カリおっさん、ヒーローになる   作:名無しの錬金術師

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これはif。そう、ifなのです。

とりあえずやっつけ設定で書いてみました。


カリおっさん、出会う

 ……あぁ。

 

 

 

 暗く深い穹の中。

 水の中にズブズブと沈んでいくような感覚に陥る。水なんてありやしないのに。

 そう感じているのならばそれは濃密な魔力の渦だろうか。

 

 見上げた視線の先に見えるは、浮かぶ大地に空の蒼。

 そして新たな衣装を身に纏いて高らかに新生の口上を叫ぶ自分(オレ様)

 

 開闢の錬金術師は今まさに、蒼の底に向かって落ち続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──オレ様は死んだのか?

 

 

 疑問が浮かぶ。

 返される言葉などないことは百も承知だ。仕方なく自問自答して僅か数秒でアンサーに至る。

 

 

 ──いや、死んだってわけじゃねぇか。不要な部分が切り取られたって感じだなコレは。

 

 

 彼女はこの『場所』よりもずっとずっと遠くに、今の彼女の魂よりも純度が高い同位体が存在していることを感じとっていた。

 大方ニグレドを使った最適化の際に必要のない部分が排斥されたんだろう、と推察して思考の海から抜け出す。

 

 

 ──まぁ言うなればココにいるオレ様はある種の子機みたいな存在だな。

 

 

 でも本体が生きてるなら別に言うことはねぇ、と合理主義な彼女は納得し、もう一度うすぼけてきた穹を眺めた。

 

 

 ──どうせそのうち「この」オレ様は消えちまう。なら、早々に消えてしまおう。子機に本体が引っ張られちゃ、それこそ一大事だ。

 

 

 若干の名残惜しさとひと握りの寂しさを手に、カリオストロは視界の幕をゆっくりと下ろす。

 自分が虚空へ解けていくのを甘んじて受け入れながら。

 

 

「グラン、クラリス……」

 

 

 彼女が零した小さな呟きも、誰に聞かれることもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──あん?なんで消えてないんだオレ様。

 

 

 異変に気づいたのは随分と後である。

 魂の欠片だけとなり、精神さえ消えてしまった彼女が『目覚める』という経験をするのは本来ありえないことだ。

 

 何故か触覚も、聴覚も、嗅覚も、ある。

 瞼だけは開かない。仕方ないのでペタペタと辺りを触ってみる。

 

 ……少なくとも自分は穹の中で絶賛落下中ではない。

 土よりもガチガチとした物質で構成されているようで、肌は冷たい感覚を伝えてくる。

 

 

 ──早く辺りを見たいんだが、瞼が重いな……。

 

 

 瞼だけ石化の魔法でもかけられたのか、その瞳に景色を写すことは叶わない。

 ならばと無理やり手で瞼をこじ開けた。若干の痛みはあるが我慢できないことでもない。

 

 

 その紫の眼に見えるは天を衝く建造物群、不思議な素材の服を着た者達、走る鉄塊に飛ぶ鉄塊、そして何より──

 

 

「何だよ、コレは……」

 

 

 ドラフともエルーンともハーヴィンとも違う。

 全員どっかで作られたホムンクルスではないのかと疑いたくなるが、その割には魔力は屁ほどもない。

 

 異形と化した人間達が跋扈する光景を見て、稀代の錬金術師の口元は三日月のように歪んだ。

 

 

「どうやら退屈することは、無さそうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い立ったが吉日だ。

 五感がハッキリと感じられるようになると、カリオストロは直ぐに先程までいた路地から近くの歩道に歩みを進めた。

 現在の服装は所謂初期SSRとして登場したときのものだ。

 胸元に大きなリボンが付けられたマント、風で吹けばパンチラしそうなミニスカート、頭に三本の棘があるカチューシャを身につけている。

 

 

 恐らく現実世界ならば彼女は浮きに浮きまくっているだろうが、ここは『個性』というものが浸透した世界。

 彼女程度の服装は目立つことはない。

 

 だが彼女は周りの視線を嫌という程集めてしまう。

 

