このSSですが、もう少しキルヘン.ベルの話も書こうかなとも思ったのですが、お話を先に進めることにしました。ご了承くださいませ。
キルヘン.ベルでの生活はとても充実していた。
モニカには教会にお祈りに来い!と、せっつかれ、ハロルさんにはソフィーの私物で変なことしてないかと度々様子を確認され、マルグリッドさんには野菜を食べなさい、と差し入れが来て、テス姉にはソフィーの匂いはどうだった?とからかわれ、ホルストさんには依頼をこなして感謝される日々。とっても楽しい(?)日々だった。
気づいた時には半年が経ち、とうとう街を旅立つ日が来たのである。
「さてと、忘れ物はないかなーっと。」
ソフィーの家の中をぐるっと見渡す。たぶん忘れてるものはなさそうだ。
この半年間ずっと此処にいさせてもらったわけだが、ソフィーとソフィーのおばあちゃんと過ごした記憶を色々と思い出すことができた。旅を始めたばかりの頃は生きることに必死だったから、昔を振り返る、みたいな余裕が無くて、忘れていたことがたくさんあった。
そして、此処での思い出が出てくるたびに、自分しかいないこの部屋が、とても広く感じるようになった。
「俺はソフィーに依存してるってか...参ったねぇ。」
街の皆が結構な頻度で遊びに来てくれたのは嬉しかったけど、この寂しいんだか悲しいんだか分からない胸のモヤモヤは晴れることはなかった。幼馴染のモニカでさえ、この気持ちを晴らすことはできなかったんだから、やっぱりソフィーに会わなきゃ解決はしないだろう。
「またここで、一緒に錬金術をやれる日は何時になるんだろうな...。」
「必ず来るわよ。」
「おわっ!?モニカ!?いつからいたんだよ。」
俺の拾われることの無いはずの呟きを、いつの間にか後ろにいたモニカに拾われた。全然気づかなかったぞ。というか、よくこんな朝早くに此処にこれたな。
「今来たばかりよ。そしたらちょうど貴方の呟きが聞こえたから。」
しかもばっちり聞いてるし。あんまり弱気な格好は見せたくなかったのになぁ。
「で、さっき言ったことだけれど、必ず来るわよ。」
「何でそう言い切れるのさ?」
「だって、ソフィーは貴方を待ち続けているもの。生きてるって一番信じていたのはソフィーなんだから。必ずその時は来るわよ。」
ソフィーはずっと俺のこと待ち続けてくれているってのはホントに嬉しい。きっと約束を忘れないでいてくれてるから。でもたまに思うことがある。このまますれ違い続けて会えないんじゃないかって考えがたまによぎるのだ。
「だからシャキッとしなさい『お兄ちゃん』!ソフィーが信じてるのに他の誰でもない貴方が信じなくてどうするのよ!」
「!」
モニカの言葉にガツンと頭を殴られたような衝撃が走った。あはは、確かにそうだ。ソフィーに会いたいっていう『俺』自身が、その時を信じられないなんて何て矛盾なんだか。第一、会いたいって思ってくれてるソフィーに対して酷い仕打ちじゃねぇか。兄貴分として最悪すぎる。
「...はは。」
「?」
「...あっはっはっ!確かにその通りだわ!気づかせてくれてありがとうよモニカ!」
「ふふっ、やっといつも通りに笑ってくれたわね。どういたしまして。」
あぁそうだ、師匠達にもいったじゃないか。俺が錬金術師をやっていれば、ソフィーと俺と道は必ず何処かで交わるはずだって。だからもう迷わない、ソフィーと再会するまでに胸張って兄貴分として、一人の錬金術師だって言えるようにならなくちゃね。
「さてと、それじゃあ行きますか。」
「ええ。行きましょうか。」
「え?」
「えっ?てなによ。ここまで来て見送りもしないで帰るなんて無いわよ?」
「あーうん、駄目とかは無いからさ。じゃ、おばあちゃんの所に行こう。」
皆には昨日の内に挨拶はしてあるから後は、おばあちゃんの所だけだ。まぁ一人会えなかった人もいるけど、仕方ない。
メインストリートをモニカと二人で歩いていく。この街並みとも、またしばらくはお別れってなると寂しいもんだな、いくら二回目と言えど、ね。
少しでも目に焼き付けようとあっちこっち見ていると時計屋の前に誰か立っているのが見えた。ってハロルさんじゃん!
