不思議な行方不明の錬金術士   作:カエル帽子

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皆様あけましておでめとうございます!

あーうー、年内に投稿したかったのですが間に合わなかったぁ。アダレットの騎士さんのネタが全く浮かばなくて止まってしまいました。

今年も気まぐれなるままの更新速度となりますが、どうぞよろしくお願いいたします。


騎士からのお誘い

フリッツさん達との生活は大変だったけど楽しかった。ホントに大変だったけど!楽しかった!(大事なことだから二回いいました)

 

人形のことさえ絡まなければ二人ともまだ...いやドロッセルさんがダメだわ、油断すると消える。なんで手を繋いで歩いてるのに消えるのか、これが全くもってわからない。

二人と別れる時も最後までフリッツさんには引き留められた。

人形劇を続けたい等いろいろと言ってきたが、一番の理由は消えたドロッセルさんをすぐに連れ戻せるスキルだろう。

ん?どうやってるかって?『風詠み人』の力を遺憾無く使わせてもらいました。じゃなきゃすぐに連れ戻すなんて芸当無理です。実の父親が出来ないのに出会って一ヶ月程度の俺が出来るわけなかろう。

 

とはいえ俺も本業は錬金術師であり、ソフィーを探す身の上。そこは頑張ってくださいと、どうにか説得して振り切った。

最近はドロッセルさんも迷子の自覚が少し出来てきたようなので、少しずつ改善はされるだろう。たぶん、おそらく、めいびー。

 

 

 

 

そうしてまた一人旅になったわけで、今何をしているかと言えば。

 

「やっほぉぉぉぉ!!!」

 

空を飛んでます。もう一度言います。空を飛んでます!

 

メクレットとアトミナが来たときに作った『エリアルブーツ』を覚えてるだろうか?そう、空を飛ぶための靴。

依頼とか人形劇とか、それなりにやることがあって実験する時間がとれなかったが、ようやく試すことができた。

地上で使うなら、ほんの少しだけ力を解放することで一瞬で相手の間合いを詰めたり、兎のように跳びあがったりといった使い方になる。

実際、フリッツさん達に手合わせした時も奇襲みたいな形で使ったりもしたし。まぁ全部捌かれたけども。

 

あとは空を飛べることを確認するだけだったんだが、さすがに街の上空を飛んだりすると街の人に騒がれそうだったので控えていた。

しかし、ここは平原と森だ。騒がれる心配もないので、こうして靴から錬金術で翼を生やして飛び回っているのだ。

設計上、翼が無いと空中でバランスが取れないのもあるけど、あった方がかっこいいよね?

 

「風が気持ちいいなぁ!」

 

最初はゆっくりと真っ直ぐに、そしてちょっとずつスピードを上げながら今度は右へ左へ上へ下へと向きを変えながら飛び回る。

うん、うん!一時間ぐらい飛んでたけど、全くもって問題無し!強いて言うならちょっと寒いぐらいかな?今度飛ぶときは普段よりも少しだけ厚着をした方がいいのかもしれない。

 

『キリュオォォォォン!!!!!』

 

「ん、なんだ?」

 

突然耳に入ってきた声。聞き間違いでなければ竜、というかドラゴンの声だ。

ドラゴンの素材は錬金術の素材としては物凄い価値がある。特に万能の素材となる『賢者の石』を作る過程で『竜の血晶』は必需品といえるだろう。

さて、どうにも聞こえてきた声からして一頭のみ。レベルの高い物を錬金術で作るなら、大抵『賢者の石』が必要となる。となれば俺がとる行動はただ一つ。

 

「血ぃ置いてけぇぇぇぇ!!!」

 

聞こえてきた方角に向かって全力で飛び出す。ブーツの試験?そんなもの忘れたわ!

 

「どこだどこだ...あれか!」

 

少し飛んだ所で、白い竜が尻尾をぶんぶん振り回してる姿を捉えた。さぁて一丁やりますか!!!

杖を構えて、一直線に竜に向かって落ちていく。狙うは頭、風の力を纏った俺の全力を食らいやがれ!

 

「ドタマかち割ったらぁぁぁ!!!!!」

 

ズドンッ!

