ソードアート・オンライン~黒の剣士と灰の剣聖~ 作:カノン・キズナ
正直夜の森に、他に誰かいるという事は少し考えにくかった。今は俺も普通に戦闘をこなしているが、キリトがいなければこの時間帯にここにいることはなかっただろう。
とはいえ、叫び声が聞こえたということは、誰かの身になにか起こっているのは間違いない。少しの疑いも持たず、俺達はは声のした方へ全力で走った。
すると、索敵スキルをセットし俺より少し見える範囲の広いキリトが声の発生源を見つけた。
「あそこだ! モンスターが大量に群がってる!」
「ネペントがそんなに群がることあるか? 今までその気配は無かったけど」
少なくとも1時間半ほど狩っていた中にはそんなまとまって来ることはなかった。こちらを見つけたやつが散発的に来ることしかなかったため、疑問に思った。
「とにかく、話はあとだ! 行くぞカイト!」
「ああ、任せろ!」
二人はネペントの集まっているところに水平斬撃技《ホリゾンタル》で斬り込む。すると固まっていた影響もあるのかお互い2体ずつ倒し、ネペントの群れていた中心に一人のプレイヤーがいるのを発見した。
「大丈夫か!? カイト、ポーションを!」
「わかってる――大丈夫か?しっかりしろ」
そういって倒れ込んでいたプレイヤーを抱えるように起こすと……俺はこんな状況だが一瞬目を奪われた、ネペントの群れに襲われていたのは紫色の髪の小さな女の子だった。だが今は悠長にしている場合ではない。詳しい事情は後で聞くことにして彼女にすかさずポーションを飲ませた。
彼女の体力ゲージを見るとレッドゾーンに入っていた、かなり危なかったようだ。
「おい、大丈夫か?」
「う、うぅん…誰だかわかんないけどありがとう。助けてもらちゃって」
「その言葉はここを切り抜けてから聞きたいな、立てるか?」
ひとまず体力がすぐに無くなることは避けれたが、モンスターに囲まれているこの状況は変わっていない。キリトがすでに3体ほど倒したようだが、周りを見る限りまだ15体近くは確認できる。
「うん、ありがと。助けられっぱなしじゃ良くないしボクももう少し頑張るよ」
「分かった、キリトこの囲い突破できそうか?」
「難しいだろうな、多分さっきまで実付きがいたんだろう。これだけの数のネペントがよってくるってことは」
「実付き?花付きとなにか違うのか?」
「ああ、実付きは所謂罠なんだ。実が破裂すると強烈な匂いを出して周りにいるネペントを集める。ちょうど今みたいにな」
「そういえば、ボクさっきちょっと違うやつを斬ったかも」
お互い背中合わせに立ち近づいてきたネペントを順番に処理していると、彼女が気づいたようにそう呟いた。
少し申し訳無さそうな顔をして、ごめんねボクのせいでと言いながら。
「こうなった以上、切り抜けられなければ3人共待ってるのは死だけだ、カイトとえっと…」
「ボクはユウキ」
「ユウキ、今はお互いの死角をカバーして確実に倒していくしか無い。行けるか」
「もちろん」
「ボクのせいでこうなっちゃったんだ、無理してでもやるよ」
「よし、行くぞ!」
「「おう!」」
そこからの出来事ははっきり言ってあまり覚えていない、とにかく死に物狂いで必死にネペントを斬り続けた。ポーションを飲んでいる余裕もなくギリギリのラインで最低限の動きで攻撃を避ける、出来なければ待っているのは体力ゲージが無くなるまでの蹂躙だったからだ。
俺が落ち着いて周囲の状況を確認できるようになったのは十数分後、粗方のネペントを倒し少し息を整える余裕ができてからだった。隣ではユウキと名乗った少女が膝に手を付き、同じく息を整えていた。
――キリトは何処だ?
