五等分の運命   作:電波少年

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またひとつご報告があります。
この『五等分の運命』の1話を投稿して約1週間ほどですがお気に入り数が200を突破しました!

私自身も驚きを隠せません。この作品を読んでくれている皆さん、本当にありがとうございます!


第12話:花火と『笑顔』

「遅い...フータロー大丈夫かな」

三玖はアンデッドを倒しに行って一向に帰ってこない剣崎を心配していた。

鏡に映る自分を見つめる三玖。そこで先程の一花の言葉を思い出す。

『女の子が髪型変えたらとりあえずほめなきゃ』

 

もしかしたら剣崎が褒めてくれるかも。

と考えた三玖は長い髪を後ろで纏めた。

 

 

そして人のいない路地で剣崎を捕まえた一花は

「急なお仕事頼まれちゃって

だから花火は見に行けない。

ほら同じ顔だし一人くらいいなくても気づかないよ」

と一花は頭を掻きながら言う。

「それはさすがに無理があるだろ」

「あっ、ごめんね...人待たせてるから」

「おい!一花、待ってくれ。せめてちゃんと説明してくれ」

「なんで?

なんでお節介焼いてくれるの?

私たちの家庭教師だから?

 

それにフータロー君も...

何か私たちに言えないことがあるよね?」

 

「ッ!

そ、それは...」

言葉に困る剣崎。

「じゃあ、そういうことだから...」

とこの場を去ろうとくる一花。

だが

「あ、やば」

と言い路地から出かけたところで身を引いた。

路地を出たところに先程一花を連れだした髭の男がいた。

「あの人仕事仲間なの、ほら前に怪物に襲われた時...」

 

そこで剣崎は「あぁ」と納得したように思い出す。以前ひげの男と一花がアンデッドに襲われ、そのアンデッドを倒したあと剣崎が救急車を呼んだことをだ。

「お前を探してるんじゃないか?」

髭の男は妙にキョロキョロして何かを探すように歩いている。

そして男はこちらに向かってくる。

「大変!こっち来た!

どうしよう...仕事抜け出してきたから怒られちゃう!」

「え!?そんなこと言われたって...

あ、奥から逃げれば...」

「あー!もう間に合わないよ!」

と焦る一花は自身の背中を壁につけ剣崎を抱き寄せた。

ひげの男は路地を見る。だがそこには抱きしめ合う男女。

男は路地の入口に「よっこいしょ」と言いながら腰を下ろす。

よりによってそこに座るのか。これでは迂闊に出られない。そんなことを考える剣崎を一花はさらに引き寄せる。

「おい、一花...いつまでこうしてるんだ?」

「ごめん、もう少し」

おいおい、少し近すぎるぞ...そう汗を流す剣崎に一花は問いかける。

 

「私たち、傍から見たら恋人に見えるのかな?」

「え?いや...どうだろう」

色恋沙汰には相変わらず疎い剣崎に一花は続ける。

「本当は友達なのに悪いことしてるみたい」

「...俺らって友達なのか?」

「えっ、

えっーと...さすがにハグだけで友達超えちゃうのはさすがに早いかなー...」

と頬をかく一花。剣崎は慌てて弁明する。

「い、いやそうじゃなくてさ。一花は俺の事友達だと思ってくれてたのか?」

そんなこと言われた一花は「え?そうだけど、違うの?」と驚いたように声を上げる。

 

「いや、俺さ...小さい時あんまり友達とかいたことなくて...やっと友達っていう友達ができた時にはちょっと色々事情があって、直ぐに離れ離れになっちゃったんだよ」

 

一花は意外そうな顔をする。

剣崎みたいな優しくて素直な人に友達がいないなんてこと、信じられなかった。

 

「それって、引越しとか?」

「え、ま、まぁそんなとこかな」

と剣崎ははぐらかす。

「だけど」と剣崎は続ける。

 

「俺今、一花が俺の事友達って言ってくれて、ちょっと嬉しかったんだ。

こんな俺みたいなやつでも、また友達ができるなんて思わなかったから」

剣崎は苦笑する。

 

一花はそんな剣崎の嬉しそうで、それでいてどこか寂しげな瞳を見つめた。

 

一花はそんな剣崎の瞳の奥──目の前にいる『上杉風太郎』という男のことをもっと知りたいと思うようになった。

そして一花は

 

「決まってるじゃん、私、フータロー君のことが好きだから...」

「え?」

そこで一花はハッとして、顔を赤くしながら

「も、もちろん友達としてだよ!」

と取り繕う。だがそんなことに気づかない剣崎は

「ありがとう、一花」

と太陽のように一花に微笑む。一花はそんな剣崎の笑顔を見て、自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

 

そこに路地の出口にいるひげの男の

「もしもし...

