昼間にフィールドで見かけたあの鍛冶屋のもとへと来ていた。鉄床の方を見ていてこちらに気づいていないのか、アスナが声をかけた

 

「こんばんわ」

 

 

「こ、こんばんわ。いらっしゃいませ」

 

 

 ふと料金表の上に書いてある《Nezha's Smith Shop》を見る。そういえば昼間に見た時はネズハとか名乗ってたような気がするな。少し発音しにくい表記のような気もするけど。この手のゲームにありがちで名前はみんなアルファベット表記だから読み方は本人にしかわからないことも多い。

 

 

「へぇ、いい名前ですね」

 

 

 カイトが急に名前に感心しているようだった。何がそんなに惹かれたのかわからないけど。

 

 

「そ、そうですかね?」

 

 

「だって、その名前…」

 

 

「もう、カイト君後でいいじゃない。今は時間無いんだし」

 

 

「すいません、お急ぎでしたか。お買い物ですか?それともメンテでしょうか?」

 

 

 早く強化したいアスナに遮られカイトの話は中途半端に終ってしまった。後で聞いてみるか。

 

 

「武器の強化をお願いします。ウインドフルーレ+4を+5に、種類はアキュラシー、強化素材は持ち込みで」

 

 

 あれだけのクリティカル率で更に上乗せをしていくとか、クリティカル関係のステータスだけはアスナにすでに勝てない気がする。いや、俺はストレングスで攻めるんだクリティカルが低い分は力でカバーする。などと自分の脳筋宣言をしていると妙なことに気づいた。

 

 元々表情のいいネズハではなかったが、アスナに強化と言われた時一層困った顔をしたのだ。

 

 

「は、はい……素材の数は、どれくらい?」

 

 

「上限までです、鋼鉄版が4個、ウインドワスプの針が20個です」

 

 

 それを聞きながら、俺も脳内で間違っていないことを再確認した。これだけの素材があれば強化成功確率は95%になるはずだ。ネズハにとっても悪い話ではないはずなのだが……ネズハはさらに眉を八の字にした気がする。そんなに自身がないんだろうか?昼間の感じだと腕は良さそうだったけど。

 

 

「解りました、それでは武器と素材をお預かりします」

 

 

「お願いします」

 

 

 アスナがネズハに強化武器と素材を渡して、準備完了。ちょうど鐘の音が聞こえたから19時になったところか。この時点で幸運バフは残り4分ほど、まあシステム的に武器強化に幸運バフが関係してるのか分からないけど素材集めにも苦労したし、失敗すると強化値も下がるから少しでもすがりたいというのも分からなくもない。

 

 

 依頼の前段階を終え俺の左隣に来たアスナが反対側にいたカイト達には聞こえないような声でぼそりと囁いてきた。俺の薬指と小指を掴みながら。

 

 

「あ、あのアスナさん?」

 

 

「…あなたの分の幸運ボーナスも貸して」

 

 

「そ、それなら手を握ったほうがいいのでは?」

 

 

「私とキリト君そんな関係じゃないでしょ」

 

 

 じゃあ今の状況はどんな関係なんだよ!と内心思ったけど、まあ僅かながらでも女性に頼りにされるのは気分の悪い話ではない。

 

 

「どうぞご随意に」

 

 

 

 そしてネズハが作業を始める。最初に炉を強化用にしてから素材アイテムを炉に流し込む。すると真っ赤に赤熱しボッと火が上がった、そしてウインドフルーレを鞘から抜き刀身部分を炉に入れる。すると剣全体が光り輝きそれを見たネズハがすかさず槌で打ち始める。カァン!カァン!とリズミカルな音が鳴り響く。

 

 

「きっとうまくいくさ」

 

 

「そうね、それに失敗しても壊れるわけじゃないし。+3になるのは痛いけど」

 

 

「まさか、あれで失敗なんて有るわけ…」

 

 

『パァン!』

 

 

「えっ?」

 

「なっ!」

 

「うそ…」

 

「……」

 

 

 それは俺の予想を遥かに上回るものだった、悪い方向に。アスナのウインドフルーレ+4は切っ先から柄の部分まで粉々に砕け散ったのである。

 

 馬鹿なありえない! 武器強化は失敗して+値が下がることはあっても壊れることはβ時代にはなかった、そういうふうに説明までされていたくらいだ。かといってさっきの一連の作業になにか問題があったとは考えづらい。隅々まで見ていたが問題点はなかったはずだ。

 

