ソードアート・オンライン~黒の剣士と灰の剣聖~   作:カノン・キズナ

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第13話 強化詐欺

 俺は、さっきの暴挙のお詫びに夜食を買いに行ったキリトをアスナの部屋でユウキも呼んで彼女と一緒に待っていた。その間彼女はいつもの服に着替え、キリトが探し出したウインドフルーレを抱えてベッドに座っている。

 

 

「…その、まだキリトのこと怒ってる?」

 

 

「思いっきり殴りたい気持ちが49%、感謝を述べたい気持ちが51%だわ」

 

 

 すごく複雑な心境らしい。まあさっきの状況を考えれば無理も無いけど。

 

 

「まあ流石にあれは、ボクも怒るかも」

 

 

 ユウキも苦笑いしながらしょうがないよねという表情を浮かべている。

 

 

「うーん…、まあ、あいつもアスナのために必死だったということは分かってくれると嬉しいかな。何せ時間がなかったんだ」

 

 

 はっきりとは覚えていないが、武器をネズハに渡した頃時鐘がなっていた。となるとリミットは20時頃ということになる。本当にギリギリだったのは言うまでもない。

 

 

「別にカイト君に言われなくてもわかってるわ。あんな真剣なキリト君始めてみたもの。色々と整理しきれないことも有るけど」

 

 

 

――コン、コン

 

 

「キリトです。夜食を買ってきたので入ってもよろしいでしょうか?」

 

 

 

 今まで聞いた事ないような丁寧な口調で、キリトが戻ってきた。

 

 

「入って」

 

 

「…失礼します、お夜食を買ってきました」

 

 

そう言ってキリトは俺達に肉まんのようなものを渡した。

 

 

「なに、これ?」

 

 

「この辺の名物らしい、《タラン饅頭》って名前らしいけど。牛ステージだから肉まんじゃないかなと思うんだけど、β時代にはなかったんだよこれ」

 

 

「うにゃあ!!」

 

 

変な叫び声が聞こえたと思ったら、アスナが顔から喉元までクリームまみれになっていた。

 

 

「なっ!クリームだと!――運営め図りやがったな」

 

 

よく確認せずに買ったキリトも悪いと思うんだが。

 

 

「まっ、待て今拭くものを出すから」

 

 

そう言いながらキリトがアスナの前に立ったとき、ノックと同時にしまっていた扉が開いた。

 

 

「キー坊頼まれた件おわったゾ。……キー坊…アーちゃんに一体何を……?」

 

 

今の光景、ベッドに座るクリームまみれのアスナ、そしてその正面に立つキリト、ふむ見ようによってはよからぬ事をしていたようにも見えるかもしれない。

 

 

「ご、誤解だ!何にもしてないぞ俺は!」

 

 

「まあ、原因はキリトだよな」

 

 

「カイト!」

 

 

 

――――

 

 

「そうカそうカ、武器を盗られ挙げ句にキー坊に白いクリームをぶっかけられたのカ。そりゃ災難だったナ、オネーサンが来たからもう大丈夫だゾ」

 

 

アルゴがベッドでアスナに寄り添い満面の笑みでピースサインをこっちに向けていた。きっとキリトにいいきみだナ、なんて思ってるのかもしれない。

 

 

「それで、頼んだ話はどうなったんだよ」

 

 

椅子に座りながらアルゴの煽りにイラついた様子でキリトが質問した。

 

 

「ン?何ガ?」

 

 

 

「ご自慢の《隠蔽》スキルとやらでネズハの尾行してきたんだろ? 結果は?」

 

 

「あのあと店を片付けて4人組のフードを被った連中と会っていたヨ。まあ、顔は見えなかったけどナ。何か荷物の受け渡しをしてる様子だったけド、随分焦った様子だったヨ。そのあとは特に何もなシ、宿に帰ったヨ」

 

 

4人組……それがネズハにあんなことをさせている連中なのか?

 

 

「……確かに4人だったんだな?5人じゃなく」

 

 

「そうだけド、5人だと何かあるのカ?」

 

 

「…いや、予想と少し違っただけだ」

 

 

「アルゴ、慌てた様子だったのは鐘が鳴った頃じゃなかったか?」

 

 

俺達の予想が正しければ慌てていた理由は……

 

 

「ん?ああ確かニ、20時になってからだったナ。よく分かったなカー坊」

 

 

「部分的に勘が外れたけど大筋は俺達の予想通りか、ご苦労様」

 

 

 

「いやいヤ、勿論武器が騙し盗られていた事がわかった以上このまま終わらせるつもりはないヨ。彼の背後関係は徹底的に探らせてもらうヨ。その手の仕事は任せてくレ」

 

