ソードアート・オンライン~黒の剣士と灰の剣聖~   作:カノン・キズナ

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第5話 自分の生きた証を

「通常攻撃と違ってスキルキャンセルはかなりタイミングはシビアだから体で覚えるしか無いんだ」

 

 

 

「こう…か、違うなもうちょっとタイミングをずらして…」

 

 

 

「ボクもやってみたいなー」

 

 

 

「後でユウキにも教えてやるよ」

 

 

 

 SAOがただのゲームではなく、命がけのデスゲームと化して2週間が経過した。だがいまだに1層はクリアできず、死亡者は1000人程度になるという。βテスト2ヶ月の間に俺は10層攻略中、それ以外のテスターも8層程度まで行っていたことを考えるとペースはかなり遅い。

 

 

 その理由はいくつかある、死んだら終わりという状況でプレイヤー全体が慎重にならざるをえず、ペースが落ちていること。そして、今1層で一番の問題となっていることだがリソースの奪い合いとなる最初の状況で、βテスターがビギナーを置いていったため経験値効率の悪い状況での強化を余儀なくされていることだ。

 

 

 

 当然、そのβテスターには俺も含まれる。こうして毎朝カイトとユウキに色々と戦闘に役立つことを教えているのも彼らを守りたいという思いと、多くのプレイヤーを置いてきたことへの罪の意識が少なからずあるからだろう。

 

 

「やあっ!――ふう、だいぶ慣れてきたな」

 

 

「カイト少し休憩するか?」

 

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 

「じゃあ、その間にボクも練習しようっかな」

 

 

 

 本来スキルキャンセルはあまり多用される技じゃない。本来なら片手剣使いは盾を装備できるからだ。けど俺も含めたこの3人はみんな盾を装備していない、所謂盾無しソードマンと言うやつだ。死なないということに置いて何より優先されるはずの盾を装備しないのには、スキルスロットの空き枠や資金的な理由もあるけど速度が落ちるのが俺の戦闘スタイルに合わないからだ。

 

 

 ただそうは言っても、スキルキャンセルは元々高等テクニックだ。タイミング、位置取りなどがかなり重要になるからだ。正直カイトの上達速度には驚かされた。すでにコボルト程度のモーションなら難なく合わせていけるだろう。

 

 

「こんなに早くスキルキャンセルを覚えるとは思わなかったよ」

 

 

 

「結構必死だけどな、でもダメージディーラー3人だから自分で攻撃を捌くすべは覚えておきたかったし」

 

 

 

「俺も、油断できないな。いつの間にかカイトのほうが強くなってるんじゃないか?」

 

 

 

「毎日朝と夜にレベリング行ってるくせに何言ってるんだよ。俺とユウキがまだレベル8なのにキリトもう10まで行ったんだろ?」

 

 

 

「まあそうなんだけど…多分レベリングはしばらく休憩かな、そろそろ経験値量も減ってきたし」

 

 

 

 100層あるアインクラッドは各層ごとに、敵のレベルも当然変わる。そしてそのレベルは別の層に行かなければ変わることはなくずっと同じ層でレベリングしていればレベルアップと反比例して取得経験値は下がる。およそその目安がフロア数+10、これは同時に安全マージンとも言われる。

 

 

 その層で難なく上げられるレベルのおよその上限、それを超えていれば不測の事態にも対応できる可能性が上がるというわけだ。

 

 

「やあやあ、朝から精が出るナ、3人共」

 

 

「なんだ、アルゴか何しに来たんだよ」

 

 

 

 フードを被り、ヒゲのフェイスペイントをつけたアルゴが訪ねてきた。

 

 

 

「ひどい挨拶じゃないカ、キー坊オネーサンは悲しいゾ」

 

 

 

「あっ、アルゴだこんにちはー」

 

 

 

「ユーちゃんはいつもいい笑顔だナ、キー坊にもこの1割でも優しさがあれバ…」

 

 

 

「無いものは出せない。出来れば、100コル分の情報が盗まれる前に帰ってほしいんだけどな」

 

 

 

「ニャハハ、まあそう言うナ。今日はキー坊たちにお願いがあって来たのサ」

 

 

 

「珍しいね、アルゴが頼み事なんて」

 

 

 

 たしかにカイトの言うとおりだ。いつも依頼することはあっても依頼されることは少ない…というか無い。情報収集も全て一人でやっているという話だし。

 

 

 