ふとキリトの姿が見えず、周りを見渡すとユウキが「さっき、そっちの草むらに入っていったよ」と教えてくれた。ユウキの言ったとおりキリトは草むらに身を隠し何やらサーチングをしているようだった。
「どうしたんだ、キリト」
「見ろ、あそこに花付きがいるそれも3体も。怪我の功名かもな最悪ゲガどころじゃなかったけど」
キリトの言う方角を見つめると確かに先程まで文字通り飽きるほど見たネペントの頭に花がついているやつがいた。
「キリトどうする?一気に仕掛けるか?」
「そう…だな、恐らくさっきの騒ぎで通常種はほとんどいないはず。一気に行こう」
「ボクももうひと頑張りできるよ」
小休止しこちらに来たユウキも参加し花付きとの戦闘が始まった。しかし結果は呆気ないものだった、予想外のネペントの大群との戦闘もあり二人のレベルは4へと上がりユウキとの息もあってきたことで1体ずつ確実に倒すことに何ら苦労はなかった。
そして最後の一体がポリゴン体となって消滅し、ようやく3人の顔に安堵の表情が出た。
「おつかれ、グッジョブだ二人共」
「正直ニュービーにはかなりハードな数時間だったけどね」
「ボクも、もうへとへとだよ~」
「とりあえず村に戻って宿をとろう、ユウキに事情も聞きたいし、今日の出来としては上出来だろうし」
村に戻り宿を取ろうとしたとき、ユウキが宿代分の所持金がないこと発覚し、俺達は部屋のとり方で頭を大いに悩ます結果になったのだが、当のユウキ本人が「ボク全然気にしないから良いよ」と言って結局3人部屋で宿を取ることになった。
もちろん、俺達は気にするんだけどなと言う心の声を二人共声には出さず我慢していたが。
3人は借りた部屋に入り、落ち着いたところでキリトが今まで俺も気になっていたことをユウキに聞いた。
「どうしてユウキは森のあんなところにいたんだ?クエストを受けてた様子もなかったし」
さっき、クエスト完了の報告におかみさんのところに行ったとき、ユウキだけがクエストのことを知らなかった。その時点でβテスターの可能性は少なそうだ、かといって初心者に偶然たどり着けるような場所ではないことを俺は理解していた。
「実はね、信じてもらえないかもしれないけどさ、ボク別のゲームにいたはずなんだ。急に光に包まれたと思ったらあの森のなかにいて…」
「じゃあ、ここがSAOだってことも知らないのか?」
「SAO…これがそうなんだ、発売されるって噂くらいは聞いてたけど」
全く違うゲームにいたということはナーブギアが発売されてから稀にはあった。混線などが原因で意図しない動きをする報告が僅かだが存在していたが、よりにもよってこんなところに飛ばされるとは。少し彼女に同情しつつ俺達は今自分たちに起きている状況をユウキに説明した。
「じゃあ、クリアするまではここから出られなくて、その間に体力ゲージが無くなっちゃったら現実でも死んじゃうってこと?」
「そういうことになる、茅場晶彦の言うことが事実なら」
キリトがそう告げると、ユウキは少し俯きながら何かを考え込んでいるようだった。
「とにかく、悩むのもいいけど今日はもう寝よう、アニールブレードも幸いカイトたちの分も取れたしあとは明日から慣れていくだけさ」
部屋を暗くし、ベッドに倒れ込んだカイトだったがどうにも寝付くことが出来なかった。あれだけの命のやり取りをした後なので疲労は間違いなくあったが、妙に目が冴えてしまっていた。まだ脳が興奮状態なのかもしれないなと思いながら15分ほど横になっていると小さい声ではあるが泣いているような声が聞こえてきた。
「…っく……ひっ……グス」
キリト…ではない、部屋を暗くした直後にはもう寝息が聞こえていたので間違いない。となると、泣き声の主は一人しかいなかった。
「眠れないのか? ユウキ」
「あっごめん起こしちゃった?すぐ寝るから安心して」
わかったしっかり寝ろよと、言ってこの場を流すことももちろん出来ただろう。しかしカイトは何故かユウキを放おってくことが出来ず、起き上がり彼女にたずねた。
「俺なんかじゃ力になれないかもしれないけど、話したほうが楽になることもあるぞ」
「…ごめんね、なんだか気を使わせちゃったみたいで」
「俺がしたくてしてるんだ、気にせず話してみろよ」
「…今になって急に怖くなってきちゃってさ……さっきカイトたちが助けてくれなかったら死んでたかもって思うと」
ユウキの思いはある意味当然なのだろう。いきなり違うところに連れてこられ次の瞬間には死ぬかもしれないデスゲームに巻き込まれたのだ。もし見た目通りならユウキの年齢は俺の2,3は下になるだろう。そんな小さな子が突きつけられた状況としてははっきり言って重すぎる。