少しトラブルがあって...撮影の際は大丈夫ですので...」

という会話を聞く。

「撮影?それじゃあ一花の仕事って...」

「実はあの人カメラマンなの。

私はそこで働かせてもらってる」

「あぁ、カメラアシスタントか」

剣崎はまた懐かしい感覚に駆られる。

思い出したのは栗原親子のことを幸せそうに微笑みながら撮る、

自分の親友-『相川始』のことだった。

 

「いい仕事じゃないか。

また今度写真を撮ることがあったら俺にも見せてよ」

一花は少し申し訳なさそうな顔をした後にいう。

「...うん

良い画像が撮れるよう試行錯誤する。今はそれが何より楽しいんだ」

 

「でも学生のこの時期でそこまで仕事にかまけてて大丈夫か?進学のこともあるし勉強をすることも大切な仕事だと思うけどなぁ」

「じゃあフータロー君はなんのために勉強してるの?」

「俺か?別に俺は勉強っていう勉強はしたことないけど...今のお前達のために中学校のことからやり直してはいるけどな」

 

「それは私たちのためなの?お金のためとかじゃなくて?」

 

剣崎は笑いながら「そりゃ最初はお金のためだったよ」と言いながら続ける。

 

「それでもお前達の家庭教師をしているうちに、俺はお前達5人皆で笑いながら卒業して欲しいって思うようになったんだ。

それに俺はそれだけこの仕事に価値というか、やりがいみたいなものを感じてるんだ」

 

そう言ったところで路地の出口から

「一花ちゃん!やっと見つけた!」

という声がした。とうとう見つかってしまったか。諦めかけた剣崎だがどうも様子がおかしい。

「こんなところで何やってんの!

言い訳は後で聞くから早く走って!」

 

そう言いながら男に手を引かれていたのは

髪を後ろに束ねた三玖だった。

「三玖!?もしかして私と間違えて...」

一花が驚きの声をあげる。

「とにかく追うぞ!」

と剣崎と一花は男と三玖を追いかける。

 

そして剣崎は素早い身のこなしで人の波を交わすと、三玖の手を引く男の前に回り込む。そして三玖の手を掴む男の手を払うと、三玖を自分の方に引き寄せる。

「......っ」

三玖は突然のことに動揺している。

男は驚き

「また君か!君はこの子のなんなんだ!」

と剣崎に怒鳴る。

 

だが剣崎は男を見据えて言う。

 

 

 

「俺はこの子のヒーローだ、返してもらうぞ」

 

 

剣崎は三玖の手を握りながらいう。

それを聞いた三玖は先程の自分の言葉を思いだし、顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 

だがそんなことはお構い無しにと男は続ける。

「何を訳の分からないことを!」

「よく見てくれ!こいつは一花じゃない!」

「その顔は見間違え用がない!

さぁ早く......

 

うちの大切な若手女優を離しなさい!」

 

ん?何を言ってるんだこいつ?剣崎は一瞬頭が真っ白になる。だが剣崎の閃きは早かった。

「まさかカメラで撮るって...撮られる側の方ただったのか?一花」

一花は俯いたまま首を縦に降った。

 

だがそんな剣崎を他所に、男はすぐさま一花を連れていこうとする。

「行こう、一花ちゃん」

「待て!まだ話は...」

「止めないでくれ。人違いをしてしまったのは本当にすまなかったね。でも一花ちゃんはこれから大事なオーディションがあるんだ。

時間もない。

 

これも一花ちゃんの夢のためなんだ、分かってくれるね。」

 

だが剣崎は

「いや、俺はまだ納得してない。一花と2人で話したいことがある」

とあくまで男の言う通りにする気は無い。

「頼む!このオーディションは一花ちゃんの人生を左右するものになるかもしれないんだ!分かってくれ」

 

