オリ主が性的趣向について語るだけのお話   作:作者B

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のんびりしている間に原作が完結してしまいましたが、気にせず投稿。



トゥアールは敵を語り、愛香は拳で語る

 夕刻

 カラスの声と共に子供たちが忙しなく帰路についている頃、俺も妹のソーラ、幼馴染の愛香、それと謎に包まれた女性トゥアールと共に我が家へ帰ってきていた。もちろん母親には見つからないように、だ。

 

 そういえば、あのへんな輪っかをソーラが破壊したことで、奪われた恵理那たちの輝きは元に戻った。一時はどうなることかと思ったが、これでひとまず安心だ。

 だが、突如現れた怪人に、これまた颯爽と現れたヒーロー。これで辺りが騒ぎにならないはずもなく、トゥアールの誘導であの場から脱出できていなかったら、今頃ソーラは野次馬や報道陣に囲まれていただろう。

 

 因みに、恵理那は神堂家御付きのメイドが迎えに来て、連れて帰ってくれた。

 

「それで、さっきの怪じ――化物の件、説明してほしいんだが……」

 

 俺の自室に集まった4名。そのうちの一人、俺の左隣に座る愛香に視線を向ける。

 

「私だって知らないわよ。この女がいきなりソーラの腕にブレスレットをはめて、かと思ったらソーラが小っちゃくなっちゃうし」

 

 愛香は此方をチラチラと見ながらも、「わぁー、男の方の部屋って私初めてですー」と妙なテンションで部屋中を物色しようとしているトゥアールを睨みつける。

 

「アンタはアンタで、さっきから何やってるのよ」

「何ってお宝探しですよ、お宝さがし。思春期男子の部屋を前に、もうドキがムネムネですよ!」

 

 トゥアールさんや。本棚の裏やベッドの下を探そうとするのはやめてくれ。その攻撃は俺に効く。

 

「あのー、できれば止めて欲しいなーなんて。ほら、年頃の女の子に見せるようなものでもないし」

「あんたが、見せられないようなものを持っていることに突っ込みたいところだけど、それよりも――」

 

 そう言って愛香は俺を、正確には俺の顔のやや下の位置を見つめる。

 

「剛。あんた、その……いつまでやってるつもりなのよ。それ」

「それ?」

「~~ッ! だ・か・ら! いつまでソーラを抱きかかえてるつもりって言ってるの!」

 

 ビシッ!と効果音が付きそうな勢いで、俺の膝の上にちょこんと座っているソーラを指さす。

 ちなみに今のソーラは、怪人と戦っていた時と同じ幼女形態だ。おかげで、俺の懐にすっぽりと納まっている。

 

「いやぁ、久しぶりに小さいソーラを見たもんだから、つい」

「つい、じゃないわよ! ソーラからもなんか言ってやりなさいよ!」

「いや、別に……日曜朝(ニチアサ)のヒーロー番組見るときは、いつもこんな感じだし」

「い、いつもやってるの……?」

 

 なぜか、愛香がドン引きしたような目でこっちを見ている。

 俺的にはその冷たい眼差しは御褒美だが、ソーラを膝に乗っけている手前、自重しておこう。

 

「あっ! ずるい! ずるいですよ、剛さん! 私もソーラさんを抱っこしたい!」

 

 すると、タンスの引き出しの裏を調べようとしていたトゥアールが、俺の方へにじり寄ってきた。

 

「悪いなトゥアール。これ、お兄ちゃん特権なんだ」

「ぐぅっ! なんという理論武装……反論できないっ」

「いや、結構ガバガバじゃない?」

「はっ! それなら、私が剛さんと結婚すれば、ソーラさんの義姉(おねえちゃん)になれるのでは!? そういうことなら早速――」

 

 目を怪しく光らせ、手をワキワキ動かしながら、トゥアールが此方へ迫ってくる。

 すると、彼女の眼前、鼻の先をシュパァンッッ!!という音と共に拳が通過した。

 

「ごっめーん。よく聞こえなかったわー。……なにか言った?」

「イイエ、何でもないデス」

 

 拳を放った主が愛香だと理解したトゥアールは、片言口調になりながら、俺の対面に座った。

 

「まったく……ほら、剛もソーラを下ろしなさいよ。いつまで経っても話が進まないでしょ」

「えぇー。いいじゃん、別に。ソーラだって、まだ膝から降りたくないだろ?」

「いや、流石に恥ずかしくなってきたから、退きたいんだけど……」

 

 Oh! なんて悲しいことを言うんだ、マイシスター!