 

「す、すみません! すみません! 手数料は全額お返しいたしますので……本当にすみません!」

 

 

 ネズハは申し訳なさそうに謝罪の言葉を繰り返すが、アスナは目を見開いたまま反応しない。

 

 

「ちょ、ちょっとまってくれよ。手数料の前におかしいだろう、武器強化には武器消滅はなかったはずだぞ」

 

 

 ゆっくり顔を上げたネズハは、こっちも黙りかけてしまうほど申し訳無さそうな顔をしていたが横でショックで言葉の出ないアスナのためにも黙るわけにはいかなかった。

 

 

「俺はβテスターだけど、その頃からプレイガイドにペナルティとして武器消滅はないって記載があったぞ、これは間違いない」

 

 

「あの、正式サービスでペナルティが追加…されたのかも知れません。うちも、以前に一度だけ同じことがあって…確率はすごく低いんでしょうが」

 

 

 正式サービスでの変更を持ち出されるとこっちとしては現状何も言えない。それを確認したわけでもないからだ。

 

 

「あの…本当に、なんとお詫びしていいか…。同じ武器をお返ししますといいたいところなんですが…あいにくウインドフルーレは在庫がなくて…、アイアンレイピアならお渡しできるんですが」

 

 

 アスナの方をちらりと見たら、少し俯き加減になっている顔が左右に動いたのが見えたので、ネズハに向き直り言った。

 

 

「いや、いいよこっちでなんとか出来ると思う」

 

 

「本当にすみませんでした……!」

 

 

 その悲痛な謝罪を聞くと、それ以上何も言えず俺はアスナの手を静かに引いてその場から離れた。

 

 

「どうする?キリト」

 

 

 俺同様深刻な顔をしているカイトがそう聞いてきた。恐らくその質問はこの後どうするかと、アスナの武器をどうするかという意味が含まれているのだろう。

 

 

「主武装がない状態で圏外に出るのは危険だ。とりあえず今晩泊まる宿を探そう、ひとまずはそれからだ」

 

 

 そして俺は手頃な宿を探し街を進んだ。その間もアスナは一言も話すことはなく、俯いたまま俺の手に引かれていた。さっきは手をにぎることに、そんな関係じゃないと否定していた彼女が今は黙って俺の手を握り返していた。俺の気のせいかもしれないが、握る力は弱々しく少し震えているようにも感じた。

 

 

 手頃な宿を見つけいつもどおり俺達の3人部屋とアスナの部屋をとって彼女を部屋の中へ連れていき、彼女をベッドのところへ座らせた。

 

 

「……その、ウインドフルーレは残念だったけど……でも次の街に行けばあれより少し強いのが店売りしてるんだ。もちろん少し値段はするけど、俺も予算稼ぎ手伝うからさ」

 

 

 何を言っていいかわからない状態で必死に絞り出した言葉がそれだった。そしてアスナは聞こえるか聞こえないかくらいのか細い声で答えた。

 

 

「でも、あの剣は……私あの剣だけは…」

 

 

 

 アスナの頬にふたつの雫が音もなく流れた。彼女と出会って1週間色んな顔を見てきたつもりだったが涙を見たのはもちろん初めてだ。アスナどころか現実世界でも女の子の涙を見たのは小学生時代の妹のものくらいだ。

 

 泣いているアスナに、かけていい言葉が見つからなかった。この時ほど自分の力不足を呪ったことはないだろう。

 

「…私剣なんて、ただの道具だと思ってた……でも1層で、キリト君がウインドフルーレと引き合わせてくれた時、悔しいけど、感動したの…羽のように軽くて、まるで自分の手足のように狙ったところに吸い込まれるように当たって、剣が自分の意志で私を助けてくれるように気がして…」

 

 

 その気持は痛いほど良くわかった。だって俺自身もそういうタイプだからだ。武器を自分の相棒のように扱い丁寧に手入れをして、道具以上の思い入れを持って扱う。だからこそあんなことがあったら悲しいし、俺も同じ目にあったら一晩はふさぎ込んでいるかも知れない。

 

 

「…この子がいてくれれば大丈夫だって、ずっと戦っていけるって…たとえ、強化が失敗しても絶対に捨てない…ずっとずっと大事にするって約束してたのに……」

 

 

 そう言ったアスナの頬には新しい涙が流れていた。どうすれば彼女を慰められるのか、その方法も思い浮かばず俺は立ち尽くしていた。

 

 

