ソードアート・オンライン~黒の剣士と灰の剣聖~ 作:カノン・キズナ
俺達パーティと、謎の女性フェンサーは連れ立って…とは少し言い難い微妙な距離感で森から街へ歩いていた。いや違うな…主に俺との距離が明確に空けられている。そのままトールバーナの門を超え、圏内に入った表示が出る。
「それじゃあな、ボス会議は4時からだそうだ」
謎のフェンサーさんは黙って顔を上下させそのまま人混みの中に消えていった。まあああして反応した以上ボス会議までは圏外に出て無茶な戦闘はしないだろうと少し安心した。
「妙な女だよナ」
いきなり背後から声が聞こえてきた。少なくとも今の所俺の索敵に引っかからずに背後につけるのは一人しかいない。振り返ると見覚えのあるヒゲにフードをしたアルゴが立っていた。
「すぐに死にそうなのニ、死ななイ、どう見てもゲーム素人なのニ、恐ろしく技はキレル、何者なのかネ」
あからさまに、彼女のこと知ってるぞと言わんばかりの言い方だった。恐らくここで知ってるのかと聞くと、お金を要求される流れ…なのだが、このとき俺は反射的にそれを聞いてしまっていた。
「知ってるのか、彼女のこと」
すると、予想通り彼女は待ってましたと言う表情で指を5本立てて
「安くしとくヨ、500コル」
「というか、あの女性フェンサーこの間アルゴに頼まれて助けた人じゃないか?姿がよく似てるけど」
してやったというアルゴを超える回答を出したのが、カイトだった。
「言われてみれば、あんな格好だった気がする」
「ヤレヤレ、カー坊には勝てないナ。お察しの通りサ」
ほんの数週間前に正真正銘のビギナーだったあのプレイヤーが今はあそこまで戦えているということに驚いた。
「まあ女性の情報を売り買いする趣味はないから、それぐらいにしておくよ」
「ニャハハ、いい心がけだナ」
とまあ、ここまでは恐らくいつものからかいついでの挨拶のようなものだろう。恐らくわざわざ俺のところに来た理由は…
「で、今日も本業じゃない方の仕事か」
「まーナ、2万9800コルまで引き上げるそうダ」
「また随分上げたな、そこまでして必要なものなのかこれは」
「ニーキュッパときたか。…悪いけどいくら積まれても答えはノーだ」
最近アルゴは本職の情報屋ではなく、伝言係兼交渉係として俺のところを訪れていた。今のアルゴの依頼人の狙いは俺の持ってる《アニールブレード+6》だ。確かに第1層でこのレベルまで持って来るにはだいぶ骨の折れるシロモノでは有る、加えて運も。
とはいえ、あくまでもこれは『最序盤に手に入る武器』だ、残り強化回数もあまり多くない。3ないし4層では更新を迫られる程度のものだ。カイトの言う通りこの武器に2万9800コルも使う人間の真意がわからない。それなら防具を整えた方がよほど賢い。しかしその相手の名前もわからず推測することすら出来ない。
「口止め料は千コルだったか?」
「そーだナ、上積みする気になったカ?」
「うーん…1kかあ…うーん」
今アルゴは依頼人から千コル前払いでもらい、俺に誰が交渉しているかを秘匿している。もし俺が千百コル払うといえば、今度は依頼人に上積みを確認するという寸法だ。つまりどちらに転んでもアルゴ的には儲かる仕組みなのだ。
「ったく、情報を売っても売らなくても商売になるんだから大したもんだな」
「それがこの商売の醍醐味だナ!誰かに情報を売るとその瞬間に《誰がなんの情報を買った》というネタが生まれるわけだからナ」
まあ良くも悪くも、現在のSAOで最高で最低の情報屋であることは間違いない。敵に回したくない人間の一人なのは言うまでもない。
「もし、女性プレイヤーが俺のパーソナル情報を買った時はすぐに教えてくれ。言い値で情報買うから」
もちろんそんなことが有るとは思わないが、希望くらいは持ちたい。まあアルゴはとっても愉快そうな笑い方をしていたけど。
「…知りたそうな人間が居ないわけじゃないけどナ、まあ依頼人には断られたと言っておくサ、この交渉は無理筋だともナ、ほんじゃまたナ、キー坊。カー坊にユーちゃんもまたナ」
ひらりと、翻ると鼠らしい俊敏さであっという間に姿が見えなくなった
―――――――2022年12月2日午後4時頃 ボス攻略会議
46人、今数えた俺達やさっきの女性フェンサーも含めてボス攻略会議に来てる人数だ。はっきり言ってSAOのフロアボスの仕様を考えると、少ない。ボス戦は1パーティ6人、8パーティで1レイドの数え方をする。本来なら2レイド準備して交代できるようにするのが定石なんだが、今回集まった数は1レイドにすら満たない。ほんの僅かなミスが命取りになる今の状況で、万全の戦いができる状態とは言い難い。