「なら俺がその会場まで一花を送り届ける。アンタは先に行っていてくれ」

剣崎に譲る気は無い。

 

「そ、そんなこと認められるわけが...」

という男を一花が手を伸ばし遮る。

「お願いです。私にあと少しだけ時間をください。必ず時間は守ります。」

と男に懇願する。男は少し黙ったあと剣崎に尋ねる。

「本当に一花ちゃんを時間通りに送り届けてくれるんだね?」

「あぁ。必ず時間は守る。約束する」

男は諦めたようにため息をつくと、「ならいいだろう」といい剣崎にオーディション場所の住所が書かれたメモを手渡し、先に会場に向かった。

 

「よし」と頷く剣崎。そんな剣崎に三玖が

「フータロー...足これ以上無理っぽい。一花をお願い」

と一花のことを任せる。しまった、と剣崎は歯噛みする。一花のことを考えすぎるあまり怪我をしていた三玖にまで頭が回らなかった。

「お願いフータロー、一花とちゃんと話してあげて。

私は...私は大丈夫だから」

と微笑みながら剣崎に告げる。

 

そしてそこに予想外の人物が現れる。

「ふっふっふ、どうやらお困りのようですね...」

そいつは特徴的なリボンをぴょこぴょことさせる。

「っ!お...お前は!ちょうど良かった、三玖を頼む!一花、来てくれ!」

「ちょっ、フータロー君!」

剣崎はその予想外の人物に三玖を預けると一花の手を引いて走り出す。

 

 

 

そして自分のバイクを停めた場所まで一花を連れてきた。

「ハァハァ...ちょっとフータロー君!いきなり走り出すからビックリしちゃったよ!」

「ごめん一花、でも今はこうするしかなかった」

「でもまぁ今はいいや。それでフータロー君、話したいことって何?」

一花はいつもの調子で剣崎に尋ねる。

 

「一花、お前の本心を聞かせてくれ。

お前は今どうしたいんだ?毎年みんなで見ていた花火を見れなくなったとしてもそれは叶えたい夢なのか?」

 

「私の...本心...?

そんなの1つだよ。女優になるって夢、叶えたいよ」

 

「嘘だな」

 

「ほ、本当だよ!?」

 

慌てる一花に剣崎は尚も続ける。

 

「お前が本当にそう思っていたとしても、どうも俺にはそういう風に見えないんだ。

お前はいつも大事なところで自分の本心を隠そうとする。

俺には分かるぞ。お前は...

 

まだ心の奥底から笑えてない」

 

誰よりも人の笑顔を見るために戦ってきた男には分かる。剣崎は言葉を紡いでいく。

 

「いつもそうやって余裕のあるふりばかりして、自分の心を悟られまいと隠している。

聞かせてくれ、なんで俺とあのオッサンから隠れてた時、かすかに震えてたんだ?」

 

「べ、別に震えてなんかない!

それに、それにフータロー君だって私たちに何か隠してることあるでしょ!私にだってそれくらいは分かってる...

それなのに私だけに本当のこと話せなんて...そんなの不公平だよ!」

 

いつもの余裕はどこへやら、一花は叫ぶ。

 

「じゃあ、俺の秘密を教えるなら...

お前は本当の思いを話してくれるんだな?」

 

剣崎は一花に問いかける。

 

「え?ま、まぁそれなら...」

「約束だぞ?」

「う、うん。いいよ、約束してあげる」

 

そこで剣崎は周りに自分と一花だけしかいないことを確認すると、

「一花、見ててくれ。これが俺の秘密だ」

というと、バックルに♠︎Aを装填し、腰に装着させる。

そして

 

 

 

「変身」

TURN UP

 

 

 

電子音とともに青い光の壁-オリハルコンエレメントが現れる。剣崎はそれにゆっくりと近づく。

その様子を一花は固唾を呑んで見守る。

そして剣崎がオリハルコンエレメントに接触し、くぐり抜ける。そこに剣崎の姿はなく、

 

街を守る謎のヒーロー

 

 

『仮面ライダー』がそこにはいた。

 

 

 

一花は声が出なかった。否、出せなかった。目の前に映るそれはあまりにも非現実的な光景すぎた。

 

そして変身したブレイドは一花の方を振り返ると、「他のみんなには言うなよ」というと再度バックルのレバーを引っ張る。

するとまたどこからともなく青い光の壁が現れ、仮面ライダーの体を自動で通り抜ける。

 

その姿は元の人間の姿-上杉風太郎の姿に戻っていた。

 

「う、そ...フータロー君が仮面ライダー...?