 

まあ、アルゴの本業でもある数日もたてばその4人組の人間が誰かまでは行き着くだろう。

 

 

 

「それでどうすル?」

 

 

「どうって?」

 

 

 

アルゴは表情を変え続けた。

 

 

「結果一時的だったとはいエ、アーちゃんの武器が騙し盗られたことは事実なんダ。被害が増える前に公表すべきじゃないカ?」

 

 

アルゴのいうことにも一理ある。あの鍛冶屋の手際の良さそしてすでに7件は被害が出ている点から考えてまだ被害者はいるし、これからも増えるだろう。

 

「オレっちのルートを使えバ、1日で追い込めるヨ」

 

 

「いや、ここは慎重に行こう。向こうもアスナの剣が無くなってバレたことに気付いているはずだ。ここでやめておとなしくなる可能性もある。……それに必要以上に追い詰めるともっと厄介な事になるかも」

 

 

「どういう事だ?」

 

 

「考えてみろよ、武器を隠し持ってるなら謝って返せば済むかもしれない。けどもし売り払っていた場合……それは永久に失われたことになる。」

 

 

 

「もしそうなれば被害者の怒りを沈めるのは難しいナ。彼らが満足するようなペナルティはSAOには無いからナ」

 

 

確かになまじ命の掛かったデスゲームにおいて装備はその命を守るために一番大事なものだ。アスナのように思い入れをもって大切に扱っているやつもいるだろう。そんな人達に売り払った何て言った日には、命すら……

 

 

「……いやある、ひとつだけ絶対的な罰が」

 

 

キリトも同じ考えになったらしくこっちを向いて頷いた。

 

 

「そうだ、事が公になれば誰でも思い付く」

 

 

「罰としての《PK》カ」

 

 

そこまで聞いたところで今までアルゴのとなりで静かになっていたアスナが割り込んだ。

 

 

「《PK》ってなに?」

 

 

キリトは背もたれを前にして座っていた状態から座り直しアスナの目をしっかり見据えて説明した。

 

 

「プレイヤーキルっていうゲーム用語だ。意味は字の通りプレイヤーがプレイヤーを殺すことだ」

 

 

「そんな!だって……この世界でそんなことしたら……人殺し……」

 

 

「そうだ。だからそんなことは絶対に避けなきゃいけない。いくら恨みがあっても命を奪うことはやっちゃいけない」

 

 

ショックだったのか、アスナはまたアルゴに顔を埋めてしまった。

 

 

「そのためには真相を知る必要があるナ。強化詐欺のトリックに動機、盗られた武器の行方もナ」

 

 

「そして取り返しのつく形で償いをさせる。そうすれば被害者の怒りも少しは収まるかもしれない」

 

 

「とはいえトリックは難しそうだぞキリト。なにせ俺達4人がみんな気づかなかったんだ。まあみんなミスディレクションに引っ掛かったせいだけど」

 

 

「けどさあカイト、ボク思うんだけどあの人が好き好んでそんなことするような人には見えなかったよ」

 

 

ユウキのいうことも分かる、少なくとも彼に気弱そうな性格に見えた。

 

 

「私もそう思うわ、どうしても望んでやったとは思えないの」

 

 

「気持ちはわかるけど、彼の罪は動かしがたいとおもうぞ。それとも何か情状酌量の余地が有るって?」

 

 

「うん…もしかしたらだけど以前にあったことが有る気がするの、顔を見たわけじゃないけど…。アルゴさん調査のついででいいんだけどこれについて調べてもらえないかしら?」

 

 

 そういってアスナはストレージから投擲用のナイフを取り出した。

 

 

「これは?」

 

 

「2層でキリト君達に会う前に、一人の剣士とあったのその人が持ってたんだけど…」

 

 

「アーちゃんの頼みダ。片手間に調べておくヨ」

 

 

「でもあんまりこのことばかり気にしてるわけにもいかないな。フィールドボスは倒されたから明日には迷宮区の攻略が始まる。キリト明日の予定はどうする?」

 

 

 迷宮区到達まで5日、1層のことを考えるとかなりのハイペースだ。まあ1層が遅すぎただけなのかもしれないけど。

 

 

「そうだなあ、出来れば他の攻略組と会うのは避けたいから朝一番から迷宮区に行くとしよう。それにボスに備えた練習もしておきたいし」

 

 

「特に変更がなけれバ、相手はトーラス族だナ。ナミングが注意点だナ」

 

 

「ああ、まあ詳しいことは明日説明するよ」

 

 

 

 

