鱗粉を撒き散らす巨大な蛾との戦闘は少々厄介なことになっていた。
「ちぃ!」
「マナスさん!大丈夫です?」
俺のことを一番の脅威と認識したのか、集中して攻撃してきている。タックルをギリギリで受け流すと、奴はまた空へと逃げ、鱗粉を撒き散らす。
「くっ、また消えたわよ!?」
すると、奴の姿がまた透明になっていく。さっきからこれの繰り返しだ。無闇に爆弾を投げても見当違いな方に行ったり、強い羽ばたきで逆に返されたりして無駄撃ちとなってしまう。数に限りがあるのに浪費はしたくない。
「このままじゃジリ貧です。何か手を打たないと。」
「でも私達の攻撃はアイツが地面に降りて来なきゃ当たらないわよ?」
コルネリアの呟きにレオンさんが答える。確かにその通りだ。幸いにもアイツはそこまで攻撃手段を持ってないのか、直接的な攻撃は羽ばたきによる風を叩きつけるかタックルだけで、あとは鱗粉等による状態異常で相手を弱らせる方法だ。でも鱗粉等は対策していたので影響はほとんど無い。だからこその膠着状態な訳なんだが...。
「せめてアイツが透明になる理由がわかればっとぉ!?」
「なら私達が頑張るです!マナスさん爆弾をいくつかください!」
「時間なら私達で稼いであげるわ!」
俺の前に二人が並ぶ。今は二人に任せよう。
「わかった!なら少しの間頼むわ!」
俺はコルネリアに爆弾を渡した後、その場に座り込み周りの音をシャットアウト。頭の中を整理し始める。
本体が変色してる可能性は...無いな。じゃなければ突っ込んでくる瞬間に見えることは無い。
となれば仕掛けは間違いなく鱗粉にある。一度空を見てみる。青い空にはたくさんのキラキラが、姿は見えないが鱗粉を散らしているのがわかる。
鱗粉で今わかってることは、無色透明で毒性がある。キラキラ光る理由は虹の原理とほぼ一緒で光の屈折によるもの...。
そこまで考えた時、太陽が雲に隠れて周囲が暗くなった。そういえば最近はずっと天気は晴れだったなぁ、と思っていると。
「え!?見えるようになったです!?」
コルネリアのあげた声につられてアイツの姿を探すと飛び回る姿が見えた。けど何故このタイミングで見えるように?
「見えるようになったなら今がチャンス...ってまた消えたわよ!?」
見えたと思ったら、また姿が消える。飛んでいるルートを予測して、その方角を見ようとするが、
「眩しっ!?」
雲から顔を出した太陽を直視してしまい思わず目を閉じる。なんだってんだ、消えたと思えば太陽がでてきて...ん?
「そうか!そういうことか!」
「何かわかったですか!?」
「おうよ!アレを落とす準備するから、もうちょい頑張って!そらっ!」
俺の代わりに何度も攻撃を受け止めてくれている二人に『そよ風のアロマ』を使って少しダメージを回復させてから、森の方へと走り出す。さぁて、こっからが俺の腕の見せ所だな。風を操る錬金術師の弟子の力を見せてやる!
「二人とも!大丈夫か!?」
準備を終えて戻ってきた俺は二人に呼び掛ける。
「まだまだ行けるです!」
「そっちこそ準備はできてるのよねっ!?」
思ったより時間かかったから少し心配だったが大丈夫そうだ。
「もちのろんだっ!ちょっとばかし目とか塞いでおけよ!」
さて、そんじゃま俺の全力みせてやりましょうか!
「世界を巡る優しき風よ、どうか俺の呼び掛けに答えてくれ!」
俺は杖に宿る力を発動させる。両端に付いた緑の宝石が輝き始め、周囲の風が俺の周りを渦巻き、杖を通して風と繋がる感覚。
「よーし、全部持っていけぇ!」
その風を俺が用意した物を巻き込んで、アイツがいるだろう空へと一気に放り出す。
「これは...葉っぱです?」
「来た道にあった枯れ草とかも一緒だけど...。」
俺が集めたのは、森に落ちていた葉っぱやら枯れ草やら、そういった風で簡単に飛ばせるものだ。予想通りならこれだけでも効果はあるはず...!
「あ!モンスターの姿が!」
「見えるようになった!?」
「キュオオ!?」
さらに突然の枯れ草やら葉っぱやらの量に怯んでいるようだ!
