ソードアート・オンライン~黒の剣士と灰の剣聖~ 作:カノン・キズナ
『ギルド《ドラゴンナイツ》のリンドだ!1番最初にボス部屋に到着したパーティの代表として、俺が第2層ボス戦攻略レイドのリーダーを務めることになった!』
最初に到達したのなら俺達だけどな、という文句をいう気にもならず俺は腕を組みながら前回同様集まりの後ろの方からこれから始まるボス戦を待っていた。
アスナと言い合いになりその不満を迷宮区攻略にぶつけてボス部屋にたどり着いたのが昨日の事、《体術》の修行的には今日で3日目。俺達があのクエストのクリアにかかった時間はちょうど3日。どれだけアスナに才能があったとしてもまともに考えれば俺達より早くクリアするなんてことは考えられない。
「アスナ達は来てないね」
「やっぱりふたりは間に合いそうにないか」
「当たり前だ、俺達の筋力ステータスでも3日掛かったんだ無理に決まってる」
我ながらどうしてこんなに苛ついているのかもよくわからないけど、とにかく今は目の前のボス戦に集中するしか無い。そんな時見覚えのある巨漢の斧使いが話しかけてきた。
「よう、久しぶりだな3人共。1層のボス戦以来になるか?」
「そうだな、あの時は世話になった」
「お久しぶりです、エギルさん」
いかつい風貌とは打って変わった笑みを見せながらエギルは続けて言った。
「それにしても…お姫様とコンビを組んだって聞いたんだが、どうしてそんな「実家に帰ります」って書き置きを見た旦那みたいな顔をしてるんだ?」
どうやら、俺は相当に気難しい顔をしているらしい。自覚はないけど。
「別にコンビってわけじゃない。共通の目的があって一時的に組んでただけだ」
(おい、カイトあのお姫様と何かあったのか?)
(ちょっと喧嘩しちゃったんですよ、お互い意地の張り合いみたいな感じで)
(なるほど、お前さんも結構苦労してるみたいだな)
「そうそう、話しかけた理由なんだがお前たちパーティーはどうするんだ?俺達は4人だから3人共ってわけにはいかないが、俺達のパーティに入らないか?」
「いいのか?俺みたいなのを誘って?」
仮にも俺はプレイヤーから恨まれるビーターを1層で背負った以上、ここまでサラリと誘われるとは思っていなかった。
「《ビーター》だからって?そんなふうに呼んで非難してるのはごく一部さ」
「じゃあお言葉に甘えるかな。あんた達の役割は?」
「俺達H隊はG隊と取り巻きモンスターの相手だとさ。ボスはリンド派とキバオウ派で独占されてる」
2層ボスは《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》取り巻きモンスターに《ナト・ザ・カーネルトーラス》がいる。この取り巻きモンスターが厄介で、中ボスクラスの力はあるため1層と違って強い雑魚モンスターを相手にするのとはわけが違う。
「2隊で大佐の相手は結構厳しいな。もう1隊はどこなんだ?」
エギルにそう聞いたとき後ろから随分と張りのある声が響いてきた。
「卿らが、我らとナト大佐の相手をするH隊であろう?よろしく頼む、《レジェンドブレイブス》のオルランドだ」
「あ、ああよろしく頼む」
「貴殿の事は覚えている。先のフィールドボス戦ではなかなかの武者ぶりであったからな、既に二つ名で呼ばれているのも納得の強さであった。由来は存じていないが確かビー…」
「ブラッキー、俺たちはそう呼んでるぜ」
オルランドがビーターと言おうとしていたところをエギルが遮った。しかしそんな呼ばれかたをしてたのか?