じゃああの時助けてくれたのも、フータロー君...?」

一花はようやく口を開く。1度一花は剣崎が仮面ライダーではないかと疑った時があった。だがその時はそんなことあるはずないと勝手に1人で納得していた。

だが今目の前に映るその光景はその疑いが正しかったことを如実に表していた。

 

「あぁ、これが俺の秘密だ...とは言ってもそれのほんの一つだ。ほかの秘密はどうしても今言うことが出来ない。許してくれ」

と謝罪する。

だが一花はその謝罪をきくと、納得したような顔で

 

「......この仕事を初めてやっと長女として胸を張れるようになれると思ったの」

と約束通り剣崎に本心を語り出す。

 

「1人前になるまであの子たちには言わないって決めてたから...花火の約束あるのに最後まで言えずに黙ってきちゃった。

これでオーディション落ちたら...みんなに合わす顔がないよ...」

そして悲しげな顔で空に打ち上がる花火を見ながら「花火大会...終わっちゃうね」と呟く。

するといつもの調子に戻り

 

「それにしてもフータロー君が仮面ライダーだったなんて、正直めちゃくちゃビックリしちゃった。それにフータロー君...私の細かい所まで意外と見えてたんだね」

と素直に驚いた様子だ。

 

だが剣崎は

「いや、俺はそんな些細なところに気づけてたわけじゃない。

ただ本当に...一花の笑顔がみんなと違うなってことだけだ。」

と正直に告げる。剣崎はさらに続ける。

 

「一花。お前が夢に向かって走り続けるなら俺はそれを止めやしない。そりゃ勉強もきちんとやってはもらうけど俺は自分の出来る限りで、お前の夢を応援する。

そして俺はお前達姉妹みんなに笑っていて欲しい。悲しいことや辛いことがあっても最後には笑っていて欲しいんだ。

それも貼り付けた『仮面』みたいな笑顔じゃなくて、

 

心からの笑顔でさ」

 

と剣崎は心からの笑顔で一花にそう告げた。

 

 

その時一花の中である『感情』が生まれた。

それは今まで一花が姉妹に向けていたものと似ているようでまったく違う。

 

そして一花はその『感情』をこの世生まれて初めて持った。

この『感情』は...

 

そして一花はその感情の名前に気づく。

そうだ、そうだ。これは『恋』。

 

じゃあこの感情は誰に向けたもの?

その答えは一花のすぐ目の前にある。

 

一花に心からの笑顔で笑いかける、上杉風太郎に。

 

 

 

『私は...フータロー君のことが...』

 

 

 

 

「おーい?どうした一花?早く乗りなよ」

ハッとする一花。

 

そこにはヘルメットを被りバイクにまたがる剣崎がいた。

そして剣崎は一花に予備のヘルメットを手渡す。それを被った一花は前のように、

 

『仮面ライダー』に助けられた、あの日のように剣崎の後ろに座り、腰に手を回しその大きな背中に張り付く。

 

「というか、フータロー君。あの時も私に嘘ついたんだ。お姉さんショックだな〜」

「あ...ってそれは今どうでもいいだろ!

ったくちゃんと捕まってろよ、一花。

さぁ、 飛ばすぞ!」

というと剣崎はアクセルを捻る。

 

 

そして時が少し時間が経ちオーディション会場。

 

「では最後の...中野一花さん」

「はい、よろしくお願いします。」

 

「卒業おめでとう。」

審査員が台本を読み上げる。

一花それに台本通り答えていく。

 

「先生、今までありがとう」

 

 

上手く笑えてるかな。あぁ...こんな時みんなはどうやって笑うんだろう。

 

四葉なら。三玖なら。五月なら。二乃なら。

 

そして一花は思い出す。

彼の笑顔を。

 

自分が今や恋心を抱いてしまった、彼の眩しい位の笑顔を。

 

そうだ。彼ならきっと...こんな風に...