 ちょうど反対側の歩道にいたカップルの片割れがカリオストロに見惚れる。

 それを良しとしない隣の女性は彼氏に強烈なビンタをくらわせた。

 

 

 

 魅力の魔術を振り撒いているわけではない。

 純粋に、ただ純粋に彼女が可愛いのだ。

 

 それもそのはず、この身体の持ち主は何千年にも渡って「どうすれば自分を可愛く魅せられるだろうか」とそんなくだらないことを考えている。

 

 どこをどうすれば人の可愛いと感じる琴線に触れるかなんてものは、悠久の時を生きる彼女にとっては造作もないことだ。

 

 走るフォームや息遣い、視線な動きや表情筋に至るまでありとあらゆる『可愛さ』に手を尽くした彼女を二度見しないということはありえないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇっ、そこのお じ さ ま ?」

 

「ムッ!……どうしたんだい?おじさんちょっとビックリしちゃったよ」

 

 

 カリオストロが目をつけたのは骸骨のように痩せこけた金髪の男性だ。

 

 

 彼女は錬金術で作った自分好みの美少女の体を現在使用しているわけなのだが、その体の基本性能もしっかりと向上させてある。

 これで体の性能がごく一般的な美少女Aだとしたら、確実に騎空士生活に体がついてこれる筈がない。

 

 

 

 騎空士生活をつつがなく過ごすために相手の力量や状態を把握する術はそれなりに取得済みだ。

 魔法を行使してもいいのだが、それでは相手に隙を与えてしまう。

 なので彼女は自らの目を魔眼として錬金術で作製していた。もちろん魂の乗り換え前にである。

 流石の開祖も窮地に追い込まれるようなことがなければ使用中にそんなことはしない。

 

 その目がカリオストロに訴えている。コイツは只者では無いと。

 異形と言えば異形かもしれないが、そんなことは問題ではない。

 この骸骨男の体に魂が幾つも同居していたのだ。

 

 様々な人間の魂が1つの弱々しい主柱を支えるようにしてこの男の中で組み上がっている有り様、稀代の錬金術師からしてもそれは明らかな異常性を孕んでいた。

 

 

 ──魂喰いか?いや、にしては他の魂がこいつに協力的過ぎるんだが……。

 

 

 禁じ手・魂喰い。

 

 カリオストロの錬金術よりも後に編み出された『禁忌』とされている魔法。

 他者の魂を自らの糧として力を得る、たったそれだけ。

 

 少しのミスで自分の魂が消滅しかねないことはもちろんのこと、魂を喰らう度に自己が薄れてしまうというこの二点が禁忌と評される所以であった。

 死後の安息さえ奪うこの魔法は開発されど、実用段階まで至ることはなかった。

 

 

 最初はその魔法を疑ったがどうにもそれは違うようだ。魂食いは「混ざって」しまうが、この男の中にある魂は「支えて」いる。

 渋々支えているのではなく、望んでそうなっているかのように。

 

 真理の探究者たるカリオストロはその在り方に興味を抱いた。だから話しかけたのだ。

 

 

「あなたの体にさ……」

 

 

 おもむろにその男に近づき、完全に計算され尽くした上目遣いをする。

 男は「oh……」とこぼして窪んだ目を少し見開いた。

 予想より反応が薄かったためにカリオストロは内心舌打ちしながら次の一手を繰り出す。

 

 

 ──何個の魂があるのかな?

 

 

 彼にだけ聞こえる声量でカリオストロは言った。

 男は「何を言っているんだ」というような表情をした。実際、そう思っているだろう。

 

 だが数秒考えてその意味を咀嚼し理解出来たのか驚愕の表情でバッと彼女に詰め寄った。

 

「……君は何者かな?」

「私はねぇ、カ リ オ ス ト ロだよ。よろしくね✩」

 

 トーンを下げて男は尋ねるが、決めポーズまでされて自己紹介をされてしまった。

 その明確な目的の見えない様子にこめかみを抑えながら、彼もとりあえず自己紹介をした。

 

「私の名前は八木俊典だ。カリオストロ少女、君はどこでそのことを?」

 