別に装備の色は1層ボスのLAボーナスが偶然そんな色だったからだし、一緒にボーナスをもらってるカイトはシルバーよりの灰色で俺があっちを着ていた可能性も……いや、多分似合わないな。むしろ黒は不思議と落ち着く、今後もなるべくは黒い装備を着ていこうと密かに決めた。
「よろしく頼むブラッキー殿。なに心配されるな!我ら《レジェンドブレイブス》にかかれば牛男ごとき将軍だろうが大佐だろうがこの宝剣デュランダルの錆びにしてくれようぞ!」
いやそれはただの《スタウトブランド》って剣なんだがと思ったが、それを言うのも野暮な気がした。
こうして話すのは初めてだけど、本当に彼らが強化詐欺に関与してたのか疑ってしまいそうになる。
「……話してみると、いい人たちそうに見えるんだけどな」
どうやらそれはカイトも感じたらしくエギルに聞こえないように俺に呟いてきた。
「そうだな、けどこれは間違いないことだ。どういう思いで関与してるのかは分からないけどな」
その後人数の関係もありカイトとユウキはエギルのパーティに俺は《レジェンドブレイブス》のパーティに入ることになった。そして各隊の準備が終わりいよいよボス部屋に突入することになった。
「よし!では俺達の勝利の扉を開けるとしよう!」
「ちょぉ、待ってんか!」
それを止めたのはキバオウだった。
「なんだ!」
「このままボスに挑むのもええけど、ワイらはあまりにも攻略本をあてにしすぎとちゃうか?ゆうたら悪いけどあれを作ってるんわ、ボス部屋に入ったこともない情報屋や。そんなもんより、この中に確実に自分の目でボスを見た奴がおるはずや、そいつに聞かん手はないな」
そう言いながらキバオウの視線は俺の方を向いていた。1層でβテスターを目の敵にしていた人間の台詞には思えなかったが、確かにあいつの言うことも一理あった。
「あー、少なくともβでは雑魚トーラスと攻撃パターンは同じだった。ただ、《ナミング》をはじめとしたデバフ攻撃を2重で食らうのだけは避けてくれ。《スタン》が2重掛けで《麻痺》になる。βでそうなったプレイヤーは……」
死んでいった、というのは口には出来なかったが皆察しはついたようだった。
「2発目は絶対回避。それを最優先にすればええってことやな。ほな始めよか」
「あ、こら!勝手に扉を!――皆いくぞ!」
「――どういうつもりなんだ、キバオウのやつは」
「少しは考え方が変わったんじゃないか?ゲームをクリアするためには利用できるものは最大限利用する、例えそれがβテスターでも」
―――『ワイはワイのやり方でクリアを目指す』
確か、アスナからの伝言はそんな内容だったはず。そういう意味では、いまだに俺への嫌悪感を隠さないリンドよりは柔軟なのかもしれない。
――――
「ナミング来るぞ!全員回避してデュレイ狙い!――アスナ!…はっ! とにかく回避だ!」
ここ数日アスナと連携戦闘していた癖が出るのか、つい背中にいると勘違いしてさっきから掛け声をかけること数回、なんなんだこのやりにくさは。
「どうした?背中が寂しそうだなブラッキー先生。相棒無しじゃやっぱりやりにくいか?」
ニヤニヤとこっちを見ながら、エギルが近づいてきた。
「あんなわからず屋知らないな!俺はソロが信条なんだ」
「いつもボク達とパーティ組んでるのにね」
「寂しいって言えない厄介な男心ってやつだよ」
カイト達のからかいは無視するとしてエギルの様子が前回と違うのにさっきから気になっていた。
「あんたこそ、あのばかでかいレア物の斧はどうしたんだよ?そんな店売りの中型装備して」
「ま、色々あってな。パフォーマンスは落とさないから心配するな」
エギルに関してはそんなこと心配してないけど、もしかしたら彼らも強化詐欺にあったのではという予想が俺の頭をよぎった。
今も大佐相手に戦い体力バーをラスト1本にした《レジェンドブレイブス》を見ながらこの戦いが無事に終わったあとの事を考えていた。
「あいつらなりだけじゃないな。実力もちゃんとある、負けてられないぞブラッキー殿」
「分かってるさ。でも問題は《大佐》の相手をしてる俺達じゃなく…本体の方だろう」