――――翌日 SIDE キリト

 

 

 

 俺達は予定通り朝早くに迷宮区に入り恐らく誰よりも早いであろう迷宮区攻略を行っていた。β時代同様なら2層フロアボスはトーラス族、姿は神話に登場するミノタウロスに近いものであり、人の体に牛の頭がついているようなビジュアルだ。

 

 

 多少攻撃力は高いが、奴らの厄介な点は特殊技に有る。トーラス族全般が《ナミング》と呼ばれる広範囲スタン技を持っていてこれの対策を取らないとまともに戦えるものではない。

 

 

「奴らのナミングは威力が低い代わりに範囲がとにかく広い。キャンセルも一つの手だけど失敗したときのリスクが大きすぎるから距離をとってやり過ごすのが一番無難だ」

 

 

「なるほど、俺達の装備じゃ耐性も余り期待できなそうだしな」

 

 

「重武装で盾を持っていれば受けれるのかもしれないけど、あいにくそんな戦闘スタイルのやつはこのパーティにはいないからな」

 

 

「ほんとにボク達って防御を考えてないバーサーカーだよね」

 

 

 否定出来ないところがまた辛い。4人全員が回避主体の戦術というのも確かにアンバランスなんだけど、だからといってスタイルを変えるのも簡単じゃない。変えられない以上精度を高めていくしか無い。

 

 

「はあ…どうもやりにくいのよねアイツ」

 

 

 今日はずっとイマイチ調子の悪そうなアスナがついに愚痴をこぼしだした。

 

 

「そうか?普通のトーラス系なら攻撃は比較的シンプルだし…」

 

 

「そういうのじゃないの。キリト君にはわからないかもしれないけど、あんなほぼ裸みたいな格好セクハラだわ。ハラスメントコードで黒鉄宮送りにしたいわよ」

 

 

「な、なるほど」

 

 

 確かにトーラス族全般、特に低級トーラスは腰に布を巻いているだけの見た目のやつが多い。ほぼ裸のマッチョが襲ってくると考えると、女子校育ちらしいアスナ的には我慢出来ないのだろう。

 

 

「体つきだけならボディビルダーみたいだよね。キリトもあんな格好してみたら?男らしくなるかもよ」

 

 

「ユウキ頼むから恐ろしいこと言わないでくれ。俺があんなマッチョなんて想像したくもない。あまりにも似合わなすぎる」

 

 

 まあレアアイテムの中にはあれと同じ格好が出来る装備があったはずだけど…。きっとそれを来た日にはアスナに串刺しにされそうなので絶対着ない。

 

 

「まあビジュアルは2層にいる限り我慢してくれ。どうせボスもトーラス族だからな、それより3人共動きは覚えたか?」

 

 

「もう少しってところかな」

 

 

「そうね、あと2,3回も見れば大丈夫だと思う」

 

 

「ボクはもう大丈夫かな」

 

 

「ぞれじゃあ次のブロックに行くか。そろそろこの辺にも誰か来そうだしな」

 

 

 その後もしばらくトーラス狩りをしていた俺達だが、ちょうど吹き抜けになっていて下の階が見えるエリアに来た時下の階にいいた俺達以外のプレイヤーを今日はじめて発見した。

 

 

「見ろよキリト。あれって確か…」

 

 

「《レジェンドブレイブス》だっけ。随分早いなもう下の層まで来たのか」

 

 

そこには昨日のフィールドボス戦でも見かけた5人組のパーティーがいた。しっかりと動きを見るのは初めてだったがそれぞれの連携は良く装備の良さもあって危なげなくモンスターを倒していた。

 

 

「昨日のフィールド戦じゃ中々の戦いをしてたな。以外とあの牛を正面から受け止めるのは難しいんだけど」

 

 

「でも、名前負けしてるのに間違いはないでしょ?」

 

 

「アスナさん中々手厳しいですね」

 

 

 まあ確かに名前通り伝説の英雄とかの名前をそれぞれ名乗っているみたいだけどまだそれに見合った力はあるとは言えなそうだ…というよりも…

 

 

 

「それにしても…やっぱり違和感があるな。何でレベルと装備がチグハグなんだろう」

 

 

「どういうこと?」

 

 

「普通はレベルと装備は連動するんだよ。レベルが低いうちは育成効率も悪いからそれなりの装備で、レベルが高くなれば効率のいい強化ができるようになるから装備も充実してくる。これはSAOだけじゃないRPGというゲームの特徴なんだ」

 

 

「経験値効率が悪かった…だけじゃ説明がつかないもんな」

 

 

