さて、今回はヘンタイおじさんと娘さんのお話ですね。
ルアードとの共同生活はなかなかに楽しいものだった。
時に笑いあい(時間を忘れて錬金術に没頭しすぎて謎の深夜テンションで高笑い)、
時に学びあい(町民からクレームが入り、ご近所様に二人して頭を下げに行った)、
時に喧嘩をして(意見の食い違いから最終的に雪合戦ならぬ爆弾合戦、最終的にテント内が凍りついた)友情を深めあった。
うん、今振り返っても中身の濃すぎる二ヶ月だったな。
そして道具等々も揃ったことでルアードとも別れ、俺はソフィーを探しに、また一人旅の最中だ。
立ち寄った静かな街で足りなくなった食料や材料を集めている最中だ。最中なのだが...。
「あっれー!?また会ったねお兄さん!もしかしてアタシのファンだったりする?」
ちょうど太陽が俺の真上を過ぎた頃、左半身を鎧で固めたスタイルのいい黒髪のお姉さんと本日5回目のエンカウントをしていた。
「いや違いますし。というか待ち合わせは平気なんです?」
「あーうん、多分だいじょぶ!おとーさん見つからないのはいつものことだし!」
元気に答えるお姉さん。時間がどうとか呟きながら歩いていったから一応聞いてみたけど、絶対大丈夫じゃないでしょ。
しかも『おとーさん見つからない』と言ってるけど、五回も違う場所でエンカウントしてる時点で、この人『が』迷子で間違いない。
「いつもって...。ちなみに見つからないことって何回あったのよ?」
「両手で数えられないぐらい?前なんて何年も会えなかったしね~。」
年!?年って言った!?うっそだろおい、さすがに冗談だろーって言おうと思ったが、この裏表の無さそうな笑顔は間違いなく嘘はついてない。
この人のお父さん、マジで大丈夫だろうか?こんな頻繁に消えてたら胃に穴が空いたりしないだろうか?
というか何年も会えない家族って聞くと、むしゃくしゃするというかなんだろ、この気持ち。
あぁもう、これ以上エンカウントするのも疲れるし、しょうがねぇなぁ!
「なぁ、そのおとーさんってのは何処にいるかはわかるのか?」
「えっとねー、たぶん教会の前にいると思うよ?」
「それなら俺が連れてこう。絶対にはぐれんなよ?」
「うぇ!?いいっていいって!君も用事があるんでしょ?」
「その用事で教会にも行くからな。もののついで、ってやつよ。」
「でも」
「あぁもぅ!」
これ以上は水掛け論になりそうだったので、俺はお姉さんの手を掴んで歩きだす。
「わっと!?」
「はいはい、ちゃっちゃっと行きますよー!」
「わかった、わかったから引っ張らないでー!」
さて、お父さんがホントに教会にいるかが問題だな。いくら待ち合わせとはいえ、何時間も都合よくいるだろうか?
『ドロッセルのやつ、ちゃんとここに来れるだろうか...。』
おっと、どうやら風が声を運んでくれたようだ。方角も教会の方であってるみたいだし。よし、急ごう。
さて、途中で三回ぐらい消えそうになったお姉さんをなんとか教会まで連れてきたわけだが。肝心のお父さんはどこだろうか?
「あ、お父さんいたっ!」
「む!?ドロッセルか!」
どの人がお父さんか俺が探す前にお姉さんが飛び出していった。
そして、その声に反応した緑の服に腰に二振りの剣を挿した、少し年がいってるだろう黒髪で背の高い男の人。
なるほど、確かに二人並ぶと似てるわな。
「合流できてよかったぞドロッセル。また一日はぐれたままかと思ったぞ。」
「アタシも一日かかるかなぁって思ってたんだけどね。親切な人がいてくれて助かったよー。」
「つい最近もはぐれたばっかりかよ。」
「はぐれたんじゃないよ?急におとーさんがいなくなっちゃうだけだから。」
おっと、心の中で留めておくつもりが思わずつっこんでしまった。いいやいいや、この勢いで言っちゃおう。
「いや、この際言わせてもらうけど、おねーさんは絶対に方向音痴だぞ?」
「いやいや、はぐれたのはたまたまだって。」
「あなたが方向音痴なのです。」
「いやいや、それは偶然」
「迷子なのです。」
「いやいや」
「なのです。」
「...ええっと。」
「なのです。」
「わ、わかった!わかったから顔近いよ!?」
「...はっ!?わりぃ!」
わかってもらう為とはいえ、近づきすぎた!あぁびっくりしたぁ。でも言質はとった、これで少しはおねーさんの迷子率は減るだろう。
一度でも言葉として出したなら、その事実が頭の何処かで残るからな。
「あー、とりあえず君がドロッセルを連れてきてくれたのだな。礼を言う。」
「あぁ礼なんていらないですよ。自分が勝手にやったことですから。」
お父さんの方はお姉さんと違って、落ち着いた感じの人だな。それに今の少しの仕草でもわかった。この人すごく強い。腰の剣が飾りじゃないってのがわかる。
なんでそんなのわかるかって?