後ろをちらりと振り向き本隊の方を見ると、今もナミングで何人かがスタンにかかり麻痺の人間も何人か出ている状態だった。
「キリトこのまま本隊の方の麻痺者が増えると立て直しも撤退も出来なくなるぞ」
「そう…だな。ちょっとリンド達に話してくる、カイトこっち頼む」
「任せろ」
俺は後方から指揮を執っているリンドとキバオウに撤退を呼び掛けた。
「リンド!これ以上麻痺者が出たら立て直しができなくなる!一旦引き上げよう」
「なっ!?だってもう半分なんだぞ!ここで退くなんて…」
「たしかに惜しくはある。だけど…」
俺は麻痺になり回復を待っているメンバーを見た。スタンと違いほとんど身動きのとれない麻痺は回復に10分ほどかかる上、現状回復手段がポーションを飲むしかない。
これ以上麻痺者が増えればpotローテが追い付かなくなる。被害が出るよりは幾分も…
「…あと1人。あと1人麻痺者がでるまではがんばってみぃひぃんか?」
予想外にもリンドではなくキバオウがそう提案してきた。
「いいのかキバオウさん?撤退すれば次のリーダーはあんたに…」
「わーっとる。けどな皆タイミングは掴めてきてるし集中もできてる、士気も高い。ポーションもようけ使っとるしの。損すんのは嫌いやねん」
「…分かった、それで行こう提案ありがとう」
どうやらこの二人は俺が思ったよりいがみ合っているわけでもなさそうだ。案外気が合うところもあるのかもしれない。
「基準が明確ならそれでいいさ。ゲージがラス1になったら気を付けろよ!」
「じゃあかしぃ!分かっとるわ!」
案外こういうのも悪くないかもしれない。そう思いながら俺は大佐の相手をしてるカイト達の方へと戻った。
――――
あれから《将軍》の方も俺達《大佐》の方も危なげなく進みお互い体力バーラスト1本をレッドゾーンまで減らしたところだった。
「この調子ならなんとかいけるか」
「今の所特にβとの変更点もないこれなら…」
そう思っていたときエギルが何故か明後日の方向を向きながら俺に話しかけてきた。
「なあブラッキーさんよ、俺はずっと腑に落ちなかったんだが…1層ボスは《コボルトロード》つまりは《君主》だろ?…でもここのボスは《大佐》に《将軍》…どうして格下げされたのかずっと疑問だったんだが――」
そこまで聞いて俺の首筋にピリピリとした感覚が走る。今までの経験上この感じがしたときは大概ろくな時じゃない。
「――どうやら答えがお出ましのようだぜ」
――ボス部屋中央、本隊の退路にそれは悠然と現れた。
「《アステリオス・ザ・トーラスキング》!!」
「まずい!退路をたたれた!」
「俺達で新手の引き付けを!」
いや、距離的にまだ《王》は本隊から遠いまだ攻撃されることはないはず、それなら優先順位は――
「カイト、エギル!まだ本隊との接触に時間がある。俺達は先に《大佐》を倒して敵の数を減らす!G隊!H隊!まずは《大佐》だ!全員フルアタック!防御不要、回避不要、ゴリ押しで倒しきるぞ!」
速攻で《大佐》を倒し俺達はそのまま急いでボスのタゲをとろうとした、しかし《王》は本隊の方を向き息を吸い込むしぐさを見せた。
「まずい!ブレスだ!」
俺がそう叫ぶのとほぼ同時に、《将軍》の相手をしていた本隊にブレスが直撃した。後方にいた何人かがダメージをくらい麻痺になっている。
「H隊は麻痺者を安全圏まで運べ!パワータイプなら二人位抱えて走って見せろ!《ブレイブス》!カイト、ユウキ!俺達は《将軍》を討ち取る!ついてこい!」
我ながらかなり無茶を言っているのは百も承知だ。でもそうでもしないと、被害者を出してしまう。
エギル達が麻痺者を運んでいるのを横目で確認し俺達は次の《王》の攻撃が来る前に《将軍》を倒そうと突っ込んだが、身の丈が《将軍》より一回りも大きくレッドゾーンに突入し暴れまくっているトーラスを倒すのはなかなか骨がおれる。
「キリトまずい!《王》がブレスの構えを!」
ちらりと振り向くとまたもや息を吸い込んでいる《王》の姿が見えた。――ダメだ、間に合わない……!