「彼らはレベルもスキル熟練度も見た所中の上ってところだろう。だけど装備品だけは攻略組の中でも最上品だ、そこの違和感がどうしても拭えないんだ」

 

 

 もし俺の勘が正しければその矛盾は全部解決するんだけど…。

 

 

「つまり、あの人達はあなたも知らないような高効率な財源を確保してるってこと?でもキリト君も知らないような財源なんて…。―――あっ!まさか強化詐欺への関与を疑ってるの!?あの人達が!?」

 

 

「流石に短絡すぎるかもしれないけど、でもアルゴの話じゃ武器が騙し取られる話が出た頃とあいつらが前線に出てくる時期が同じなんだ。偶然の一致にしては都合がいいような…」

 

 

「アルゴさんに彼らのことも調べてもらいましょう」

 

 

 そう言ってメッセージを開いたアスナが、急に手を止めた。

 

 

「……いえ、違うわキリト君、見て彼らの動き。確かにレベルは低いかもしれないけど今いる攻略組のパーティの中を見ても彼らほど連携のいいパーティーはそうはいない。どうして実力も装備も有るのに今まで最前線で見かけなかったんだと思う?」

 

 

 その時俺は、ようやく違和感の見方が違うことに気がついた。

 

 

「そうか!レベルと不釣り合いに装備がいいんじゃなくて、腕も装備もいいのにレベルだけが低いんだ!」

 

 

 でも、なんでそんなことが…、腕に見合った装備なのは間違いないなのにレベルが低いのは低効率の狩場にいたせいか?でもだとするとやっぱりあの装備はネズハの強化詐欺で得ている可能性が高い。

 

 

「色々見えては来るけどゴールにたどり着かないな。大体、俺の勘が正しければだけどなんでネズハはあいつらのために強化詐欺なんて…」

 

 

「……ネズハも彼らの仲間だろ?」

 

 

「え?」

 

 

 当然だろ?みたいな顔でカイトがサラリと言ってのけたことに俺達3人はしばらく反応できなかった。

 

 

「ちょ、ちょっと待てよどういうことだ?ネズハとあいつらが仲間だって?グルの可能性はあるけど」

 

 

「もしかして気づいてなかったのか?実はあの名前の綴りは他にも読み方があって――――」

 

 

 俺達はカイトからその話を聞いてようやく事件の背景が見えてきた気がした。だけどこれだけじゃまだだめだ強化詐欺の実際の手口がわからないことには問い詰めることも出来ない。

 

 

「動機まではカイトのおかげでなんとかたどり着いたけど、結局大事なのは武器すり替えのトリックか」

 

 

「もう一度確認するしか無いのかしら?」

 

 

「うーん…。お、下の敵を倒し終わったみたいだな。じきに上に上がってくるしおれたちも次のフロアに行こう。悪いけど今日はもう1フロア付き合ってくれないか?」

 

 

「良いけど、どうして?」

 

 

「実はさ《片手直剣》のスキル熟練度がもう少しで100なんだよな」

 

 

「は?」

 

「え?」

 

「100!?」

 

 

 3人共かなり驚いた表情だったので、俺は少し自慢げな表情を浮かべた。

 

 

「へ、へえそれはおめでとう」

 

 

「なんで俺達と同じパーティなのにそんなに早いんだよ…」

 

 

「それで?強化オプションは何にするの?」

 

 

 強化オプションとはスキル熟練度が50の倍数に到達した時獲得できる追加の補助スキルのようなものだ。50のときはソードスキルのクール時間短縮を選んだ身としては今回はそれなりに自由度が高くかなり迷う。アスナと違ってクリティカル率の低い俺としては《クリティカル率上昇》も魅力的だ。

 

 

「そういえば、この間蜂に剣をふっとばされた身としては《クイックチェンジ》なんかもいいな」

 

 

「なにそれ?」

 

 

「色々と便利だよ。例えば武器を落としたり取られた時、ワンタッチで再装備できるし」

 

 

「ふうん」

 

 

 アスナがなにか確認して画面を見ながらの返事だということに気づかず俺は説明を続けた。

 

 

「同じ種類の武器を持ってれば直前に装備していたものと同じものを再装備なんてことも…」

 

 

「へえ…」

 

 

「…ん?」

 

 

「「「それだ!!」」」

 

 

「えっ?な、なに?どうしたの3人共?」

 

 

 ユウキは気づいていない様子だったけど、恐らくカイトやアスナも同じ結論に至ったみたいだ。クイックチェンジを使えばみんなの目が離れた一瞬を狙って、エンド品の違う武器に変えることが出来る。

 

