ソードアート・オンライン~黒の剣士と灰の剣聖~ 作:カノン・キズナ
「…要するに、騙し取った武器は全部換金してほとんど残ってないと――そういうんだな? ネズハ」
「はい…、申し訳ありません」
俺達はネズハを連れ宿で事情聴取をしていた。彼の言い分を要約するとさっき言ったとおり、あくまで自分一人の罪だと言っている。
「攻略組の面々が文字通り命をかけて、死に物狂いで鍛え上げた武器を、私利私欲で浪費したと?」
「なんと…、お詫びをすればいいか…」
「やっぱりおかしいわよ。これ、以前にフィールドエリアで偶然会ったソードマンの忘れ物」
頭を下げ、うなだれながらそう告げるネズハにアスナが反論した。そして以前にアルゴに調査を依頼していた投擲用の短剣を取り出し机に置いた。なんでも俺達と再会する前に《アニールブレード》を持った剣士を俺と勘違いしたそうだ。そしてこの短剣はその剣士の忘れ物らしい。
「アルゴさんに調べてもらったのだけど、プレイヤーメイドの特注品でどこのお店にも並んでいないものだった。つまり持ち主は作り主――今のSAOでこんなものを作れるのは、アインクラッド唯一の鍛冶屋であるあなた以外にありえないわ」
「戦闘職なラ、《クイックチェンジ》を習得していても不思議はないナ」
「それに前にあなたにあった時はそれなりに高価な装備で身を固めていたけど、私の見立てで予想される被害額とは桁が違うわ」
「だから…、それは…飲食や宿代に」
「それは無いナ、ココ数日の身辺調査で君の質素な生活ぶりはしっかり確認させてもらったヨ」
アルゴの調査によると、日中お店に出ている以外は酒場によることもなく買い物も鍛冶屋として必要なものばかりだという話だった。とても事実上市場独占をしている人間の生活とは思えないほどに。
「現在君はプレイヤーで唯一の鍛冶屋として市場を独占している、それに加え強化詐欺だどう考えても計算が合わない。だから俺達はこう疑ってるんだ――君は、稼いだ金を誰かに貢いでいるんじゃないか?ってさ」
「…は、はは!そんな!一体誰に!? なんの根拠があってそんな…」
どうしても自身以外の関与を認めないネズハに今まで黙って聞いていたカイトがネズハに決定的な事実を突きつけた。
「…根拠はあなたの名前だ、ネズハさん。―――いや、ナーザさんと呼んだほうが良いかな?」
「……!!!」
「そうあなたの名前《Nezha》のもう一つの呼び方だ。日本人にもわかる名前なら《哪吒》、《哪吒太子》とも呼ばれるかな。中国の小説に登場する少年の神、宝具と呼ばれる武器を持ち2つの輪に乗って空を飛ぶ…その筋じゃ有名な伝説の勇者――《レジェンドブレイブ》だ」
ネズハはそれを聞いた瞬間項垂れるように頭を落とした。ようやく自分が逃げ場のない状況まで追い詰められていることに気づいたようだ。
俺達もカイトがいなければ気づくことはなかったかも知れない。日本ではナーザという呼び方はあまりにマイナーな呼ばれ方だからだ。カイトは神話伝承が好きで詳しいらしいけど。
「…やっぱり、君が彼らの装備資金を稼いでいたんだな。だからこそ彼らはあんなに急激に台頭した。―――正直に話してくれナーザ!君たち6人の中でどうして君だけがこんなリスクを背負ったんだ?何か見返りを約束れているのか?」
「…そ、それは」
「彼らは…君たちはなぜこんな事ができたんだ!?」
「キー坊、それは今大事なことじゃア」
「いや大問題だ!今のペースで行けば彼らは攻略組の中でもぶっちぎりに強くなる!悪事を厭わない詐欺集団がだ!そんな奴らが圏外で襲われても返り討ちにすればいいと開き直るようになったら――」
今は被害が武器だけで済んでいるかもしれない。だがこのまま行為がエスカレートすればいずれプレイヤーの犠牲が出てもおかしくない。一度悪事を働けばそれ以降は歯止めが効かなくなる。そんなことだけは絶対に防がなければいけない。
「待ってキリト君」