 

「先生。

あなたが先生でよかった。あなたの生徒でよかった。」

 

それはまるで上杉風太郎、いや剣崎一真が見せる、心からの笑顔だった。

 

 

剣崎はオーディション会場の外で、一花が戻るのを待っていた。

 

そこに一花とあのヒゲ男が現れた。

「どうだった?一花」

「うーん、どうだろ」

そんなやり取りをする2人にヒゲ男が告げる。

「どうも何も最高の演技だった。

私は問題なく受かったと見ている。

まさか...一花ちゃんがあんな表情を出せるとは思わなかったが...

それを引き出したのは恐らく君だ。」

「いや、俺なんてなにもしてないよ」

「どうだかね...私も個人的に君に興味が湧いてきたよ」

と色っぽい動作で剣崎を舐めまわすように見るヒゲ男。剣崎は背筋が凍りつくような感覚に襲われた。

「あ、そうだ!用事終わったなら一花を返して貰うぞ!」

というと、一花をまたバイクに乗せる。

「ま、待ちたまえ!どこへ行くんだ!」

というヒゲ男を無視し、剣崎は一花を乗せて走り出した。

 

一花はバイクを運転する剣崎に尋ねる。

「ちょっと、フータロー君!

なんでそんなに急いでるの?」

「秘密だ!」

「なにそれまた秘密?」

「大丈夫だ!すぐ分かるから」

と剣崎は目的地向け、バイクを走らせる。

そしてバイクを目的地の近くの駐車場に止めると目的地まで歩き出す。

 

「みんな怒ってるよね...花火を見られなかったこと、謝らなくちゃ」

「どうだかな...でも花火を諦めるのはまだ早いと思うぞ」

そして2人は公園にたどり着く。

 

そこで4姉妹達が花火をしていた。

そんな2人に気づいた四葉が

「あ、一花に上杉さん」

と声をかける。

「打ち上げ花火と比べると質素なもんだけど、なかなかこういうのも風情があっていいだろ?」

「......!」

一花は驚きの表情を隠さない。

「上杉さん、準備万端です!

我慢できずにおっ始めちゃいました」

 

時は一花のオーディション中に溯る。

らいはと三玖と一緒にいた四葉。そんな時らいはの子供用携帯が鳴った。

「もしもーし、あれお兄ちゃん?どうしたの?」

「もしもし、らいは。そこに四葉はいるか?いるなら代わってくれないか?」

「四葉さん?いるよ、今から代わるね」

 

「......もしもし、上杉さん?お電話代わりました四葉です!」

「四葉か。お前あの時らいはに買ってあげた花火まだ持ってるよな?」

「あ、あの花火ですか?もちろん持ってますよ」

「そうか!なら会場近くの公園で俺たちだけで花火大会をしないか?」

「私たちだけ、のですか?あっ!まさか一花のために...」

「察しが良くて助かったよ。じゃあ俺は一花が戻ってきたらそっちに向かうよ」

「了解です、上杉さん!一花をお願いしますね!」

「あぁ、任せとけ」

 

 

そして時は現在に戻る。

「四葉、お前が花火を買ってくれてたおかげだ。助かったよ、ありがとう」

「ししし、もっと感謝してくれちゃっていいんですよ?上杉さん!」

四葉は白い歯を見せてにっこり笑う。

 

「上杉さん!大丈夫でしたか?」

「あぁ大丈夫だよ五月。特にトラブルとかはなかったさ」

 

「ちょっと!あんた!なんか一花に変なこととかしてないでしょうね!」

「二乃!というかそんなことしてないし、そんなことする余裕も無かったよ!」

と返す剣崎。

「とにかくアンタには一言言わなきゃ気が済まないわ!