そう思った次の瞬間、俺達とは反対側のボス部屋の入り口から走ってくる人の姿が見えた。《王》に隠れて誰かまでは見えなかったが、その人影はあっという間に《王》の体を駆け登り、ジャンプをして頭めがけて《リニアー》を打ち込んだ
「なっ、アスナ!?」
そのまま《王》の目線が上を向きアスナを捉えた。
「こんの!覗くな!」
そう叫び空中で《体術》スキルで後方宙返りをしながら蹴りあげる《弦月》を直撃させる。
本当に《体術》スキルを3日で習得するとは思わなかった。だがそんなことは今はどうでもいい。問題は今の状況だ。《王》に絶妙なタイミングで攻撃を仕掛けたためブレスはキャンセルされたがタゲをアスナが取る形になってしまっている。
「無茶だ!1人であんなのと……」
「よそ見するな!《将軍》の攻撃が来るぞ!全員防御!」
何より俺達も、《将軍》の相手をしている真っ最中だ。
「だがブラッキー殿!このままでは……」
「今そんなこと言ってる場合か!!」
オルランドの言いたいことは分かる。だけど今は《将軍》を倒すしか方法は…
「まずい!」
《王》に飛びかかって攻撃しようとしたアスナを尻尾でキャンセルし、そのまま無防備になった状態で殴り付けられ地面に叩き付けられていた。
「キリト前!」
フロア中央で倒れこむアスナに意識が行った刹那、前で《将軍》が武器を振りかぶっていた。
だがそれを受け止めたのは、カイトと《レジェンドブレイブス》だった。
「ブラッキー殿!」
「キリトアスナを!」
俺は剣すらも捨ててアスナの方へと駆け出していた。前方で見えるのはブレスの構えに入った《王》の姿。今の自分の体力から考えてもし直撃を食らえば、そのまま死んでしまう可能性もあった。
だがそんなことは関係なかった。俺は必死に手を伸ばしアスナに覆い被さるように飛びかかりブレスの射線から遠ざけた。
どうやら幸い直撃は避けれたようでアスナの体力にも大きな動きはなかった、だがお互い少しかすった様で《麻痺》マークが体力バーの上に点灯しているのが見えた。
「…馬鹿、なんで…来たの?」
自分の命も省みずにアスナを助けた理由。アスナを死なせたくない死んでほしくない、そんな思いだったのは確かだ。だけどそれがどんな理由から来るのかわからなかった俺は…
「…分からない」
そう、答えていた。
「…なんでだろ。キリト君なら来てくれる気がした」
アスナはそう言いながらボロボロになった顔で、微笑んだ。
だが、今の状態は絶体絶命と言える。二人とも麻痺になり身動きがとれず、なお後ろから《王》が止めをささんと歩み寄ってきていた。
「はなせ、ユウキ!」
「お前達も離すのだ!」
「無茶だよ!今からじゃ間に合わないよ!」
「そうですよ!オルランドさんも馬鹿な事はやめてください!」
あっちを見ることはできなかったけど、どうやらカイトとオルランドが俺達を助けようとしていたらしい。それをユウキと他の《レジェンドブレイブス》のメンバーが止めようとしているのだろう。
「冗談じゃない!このまま見殺しになんかできるか!」
「そのとおりだ!戦友や姫君の盾となって倒れるは騎士の本懐!今征かんでなんとする!!」
『そのとおりです!オルランドさん!』
その声と同時に、何かが《王》の頭へと飛んでいくのが見えた。あれは…
「チャクラム!?」
「…来るのが遅いわよ、まったく」
「すいません!遅くなりました!」
そこにいたのは紛れもなくナーザだった。しかもアスナ同様数日前に付けられたヒゲもとれていて、スキルの習得が終わっていたことを意味していた。
「おいおい…、俺でも3日かかったクエストを…お前ら一体どんなチートをつかったんだよ」
「誰か、ふたりを安全圏へ!他の方は《将軍》を倒してください。《王》は俺が引き受けます!」