 

「ガッ!?」

 

狙いは完璧。見事、頭に全力の一撃を叩き込まれた竜は地面に頭をめりこませる。少し様子を見るも動く気配が無かったので、ブーツの機能を解除し地面に着地。

 

「なぁ竜だろうおまえ!?素材置いてけぇ!!なぁ!!」

 

挑発染みた感じに声をかけてみるも動かず。よし、それならさっさと剥ぎ取り開始だ。鱗も尻尾も血晶もいただきだ!

 

「すまない。少しいいだろうか?」

 

「はい?」

 

むぅ、これから剥ぎ取りってな所なのに。俺を止めようとするのは何処のどいつなのかと振り返る。

そこにいたのは銀髪で、大剣を持ち、かなりの重装備をしている男の人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今までも、いろんな錬金術師の人には会ってきたけど、空から降ってきた人は初めてだよ。」

 

場所を変えて俺のアトリエテント内。重装備な銀髪のお兄さん改め『ジュリオ』さんを招いてお話することになった。

この人もまたソフィー達がお世話になった人の一人で、何でもソフィー達の危ない所を危機一髪で助けてくれたらしい。

それを聞いた瞬間、俺はとにかくジュリオさんに感謝の気持ちを伝えるため頭を下げまくった。ジュリオさんは偶々通りがかっただけ、と言うが、一歩間違えればケガどころか命さえも危うかったのだ。とりあえずこの件の原因になっているオスカーには次会ったときに一発ドぎついのを喰らわせてやるとして、だ。

どんなに感謝しても感謝しきれず、こうしてテントに招いてお茶会を急いで開いたのだ。

今は時間も少し経ったので俺も落ち着きを取り戻している。

 

「そうなんです?でも師匠は戦いの時とかビュンビュン飛び回ったりしてたけどなぁ。」

 

「そうなのかい?やっぱり錬金術師の人達は不思議な人達が多いんだね。」

 

そう言ってジュリオさんが笑う。

けど待ってほしい。俺は錬金術師の中でもまともというか常識人だと思う。

だって、世の中には修行と称して平気で人を池に放り投げたり地面に埋めたりする人や、街の防壁をお菓子で作ろうと考える人がいるんだぜ?

それを考えたら俺は普通だと思うんですがねー。

 

「空から降ってきた上に、あのテンションの高さ見たら、ね?」

 

と、返されてしまった。ぐ、でもあれは久々に竜素材が手に入ると思ったらテンションが上がってしまった結果でありまして。けっして普段からあんなんじゃないんですよ?信じて?ね?信じてくださいお願いしますよー!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで君は誰かから戦い方を教わったりしたのかい?」

 

「はい、俺の師匠が一人でも戦えるようにと棒術を教わりました。」

 

おかげさまで今でもこうして旅が出来ているけれど、修行の時のことを振り返ると、苦い思い出ばかりが蘇る。

 

「...大丈夫かい?」

 

「あぁはい、だいじょーぶです。だいじょび、なのですあはは。」

 

いかんいかん、顔に出ていたようだ。笑って誤魔化しておく。

 

「...まぁいいか。それなら一つお願いがあるんだけど、いいだろうか?」

 

「はい、出来ることならなんなりと。むしろソフィー達が世話になった分を返したいぐらいなので。」

 

ソフィー達の恩人の頼みなのだ、無下にするなんてことは絶対にいたしません!

 

「それじゃあ、僕と一つ手合わせしてくれないだろうか?」

 

「手合わせです?んー自分で言うのもなんですが、俺はそこまで強くないですよ?フリッツさんとも手合わせしましたけど、普通に負けちゃいましたし。」

 

あの人はホントに速かったし巧かった。俺も目指すべき戦いの形はフリッツさん寄りなんだろうが、まだまだ全然届く気がしない。多少手解きはしてもらったけどね。

 

「いや、強さとかが問題じゃなくてね。棒を使う人はあまり見なかったものだから手合わせしてみたいんだ。騎士として、いろんな状況に対応出来ないといけないしね。」

 

「なるほど、そういうことでしたら喜んで。」

 

こちらとしても戦う経験は多い方がいいので了承する。さてと、やるからには全力で挑むのみ。閉まった杖を取りだし外へでる。さあ、気張ってこーか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ここまでにしようか。」

 

「ふはぁ、ありがとうございましたぁ~...ごふっ。」

 

ジュリオさんの止めの一声で後ろに仰向けにぶっ倒れる俺。

真剣勝負なだけあってかなり疲れた。というかジュリオさんの一撃が重すぎる!俺の身体能力で真正面から大剣を受け止めるのはまず無理なので、避けてかわして受け流しながら戦ったってのに手がめっちゃ痺れてる。

