更新が遅くなったことすみません。一ヶ月ペースすら守れない軟弱者でごめんなさい。あ、石投げないで。石を雪玉に入れないで。
というわけで人形師親子のお話、これにておしまいでございます。
「ざわ...ざわ...。」
いま俺は手にバイオリンを持ち、足元にはトランペットやアコースティックギターなどウィーレンで貰ってきた楽器達を、傷が付かないよう床に引いた分厚い毛布の上に置き、いつでも手に取れば音を奏でられるようにセッティングしてある。
「ざわ...ざわ...。」
上を見上げれば雲一つない快晴の空である。今日も青色が素敵ですね大空さん。こんな日には草むらの上に寝転がってお昼寝でも出来れば最高だろうなぁ。快眠できるだろうなぁ。
「ざわ...ざわ...。」
...そろそろ現実に戻ろうか。空を見るのをやめて地上を、正確には自分の周囲をぐるっと見回してみると視界に入る人ひとヒトよ。
はい、絶賛この街の住人さん、おそらくは三分の一ぐらい?の人に囲まれております。
「一体なんでこうなった...?」
住人の皆さんから好奇の目で見られるの結構辛いんで早く来てくれませんかねぇフリッツさんとドロッセルさーん!
もしかしなくても二人はセットした舞台の裏で人形の最終チェック中だ。
チラッと舞台裏を確認してみる。
「フッフッフッ、調子はバッチリのようだなフリッツくん!」
「ふへへ、今日も素敵だよフリッツくん!」
うん、変態しかいなかった。
...メクレット、アトミナ(今はルアードだが)、よくこんな変態と接してこれたな。もし俺がお前さんの立場だったら何も言わずに全力で逃げ出してるわ。
「よし、それでは行くとするか!」
「うん!今日も最高の人形劇にしよう!」
ようやく出てきたか。あーでも来たら来たで今度は失敗しないか不安になってくるなぁ。
「マナス、成功や失敗は考えなくていい。まずは劇を楽しむのだ。」
「そうそう。劇を演じる私達が楽しく思えなかったら、観客の皆も楽しいなんて感じてもらえないもの。」
不安が顔に出ていたか、二人が声をかけてくれる。そうだったそうだった。
ちょっと予想してたよりも遥かに人数が多くて面食らってたが、まずは自分自身が楽しまなければな。
今までの話の流れから察してもらえると思うが、俺はこれからフリッツさん達の人形劇に特別ゲストとして参加することになっている。
なぜそうなってしまったか、それは一週間前のお茶会の時間まで遡る。
フリッツさんのお誘いに乗って、三人でテーブルを囲み、互いに近況を話し合っていた。
俺は錬金術師としての話を、フリッツさん達からはソフィー達の話はもちろんのこと、他にも今まで巡った街のことなど色々と話をしてもらった。
そして、ふと目に入った『ソレ』について俺はフリッツさんに聞いたのだ。聞いてしまったのだ。モニカやコルネリアにも注意されてたんだけど思わず言ってしまったのだ。
「その人形、よくできてますね。」
と。
「わかるかっ!?」
ガシィッ!と、いつの間にか両肩を音が聞こえるぐらいに掴まれ、目の前にフリッツさんのドアップ顔があった。しかもなんか目が少し血走ってませんかね!?
「見よ!この身体の美しきラインを!この腰の括れ!スラッとした足!そしてこの可動部を!」
ここからフリッツさんは人形について語り始めた。もちろんドロッセルさんも一緒に。
それはもうこれでもかぁ!というぐらいに人形を愛でて愛でて愛でまくる。
予め人形の話だとわかってたからいいものの、これ何も知らない人が聞いたらフリッツさん変態以外の何者でもないな。皆が変態呼ばわりする理由がよくわかるわ。
ドロッセルさん?まぁ女性だしセーフだろ。フリッツさんはアウト。なんでかって?考えてもみなよ。40後半にもなろうオジサンが人形にほっぺたすりすりだぞ。わかるか?これがもしフリッツさんではなく、小太り中年じいさんだったら...鳥肌もんだな。
結局、人形の話が終わったのは、とっくに日が沈みきった後の話である。
次の日も俺はフリッツさん宅(仮)にお邪魔していた。
「昨日はすまなかった。人形の事となると歯止めが効かなくなってしまってな。」
「あー、うん、おきになさらず。でもフリッツさん達はホントに人形が好きなんですね。」
「あぁもちろんだ。私は人形を愛している!この先何があろうとも、この気持ちは変わらん!...例え変態と呼ばれようとも!」
「開き直った!?」
実は反省してなかったりするのかなこの人。ちょっと疑いの目を向けてると
「いつか最高の人形劇をするためなら!それぐらいの事で立ち止まったりはしないのだっ!」
「こっちもか!?こういうところで血筋ってもんを見せつけんなよ!?」
フリッツさんに続いてドロッセルさんまでも熱くなってやがる!?