「ちょっと困ったことになっててナ、オレっちの名前を使って偽情報を流してるやつがいるらしイ」

 

 

 

「それはまた…面倒な話だな」

 

 

 

 鼠のアルゴといえば現状情報屋としては一番信頼できる情報屋なのは間違いない。だからこそ《鼠》の名を出せば疑う奴はいないだろう。

 

 

 

「それでどんな偽情報が?」

 

 

 

「西の森の洞窟に、隠れログアウトスポットが有るって情報が流れてル」

 

 

 

「西の森の洞窟…あそこには確かコボルトの巣があるだけだろ」

 

 

 

「そうサ、ログアウトスポットなんてものはなイ。けど状況が状況なだけに藁にもすがる思いで洞窟に向かうビギナーがあとをたたなくてナ」

 

 

 

 気持ちはわからなくもない。ゲームクリアするまで現実世界に戻れない状況でもしそんな情報があれば実際そこに何が有るか知らないプレイヤーは迷わず確かめようとするだろう。その後待っている事実には目を背けたくなるが

 

 

 

「もしかして、今もそこに向かってるプレイヤーいるのか?」

 

 

 

「そういうことダ。キー坊たちにはそのプレイヤーの救助の手助けをお願いしたいのサ」

 

 

 

「そういうことなら手伝うさ、代わりに一つ頼みたいことが有るんだけど」

 

 

 

「なんだイ?」

 

 

 

 俺はゲーム開始から2週間たち気になったことがあった。それは…

 

 

 

 

 

 

 

「死亡者の中にどれだけβテスターがいたか調べてもらえないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

――西の森

 

 

「ここに、隠しログアウトスポットが…」

 

 

 

 私、結城明日奈はさっき街で聞いた西の森の洞窟に隠しログアウトスポットがあると聞いて、街から1時間ほどかけ今その目の前にたどり着いたところだ。ゲームの中の映像とはいえいかにもな雰囲気と聞こえてくる風の音が不気味さを醸し出している。

 

 

 

 ――怖そうに見えるけどたかが、ゲームじゃない。早くこんなところから帰らなくちゃ

 

 

 武器を構えて、私は意を決して中へと入った。洞窟と言う割に臭くて生暖かい風が流れてきて正直あまり長居はしたくない。早くログアウトスポットを探さなくてはと思い、私は中に進もうとした時だった。

 

 ふいに、なにか柔らかいものが目の前にあることに気づいた。なんだろうと見上げたとき、そこにあったのは棍棒を振りかざす怪物の姿だった。いや正確にはどんな姿だったかはよく覚えていない、見上げた次の瞬間私はその怪物に殴られ吹き飛ばされていたから。そして見えるのはどんどん無くなっていく私の命の残量。

 

 

 その減り方を見て、ゲームは全く詳しくない私でも、これはまずいと思った。残った体力はわずか1ドット、逃げなきゃと頭では思っているが何故か体が動かない。

 

 ――動けない…死ぬの? 

 

 ――こんなにあっけなく?

 

 ――何も出来ずに?

 

 ――いやだ、私の人生を、戦い続けた15年が、こんなにも簡単に終わるのは絶対に…

 

 

『だあっ!』

 

 

 その時、何が起こったのか動けなかったのでよくわからなかったけど、確認できたのはポリゴン片となって消えた怪物と、剣を持った誰かの姿だった。

 

 

 

『終わったぜ』

 

 

『間一髪か間に合ってよかったな』

 

 

 

『やあやあ、ごくろうさン。まったくオレっちを騙ってデマ拡散たぁいい度胸ダ』

 

 

 

『情報屋も大変だな』

 

 

『ビギナーさん、生きてるカ? 生きてるナ、ヨカッタヨカッタ』

 

 

 

 情報屋と呼ばれた人が私に声をかけた。どうやら助けられたらしい。

 

 

 

『ホレ、回復POTダ、飲メ』

 

 

 サービスだヨ、と差し出されたそれを私は必死に飲み干した

 

 

『じゃあ、俺達は帰るよデマの犯人をとっちめるのは自分でやってくれ、オレンジは嫌だからな』

 

 

『わかってるサ』

 

 

『それと例の件よろしくな、んじゃ』

 

 

 

 

 

 

 それから、体力が回復するのを待っている間フードを被り情報屋と呼ばれていた人がそばにいたが、さっき私を助けてくれた剣士はすでに居なかった。こんなゲームの世界でも命を助けられたのでお礼くらいは言いたかったのだけど。