これまともに受け止めてたら、その時点で終わってたな、うん。

 

「大丈夫かい?」

 

ジュリオさんが倒れた俺に手を差し出してくれたので、その手を掴んで起き上がる。ちなみに師匠はそんなことしてくれなかった。

いや正確には差し出してはくれたのだが、掴んだ瞬間そのまま投げ飛ばしてくれやがった。

 

「さすが現役の騎士様だぁ、一本も取れなかったです。」

 

「それを言うなら、僕も君から一本取れなかった。君の方こそ凄いと思うよ。」

 

「そう言ってもらえると嬉しいです。」

 

ジュリオさんと手合わせしてみて、自分も前よりもレベルアップ出来てるのがわかった。うん、もっと頑張って受け流しを完璧にしよう。そうすれば魔物との戦いも、もっと楽になるはずだ。

さてと、いつまでも座ってるのもあれだしテントに戻るか。体も汗でベトベトだし、タオルとかも出さなきゃ。

 

「あ、ちょっと待ってくれるかい?」

 

戻ろうとしたところでジュリオさんに呼び止められる。それも手合わせしてる時のような真面目な顔だ。

 

「マナス、騎士団に入ってみないか?」

 

「へ?」

 

この人なんつった?俺の聞き間違いじゃなきゃ騎士団に入ってみないとか言ったか?

 

「いや、本気で言っているよ。君の腕なら十分に騎士としての実力はある。そして誰かの為に錬金術を使う在り方もまた素晴らしい。どうだろう?考えてみてはくれないか?」

 

騎士、騎士かぁ。まさかこんなこと言われる日が来るとは思わなかった。国を、民を守る騎士。それも副団長からのスカウトなんて、とんでもなく名誉なことなんだろう。でも、俺の心は決まってる。

 

「ジュリオさん。自分のことを評価してくれたこと、ホントに嬉しいです。でもごめんなさい、俺は騎士にはなれません。」

 

「...理由を聞いても?」

 

「俺には守りたいものがあります。俺にとってどうしても譲れない、どんなことよりも大事なもの。目の前で国や国民が困っていようとも、俺はそっちを絶対に優先します...自国の人達を平気で裏切るような人間が騎士になるわけにはいきません。」

 

あの日、全部を無くした俺。記憶が戻った時の絶望はとんでもない物だった。絶望で塞ぎこんだ俺。そんな俺を立ち上がらせてくれたのは、ソフィーとの思い出だった。

 

おばあちゃんの錬金術を二人並んで見たこと。

 

二人で街の外にでて、魔物に襲われたこと。

 

二人だけで錬金術をやろうとして中身を爆発させて顔が真っ黒になって、互いに笑いあったこと。

 

どっちが立派な錬金術師になるかで張り合ったこと。

 

そして、再会の約束を交わしたこと。

 

一つ思い出すと、どんどんキルヘン.ベルでの出来事が浮かび上がる。皆で笑いあった日々が。いつも隣で笑ってくれた彼女の顔が。

 

『人を笑顔にするための錬金術』

 

その目標は今だって変わらない。けれど、俺がホントに笑顔にしたいのは、この右腕の時のと別れ際に泣かせてしまった彼女だから。

 

だから、俺は皆を平等に守る騎士という存在にはなれないのだ。

 

「あとは形式ばった堅苦しいのが苦手ってのもありますね。」

 

「はっはっはっ!なるほどわかった。この話は忘れてくれ。」

 

「えっとその...ごめんなさい。」

 

「謝らなくていいさ。一応ダメ元のつもりだったからね。さ、戻って支度をしようか。思ったよりも時間が経っていたようだ。」

 

「ありゃ本当だ。すぐに準備しましょうか。」

 

言われて気づく。太陽がだいぶ傾いてるな、急がないと今日中に次の街に着くのが厳しくなりそうだ。俺は別に野宿だろうがテントがあるからいいけど、ジュリオさんは先を急ぐみたいなのでゆっくりはしてられない。

 

お誘いを断ったことの気まずさを感じつつも、最初話した時と変わらない感じに振る舞いつつ、テントに戻って移動のための後片付けを始める俺でした。

 

 

 





次回は植物大好きマンの彼か、大天才錬金術師の彼女のどちらかになるかと思います。

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