こういうのはもっとこう、職人とかだったら技術の腕とか、顔つきとかの遺伝とかで見せてくれよ、ちょっと拗れた性癖とかは勘弁してくれ。
「そういうわけで、今日来てもらったのはマナスに人形の素晴らしさをわかってもらうために人形劇を見てほしかったからなのだ。」
「さぁ!魂こもった人形劇、開演だよ!」
突然始まった人形劇だが、内容はホントに凄かった。人形がまるで命を吹き込まれたかのような動きに魅せられ、脚本もまた素晴らしく、ドロッセルさんが閉幕の言葉と共に、俺は二人に拍手を送っていた。
「すごかったですフリッツさん!ドロッセルさん!人形劇でこんなにも感動するとは思いませんでした!」
実際に人形劇を見ること自体は初めてじゃあなかったのだが、技術が違うだけでここまで変わるとは思わんかった。
「やったね!おとうさん!」
「ふはははっ!!!楽しんでもらえたようでなによりだ!次の公演は、また違う話をするつもりだから見に来るといい。君ならば大歓迎だ!」
まじか、そいつは嬉しい知らせだな。次の公演は最前列を確保しないと。
「あーでも、おとうさん。あっちのセットはまだ...。」
「む、そうだった。どうするか考えているところだったか。」
「何かあったんです?」
「あぁ、次にやろうとしている劇のセットに不備があるのがわかってな。直そうとは思うのだが、材料等を揃えていたら次の公演に間に合いそうになくてな。」
肩を落とし嘆息するフリッツさん。こんなに凄い人形劇。他のお話も見てみたい俺としては協力しない選択肢は無いわな。
「ふむ、そういうことでしたら俺が揃えましょうか?」
「いいの!?おとうさんお願いしようよ!」
「おぉ、引き受けてくれるのか、助かる。必要なものは...。」
言われたものをメモしていく。うーん、一部は錬金術で作った方が良さそうだな。
「了解しました。一部は錬金術で作るので、明後日ぐらいに俺のアトリエに来てください。」
「わかった。すまないがよろしく頼む。」
こうして俺はフリッツさんの依頼を引き受けた。材料集め等は思ってたよりすんなりと済み、二日後。
「すまない、邪魔するぞ。」
「おっはよー!ここがマナス君のアトリエかぁ!フィリスちゃんのよりは狭いけど、それでも広ーい!あははは!」
「あ、フリッツさん、ドロッセルさん、おはようございます。物はちゃんと出来てますよ。ドロッセルさん、あまり中の物には触らないでくださいねー。」
「はーい!」
いろんなものに興味を持つ所はなんだか子供っぽいな。
さてさて、頼まれたものを出すとしましょうよっこいしょ。えっとーこれとこれと。
「うわぁ!おとうさん見てみて!たくさん楽器があるよー!」
フリッツさんと作った物の確認をしていると楽器置き場からドロッセルさんの声が。
「...うちのがすまん。」
「あぁ、お気になさらず。」
楽器置き場にいたドロッセルさん。確かに俺の言ったことは守ったくれていたのか触ってはおらず間近で眺めているだけだった。
「ねぇねぇ!マナス君は、ここにある楽器は演奏できるの?」
「ん、まぁ一応ね。人に聞かせられるほど上手くはないけど。」
さすがにモノホンの演奏会を見た後じゃ出来ますよ!とは言えないなぁ、うん。
「マナス君の演奏聞いてみたい!」
「おいおい、話聞いてたか?人に聞かせられるもんじゃ」
「私も聞いてみたいな、どうだろう?一つ私達に聞かせてもらえないだろうか?」
俺の言葉に被せるようにフリッツさんまで同意してきた。参ったなぁ、人形劇を見せてもらった手前、断るわけにはいかんしなぁ。というかドロッセルさんの期待の眼差しが強い!強すぎる!