 そんなことを言う奴には、これでもかってくらい頭を撫でてやろう。

 

 なでなで

 

「あの、兄貴?」

 

 なでなでなでなで

 

「いや、だから膝から降りるから……」

 

 なでなでなでなでなでなでなでなで

 

「あぅ……」

 

 ソーラは頬を赤らめながら顔を伏せてしまった。

 ふっ、他愛もない。兄の手にかかれば、妹を借りてきた猫のように大人しくさせることなど容易いことよ。

 

「な、なんという神業(テクニシャン)……! 先の戦闘で照れさせたことといい、是非とも、その幼女を辱しめるテクニックを私に――」

「うがぁぁぁっ!」

「あ、愛香さん! ボールを掴むような軽いノリでアイアンクローしないで下さぁあああぁぁぁッ!」

 

 溜まりに溜まった鬱憤が、タイミング悪くトゥアールを襲う!

 そろそろ愛香の胃がストレスでマッハなので、この辺で愛香弄りは止めておくか。

 ……愛香がソーラに羨ましそうな視線を向けていたことは、心の中に仕舞っておこう。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

――――――――――

―――――

 

 

 

 

 

「えーっと、要するに、あの怪人はエレメリアンって種族で、奴らが所属する組織がアルティメギル。奴らの目的は属性力(エレメーラ)ってやつの奪取で、トゥアールは奴らの野望を阻止するために異世界からやってきた、と」

「おおむね、そのような認識で問題ありません」

 

 トゥアールから聞いた説明を掻い摘んで確認してみたが、大体合ってるっぽいな。

 

「そして、属性力(エレメーラ)とは、人が持つ『何かを好きでいる心』が発する、言わば精神エネルギー。この世界のテクノロジーではおよそ確保不可能なほどの、膨大なエネルギーを秘めています」

「そのエネルギーを力に変えるのが、ソーラの装着しているテイルギアなのか」

 

 俺は、変身を解除して膝から降りたソーラの右腕、赤いブレスに視線を落とす。

 

「はい。エレメリアンは属性力を核に持つ精神生命体。現代兵器では傷一つ付けることすらできないでしょう」

「目には目を。精神生命体には精神エネルギーを、ってか」

 

 なるほどな。異世界からの侵略者に、これまた異世界から来た科学者。そして、敵と同じ力で戦う正義の戦士。

 益々、フィクション染みてきたな。恵理那が好きそうな話だ。

 ソーラも「ふむふむ」と話を聞き入れている。その一方で、愛香は鋭い視線をトゥアールに向けたままだ。

 

「どうした? 愛香。そんな難しそうな顔して」

「難しい顔って……別に、突拍子もない話についていけてないだけ。あんたたちこそ、どうしてそんなに自然と受け入れてるのよ」

「そりゃ、こういった展開は普段から見慣れてるしな。俺とソーラは」

 

 主に日曜の朝で。

 

「それはテレビの中の話でしょ!」

「わかってる、わかってるって。俺だって、生で見れてラッキーだなんて、能天気なことは思ってないさ」

 

 そう。あれは現実なのだ。怪人(エレメリアン)が現れたことも、恵理那たちが襲われ、その輝きを奪われそうになったことも。

 

「そういえば、奴等の目的は属性力を奪うこと。それなら、それを奪われた人間は一体どうなるんだ?」

 

 話題を変える様にソーラの発した疑問。

 それを聞いた瞬間、トゥアールの顔が一瞬曇ったように見えた。

 

「……皆さんもご覧になったように、属性力を奪われただけで人が死ぬようなことはありませんし、奴らも人間を傷つけるようなことはしないでしょう」

 

 確かに、あのトカゲのエレメリアンは人を攫いこそすれ、怪我を負わせるような真似はしていなかった。恵理那も、あの輪っかを潜らされたあとでも、傷一つ無かった。

 

「ですが、属性力を奪われるということは『何かを好きでいる心』を奪われるも同義。それこそ、奴らが盛んに口にしていたツインテールの属性力を奪われてしまえば、奪われた人間はもう二度と、ツインテールを結ぶことができなくなってしまうんです」

「なんだって!?」

 

 ツインテールの危険が示唆された途端、ソーラはテーブルに身を乗り出して激情を露にした。

 俺も正直、その話を聞いて冷静ではいられない。

 

「なあ、トゥアール。奴らの狙っている属性力は、ツインテールだけじゃないんだろ?」

「ええ。あくまで最優先はツインテールではありますが、奪うとなれば、その人の持つ属性力を根こそぎ持っていくでしょう」

 

 つまり、人間から性癖(愛する気持ち)を奪おうっていうのか! 奴らは!