ネズハを問い詰める俺を、アスナが止めた。
「きっと違うと思う。――ネズハさんこれを取ってみてもらえますか?」
そういってさっき机の上に出した短剣を手渡そうとした――しかし、ネズハの手は短剣の手前で空振るような動きを見せた。まるで見えていないかのように。
「…やっぱり。あの時はてっきり眼帯をしていたからだとばかり思っていたけど、あなた片目が――」
「見えないわけじゃないですよ。ただナーヴギアを介すと分からなくなるんです――遠近感が」
「フルダイブノンコンフォーミングか!」
「あんたFNCだったのか」
俺とカイトが同時に声を上げた。脳と直接信号のやり取りをするフルダイブマシンは本来使用者ごとに細かく機械を調整する必要がある。だがナーヴギアは初期設定時の接続テストやキャリブレーションで自動調整され2回目以降は即ダイブが可能になる仕組みだ。
極稀に、その調整がうまくいかない人間がいる。それが《フルダイブ不適合》と言われる種類の症状だ。微小なラグ程度で済むものからダイブそのものが出来ない場合まで症状は多岐にわたる。
「なるほド、恐らく彼の場合両目の機能不全…奥行きを認識できないんだろウ。気の毒ニ…近接攻撃主体のSAOでは致命的ダ、ログインは諦めるべきだっタ」
「いや、気持ちはわかるよ。ゲーマーならこの世界を見れずに死ねないもんな」
命が一つしか無いデスゲームということを除けばこのゲームは文句のつけようのないものだろう。背景を始めとしたグラフィック、無数にあるクエスト、何より現実で決して体験できないことがココでは出来る。多少不都合があっても体験してみたいという気持ちは否定することは出来ない。
「ん?まてよ―じゃあ彼らは、剣士としての君を見捨てて君の弱みに付け込んで汚い仕事を強要したのか?」
「違う!彼らはそんな事は!」
俺の意見の遮ったネズハは初めて彼の意志の乗った声を聞いた気がした。
「多分逆じゃないかな」
「逆?」
「うん…きっと彼らは、この人を見捨てなかったのよ。SAO開始当初みんなが必死にリソースの奪い合いをしている時彼らはハンデを抱えた仲間のリカバーを優先した。だから実力はあったけど、レベルが低かったんだわ」
非効率な狩場なら足留めされて当然…、はじまりの街で別れたクラインもきっと今安全マージンを取りながらゆっくり前に進んでいるはず。レジェンドブレイブスがここまで追いついたことも十分すごいことだ。最初に周りを切り捨ててでも自分を優先しようとした俺には到底真似できない。
「…みなさんのおっしゃるとおりです。僕は仲間の情けに縋り付いてみんなの夢を台無しにしてしまった。元々《レジェンドブレイブス》はそれなりに長くやってるチームで、他のMMOとかでもランカーになるほどのギルドなんです。そんな中フルダイブ初のVRMMOが出るというので、皆それはもう意気込んだんです」
「アインクラッドでトップになってやるんだって…。なのに!僕のFNC判定ですべてが狂ってしまった!――あの日以来仲間の中には僕の事をカバーしながら戦うやり方に不満を漏らした仲間もいました。でも、リーダーは…オルランドさんは違った。僕を決して見捨てず、一緒に戦っていこうと言ってくれたんです」
「だったら、どうしてこんなことを?」
「投剣スキルじゃこの先難しい事にようやく気づいて、僕が戦闘職を諦めた頃には最前線との差は大きく開いてしまっていました。――そんなときでした。《あいつ》が俺達にあの稼ぎ方を教えたのは」
俺はアスナやアルゴと顔を合わせてそれぞれ首をかしげる仕草を見せながら聞いた。
「《あいつ》っていうのは?」
「顔も名前もわかりません。わかるのは黒ポンチョを着た男ということだけで…。それでその男が言ったんです」
『OK 話は聞かせてもらったァ、あんたが戦闘スキル持ちの鍛冶屋になるならすげぇクールな稼ぎ方があるぜ!』
黒ポンチョの男…そいつがレジェンドブレイブスに強化詐欺を教え、あんな犯罪行為をさせたっていうのか?でも一体何のためにそんな…