「すごい、こんなにたくさん――もしかしたら死ぬかもしれないのに」
だが、どうやら俺から少し離れて座るフェンサーさんにはそうは映らなかったようだ。恐らくこの手のゲームに慣れていない人間は皆同じ反応をするのだろう。
「真面目なんだな、君は」
「どういう意味よ?」
「自己犠牲の精神でここに来てるやつはきっと少ないさ。俺も含めて殆どが遅れるのが不安なんだよ」
「遅れる?何から?」
「最前線からさ。死ぬのは怖いけど自分の知らないところでボスが倒されるのも怖いんだ。置いていていかれてる気がして」
それは、恐らくゲームを嗜む人間なら誰もが一度は感じたことの有る感情だと思う。たとえ本当に死ぬデスゲームであっても、その部分の本質はきっと変わらないだろう。
「それって学年10位から落ちたくないとか、偏差値70キープしたいとかそういうのと同じモチベーション?」
相変わらず、このフェンサーさんは俺の思いつかないような発想の仕方をする。少し考え込み、微妙な角度で彼女の疑問に頷いた。
「…まあ…たぶん……そうなのかも……?」
すると、今まで固い雰囲気だった彼女が少しやわらかくなった気がした。かすかに聞こえてくるのは笑い声なのだろうか?さっきまでの状況を考えると少し意外だった。相変わらずよく見えない彼女の表情を思わず覗こうとしたのだが、それはよく通る叫び声に遮られた。
「みんな、今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!知っている人もいるだろうけど一応自己紹介をしておく。俺はディアベル、職業は気持ち的にナイトやってます!」
「このゲームってジョブなんて無かったよな」
不思議そうに、カイトが聞いてきた。
「ああ、一部生産職は有るけど基本的にはそんなスキルはないから、心情的なものなんだろ。まあ個人の自由さ」
少なくとも眼の前で進行しているあのプレイヤーは、これだけのプレイヤーを前にしても堂々と話を進めている。俺には持ってないものを持ってる。きっとああいう人間が大きいギルドを作るんだろうなと思った。
「今日、俺達のパーティが第1層のボス部屋を発見した!ここに来るまで1ヶ月かかったけどボスを倒して2層にたどり着きこのデスゲームをクリアできるってことを、はじまりの街で待ってるみんなに伝えなきゃいけない! それが今ここに居るトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろみんな!」
彼の演説に喝采が起きる、ここまで1ヶ月バラバラに動いていた最前線の人間のまとめ役をしようとしている。この調子なら俺の予想した問題は起きない…そう思った瞬間だった。
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
そう言って喝采を遮ったのは小柄だががっしりしてサボテンのような変わったヘアスタイルの男だった。
「仲間ごっこもええけど、これだけは言わしてもらわんと気がすまん」
「意見は大歓迎さ、でも出来れば先に名乗ってほしいかな?」
「フン、わいはキバオウってもんや」
キバオウと名乗った男は広場を見渡すようにして、会議前俺が一番恐れていた状況へ話を進めた。
「元βテスターの卑怯もん出てこい!こん中に何人かおるはずや、このクソゲーム初日に9000人近くのビギナーを見捨てて、金もアイテムもクエストも独り占めしくさった連中が!おどれらのせいで2000近くも死んだんや、ここでワビ入れて、貯め込んだ金とアイテム差し出してもらわな気がすまん!」
さっきまで、和やかだった会議の空気が一変した。誰も彼の意見に反論しない、いや出来ないんだ。事実はさておきもしβテスターだと疑われれば待っているのは公開の吊し上げなのだから。言い返したい事はたくさんある、そもそも死んだ2000人すべてがビギナーというのはほぼありえない。
以前、アルゴに調査をお願いしたβテスターの死亡率がわかったのだ。もちろんβテスターの特定方法はわからないので何処まで正しいかはわからないが、あの《鼠》の情報だ。信憑性はかなり有る。
調査の結果は、恐らくこのゲーム参加しているであろうβテスターの数約900人に対し、300人は間違いなく死んでいるであろうという結論だった。最初から慎重なビギナーに対し、情報を持っているテスターの僅かな油断が大きな落とし穴になっているのだ。
だが結局俺はそれを言い返すことが出来ない。アルゴの情報を出したところで証拠はない、それどころか彼女が