――――
「ガラにもなく危なかったじゃないカ、キー坊」
俺とアスナはカイト達に運ばれ《王》と反対側の所で回復を待っていた。そこにアルゴも駆けつけた。
「まったくだよ。助けにいけとは言ったけど、あんな無茶して寿命が縮むかと思った」
「仕方ないだろ、あの時は…必死だったんだよ」
「まあいいじゃないカ、こうしてふたりとも無事だったんだシ」
ここで俺はさっきから気になっていた事をアルゴに尋ねた。
「一体どうやってふたりともあのクエストをクリアしたんだ?」
「あーそれはナ……」
開いた口が塞がらなかった、アルゴの話じゃアスナ達の所へ行く際珍しくハイドをミスして《トレンブリング・オックス》というあの辺によくいる牛モンスターをトレインしたらしい。
そして武器も持っていないアスナ達はどうしたかというと、なんとアスナのいつも着ているフードをさながら闘牛士のように扱い、牛を岩に激突させて割ったというのだ。
つまり岩を割ったのはアスナ達ではなく、アスナ達に誘導された牛モンスターだったと言うことだ。
「そんな裏技があったなんて…」
「まあアーちゃんがいなけリャ、誰も気づかなかったろうネ。キー坊にも見せてやりたかったヨ、あの時のアーちゃんの勇姿」
「もう、言い過ぎですよアルゴさん」
「ん?アスナはもう大丈夫なのか」
「ええ……助けてくれてありがとうキリト君」
アスナは、俺には顔を見せずにお礼を言った。
「あー…その……《パートナー》に死なれると困るんだよ」
ものすごく照れくさい事を言ってる自覚はあった。だけどそれが一番自分でしっくり来る理由だった。
「キリトは今日1日調子悪そうだしな。後ろに居てくれる人がいなくて」
「そうなの? キリト君」
カイトの奴余計なことを、という目線を送ったが『事実だろ?』と言いたげな顔をしていた。
「……しょうがないだろ、俺についてこれるやつは他にはカイトとユウキしかいないんだから」
「ふーん……、キリト君は私がいないとダメなんだ」
「そこまでは言ってないだろ!」
「はいはい。キリト君も回復終わったでしょ? 私が後ろにいてあげるから、早くボス倒しちゃいましょ。」
そう言ったアスナの顔は少し楽しそうというか、嬉しそうだった。
「ああ、もちろんだ!」
『おーい3人とも!早くこっちを手伝ってくれ!」
俺達の回復中に《将軍》を倒し本隊含めレイド全隊は《王》との戦闘中だった。
「いい?キリト君。私はちゃんと有言実行して3日で終わらせたんだから、ちゃんとあなたもLAとって見せてよ。私にとられる前にね」
「もちろんだ」
見ると、ナーザに来た《王》の攻撃を全員で受け止めていた。
「キリト!俺が弾くからその隙に決めろ!」
「分かった!任せる」
そう言ってカイトはタンクの盾を踏み台にして《王》の頭まで飛び突進技《ソニックリープ》をヒットさせた。その攻撃で《王》は怯みディレイができる。
「キリト!」
「ブラッキー殿!」
「やっちまえ!」
「また、あいつかいな!」
ここまでお膳立てされて燃えない俺じゃない。
「アスナ、おぼえてるか?同時に行くぞ!」
「もちろん、任せて」
俺とアスナは《王》の正面まで駆けて思いっきり踏み出しジャンプをする。そして同じタイミングで俺は《ソニックリープ》をアスナは《ストリーク》をうつ。
数日前のフィールドボス戦で俺が使った空中ソードスキル。アスナには説明しただけだったが見事に一発で決めて見せた。
そしてダメージエフェクトを確認し、俺達はボスの頭に乗り《弦月》を同時に繰り出す。すると今度は大きく怯んだ《王》に俺達は最後の一撃を繰り出す。
「これで!」
「終わりよ!」
俺の《レイジスパイク》とアスナの《リニアー》が《王》の頭にクリーンヒットし、そのままポリゴン片となって弾けとんだ。