 

 

「落ち着いたかナ?」

 

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

「さっき情報屋って呼ばれてましたけど、情報屋ってなんですか?」

 

 

「文字通りの意味サ、情報を売買する仕事だナ。あらゆる情報を収集シ、対価に応じて提供シ、公理に叶えば拡散シ、場合によっては秘匿すル」

 

 

 そう言って彼女は「今の情報は10コルだヨ」と言いながら、ニヤッと笑った。その内容は私の知っている世間一般的な知識と変わらなかった。そうまるで―――

 

 

「ゲームなのに、まるで現実みたいですね」

 

 

「そりゃそうサ。今はココが現実だからネ…」

 

 

「…情報屋さん、隠しログアウトスポットデマなんですよね?」

 

 

「ごめんネ、そんなものはないヨ」

 

 

 頭の何処かでは分かっていた、そんなもの有るはずがないと。だってあればすでに1000人以上の犠牲を出すような状況にはなっていないはずだもの。このペースだと半年ともたずにゲーム参加者は居なくなってしまう。

 

 

 きっと、これはクリアできないのだ。あの茅場晶彦という男はこの状況を見て楽しんでいるに違いない。今日は助けられたけど、いずれ私も犠牲者の中に入るのだろう。でもどうせ結末は同じなのなら、今日みたいに何も出来ずに後悔して死ぬのは嫌だ。

 

 

「情報を売ってくれませんか?」

 

 

「何がご所望だイ?」

 

 

「どうすれば強くなれるか」

 

 

「…それは、死なないためかナ?」

 

 

「いえ…もう二度と後悔しないですむように」

 

 

 せめて、戦って戦い抜いて満足して死にたい。それが最悪の結果だったとしても。

 

 

「ふぅン、じゃあまずはこれかナ、SAO第1層の攻略本ダ。まあ参考書みたいなものだネ」

 

 

 特別にタダにしておくヨ、と渡されたそれはデータの出所などは曖昧な表現になっていたものの、武器の扱い方やスキルの使い方特徴、モンスターの情報までも詳しく掲載されていた。

 

 私が持っているのは確か細い剣、使い方はフェンシングと同じ要領でいいみたいね。初期スキルは…《リニアー》切っ先をひねるように意識して…

 

 

 すると、剣がエフェクトを帯び攻略本のとおりに突き出すと次の瞬間には体が半ば自動的に目の前に居たフレンジー・ボアに突っ込んでいた。そして技が当たり、モンスターはポリゴン片になりガラスのように砕け散った。

 

 

「なぁんだ、やればできるじゃない」

 

 

 拍子抜けするほど簡単で今まで自分が知らなかっただけなのだということが良くわかった。

 それを横で見ていた情報屋さんが少し目の色を変えてこちらを見ていた

 

 

「ビギナーさん、前言撤回タダは無しダ。情報料としてあんたの名前を教えてくレ」

 

 

「名前? …結城明日奈です」

 

 

「ゴメン悪かったビギナーさン!プレイヤーネームでお願いしまス!!」

 

 

 言われたとおり名前を言ったのに、慌てた様子でそう返された。プレイヤーネームもアスナなのでそんなに変わりはないのだけど、情報屋さんが言うにはゲームの中でリアル情報を出すのは危険らしい。どんな面倒事を起こすかわからないから今後注意するようにと言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――2週間後、第1層迷宮区

 

 

 

 あれから私は、一心不乱にモンスターと戦い続けた。今も迷宮区で戦い続けて数日は経つ。どうせ、仮想の世界何日も寝なくても死ぬわけじゃないから街にはほとんど帰らず、予備の武器だけ持ってひたすら籠もり続けている。

 

 

 モンスターとの戦いもだいぶ慣れた。ここに居るコボルトってモンスターはリニアーを3回も打てば倒せる。フルダイブで頭しか使っていなくても疲れるのか、目眩がして少し危ないときもあるけど。

 

 

 そうして、何体目かも分からないモンスターを倒したとき、急に後ろから声をかけられた。

 

 

 

「今のは、オーバーキルすぎるよ」

 

 

 

 

 それが、彼との初めての会話だった。

 

 

 

 




プログレッシブの小説と漫画を織り交ぜた感じにしています。
最初はキリト目線にしようと思っていたのですが、グダってしまい漫画通りのアスナ目線になりました。

主人公カイトくんも当分は出番が少ないかも、しばらくはキリト視点多めになる予定です。

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