『師匠』と何年も打ち合ったから。あとは、『風詠み人
』として何か感じるものがあるから、かな?
ルアード、今は偽名を使ってるだろうが、自分が『風詠み人』だと教えてもらってからというもの、今まで以上に素材の声が聞こえるようになったり、危険予知みたいなことができるようになったりしているんだが、後は人の纏う空気というか、そういう目に見えない曖昧な何かも感じられるようになった。
もちろん迷子のおねーさんが戦える人なのも会った時点でわかってたけどね。
「ねぇそういえば君、何か用事があったんじゃないの?」
「あ、やっべ!?」
お姉さん、じゃなくてドロッセルさんの言葉で本来の用事を思い出す。
「すいません!ちょっと急ぎますので、この辺で失礼しますねっ!」
二人の反応も待たずに走り出す。ここ以外にも届ける場所が結構あるから急がないとっ!
「案内してくれてありがとねーっ!」
後ろからドロッセルさんの声が聞こえたので振り向かずに上に大きく手を振る。えっと次の依頼人さんは...っと。
「あ、行っちゃった。」
「ふーむ?」
「あれ?どったの、おとーさん?」
「あぁいや、あの後ろ姿が誰かと被ってな。はて、誰だったか?」
「んー?アタシはわからないよ?」
「名前は聞いてなかったのか?」
「聞いてなかったねぇ。右手に包帯巻いてるのも今気づいたし。」
「そうか...右手に包帯?」
次の日
いやぁ昨日は焦った。ドロッセルさんの迷子の話が強烈すぎて危うくお届けものが間に合わなきなる所だったわ。
今日も作ったものをお届けするために街を歩く。残る場所は一ヶ所だ。依頼書を見ながら歩いていくと一軒の小さな家にたどり着いた。
「ここで間違いはなさそうだな...ごめんくださーい!」
「すまない!少々待っていてくれ!」
留守ではないようなので一安心。そうして少し待っていると扉が開いて、中から出てきた人に俺は驚いた。
「はーい、どちら様ですかー...って昨日のおにーさんじゃん!なになに!やっぱりアタシのファンだったりする!?」
「なんでさ...今日は仕事で来てるんだよ。ここにフリッツさんって人いない?人形用の糸を作ってきたんだけどさ。」
「あー!なるほどそういうことかぁ!なら入って入って!」
昨日とは違い、今度はドロッセルさんが俺の手を取って引っ張っていく。
「おとーさん!昨日のおにーさんが糸を持ってきたよ!」
「おぉ、また会えてよかった。君とは少し話をしてみたかったのでな。このあと時間はあったりするだろうか?」
家の中に入ると、作業机っぽいものに人形が何体か並んでいて、小道具がいくつか転がっていた。今は整備中だったか。
「あーはい大丈夫ですよ。ここで依頼は最後ですからね。とりあえず先に依頼品の糸を渡しておきますね。」
「うむ...これならば問題はなかろう。これが報酬だ。」
「よかった。人形劇用の糸は初めて作ったので、これで合ってるか不安でしたから。」
「作った?...そうか、皆が言う錬金術師は君だったか。」
「皆ってのはわかりませんが、まぁ今この街にいる錬金術師なら、俺のことだとは思いますよ?」
この街に俺以外の錬金術師がいるのは聞いてないし。というかいたら、昨日俺は走り回ってないし。
「それで話というのは?」
「あぁ、その前に自己紹介しておこうか。私はフリッツ。各地を旅する人形師だ。」
「あたしはドロッセル!昨日はありがとね!」
「マナスといいます。どうぞよろしく。」
フリッツさんから差し出された右手を取って握手する。
「マナス、それに右手の包帯。やはり君がソフィーの探し人だな。」
「え?...あ、そうか!人形師のフリッツさんか!モニカやコルネリアから話は聞いてますよ。」
そうだそうだ、モニカ達の言ってた凄い人形師でヘンタイ(アトミナ談)のフリッツさん。
「モニカにコルネリア、懐かしいな。とりあえず座るといい。ゆっくり話をしようじゃないか。」
どうやら午後はフリッツさん達とのお茶会になりそうだ。