「でも!勘違いしないでください!全部僕が!僕自身のために!勝手にやったことなんです!――だからっ!!」
「どこに行くつもりですか?この先には窓と崖しかありませんが」
窓の方へ走り出したネズハをカイトが引き止めた。恐らくすべてを背負って自殺でもするつもりだったのかもしれない。だけどそんな事は許されない。
「どいてください!せめて償いだけでもっ…!」
「そのために自殺をするというのは見過ごせないですよ。今のアインクラッドで自殺はある意味詐欺より重い罪だ。このゲームをクリアしようとしている攻略組を裏切る行為です。それに僕の見立てではまだあなたには更生の余地はある」
「ど、どうしてそんな…」
「だってあなたは心の底から強化詐欺を望んでしていたわけではない。あなたはいつも『買い物ですか?メンテですか?』と聞いて強化の話は一切しなかった。まるでそれを避けるように…エンド品の武器を叩いているときもそうだ、あなたの叩き方はとても心がこもっていた。それは自分の行為で壊れてしまう武器を悼んでいたからではないですか?」
「……」
「ネズハさん、本当にこのままでいいの?周りに憐れまれたまま、見返すことなく後悔したまま終わっていいの?――そんなの絶対ダメよ!最後まで死に物狂いで足掻きなさい!《勇者》として!」
「で、でも…僕にはどうしたら良いか…」
アスナがふとこちらを向いた。「キリト君どうにかしてあげられない?」そう言わんとする視線で。…だが正直かなり難しい、遠近感覚が判断できないなら近接攻撃は難しい。かといって投剣スキルはシステムアシストが効き攻撃は当てられるが現状ではタゲを取るのが精一杯だ…。――いやまてよ、そういえばこの間のフィールドボスのLAは…
「ネズハ、君はいまレベルはいくつだ?」
「え?10…ですけど」
「ならスキルスロットは3つだな。何をつけてる?」
「《片手武器作成》、《所持容量拡張》、《投剣》ですけど…」
「そうか。――伝説の勇者殿。今までの償いのために鍛冶スキルを捨てる覚悟は有るか?」
――――――翌日
俺達は今ネズハを連れとあるところへ向かっているところだ。俺達の前で歩く女性3人は何やら楽しそうにおしゃべりに花を咲かせているようだけど、後ろの男3人は特に話し出す内容もなくただひたすら歩を進めるだけであった。こんな時もう少し世間話位できるコミュニケーション能力があればと思うのだが。
そしてこの沈黙に我慢できなかったのはネズハも同じだったらしく、なんとか話を絞り出そうと俺に話しかけた内容がまた物議を醸しだすことになった。
「キ、キリトさん…」
「なんだ?」
「――アスナさんとはいつからお付き合いされているのですか?」
「…………なっ!!」
「付き合ってません!!!」
後ろの声が聞こえていたのか、アスナが全力でネズハの質問を否定した。いや確かにアスナとはそういう関係じゃないけど、そんなに全力で否定されるのも結構ショックなんだけど。
「えっ?ああっ、すいません!まさか聞こえていたとは思わなくて、この手の話はお客さんともよくする世間話なので」
「ん?ちょっと待て!まさかそういう噂がたってるのか?」
「噂というか、2層に来ている人たちの間では有名というか常識ですよ。だってキリトさんいっつもアスナさんと一緒じゃないですか!同じ宿屋に入っていく姿もよく目撃されていますし」
絶対その姿にはカイトとユウキの姿も有るはずなのに、なぜか俺とアスナがカップルのような扱いをされているようだ。もちろん男としてアスナのような美少女とそういう噂になっているのは嬉しくないわけはない…がこの場合はアスナにも妙な評判が立ってしまうのではないかと思いとっさに否定する言葉が出てしまった。
「そ、それはあれだ、たまたま!一時的に!仕方なく組んでいるだけのことであって!」
「―あらそう」