「……ごめんなさい。少し…一人にしてほしい」

 

 

「……わかった」

 

 

 カイト達に目で合図すると、俺達は部屋を出た。扉を閉めようとしたときもアスナは同じ体勢で、俺はようやく浮かんだ言葉をかけて扉を閉めた。

 

 

「…その、あのさ…これは自惚れかもしれないけど、置いていったりしないからな」

 

 

「……ありがとう」

 

 

 扉を閉めた俺は、もう一度さっきのことを思い出していた。

 本当にあれはペナルティなのか?何か原因が有る気がしてならない。

 

 

「キリト、さっきから考えてたんだけどやっぱりちょっと気になるんだが」

 

 

「カイトもか、俺もそうだ。何よりアスナのあんな姿を見てこのまま引き下がれない。絶対なにかある気がする」

 

 

「どうする今なら、まだ追えると思うけど」

 

 

 時間はあれから15分ほど経ったか。今ならまだ近くにいるはず。

 

 

「ユウキ悪い、待っててもらっていいか?アスナのことも気になるし」

 

 

「わかったよ、気にしておくからさ。二人共気をつけてね」

 

 

「ああ。行くぞカイト」

 

 

 俺達はさっきの広場へと急いだ。

 

 

 

―――――

 

 

 

 俺達がさっきの広場についた時、ネズハは店じまいの準備をしていた

 

 

「カイト、ここからは隠蔽スキルを使おう」

 

 

「わかった」

 

 

 そして、静かに路地の角から様子をうかがっている時だった。

 

 

「お待たセ」

 

 

 ここに来る前にメッセージで呼んだアルゴの声がした。のだが姿が見えない。

 

 

「? どこだ?」

 

 

「ココ、ココ」

 

 

 声はするが姿が見えない。

 

 

「ココだってバ」

 

 

 アルゴは俺とカイトの真後ろから姿を表した。

 

 

「さすが《鼠》だ。ハイド率高いな」

 

 

「全然気づかなかった」

 

 

「そりゃあこちとら、《隠蔽》も《看破》も大事な商売道具だからネ。片手間のスキルで見破ろうなんテ、10レベルは早いってもんサ」

 

 

「そんなことより、どうなんだ頼んだ件」

 

 

「…らしくないナ、熱くなるなんテ、随分苛ついてるみたいだけド?」

 

 

 

「そんな訳あるか!俺は冷静だ!」

 

 

 そうは言ったが、実際熱くなっていたのだろう。カイトに「少しボリューム落とせ」と注意されてしまった。

 

 

「…ごめん、それで調査の結果は?」

 

 

「この短納期に応えちゃうのは商売人として考えものだけド、状況が状況だし今回は特別だヨ」

 

 

 アルゴは表情を変え、続けた。

 

 

「この短時間に返事があっただけで7件、攻略組を中心にハイレベルのフロントランナーが主武装を失ってル。それも鍛え上げられたレア武器ばかりサ」

 

 

「キリトの予想通り…いや、予想以上か」

 

 

「まてよ、攻略組の戦力を殺いでなんになる?現実世界が遠ざかるだけだぞ?」

 

 

 すると少し考え込むように、応えた。

 

 

「殺ぐ…以外に理由があるのかも知れないネ。そもそも武器破壊なんてペナルティは強化には存在しないんだヨ。これは正式サービス後も変わっていなイ。ちゃんと検証済みサ」

 

 存在しない? だがあの時たしかにアスナのウインドフルーレは壊れた…

 

 

「実はネ、キー坊。武器破壊が発生する条件が一つだけあるんダ」

 

 

「それは?」

 

 

「…強化対象の武器が既に強化上限回数に達している場合…つまりエンド品の強化をしたときだけなんだ」

 

 

「なっ!アスナのウインドフルーレがエンド品とすり替えられてたっていうのか!?」

 

 

「声が大きいヨ、キー坊」

 

 

「でも、あの状況でどうやって…」

 

 

 あの時一部始終、確認してたはずだ。そんな隙なんて…

 

 

「よく思い出セ、キー坊。強化のタイミングでチャンスはなかったカ?」

 

 

「そんなマジックみたいなこと…」

 

 

「……!、有るぞキリト!みんなが剣から目を離した瞬間!炉の炎だ!」

 

 

 その時、俺の記憶をたどったが確かにあの瞬間だけは剣を見ていない。燃え上がった炎に目がいきあの時剣がどうなっていたか思い出せない。

 

 

「となると、剣はネズハが持ってる?」

 

 

「!! それならまだなんとかなる! カイト、今何時だ!?」

 

 

「え、えーと19時52分だな」

 

 

「まだ間に合う!急いで宿に戻るぞ!」

 

 

「お、おい待てよ!キリト!」

 

 

 

 それから俺は行きは8分ほどかかったルートを4分あまりで走破するという全力疾走を見せ、宿にたどり着いた。時間は19時56分。まだ間に合うがリミットの正確な時間がわからない。とにかく急いでアスナに!