「おつかれ」
「お疲れさま」
着地した俺達は、お互いに自分の武器にそう言っていた。アスナと顔をあわせてふたりとも吹き出すように笑いだして今度はパートナーを労う言葉を伝えた。
「おつかれ、アスナ」
「おつかれさま、キリト君」
皆のところへ戻るとカイトやナーザ、アルゴ達が祝福に来てくれていた。
「おつかれふたりとも」
「おつかれさま、最後のすごかったねえ」
「なんていうかさすがですね」
「息合いすぎだヨ、お二人さン」
「一番凄かったのは君だよ、ナーザ。まさかぶっつけ本番であそこまでチャクラムを使いこなすとは思わなかった」
「皆さんのおかげです。やっと自分のなりたいものになれた気がします。……これで、やっと…」
「お、エギルおつかれ」
「お疲れさん―――だけで、済ませたかったんだがな」
そういうと、エギルは顔を厳しいものにかえナーザ問いかけた。
「あんた、この間まで鍛冶屋をやっていたな?」
「……はい」
「なんで戦闘職に転向したんだ?そんなレア武器までもって、鍛冶屋ってのはそんなに儲かるのか?」
見ると大勢のプレイヤーが集まっていた。それが全員強化詐欺の被害者たと気付くのは容易かった。
「別に今さら恨み節を言いたい訳じゃない。――ただ皆俺と同じ思いをし、同じ懸念を抱いているみたいでな」
まずい、このまま公開裁判なんてことになったら……
「ま、待ってくれ!この武器は俺があげたんだ!―「いいんですキリトさん」
「皆さんのお察しの通り、僕は皆さんの武器をエンド品とすり替え騙しとりました」
「その武器はどうした?」
「すべて、お金に変えました」
「金での弁償は可能か?」
「いえ…もうできません。お金は全部飲食や宿代で使いました」
その言葉を聞いた時、ナーザはすべての罪を一人で受け止めるつもりなのだと確信した。己に犯罪行為をさせた仲間すらかばって。そして我慢できず詰め寄っていた一人のプレイヤーが彼に怒りをぶつけた。
「オマエェ!分かってんのか!大切な剣を失くして!俺達がどれだけつらい思いをしたか!どれだけのもんを奪ったのか!…それを、うまいんもん食っただぁ!?部屋代に使っただぁ!?挙げ句に自分はレア武器仕入れてボス戦でヒーロー気取りかよ!! やっちゃダメだけどよぉ…俺は今、あんたをったたっ斬りたくてしょうがねえんだよ!!」
「わかります…、覚悟の上です。恨みもしません、どうかお気の済むように」
あの時ナーザは、俺達への感謝の言葉の後に「これで…もう」と言った。最後まで聞き取れなかったが、もう思い残すことはない。きっとそういう意味なのだろう。
けど、やっぱりそれだけはさせる訳にはいかない。もしここで彼が処刑されてしまうようなことになれば、ある意味合法的にPKをすることを許してしまうことになる…。ここまで考えたところでとある一つの結論が俺の頭をよぎった。
もしかしたら、黒ポンチョの男の狙いはこれだったのではないか?同じような被害が同じ人間から出ていれば、いずれ嫌でもナーザのところへたどり着くそうなれば同じ結論になっていたはずだ。とすればそいつの狙いは俺達になし崩し的にPKをさせ、PKの心理的ハードルを下げることに有るのではないかと。
ならばなおのこと彼を殺させる訳にはいかない。そう思い一歩前に出た俺をアスナが制止した。
「待ってキリト君、お願い。もう少しだけ様子を見て」
「だけどこのままじゃあ!」
『待たれよ』
紛糾する場を静かにしたのは、《レジェンドブレイブス》のオルランドだった。
「貴卿らが手を汚すには及ばん―――この者は我らの…いや…こいつは、俺達の仲間です」
彼らは全員でナーザと並び、全員に土下座をしながら続けた。