...はぁ、仕方ないなぁ。
「わかりました、でも期待はしないでくださいよ?」
「やった!楽しみ~♪」
「やれやれ。あ、椅子はそこの使っていいですよー。」
「わかった。」
二人には先に席に着いてもらう。さてと、どの楽器にするかだが...。
「まぁ一番自信があるやつだよな。」
手に取ったのはバイオリン。ウィーレンで一番最初に俺が学んだ楽器だ。あの時はよくアレンとトウカと演奏してたっけ。錬金術は俺が師匠だが、楽器に関しては二人から教わったりもしたっけ、懐かしいな。
軽く音を鳴らしてみる。うん、問題は無さそうだ。まぁ三日に一度は必ず触ってるから、音がズレることはそう無いだろうけど。確認も終わったので待たせている二人の元へ。
「お、きたきた!」
「うむ。」
「お待たせしました。それでは始めたいと思います。」
人前で演奏するのは久々だな、一度深呼吸してからバイオリンを構える。緊張?もちろんしてる。でもやることは決まってる。
あちらさんが魂震える人形劇なら、こっちは教わったとおりに、
心に響く演奏をするだけだ。
「...ふぅ。ご清聴ありがとうございました。」
演奏が終わり一礼する。今日の演奏は上手くいったと思うけど、二人にはどうだろう。少し不安だったが、すぐに聞こえてきた二人分の拍手に俺は安堵した。
顔をあげると笑顔で拍手してくれる二人の姿が。というかドロッセルさん全力で拍手してくれてるわ。
「すごい!すごいよマナス君!人に聞かせられないなんて嘘じゃんさぁ!」
「うむ、とても良い演奏だった。謙遜などせず、もっと人に聞いてもらっても、いいのではなかろうか?」
「あ、ははっ。そうですかね、考えておきます。」
おおぅ、ここまで高評価もらえるとは思わなかった。ちょっと照れるな。
「そうだ!あたしいいこと思いついちゃった!」
「何を思いついたのだドロッセル?」
これぞ名案とばかりに笑顔で答えるドロッセルさん。そしてその笑顔はこっちに向けられる。
「ねぇマナス君!あたし達の人形劇を手伝ってみない!?」
「...はい?」
ドロッセルさんの提案内容は、フリッツさん達の人形劇に合わせて、楽器で音をだしてほしい、というものだった。
確かに、あの人形劇に音がついたら、もっと楽しくなりそうだ、と思った俺はそれを承諾。
別に二人の勢いに負けた訳じゃないからねっ!?
それから講演の日まで練習に練習を重ね、そして当日。
つまりは現在に戻るのである。
劇の進行に合わせ、俺は後ろで楽器を鳴らす。楽器を置いては手に取り、また置いては違うものを。それを何度も繰り返し、そして劇は終幕を迎える。
「こうして二人は結ばれ幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。今日の講演はこれでおしまい、最後まで見てくれてありがとうございました!」
ぱちぱちぱちぱち!!!
ドロッセルさんの終わりの言葉と共に観客の皆さんから惜しみない拍手が送られる。
ありがとー!ありがとー!と手を振り返すドロッセルさんとフリッツさんを後ろから見ていると頑張った甲斐があった、と思う。とはいえ、もう少し練習時間が欲しかったのは事実だが。
さてさて、楽器達をケースに閉まっておこう。アトリエに戻ったら整備しなきゃ。
「ほらマナス君こっち!」
「ちょ、まっ!?」
と思ったら、いつの間にか近くまで来ていたドロッセルさんに腕を掴まれ引っ張られる。
「今日あたし達の人形劇に音を付けてくれたお兄さんにも盛大な拍手をお願いしまーす!」
ぱちぱちぱちぱち!!!
見に来てくれた皆が俺に向かって拍手してくれる。笑ってくれてる。
「ほら、ボサッとしないで答えてあげなよ。」
小声でせっつかれたので、とりあえず手を振ってみる。
拍手がさらに強くなって返ってきた。
「君の力があったからこそ、ここまで皆が笑ってくれたのだ。」
前に出たことで観客の皆の顔がよく見える。誰も彼もが俺に笑顔を向けてくれていた。
『おとうさんおとうさん!俺ね!ソフィーのおばあちゃんみたいなれんきんじゅつしになってね!まちのみんなをえがおにしたいんだ!』
『そうかそうか!それならもっともっと色んな事を勉強して、いつか皆を笑顔にするところ、父さんに見せてくれよな!』
『うん!おとうさんもおかあさんにも見せたげる!』
『おう!男と男の約束だぞマナス?』
『うん!おとことおとこのやくそく!』
『あらあら、私は混ぜてくれないのかしら?』
『もちろん!おかあさんともやくそく!』
あーそっか。やっと気づいた。
最初にドロッセルさんが迷子の時にムシャクシャした理由。お父さんと何年もはぐれたってのに呑気なドロッセルさんの姿が気にくわなかったんだな、俺は。まだまだ俺もガキだなぁ。
父さん母さん。今ね、こんなにもたくさんの人達が笑ってくれてるよ。二人にも見せてあげたいな。
「フリッツさん、ドロッセルさん。劇に誘ってくれてありがとうございました。とてもいい経験になりましたです!」
「お、ほんとうか!?私も今回の劇はとても楽しかったのでな!よし、次の劇はもっと盛り上がるのをやろうではないか!ふはははっ!!!」
「え、次?」
「そうだねお父さん!さぁマナス君!立ち止まってる暇はないよ!戻ったらすぐに打ち合わせだよ!」
また腕をつかまれぐいぐい引きずられる俺。いや待って!俺まだ次やるとは言ってないよ!?あ、待って引きずらないで!歩く歩く!ちゃんと歩くから待ってぇ!?
ライザのアトリエ発売おめでとうございます!ライザめっちゃ可愛いですね!というか、えっちぃ感じがががが。
ちょっと忙しすぎてプロローグ的なのしかやってませんが、落ち着いたらじっくりやっていこうと思います!
さて、次回は大天才錬金術師かアダレットの騎士さんか植物大好きマンの誰かになりますので、どうぞよろしくお願いします!