 …だけど、ネズハは鍛冶屋だぞ?職人に取得できるようなスキルじゃ…。

 

 

「キリトの言うクイックチェンジならあるいはってところだけど…鍛冶屋をやってるネズハにそれが取れるとは思えないな」

 

 

「……それなんだけど、解決できるかも知れない。確証はないけど…この間アルゴさんにお願いした件次第で…」

 

 

 そこまで言ったところで、タイミングを図ったかのようにアスナにメッセージが届いた。

 

「もしかして、噂をすればってやつ?」

 

 

「そうみたい。待っていま確認するわ」

 

 

 そう言って俺達は画面を食い入る様に見つめた……。

 

 

 

―――――

 

 

「初めて来たけど、動きにくくて慣れないな」

 

 

「仕方ないさ。普段が動きやすさ最重視みたいな装備だからな」

 

 

 俺とカイトはネズハの店に向かって歩いていた。目的は一つ強化詐欺の方法を改めて確認するためだ。そのためにネズハの手元が見える位置でアスナとユウキがアルゴと一緒に待機している。ただ俺達はこの間顔を合わせていてその晩に強化詐欺がバレたこともあって警戒される可能性もあるため全身鎧で身を包み、フルフェイス型の兜で顔を隠している。

 

 

「もう店じまいかな?」

 

 

 店にたどり着いた俺は、なるべく怪しまれないよう自然にネズハに話しかけた。

 

 

「いえ、大丈夫です。お買い物ですか?それともメンテですか?」

 

 

「……また、だな」

 

 

 カイトが、なにか呟いたような気もしたがここで聞き返すわけにもいかず俺はそのまま「強化を頼む」と告げた。

 

 

「強化…ですか」

 

 

 以前の時と同じようにネズハは困り顔をしつつ強化の方針を聞いてきた。

 

 

「種類は《速さ》、素材は料金込みで90%で頼む」

 

 

「それだと…2700コルですね。―――アニールの+6試行回数2回残しですか。内訳は《鋭さ》+3に《丈夫さ》+3……使い手を選びますが、凄い剣ですね。この上さらに《速さ》強化すれば……。では、始めます」

 

 

 そう言ってネズハは以前と同様に作業を始めた、素材を炉に入れエフェクトが出る。俺達の予想なら武器のすり替えが行われるのこのタイミングだ。こっそり武器を持っているネズハの左手を見たがちょうど陳列棚で手元が隠れていてお客側からは見えない。

 

 そしてエンド品にすり替えられた後で武器を打つ。すり替えられているはずだと分かっていてもやはり少し怖いものがある。俺だってそれなりに武器に愛着を持ってるし道具以上の思いはある。何より自分の命を常に守ってくれているものだ。

 

 ―――パァン!

 

 そしてネズハが10回打ち終わるとアスナの時同様アニールブレードは粉々に砕け散った。

 

「すみません!! 本当にすみません!!」

 

 

「いや、謝る必要はないよ」

 

 

 俺はお店の背後の建物の上の階でネズハの動きを逐一見ていたアスナの方へと顔を向ける。そしてアスナもそれに気づき静かに頷いた。予想通りだったという合図だ。

 

 

「…そうか、分かってみると――案外単純なトリックだな」

 

 

「残念ですよネズハさん」

 

 

 俺とカイトは装備をもとに戻しつつネズハにそう告げた。

 

 

「あ、あなた達は!? あの時の!?」

 

 

「悪かったな、騙すようなことをして―――《クイックチェンジ》」

 

 

 そして、俺の手元に戻ってきた《アニールブレード》を見てネズハは目を見開いた。そしてネズハの犯行の核心を告げた。

 

 

「あんたはこの強化オプションを使って《預かった武器》をストレージにストックしていた《同種のエンド品》にすり替えた。俺は今同じ手を使って、君のストレージから《現在装備中の武器》を取り返した」

 

 

「まさかこんなに早く、しかも鍛冶屋が武器スキルのオプションを習得してるなんて思いませんよね」

 

 

「しかもメニューウインドを商品の隙間に隠蔽して、発動時のエフェクトは炉の光と音で隠す。天才的な手口だ――――よかったら、署までご同行願おうか」

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで2層パート3終了です。
この調子だともう2話ほどでしょうか。ペースが遅くてすみません。


このペースで2層は最後まで漫画ベースの流れになりそうです。


4人喋らせるとだれが話してるかわかるようにするのが少し難しいですね
あまりにもわかりにくくなりそうなら会話の前に名前を入れることも検討中です
見にくそうなのであまりしたくはないのですが…


次回はフロアボス戦途中くらいまで行けたら良いなと思います
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