 

「ねえ、ちょっと待って。なんで、奴らが最優先で探すのがツインテールなのよ」

 

 愛香が、先程のトゥアールの台詞に引っかかったのか、疑問を投げかけた。

 言われてみれば、確かにそうだ。妹ほどツインテールキチじゃない俺からすれば、他の属性を奪われるのも同じくらい恐ろしいんだが。

 

「それはツインテール属性が、最もエネルギーを生み出す、言ってしまえば最強の属性力だからです」

「マジで!?」

「大マジです。そして、この世界で最も強いツインテール属性を秘めているソーラさんが、ツインテールの属性力を宿したテイルギアを身に着けることで、最強の戦士になるのです」

 

 はーっ、人生話分からないもんだな。あの執念にも近いツインテール愛が世界を救うことになるとは。

 自分のツインテール、もといツインテール属性を褒められたせいか、ソーラの表情がどこか誇らしげだ。

 

「成程な。他にも聞きたいことはまだあるけど……」

 

 そう言いながら時計をチラリと見る。

 もう夜の8時か。結構話し込んだな。

 

「詳しいことはまた明日にするか。トゥアール、行く宛とかあるのか?」

「え? い、いえ。我が身一つでこの世界に来たものですから」

 

 まあ、異世界から来たって言うんなら、当たり前か。

 

「じゃあ、うちに泊まるか?」

「「――ええっ!?」」

 

 俺が遊びに誘うような軽いノリでトゥアールを誘うと、何故かソーラと愛香の方が驚愕の声を上げた。

 

「な、何プレイボーイみたいなこと言ってるんだよ、兄貴!」

「そ、そーよ! こんな見知らぬ女を家に招き入れて、ナニするつもりよ!」

 

 招き入れるって、既にここ家の中なんだが。

 すると、トゥアールが愁いを帯びた瞳で、羽織っている白衣に手を掛けた。

 

「ふふっ、分かっていましたとも。年頃の男性の部屋に、私のようなボンッキュッボンッの魅力的な女性が足を踏み入れればどうなるか。でも、世界を救うためならば、私の身体など安いものです。さぁ!」

 

 ミュージカルの様に芝居がかった台詞を言い終えた後、トゥアールは白衣をバッと広げた。心なしか、愛香を挑発せんばかりに、胸を強調するように突き出している気がする。

 ぶっちゃけそんなつもりは微塵も無かったんだが、まあ、そこまで言うならお言葉に甘えて――

 

「少しは躊躇しなさいよバカぁぁぁーッ!」

「へぶっ!」

「流れるように私もぐはぁッ!」

 

 愛香の回し蹴りが、美しい曲線を描きながら、俺とトゥアールの頭部を打ち抜いた。

 

「……いい、キックだ。世界を狙えるぜ、お嬢さん」

「誰のせいだと思ってるのよ! まったく!」

「あ、愛香さん? 剛さんより私の方が、キックの打撃音が大きかった気がするんですが……」

 

 確かに、俺の時はゴンッてぐらいだったけど、トゥアールが蹴られるときはドゴンッって感じだったな。

 1回の蹴りで威力を自在に操るとは、やっぱり愛香って生まれる時代間違ってない?