 

 

 アスナの部屋の前にたどり着きノックをしている余裕もなかった俺は、扉を蹴破る勢いでこじ開けた。するとアスナはベッドで横になっていたのか起き上がる姿が見えた。

 

 

「…え?…だ、だれ…?」

 

 

 暗闇で俺だと気づいていないようだが、あいにく詳しい説明をしている時間も余裕も俺にはない。普段なら絶対にしないがベッドまで駆け寄り、アスナの両肩を掴み、叫ぶように呼びかけた。

 

 

「アスナ!俺だ!今は時間がない!言うとおりにするんだ!」

 

 

「ど、どうして…私、鍵…かけて」

 

 

「宿屋のドアは、デフォルト設定だとパーティメンバー解除可なんだよ!」

 

 

「そ、そんなの困る…」

 

 

「いいから早くウインドウを可視モードに! 時間がない!」

 

 

「は、はい…!」

 

 

 俺にも見えるように表示されたウインドウを確認し、アスナの武器装備欄になにもないことを確認した。

 

 

「よし!とりあえずいけるな! まずストレージタブに移動!」

 

 

「え…あ…う、うん」

 

 

「続いてセッティングボタン! サーチボタン! マニュピレート・ストレージボタン!」

 

 

 矢継ぎ早に俺が出す指示を、アスナが何が何だか分からない状態で進めていく。そして更に4つほど潜ったところでようやく目的のものが出てきた。

 

 

「それだ!《コンプリートリィ・オール・アイテム・オブジェクタイズ》!」

 

 

 そして、画面にイエス/ノーの画面が表示されると、俺は今までで一番の最大ボリュームで

 

 

「もちろん!イエーース!!」

 

 

 ボタンが押されると同時に、アスナが疑問に思ったことを呟いた。

 

 

「ん?これって確か…全アイテム、オブジェクト化?……全ってどこまで?」

 

 

 俺はやり遂げた、達成感から笑顔を浮かべながら告げた。

 

 

「コンプリートリィに全部…あらゆる、あまねく、なにもかも」

 

 

「はわぁー!」

 

 

 アスナのアイテム欄の文字が全て消え、そこに今まで入っていたものはすべて目の前に現れた。素材も、アイテムも、装備も、衣類に至る全てが。そこに現れた山は俺の想定よりかなり多かった、さっきレストランで俺がやったときの倍はスペースを使っていたかも知れない。

 

 

 それもそのはず、ゲームの世界であるにもかかわらず彼女のそれは現実世界の一般的な女の子と何ら変わりがないからである。アイテムの山の大半が大小の布装備、すなわち衣類と下着類である。さすがにこの山をかき分けるのは多少恥ずかしさがあったが、このときの俺はきっとアドレナリンがフルに出ていたのであろう。目的のものを探し山をかき分けた。

 

 

「…ね、ねえ…君…死にたいの?…殺されたい人なの?」

 

 

「まさか」

 

 

 恐らく、いま後ろにいる彼女は烈火のごとく怒り狂った顔をしているだろう。だが俺はあれを発見するまで彼女に怒られる訳にはいかない。そしてようやくブレストプレートなどの金属類までたどり着いた時、ようやくそれを探し当てた。

 

 

「あった!」

 

 

「??」

 

 

 俺の背中の武器に比べれば本当に羽のように軽い一振りのレイピア

 

 ――ウインドフルーレ+4

 

 

 それを彼女に差し出すと彼女は崩れるようにそれを抱えた。

 

 

「…うそ……なんなのよ、もう」

 

 

 

 

 

 




ということで、武器を取り戻したところまでです。

次回の予定は2層ボス戦手前ぐらいまでいけたらなという予定です。


そして順調にアクセス数も伸びておりありがたい限りです。
一応確認してはいますが、どうしても誤字脱字がありますので見つけたら報告いただけると直ぐに修正します。

本当にこんな書き方でいいのかという不安もありますので、感想などもあればどんどんお願いします。
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