ものすごく冷たい目線がアスナから向けられている気がする。
「それから、これはとある事情通の話なんですが――ある夜、そのプレイヤーがキリトさんの部屋を訪ねると浴室から一糸まとわぬ姿のアスナさんが出てきたとか!しかもその時目測されたスリーサイズや下着の色がとんでもない高値で売られているとか!」
確かにそんな事もあった、思い出したら腐った牛乳飲ませるとまでアスナに言われたあの事件だ。だがそれを知っているのは俺達以外はカイトとここに居る情報屋の鼠さんだけだ。そしてこの場合どちらが言ったかは明らかで、俺とアスナはアルゴに鋭い視線を向けた。
「ニャ…ニャハハハ、ハ…反省してまス。で、でも大丈夫!誰にも売ってはいないかラ!それにアーちゃんは今巷で大人気の有名人じゃン」
「確かに!死の淵で恐怖する攻略組を鼓舞した姿はさながら戦場に降り立った女神のようであったと!」
「へ、へえ…そんなふうに言われてるんだ」
「何言ってるんだキー坊、そんな娘を独占しているんだゾ。自覚は有るのカ?」
「うるさいな今の被告はお前だ、誤魔化すんじゃない」
このままじゃ目的地に付く前に俺のメンタルが悲鳴を上げかねない、なんとか話をそらさないと。
「ほ、他にはなにか話題になってることはないのか?」
「そうですねえ…。あ、カイトさんとユウキさんのこともよく話題に上がりますよ」
「へ?ボクたち?」
まさか自分たちの話だとは思わなかったのか、ユウキは驚いた表情をカイトは怪訝な表情を見せていた。まあ内容はなんとなく察しはつくけど。
「おふたりもよく仲睦まじく街を歩いている姿が目撃されていますよ。まるで恋人同士のようだと」
「恋人同士なんてボク照れちゃうな」
「少しは否定しろよ。普通に買い物とかしてるだけだろ」
「むー、カイトは嫌なの?そういうふうに見られるの?」
「ん?…いや…そういうわけじゃ…」
ユウキの質問に珍しく照れた様子のカイトが目線を明後日の方向へと向けていた。SAO初日からこのふたりと一緒にいるけど俺が見ても二人の仲の良さは中々だろう。そもそも夜になると眠くなっちゃったと言っていつもカイトの膝枕で寝だすのだ。
最初これにはアスナも驚いて二人の関係を聞いたものだ。本人たち(主にカイト)は兄弟みたいなものだと言うが、俺と話している時もユウキの頭を撫でながら会話するその姿は恋人たちのそれにしか見えない。はっきり言ってたまに爆発すればいいのにと思わないこともない。
―――――SIDE アスナ
私達はキリト君の案内で迷宮区の塔から少し距離のある小高い岩山の頂上に来ていた。彼の話じゃここにチャクラムを扱うために必要なエクストラスキルを取るためのクエストが有るらしい。そこは人間より少し大きいくらいのサイズの岩が沢山並んでいる不思議なところだった。
「ここがそのエクストラスキルの習得クエストの開始点なの?」
「そうだ、まあ…開始点というか…ずっとここでやると言うか…」
「??」
キリト君が歯切れの悪そうにつぶやいていると岩の上に立った見るからに仙人のような格好をしたお爺さんがいた。そしてその頭にはクエストマークの?が浮かび上がっていた。
『フォフォフォ、なんじゃ小童ども入門希望か?』
どうやら喋り方も見た目通りのようで、そのままクエストの説明を始めた。
『我が試練を見事果たせば、お主らに我が武の真髄《体術》を伝授してやろう。フォフォフォ』
「よ、よろしくおねがいします!」
ネズハさんが頭を下げてクエスト受諾の意思を取ると、彼の目の前にクエスト開始の選択画面が出現した。そしてそれはこのクエストを受けていない私の前にも現れた。
『修業の道は長く険しいぞ?覚悟は有るか?』
「……ちなみに、何をさせられるんですか?」
「大丈夫、やることはシンプルサ。この岩を割るだけだかラ」
アルゴさんがそう言って岩をコンコンと叩く。私も確認してみたけど恐ろしく硬そうだ、破壊不能オブジェクトの一歩手前ぐらいの硬さは有るだろうか?