「来たか。さすがに今より早くに出掛けていたらどうしようかと思ったぞ。」
「ハロルさん!?よかった、ここ三日間ぐらい姿見てなかったから心配してたんだ。」
「悪かったな、ちょっとコイツを作るのに手間取ってな。ほら手を出せ。」
言われたとおりに右手を出すと、ハロルさんが何かを俺の手に乗せる。それはカチカチと小さく音を刻んでいた。
「これって、懐中時計?」
「ソフィーもそうだったが、錬金術師というのは時間に疎いようだからな、餞別代わりだ。」
「でもいろんなところ旅するから壊れちゃうかもよ?」
危険な道のりで転んだり落っことしたり、魔物に襲われたりも当たり前。そんな状況でこんな精密な代物、逆に壊れない方がおかしいぐらいだ。
「簡単には壊れないようには作ってある。それでも壊れたならば直してやるから此処に戻ってこい。」
遠回しに此処に帰ってくるための口実みたいなのを作った様な感じがあるけれど、まぁその辺の詮索は野暮かな。
「ありがとうハロルさん、これは大事に使わせてもらうよ。壊れた時はちゃんと帰ってくるから。でも、その時はソフィーも一緒だからね!」
「フッ、期待しないで待っておこう...気をつけてな。」
そう言って店の中に入っていくハロルさん。だいぶ眠そうだったのをみると、ほとんど寝てないんじゃあ?
「もしかしなくても、これを作るために徹夜で作業してたのかもね。」
「ああ、俺も同感だ。」
モニカも俺と同じ結論のようだ。俺はもう一度、閉まった扉に向かって礼を言ってから門の方へ歩き出す。
「来たわね。遅かったじゃないか。」
「先に行っちゃったんじゃないかって少し焦ったわ。」
「このテス姉を待たせるなんて、いい度胸してるよねー♪」
「モニカが知らせてくれる話だったので大丈夫だとは思ってましたがね。」
門の前に着いたと思ったら、マルグリッドさん、エリーゼ姉、テス姉、ホルストさんが待っていた。皆には昨日の内に挨拶してきたんだけどな。
「え、皆もしかして見送りに?」
「当たり前よ!ほら、取れたての新鮮な野菜!旅先でもちゃんと野菜食べるんだよ?」
マルグリッドさんから取れたての野菜をもらった。どれも美味しそうだ。
「私からは、この本を。仕入れた物の中に錬金術に関わりそうな物があったから、役立つといいのだけれど。」
エリーゼ姉からは本をもらった。うん、確かにこれは読んでみる価値がありそうだ。
「あたし達からはこれ!紅茶の茶葉!マナスはこれ結構好きだったよね?」
「ミルクティーもいいですが、たまにはストレートでも飲んでみてくださいね?」
テス姉とホルストさんからは紅茶の茶葉が。確かにカフェで何か頼むときはミルクティー頼んでたけどさ。でもホルストさんには悪いけど、ストレートで飲む日は来ないかもしれない。
「私からも、はいこれ。」
そう言ってモニカから渡されたのは、鞄と包帯だった。
「その鞄もだいぶボロボロだし、旅先で駄目になっちゃったら困るでしょ?それに包帯も傷痕を隠すだけとはいえ、ちゃんとしたものを使うべきだと思うから。」
モニカらしい気遣いの仕方だなぁ。鞄もいつかは変えないとなぁ、って前に言ってたのを覚えててくれたみたい。改めて皆の顔を見回す。
「皆ありがとう!貰ったもの大事に使うから!それじゃあ...いってきます!」
「いってらっしゃい!」
「体には気を付けてね。」
「次帰る時はソフィーと一緒に来なさいよね!」
「道中お気をつけて。」
「今度は行方不明になんて、ならないでよ!」
俺は街の外へと歩き出す。次にキルヘン.ベルに帰る時は、ソフィーと一緒にだ。その日を夢見て、この広い不思議な世界へ、もう一度踏み出そう。