「コルネリア!」
「了解です!今度は当てるです!」
俺の呼び掛けに応じるコルネリア。俺が渡した『ルフトアイゼン』を怯んだアイツに放り投げる。巻き起こる風の嵐は今度こそやつを飲み込み、地面へと叩きつけた。
「待ちくたびれたわよ...これで終わらせてあげるわ!はあぁぁぁぁっ!」
地面に落ちたモンスターは羽が傷つけられて飛び上がることができないでいる。そこへ今までろくに攻撃出来ずにいたレオンさんの渾身の一撃が入った。
「キュオ!?キュオオ...ォォォ...。」
ジタバタと動いていたモンスターだったが、段々と動きが弱くなっていき、ついには完全に沈黙した。
「終わった...か?コルネリアー!レオンさーん!どうですー!?」
風を巻き起こすのに全力を出して、その場から動けない俺はモンスターの近くにいる二人に呼び掛ける。二人は倒れたモンスターを少し調べた後、笑顔でオッケーサインを飛ばしてきた。
「ようやく終わったかぁ。」
そのまま仰向けにぶっ倒れる俺。しばらくは休ませてもらおう。
「もう大丈夫そうです?」
「あぁ大丈夫だ。結構だるいのはあるけど、これぐらいならね。ありがとうよ。」
「お礼なら私達の方が言うべきことです。マナスさんがいなかったらあのモンスターは倒せなかったですから。」
ちょっと休憩して動けるようになった俺はゆっくりと立ち上がる。何かあるといけないからと側にいてくれたコルネリアには感謝の言葉を述べると、逆に返された。
「その通りよ。貴方が透明になるのをどうにかしてくれなかったら、一度街に戻るしかなかったもの。助かったわ、ありがとう。」
「お、おう。ど、どういたしまして...。」
レオンさんからも真っ直ぐに礼を言われた。さすがにこう、真正面から感謝されるってのは、ちっとばかし照れるな。もちろんレオンさんが美人ってのもあるけども。
「なに?もしかして照れちゃってる?」
「照れてなんかないやい!」
これ以上は何言ってもからかわれそうなので無視だ無視。とりあえず倒れているモンスターに近づく。正確には羽の方に用事がある。手で触ったり広げてみたり。ほむほむ、これは素材として使えそうかも。
「ごめんごめん!私が悪かったわよ!それよりちょっと聞きたいのだけど?」
「...なんでしょう?」
ちゃんと謝ってくれたので、とりあえず話は聞くことにする。もちろん調べながらだが。
「よそよそしさを物凄く感じる...!えっと、どうして葉っぱとかを巻き上げただけで、モンスターの姿が見えるようになったのかしら?」
「あ、私も気になるです。」
二人とも突然モンスターが見えるようになったのが気になっている様子。
「うーん正直な所、自分もちゃんとはわかってないけどそれでいいなら...。鱗粉が光の屈折でキラキラ光ってるっていうのは説明したよね?」
「はいです。虹と似たような原理と言ってたです。」
「たぶんなんだけどね、姿が消える理由も鱗粉の光の屈折によるものなんじゃないかなーって。」
光をねじ曲げる性質を持つ鱗粉。それが何重にも重なった結果、自分の姿を消すにまで至ったんじゃないか?という考えだ。途中で太陽が雲で隠れた時に姿が見えて、太陽が出てくるとまた消えたっていうのからも、そう結論づける理由には充分だろう。
「とはいえ全部机上の空論だけどねぇ。」
「あの場でそれを考えられるだけでも充分凄いことだと思うです。」
「えぇ。それに最後に見せた風、あれも凄かったわ!私じゃどうあっても真似できないし。」
「そうかなぁ。錬金術師ならやろうと思えば出来そうだけどね。」
師匠の本気の風起こしはマジもんの竜巻だったからなぁ。いつかは同じように出来るようになりたいものだ。
「よっし、羽も調べ終わったことだし。そろそろ帰ろうか。」
「賛成です。今日は疲れました。」
「早く帰ってゆっくりしましょ。」
切り取った羽を持って俺達は元来た道を引き返す。その時に、ふと耳に誰かの言葉が入ってきた。
『ありがとう!』
「ん...どういたしまして。」
『皆』もこれで安心して暮らせるようだ、よかったよかった。
「マナスさん、何か言いましたです?」
「いや、何も?」
はい、内容からわかるかもしれませんが、モンスターの仕組みは光学迷彩ですね。理論とかその辺はあまりわかってないですが、そういう奴だったということで、ご理解の程、お願いいたしますm(_ _)m