どんな言葉も気休めにしかならないと感じた俺は座っていたユウキの正面からそっと頭を抱き寄せた。…昔姉さんがそうしてくれたように
「大丈夫……大丈夫だから」
すると、少し落ち着いたのか小さな声で「ありがとね」という言葉が聞こえてきた。そして数分立たずに寝息が聞こえてきたので、カイトは起こさないようにそっとベッドに寝かせて、布団をかけた。
「おやすみ、ユウキ」
「おつかれ、カイト」
寝ようとベッドに横になると、さっきまで寝ていたはずのキリトが声をかけてきた。
「寝てたんじゃないのか」
「まあ…そうなんだけど、な。明日も早いからカイトも寝た方が良いぞ」
「ああ、おやすみ」
次の日の朝目が覚めると、部屋にはユウキだけがいた。
「あれ、キリトはいないのか?」
「おはよう、カイト。キリトなら朝のウォーミングアップだとか言って出ていったよ」
「元気なやつだな、一人でレベリングか」
「少ししたら戻ってくるから朝ごはん食べようって言ってたよ」
「ゲームの中とはいえ、しっかりお腹が空いて眠くなるのは不思議な感じだな」
外の様子を窓から確認すると、全く人のいなかった昨日に比べまばらにプレイヤーの姿が見えるようになっていた。だが恐らく今この村にいるプレイヤーの殆どは昨日からSAOを始めたビギナーはいないだろう。俺たちのようにβテスターのキリトについてきていれば話は別だが、どうもパーティを組んでいそうなプレイヤーはここからは見えない。
「ただいま、戻ったぞ。おはようカイト、起きてたか。」
「一人でレベリングなんて水臭いじゃないか」
「そうだよー、ボクも行きたかったのに」
「悪かったよ、前からの日課みたいなものだからさ、それに二人にも役に立つ人を見つけてきたから許してくれ」
「役に立つ人?」
「やーやー、はじめまして、おふたりさン。始めまして、オレっちはアルゴ、情報屋サ」
キリトが二人に紹介したのは少々独特な話し方をする情報屋?のアルゴだった。フードを被り、はっきりと顔は見えないが恐らく女性プレイヤーなのだろう。背格好は小柄なキリトよりも更に小さくユウキより少し大きいくらいだ。
「始めまして、ボクはユウキ。よろしく」
「カイトだ、よろしく」
「フムフム、ユーちゃんにカー坊だナ。よろしくお願いするヨ」
「それでキリト、役に立つことってのは?」
「ああ、このゲームをする上で大事な物をアルゴが持ってるんだ、二人にもさっきの頼むよ」
するとアルゴはメニューを操作し、アイテム欄から本のようなものをオブジェクト化しカイトとユウキに渡した
「それはナ、読んでもらえば序盤の動きはバッチリ、アルゴ印の攻略本サ」
「すごいねー、まだ二日目なのにもうそんなのがあるんだ―」
表紙には大丈夫、アルゴの攻略本だよと書かれていて中には1層に出てくるであろうモンスターやクエストの情報などが網羅されていた。確かにこれがあれば慣れていないビギナーでもそれなりに攻略を進められるだろう。ただ、それを見たカイトは一つ違和感を覚えた。
「でも、どうしてここまで詳細な情報がすでに出ているんですか? いくらなんでも早すぎじゃ…」
「それについては、オレっちからは話せないなナ。情報の入手方法は情報屋の命だからナ」
そこで俺は一つの予想がたった、流石に昨日始まったゲームでここまで踏破したとは考えにくい。とすれば考えられるのはβテスト時の情報だということだ。彼女に情報提供したβテスターがいるのか、あるいはアルゴ自身がβテスターなのか。きっとそれをアルゴに聞いてもはぐらかされるんだろうが。
「それかラ、これはオネーサンからの忠告だけど…」
「情報を鵜呑みにはせず最後は自分の目で確かめること…ですか?」
「そのとうり、察しのいい子はオネーサン嫌いじゃないゾ」
「まあ、今回は初顔合わせということで、タダにしとくヨ。今度からは情報にはそれなりの対価をもらうからよろしくナ」
「おい、待てアルゴ。俺にはさっき500コルで売ってなかったか?」
キリトが、アルゴに問い詰めようとした瞬間すでに彼女はその場にはいなかった。恐ろしいほどの逃げ足だ。
「すごいね、あっという間にいなくなっちゃったよ」
「やれやれ、どうやら噂は本当らしいな」
「噂?」
「鼠のアルゴと5分以上話すと100コル分の情報が盗まれるって言われてる」
「それはまた…妙に納得できるな」
「まあいいさ、持ちつ持たれつだろうし命がかかっている以上情報は大事だからな」
「朝ごはん食べて早くレベリング行こうよ、ボクお腹へっちゃった」
「そうだな、それでキリト今後の予定は?」
「とりあえずは迷宮区の近くにあるトールバーナを目指すことかな。まだ安全マージンは取れてないからレベリングしながらだけど」
まだ先の見えない旅路だが俺達はアインクラッド第1層攻略に向けトールバーナを目指した。