 

「それで? どうして急にそんなこと言い出したんだよ、兄貴」

 

 俺が床に倒れながら愛香にサムズアップしていると、ソーラが俺の顔を覗き込んできた。

 

「おお、流石ソーラ! 俺がエロエロな目的で言ったんじゃないってわかってくれたのか!」

「え? 違うの?」

「当たり前だろ。突然あんなこと言ったのは驚いたけど、兄貴は一応、分別を弁えているからな。愛香も知ってるだろ?」

「それは、そうだけど……」

「そうやって、すぐ厭らしい方へ考えがいく愛香さんのほうがエロエロなのでは肩の関節がありえない方向にぃぃぃッ!」

 

 俺は理由を説明すべく、腕ひしぎ逆十字固めを決められているトゥアールを横目に見ながら起き上がる。

 と言っても、大した話じゃないんだがな。

 

「理由は簡単だ。俺が提案するまでもなく、トゥアールはウチに住むことになりそうだからな」

「はぁ? なんだそれ。余計意味が――」

「おーい、どうせ聞いてるんだろ?」

 

 ソーラの言葉を遮るように部屋の扉の方へ言葉を投げかける。すると、ギギギッと錆びた金属の擦れるような音と共に、扉が開かれた。

 

「流石ね、我が息子。私の存在に気付いていたとは」

「か、母さん!?」

 

 扉の向こうには、何やら意味ありげに笑う俺とソーラの母『観束 未春(みつか みはる)』が立っていた。

 確かに、見つからないように帰ってきたとは言ったが、母さんはこの手の話題に対する嗅覚は半端ないからな。絶対扉の前で張ってると思ったわ。

 

「ついに、これを話す時が来てしまったようね。ソーラ、貴女の出生の秘密を」

「出生の、秘密……?」

 

 すると、なんか母さんが含みを込めたようなことを言い出した。

 

「ええ。貴女の名前、それは世界を照らす太陽(Solar)のように輝いてほしいという、死んだ父さんの願いが込められているのよ」

「そ、そうだったのか。アタシの名前にそんな意味が……」

 

 母さん唐突に語りだした名前の由来に、生唾を飲み込んで聞き入るソーラ。

 んー。でも、太陽ってことはもしかして――

 

「なあ、母さん」

「あら、どうしたの? (よし)くん」

「ソーラが男だったら、なんて名付けてたんだ?」

「"光太郎"よ」

「それ、特撮ヒーローの主人公の名前じゃねーか!」

 

 さっきまでの感動とは一転して、ソーラの鋭いツッコミが放たれた。

 補足すると、光太郎というのは太陽がモチーフのヒーローで、総良(そうら)って名前もその太陽から取ったってことになるな。

 

「そんな名前の由来なんて聞きたくなかった……ッ。ていうか、アタシの出生の秘密は結局何だったんだよ!」

「え? それは、母さんと父さんは溢れんばかりのヒーロー願望を貴女達の名前に込めたっていう――」

「やっぱいい! それ以上言わないで!」

 

 親の小恥ずかしい過去話を聞かされ、頭を抱えて項垂れるソーラ。

 ちなみに俺の名前も、5人組ヒーロー(秘密戦〇)のレッドの名前から取ってるらしい。

 

「話が逸れたけど、母さん。トゥアールの件だが……」

「もちろん、大歓迎にきまってるじゃない! 何なら秘密基地とか作っちゃってもいいのよ?」

「ちょっ、未春おばさん!? (つよし)も居るのにそんな――」

 

 愛香が顔を真っ赤にして母さんに詰め寄る。

 赤くしている理由は怒りだけじゃないんだろうけど……ここは触れないでおくか。藪蛇を突くことになりそうだし。

 

「まあまあ、平坦な愛香さん。彗星の如く現れた起伏のある私を怪しむのも無理はないですが、ここは超絶美少女である私の豊満なBodyに免じて背骨の関節に激しい痛みがぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ほほう、見事な逆片エビ固め。腕を上げたな、愛香。

 そんな後方師匠面で目の前の賑やかな光景を眺めながら、俺はこれから先起こるであろう奇々怪々な事件へ、不安と期待に胸ふくらませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは余談だが、トゥアールの世界はアルティメギルによって属性力を根こそぎ奪われてしまったらしい。奪われた属性力は24時間以内に開放しないと、もう二度と元には戻らない。つまり、もうトゥアールがどんなに頑張っても、トゥアールの世界はかつての輝きを取り戻すことはもうできないんだとか。

 ただの無意味な復讐ですよ、と嘲笑しながらトゥアールは話してくれた。

 誰も性癖()を熱く語れない、真っ白で空虚な世界。俺には、きっと耐えられないだろう。

 

 だが、それと同時に一つの疑問が浮かぶ。人の、何かを愛する気持ちというのは、他人に奪われたぐらいで揺らいでしまう程の脆いものなのだろうか。

 

 




今回は、あまり性癖の話を盛り込めなかったのが悔やまれる。

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