「一応無理ではなさそうね。キリト君とカイト君はクリアしたのよね?」
「ま…まあな」
「い…一応な」
二人共どうも歯切れが悪い。そんなに思い出したくないような苦しいクエストなのだろうか?少し気になって岩をじっと見つめていた私を横にいたネズハさんが見つめていた。あなたも一緒にやりませんかと言わんばかりの顔で。
「私はやらないわよ!確かに《体術》スキルは戦闘の幅が広がりそうだけど、今の私は少しでもレイピアのスキルを…」
『なんじゃおなご、逃げるのか?フォフォ、それが良かろうて。所詮惰弱なおなご如きに我が武の真髄を極めることは出来なかろうて』
「なんですって…」
明らかにそれは挑発だと冷静な私なら気づいていたかもしれない。でもこの時の私はさっきのキリト君の物言いに苛ついていてあまり機嫌は良くなかった。
『なんじゃ不満か? それなら、ワシがもっとおなごに有用な《体術》を伝授してやろうかのぅ』
そういいながら私のところに歩み寄ってきたお爺さんはおもむろに私の胸を指でつついた。その瞬間相手がNPCだということも忘れ私はレイピアを抜き思いっきり《リニアー》を打ち込んだのだが、ひらりと避けられてしまった。
『フォフォフォ、なかなか活きがよい。よかろう、我が武の真髄とくと授けてしんぜよう。手とり足とり順繰りにのう』
完全に発言がエロジジィのそれに頭が沸騰しきった私は勢いでクエスト開始のボタンを叩きつけうように押した。後ろでキリト君が「バカッ!やめろ!」という声も聞こえずに。
「いいわ、取得したらまずはその頭ぶっ飛ばす! ほら!あなたもさっさとなさい!速攻で終わらせるわよこんなの!」
あんな石ころ一つ私のウインドフルーレで簡単に砕いてやるわ!と息巻いていた私の思いはあっけなくエロジジイに逆に打ち砕かれた。
『フォーフォフォフォ、よかろう小童共。ならばこの大岩を一つ砕くのじゃ―――ただし、武器を使うことはまかりならんぞい?』
そう言って私の背後を一瞬で取ったお爺さんは私の愛剣をあっさりと奪ってみせた。
『お主らが見事この試練を果たすまで無用の長物は預かっておくぞい。―――この試練はあくまで徒手空拳にて挑むのじゃ、拳を使おうと蹴りで砕こうと自由じゃ。なんなら頭を使ってもよいがの。あ、あとのう、大岩を割るまでこの山を降りることはならんぞい。じゃからお主らにはその証をたててもらうぞい』
そういって懐から何かを取り出し私とネズハさんに何かをした。何をされたか先に気づいたのはネズハさんの方だった。
「ああ!アスナさんに…、おヒゲが!!!」
「な、なにこれ!ってかあなたにも付いてるわよ!」
『その証はお主らが見事大岩を割り修行を終えるまで決して消えることはない。信じておるぞ我が弟子よ。フォーフォフォフォ』
ようやく、自分のしてしまったことの大きさに気づいた。もし岩を砕けなければヒゲを消すことはおろか、山から降りることすら出来ない。武器を取り上げられてしまった以上手ぶらでフィールドを歩くことも出来ず完全に八方塞がりになっていた。
「あ、アルゴさん…こ…これ、キャンセル…」
「ムリ! それがβテストでオレっちの《鼠》キャラが定着した理由サ。……慰めになるかわからないケド、今の情報量はいらないヨ」
「早く言ってよお」
「ナァ、元キリえもんからこの気の毒なお嬢さんにアドバイスを…」
いつものキリトくんなら、ここでクリアのコツとかを優しく教えてくれていた。けど今回は違った今まで見たことのないような剣幕で…いや、私に初めて怒鳴りつけたのだ。
「バカーッ!! 何考えてるんだ!!」
「だ、だって知らなかったんだもの、しょうがないじゃない!」
「しょうがないですむか!!俺とカイトでも3日かかったんだぞ!2日後には攻略組がボス部屋にたどり着く!奴らは待っちゃくれないぞ!―――次のボス戦も一緒に挑むんじゃなかったのか!?」
まだキリト君と出会って数日しか経っていない。だけど彼が意味もなく理不尽な理由で怒るような性格ではないことはなんとなく分かっていた。今回のことはたしかに私が悪い、謝ったほうが良い…そう考えた。だけど口から出た言葉はそれとは全く逆のものだった。
「べ、別にそんな約束した覚えありませんけど?それに私とは、たまたま?一時的に?仕方なく?組んでくださってたんでしょ?」
