ソードアート・オンライン~黒の剣士と灰の剣聖~ 作:カノン・キズナ
突如としてはじまりの街の中央広場へと強制転移させられた俺たち。
急な出来事に驚きつつ周囲を見渡すと、どうやら自分たちと同じような状況にあったのであろうプレイヤー達が各々に混乱や苛立ちの声を上げていく。ざわめきが大きくなる頃突如として空に赤い市松模様が現れた
それを見た誰もが、運営から説明があるんだと一安心したことだろう
しかしそれはそこから現れたフードをかぶった巨人によりあっけなく覆されることとなる
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
その声を聞き俺はようやく現れたかとその後の言葉に耳を傾けた
『私の名前は茅場晶彦、今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う』
『しかし、ゲームの不具合ではない。繰り返すこれは不具合ではなく《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』
『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることは出来ない』
『……また、外部の人間の手による、ナーブギアの停止あるいは解除もありえない。もしそれが試みられた場合…』
『ナーブギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し生命活動を停止させる』
――あの男は、現実世界でこれはゲームであっても、遊びではないと言った。
『そして十分に留意してもらいたい。諸君にとって《ソードアート・オンライン》はすでにただのゲームではない』
『もう一つの現実というべき存在だ。……今後ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に』
――それは一切の例外なく脱出することのかなわない
『諸君らの脳は、ナーブギアによって破壊される』
――デスゲームだ。
そう今この場にいるすべての人間が視界左上に見えるヒットポイントが文字通りの命の残量これがなくなった場合ゲームからも人生からも永遠にログアウトすることになる
それを逃れる手段は唯一つ…
『諸君らがこのゲームから開放される条件は、アインクラッド最上層、第100層までたどり着きそこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすれば良い。その瞬間生き残った全プレイヤーが完全にログアウトされることを保証しよう』
「で、できるわきゃねぇだろうが! ベータじゃろくに登れなかったって聞いたぞ!」
近くでクラインがこう叫ぶ。確かに彼の言うことは正しい、事実βテスト中の記録を見ても全テスターが2ヶ月かかって10層の攻略すらいってないのだ。単純に計算しても100層までたどり着くのに数年はかかる計算だ
そしてこの場の人間の多くが《本物の危機》なのか《オープニングイベントの過剰演出》なのかを測りかねている。
そんなプレイヤーの考えを読んでいるかのように茅場晶彦はこう続けた
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実である証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに私からのプレゼントを用意してある。確認してくれ給え』
その瞬間全てのプレイヤーがメインメニューを開き、自身のアイテムストレージを確認すると《手鏡》というアイテムが表示されていた。そして誰もがそれを選択しオブジェクト化された手鏡を覗き込んだ。
次の瞬間光りに包まれ光が消えたときには周囲の状況は一変した
…いや違う、正確には周囲の風景は変わっていないが周りにいたプレイヤーの姿が変わっていた
「お前…誰?」
「おい…誰だよおめぇ」
それはカイトの近くにいたキリトとクラインも例外ではなかった。当然カイト自身も
「お前ら、クラインとカイトか?」
「おめぇら、キリトとカイトか?」
3人が周りを見渡すと先程までのファンタジーじみた外見の群れではなかった。それどころか男女比すら変わっているように思えた
「そうかナーブギアが顔の細かな作りと初期設定のキャリブレーションで体格を再現しているのか」
俺がそうつぶやくと、キリトたちも「なるほど、そういうことか」と納得していた
つまりこれは限りなく現実に近い仮想…いやここにいる者にとっては仮想ですらなく、今現実世界でナーブギアをかぶっている自分も含め両方が本物なのだというあの男のメッセージなのだろう
頭をかきながら両目を光らせクラインは叫んだ
「なんでだ!?そもそもなんでこんなことを………!?」
それを聞いてキリトはすかさず真上を指さしながら
「もう少し待てよ。どうせそれも、すぐに答えてくれる」
そういったキリトの言葉通り上空からまたあの声が響いた