危うい目に合う可能性も否定できない。何より自身にこの場で敵意を向けられるかもしれないという恐怖があった。
「ちょっとあんたの言い分は乱暴すぎないか。キバオウさん」
だからこそ、普段は穏やかなカイトが苛ついたようにそう返した時は驚きを隠せなかった。みんなの視線がカイトに向き、反論を続けた。
「確かに、サービス初日に始まりの街から居なくなったのは事実だし、結果としてビギナーを置いていった形になるのも間違いない。けどβテスター全員があんたの言うようなひどい連中だとは俺は思わない」
「なんでそう思うんや」
「少なくとも俺自身が、今までいろんなβテスターの手助けのおかげでここに居るからだ。最初に大勢を見捨てたっていう罪悪感があるからこそ、自分のできることをしようとしてる人達だっているんだ」
「せやかて、アイツラのせいで2000人も死んだんやぞ!」
「あんた、本当に2000人全員がビギナーだったと思うのか?βテスターが一人も死んでないっていうのか?あんたそれを確認したのか?」
「それは…してへんけど…」
不思議と迫力のあるカイトの物言いにキバオウも少しトーンが落ちていた。
「俺はそうは思わない、あの中にはβテスターも含まれているはずだ。みんなだって知ってるだろ、βテストはあくまで試験運用だ。本サービスの段階で仕様が変わることはよくある。その僅かな違いに対応できずに失敗することも他のゲームじゃよくある。他のゲームであることがSAOでは無いとは言えないだろ」
会議がまた静かになっていた。でもそれは恐らくさっきと少し違うだろう。みんながカイトの言っていることにも一理あることが分かっているからだ。そしてこの沈黙を破ったのはキバオウでもカイトでもなかった。
「俺も発言良いか?」
低く張りのある声が会議場全体に広がった。チョコレート色の肌でスキンヘッドの随分と迫力のあるプレイヤーだった。彼は他のプレイヤーに一礼すると、キバオウの方へ向き直り続けた。
「俺はエギルだ、キバオウさん俺も彼の言うとおりだと思う。βテスター達は必ずしも俺達ビギナーを見捨てていたとは思えない、その証拠は《情報》だ」
そう言うと、彼は俺も持っているあのアルゴの攻略本を取り出した。
「このガイドは、ホルンカを始めとした各町、村の道具屋に必ず置いてあった。それも無料でだ、みんなも世話になっただろう」
あの野郎、カイト達どころか大勢に無料配布してたのか。今度問い詰めてやろうと思ったが理由を聞けば1000コルだヨと言われそうなのでやめよう。
「俺達ビギナーにとってこれほど役に立つものはない、だが俺はいくらなんでも情報が早すぎると感じた」
「早かったら何やっちゅうんや」
「俺はこれの情報提供をしたのは、常に先頭に居たβテスター以外ありえないと思っている。いいか情報はあったんだ、下手なアイテムやお金なんかよりこれほどあって嬉しいものはない。たしかにあんたの言うようにたくさんの人間が死んだ。でもそれはSAOを他のMMOと同じものさしで計り、引くべきポイントを見誤ったからだ。一方でガイドの情報に学んだ俺達は生きている、あの少年の言うようにな」
もしかしたら、反論がカイトだけならそういうお前がβテスターなんじゃないのかと言われていたかもしれない。だが堂々とした態度で至極真当なことを言うエギルの援護で誰も文句を言えない状況になっていた。
「勝負あったわね。まったく…居るのよね不幸にあったらみんな一緒に不幸になろうっていう人。フロントランナーだけが果たせる役割も有るのに。ね、剣士さん」
俺の、少し隣りにいた彼女がこっちを向いてそう言った。初めてまともに話しかけられた気がする。
「…後で、お礼言っておいたほうが良いんじゃない?あなたの友達がこの状況で声を上げたのきっとあなたのためなんでしょ?」
「わかってるよ、感謝してもし足りないくらいだから」
「そ、わかってるなら良いけど」
正直この一ヶ月、俺の心境はカイトの言うとおりだ。そしてそれは、いつの間にかカイトにも伝わっていたのだろう。出会ってまだたった1ヶ月だけど、こいつとはいい友人に…いや仲間になれるんじゃないかとわずかながらに思った。そしてカイトが座ったタイミングで、俺は感謝の言葉を伝えた。
「ありがとな、カイト」
「気にするな、相棒を馬鹿にされた気がして少し腹がたっただけだから。」
会議終わらなかった orz
そしてここまでかいてて感じたこと、ユウキを喋らせるタイミングが難しい…
せめて、ボス戦ではしっかり出番あげたい(願望
次は会議後半とお風呂のシーンがメインかな