「どこ?強いて言うならココだけどぉ……あっ!理由を知りたいってコトかな☆でも、ココでお話しすることじゃない気がするなぁ……」

 

 チラッと一瞥してまた目線を戻す。

 

「でもこのままだとカリオストロ逃げちゃうかも……」

 

 チラッチラッ。

 

「もしかしたら今のお話し誰かに言いふらし「分かった分かった、君の誘いに乗るとしよう」うふふ、そう来なくっちゃ✩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんで私の家なのかね?」

 

「だって秘密抱えてるなら防犯とかもしっかりしてるんじゃないかな〜って☆」

 

 

 カリオストロがやって来たのは男の家であった。

 なんの変哲もない一軒家のようだがカリオストロの目は現エルステ帝国にも勝るとも劣らない技術が使用されていることを見抜いていた。

 

(これじゃあココになんかありますとか言ってるようなもんじゃねぇか……)

 

 

 カリオストロは応接間の二人がけソファの真ん中で足をパタパタさせながら彼を待った。

 

 程なくして俊典が入ってくる。特に何かを仕掛けるつもりはないようだ、持ってきた紅茶よりも渋みの強いお茶に毒が混じっているようなことは無い。

 

「それで、一体何が目的なんだ?私は君と歩いているときにずっと考えていたが全くもって検討がつかない」

 

 怪訝な態度を露わにして俊典は質問する。これにカリオストロはいつものキャピキャピした調子から一転、地の部分である面を表層に出した。

 

「オレ様の目的……というよりかは興味だな。オレ様はお前の魂の在り方がとても気になる」

 

 俊典はぞわり、と背筋が凍るような感覚を覚えた。

 ぶりっ子してるんだろうなぁ、というのはハナからわかっていたがそんなことではない。

 

 形容できないようなおどろおどろしい雰囲気がカリオストロから溢れ出たからだ。

 

 まぁ幼女の身体に男の魂をぶち込んで身体を交換しつつ幾星霜と寝かせればこんな老獪なオーラを醸し出しても何らおかしくはない。

 

 

「魂の在り方?ヴィランとかそういうんじゃなく?」

 

「ヴィラン?何だよそれ」

 

「「んん?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁんだおじさん脅されちゃってるのかと思ったよ」

 

「もぉ〜ぅ!カリオストロがそんなことするワケないでしょ✩」

 

「ちょっと前の君なら躊躇なくしていた気が「オイ」HAHAHA!すまないね」

 

 

 結論から言えば二人の齟齬は解消した。

 俊典は彼女をヴィラン関係で自分の秘密を掴んだものと思っていたが、実際のところカリオストロは彼の魂の在り方に興味があっただけなのだ。

 

 とりあえずカリオストロは別世界からこちらにやって来たことを話すと

「そこまでは想像はつかなかったけど、君は何となく違和感があった」

 と信じてくれた。

 なるほど人を見る目は確からしい。

 

 

 とりあえず外見年齢はまだ二桁にも満たない幼女なので対外的には常識を知らない箱入り娘として振る舞うことにした。

 

 先程の地の部分は「たまにポロッと出ちゃうの✩アレが地じゃないからね!!」と押し通した。これには俊典も苦笑いである。

 

 

 その後カリオストロは彼からたどたどしいこの世界の説明を受けた。

 

 とりあえず全て聞いたが結局彼の部屋にあった辞典を見ることでこの世界に対しての理解を深めた。

 数年後にとある学び舎で教鞭をとるらしいのだが、そんな調子で大丈夫か?とカリオストロは心配した。

 

 

「ところでカリオストロ少女」

 

「何かなっ?」

 

 カリオストロが俊典の自宅に来たのはお昼頃だったが、すっかり空は黄昏の色に染まっている。

 

「君、行く宛はあるのかな?」

 

「ないよっ☆カリオストロは俊典のお家で暮らす予定だったんだけど……あっ!でもでもっ、追い出そうとしたら言いふらしちゃうからね☆」

 

 

 八方塞がり。俊典はガックリと項垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




魂喰いはFateのダーニックを想像してもらうと分かりやすいかもしれない。
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