『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は――SAO及びナーブギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか? これは大規模なテロなのか? あるいは身代金目的の誘拐事件なのか? と』
――違うあの男の目的はそんなものじゃない……
『私の目的はそのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜならこの状況こそが私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を作り出し鑑賞するためにのみ私はナーブギアを、SAOを造った。そして今全ては達成せしめられた』
――そうあの男にとってすでにここは観察の対象、他人のゲームを鑑賞しているに過ぎない
『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』
そう言うとローブの巨人は静かに消えていった
そしてこの時点になってようやく1万のプレイヤーが自体を飲み込みだしたのか反応を見せた。頭を抱える者、悲劇に泣き叫ぶ者など様々だ
――無理もないかいきなりゲームに囚われた囚人にされたのだから
自身ですらこの状況に小さな恐怖を覚えていた、こうなることを知っていた俺ですらそうなのだ何も知らないプレイヤー達が混乱するのも当然だった。
だがそんな中、隣りにいたキリトはこの状況をいち早く理解しようとしていた
「カイト、クラインちょっと来い」
先程草原で練習していたときの姿とはうってかわって小柄でやや中性的な顔立ちのキリトは二人の腕を掴み足早に街路へ入り影に飛び込んだ
「ふたりともいいか、よく聞け。オレはすぐにこの街を出て、次の村へ向かう。二人も一緒に来い」
この状況下で1万人の中で一番冷静な判断が出来ている。少なくとも俺はそう感じた。
「あいつの言うことが本当なら、これからこの世界で生き残っていくためには、ひたすら自分を強化するしか無い。ふたりとも知ってるだろうけど、MMORPGってのはプレイヤー間のリソースの奪い合いなんだ。システムが供給する限られたアイテムと金と経験値をより多く獲得したやつだけが強くなれる。……このはじまりの街周辺のフィールドは、同じことを考える連中に狩りつくされて、すぐに枯渇するだろう。モンスターのリポップをひたすら探し回るハメになる。今のうちに次の村を拠点にしたほうが良い。俺は、道も危険なポイントも全部知ってるから、レベル1の今でも安全にたどり
つける」
初対面では人との付き合いが苦手そうに見えたキリトが随分長く、しかしおよそこの手のジャンルのゲームとしては重要なことをカイトとクラインに話していた。だがクラインは少し顔を歪めて
「でも…でもよ、おりゃ他のゲームでダチだった奴らと一緒に徹夜で並んで、ソフト買ったんだ。そいつらもログインして
さっきの広場にいるはずだ。置いて……行けねえ」
その意見も間違いではなかった。おそらくこの男は陽気で人好きのする面倒見のいい男なんだろう キリトが少し俯き加減になっている。おそらくクラインの気持はよく分かるけどそれだけの人数を背負うと育成効率が悪くなり、何より自身で守りきれる保証はなくなってしまうだろう
一歩間違えれば何人も死人が出るような重みを彼は背負うことは出来ないだろう。そんなもの俺にだって背負える物ではない。かといって見捨てて行くのも辛い、そんな顔をキリトはしている
――少し助け舟を出すか
「俺はついていくよ、キリト。クラインも一緒に行けないのは残念だけどいつか必ず生きて会おう、3人の約束だ」
「おおよ、いつかぜってぇお前らに追いつくからよ、そんときは一緒にクエストでも行こうぜ」
そう言うとキリトは顔を上げた、先程より少し顔つきが楽になっている気がする
「もちろんだ、必ず生きて3人で再会する。約束だ!」
もちろん明日死ぬかもしれないこの世界で約束という言葉がどれほどの力を持っているか分からない。けどいまいちばん大事なのは気持ちを押しつぶされないこと。毎日身体と心をすり減らしていくであろうこの状況で楽観的でも少しの希望を持つことが大事だろうと俺は考えた。
「それじゃあ、俺達はもう行くよ。何かあったらメッセージ飛ばしてくれいつでも相談に乗るから。じゃあ、またなクライン」
「おう、お互いに頑張っていこうぜ!」
そう言って二人はクラインとフレンド登録をして、次の村の方角へと駆け出した
「おい、キリトよ!おめぇ、本物は案外カワイイ顔してやがんな!結構好みだぜオレ!」
「カイトも、優しそうなイケメン顔で羨ましいくらいだ!」
二人は軽く苦笑いしながら振り向き、声を合わせるように言い返した
「「お前もその野武士ヅラのほうが十倍似合ってるよ!」」
そう言うと二人はまた駆け出した、後ろで「うるせぇよ!」という声を聞きながら
そして二人は、広い草原と深い森を超えた先にある小村へと向かって走り続けた