「――強化詐欺をやらせていたのは俺達です」
―――――
俺達は、3層の転移門をアクティベートするために階段をひたすら歩いていた。
「…なんで俺に黙ってたんだよ」
あの後、オルランドが自らに剣を突き立て命がけで贖罪を果たそうとした。それをギリギリのところでリンドが止め、「強化詐欺の首魁オルランドは今ここで死んだ」と何処かのアニメで聞きそうなセリフを平然と言ってのけ、みんなのことを納得させた。
その後聞いた話だと、驚いたことにみんな事の真相を知っていたのだという。そのうえで彼らに罪を贖うチャンスを与えた…ところまでは良いのだが。俺はそんなことつゆとも知らなかった。教えてくれなかったのだ、今目の前で悠然と歩くアスナが。
「だってキリト君嘘苦手そうなんだもん。演技とか直ぐにバレそうだし。その点リンドさんとキバオウさんは悪くなかったわよ」
「カイトたちも知ってたのか?」
「うーん…まあな」
「でもボク達も結構ドキドキだったんだよ。もしかしたらってことも有るし」
どうやら本格的に俺だけ除け者にされていたらしい。アルゴの野郎も今度問い詰めてやらないと。
「…ただ、アスナのやったことは結果的には正しかったかもしれないが、かなり危ない橋だったのは間違いない。出来れば今度からは相談してほしいなああいうことは」
カイトが顔色を変え、アスナに忠告するように告げた。――そうアスナ達の予定ではオルランドの命がけの償いなど予定になく、あのまま終わっているはずだったのだ。
「ごめんなさい。それに関しては完全に想定外だったわ、もしリンドさんが機転を利かせてくれていなかったらと思うと…」
「まあその時はきっと、そこの黒い剣士が我慢できずにまた全部かぶってた気もするけど」
あの直後、レイドメンバーの一人が急に強化詐欺の被害にあった人間の一人がその影響で弱い装備での攻略を余儀なくされ、モンスターにやられて死んだと告げたのだ。そうなると場の空気が一気に変わり、彼らの罪は詐欺から間接的なPK―殺人へと変わり、雰囲気が完全に処刑やむなしの空気になった。それをリンドがとっさの対応を見せオルランドの贖罪で事なきを得たのだ。
「……2人共、3層に行く前に少し大事な話がある。杞憂なら良いんだけど」
カイトが急に、俺達の方へと向き直り話を切り出した。
「最初に気づいたのはユウキだったんだけど、さっき死人が出たって彼らを糾弾した奴がな――同じなんだ、1層でキリトのことをLA狙いのビーターだって叫んだやつと」
「もしそれが本当なら、偶然…にしては」
「ああ、出来すぎてる。もしかしたら例の黒ポンチョの男と同じ狙いなのかもしれない」
「………」
みんなの空気が少し重くなった。恐らく今後も同じようなことが有るだろう、でもこれから起きるかもしれないことを今考えても仕方がない。そう思った俺は雰囲気を変えるために大きく手を叩いた。
「その事はまた今度考えよう。それに今は楽しい話をしようぜ。SAOは3層からが本番なんだから」
「…それもそうだな」
「ねえキリト君、3層からが本番ってどういうこと?」
「…それはなあ―――」
俺は最近すっかりこの新しいパートナーさんの説明役になってしまったなと思いながら、3層への階段を登っていった。
ということで2層終了です。
中途半端な所で切るわけにもいかず、いつもよりさらに長くなってしましました。
原作小説的にも1巻が終わったところです。
そして本作的には《レジェンドブレイブス》はこれで終わりではありません。
今後大事な役割がある予定です。そこまではまだ随分先になりますが。
そして次回から3層ということであのダークエルフの彼女が登場します。
原作でも大きな影響を与えている彼女、しっかりと書いていきたいと思います。