「…知らないからな、ガンガンレベル上げてボス戦でもLA取ってあとでたっぷり自慢してやるからな」
ここまで来ると完全に売り言葉に買い言葉で今更自分の非を認められずもう引っ込みがつかなくなっていた。
「あらぁ?むしろ私の仲裁無しで仲間はずれにされたりしないかしら?心配――」
その時のキリト君の顔がとても真剣で少し言い過ぎたかもと言葉が止まってしまった。そして少し俯いてキリト君は続けた。
「……そうさ、俺は君のそういう所をかっていたんだけどな。自意識過剰なリンドや視野の狭いキバオウに攻略組は任せられないが…君になら……いや今はやめよう。俺はもう行く」
「お、おいキリト良いのか?」
「な…何よ!言いなさいよ!―――っ!ボス攻略に間に合わせれば良いんでしょ!待ってなさい!」
そのままキリト君は何も言わずに山を降りていった。アルゴさんはたまに様子を見に来るヨと言っていたけど。日も暮れて星もなく静かな岩山にネズハさんがひたすら岩を殴る音だけが響いていた。
「全く、屋根のないところで寝るなんて久しぶりだわ。せめて星でも見えればよかったのだけれど」
迷宮区に籠もり無心でコボルトを狩っていた時以来だろうか?あの時キリト君に助けられてから必ず宿で休むようになって、お風呂にも入らず野宿するなんてことはなかったのだけど。
「すみません、僕のせいでキリトさんと…」
「なんでそこにキリト君が出てくるのか分からないわ」
「…やれやれ、思ったとおり荒れてるなアスナ」
「わざわざまた登ってきたわけ?カイト君」
そこには昼間別れたばかりのカイト君が立っていた。
「ほら晩飯持ってきたぞ」
「あ、ありがとうございます」
「…ありがとう」
そう言ってカイト君はあの黒パンとクリームを渡してくれた。
「…初めて見たよ。キリトがあんなに怒ってるの」
「――確かに私の自業自得だけど…、だからってあんなに言わなくたって」
「アイツは君に期待してるんだよきっと」
「期待って…私なんかなんの力も」
戦闘でまだまだキリトくんには全然及ばない。コンビを組んで戦闘しているけどキリト君が私に合わせてくれているのはよく分かる。私は足手まといにしかなっていない。
「そうでもないさ。言ってたろ?リンドやキバオウに攻略組は任せられないって。この間のフィールドボスの時の不和が続けば攻略組がバラバラの状態で戦うことになる。でも、アスナにならそれをまとめることが出来る――少なくともアイツはそう思ってる。だから君に出遅れてほしくないんだよ」
「…あれだけ熱心に色々教えてくれるんだもの、そうじゃないかって気はしてたけど」
「だったら素直に謝ればよかったのに。…それともキリトに一時的なパートナーだって言われたこと怒ってるのか?」
「なっ!ちが!……わない、か。だってあんな言い方されたらイラッときちゃったんだもん」
「本当に二人共素直じゃないな。――とにかく、キリトをがっかりさせないためにも早く岩を砕かないと」
「キリト君のためにってのが少し引っかかるけど…。でも、そうね。あんな顔をさせたまま引き下がる訳にはいかないわ」
最後に見えたキリト君の顔は怒っているというより、落胆していた顔に見えた。私にこの世界で生きる道を作ってくれた彼に期待はずれなんて思われたくない。絶対に砕いてみせる。
「その意気なら大丈夫だな。まあ現実問題ボス戦に間に合わせるのはかなり難しいだろうけど…。応援してるよ」
そしてカイト君は晩のうちに山を降りていった。何かあったら連絡すると言って。
そして修行2日目、朝からひたすら岩をネズハさんは殴り私は蹴っていた。ようやく岩の中心辺りまでヒビが行くようになった頃、カイトくんからメッセージが届いた。それはタイムリミットの連絡だった。
『攻略組がボス部屋を発見した。明日正午ボス戦を開始する。必ず来ることを期待している。
PS.もし困ったら頭をつかうと良い、意外とあっさり割れるかも』
ボス戦までいきませんでした。orz
ですが次回で強化詐欺編を含む2層のストーリーは終了になります
今の所構想では口下手なキリトに変わりカイトがアスナにフォローする場面が多くなります。ふたりにとって何でも相談できる友人…そんな立ち位置をイメージして彼には動いて貰う予定です。
もう少しユウキとカイトの話も書きたい…。よく分からないうちに仲良くなっただけでは私自身が納得できません。でももう少し先になりそうです。