 

お!つ!か!れ!」

「お、おう。お疲れ」

 

「五月...」

「一花も花火しましょうよ

三玖、そこにある花火持ってきてください」

「うん...」

線香花火をしていた三玖。そして三玖はちらりと剣崎の方を見る。剣崎の顔を見るとまた顔が火照ってしまい、頬を赤くする三玖。

「フ、フータロー...こ、これ...フータローの分の花火...」

「三玖ありがとう。今日はごめんな。色々と迷惑かけちゃって」

「ううん、だ、大丈夫」

 

「なんか妙に仲良くありません?この2人」

怪訝そうな目で2人を見る五月。

 

そこで

「みんな!ごめん!」

と一花が頭を下げた。

「私の勝手でこんなことになっちゃって...

本当にごめんね」

「一花、そんなに謝らなくても」

と五月が言うも、二乃側って入る。

「全くよ。なんで連絡くれなかったのよ。今回の原因の一端はあんたにあるわ。

でも...

 

目的地を伝え忘れてた私も悪い」

 

「私は自分の方向音痴さに嫌気がさしました...」

「私も今回は失敗ばかり」

「よくわかりませんが私も悪かったということで!屋台ばかり見てしまったので」

姉妹達は5人揃って反省する。

 

「みんな...」

「はい、あんたの分」

二乃が一花に花火を手渡す。

そして五月がそんな様子を見て言う。

「昔...お母さんがよく言ってましたね

 

誰かの失敗は五人で乗り越えること。

誰かの幸せは五人で分かち合うこと。

 

喜びも、悲しみも、怒りも、慈しみも、

 

 

 

私たち全員で、『五等分』ですから」

 

 

 

姉妹達は楽しそうに笑いながら、そして一花も心から笑いながら花火を楽しんでいる。

らいはは一日中遊んだせいで疲れて寝ていた。

 

剣崎は今日のことを思い出す。

朝からゲームセンターに行って、花火大会に行って、アンデッドと戦って、また花火。

この体になってから最も多忙な1日だった。

 

だが剣崎は満足だった。いまの姉妹達はみんなが心から笑えている。それだけで剣崎は満たされた。そして彼女らの楽しそうな顔を見ていると、やはり今の自分の家庭教師という仕事に巡り会えたことが幸せであったと思う。

 

 

そして剣崎はこんな幸せな日々をもう一度送れることが何よりも嬉しくて、

 

 

 

 

この日々がいつ急に終わりを告げるのか、それがずっと気がかりだった。

 

いつの間にか花火セットの花火は残り5本になっていた。

「最後はこれでしょー」

「これに決めた!」

「これが一番好き」

「私はこれがいいです」

「これが楽しかったなー」

 

「「「「「せーの」」」」」

 

二乃、四葉、五月は自分たちが望んだ花火を取る。

 

だが一花と三玖は、同じ線香花火を取ろうとしていた。

「あは、珍しいね。私はこっちでいいよ

それは譲れないんでしょう?」

一花は三玖に線香花火を譲る。

 

三玖はまたあの時の光景を思い出す。

 

『俺がこの子のヒーローだ』

 

三玖は剣崎との思い出に1ページが増えたことが何よりも嬉しかった。

 

「三玖!線香花火より派手な方が面白いよ!」

「私はこれがいい」

「へーそんなに好きなんだー」

 

三玖は剣崎との思い出を脳裏に甦らせる。

 

トラックに轢かれかけた自分を助けてくれたこと。

君だけを守ると抱きしめてくれた彼が仮面ライダーだと知ったこと。

おぶってくれて、足に包帯をまいてくれたこと。

私のヒーローだといってくれたこと。

 

三玖はそれら全てを線香花火の火花を見て思い出す。そして

「うん、大好き」

と静かに答えた。

 

 

花火を終えた一花は剣崎の元へと歩き出す。

 

だが剣崎はベンチに座ったまま目を瞑り、すーすーと寝息を立てていた。

 

そんな寝顔を見て一花は剣崎の隣に座る。

そしてゆっくりと剣崎を横にするとその頭を自分の膝の上に載せる。

 

 

「頑張ったね。

ありがとう。

今日はおやすみ。

 

 

 

私の『仮面ライダー』」

 

と静かに誰にも聞こえない声で言うと、すやすやと気持ちよさそうに眠る剣崎の頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ある病院〜

「旦那様。バックルとラウザーの開発及び調整が終わりました」

「やっと終わったかい、江端」

「はい、全て滞りなく」

「本当にブレイド――上杉風太郎君には頭が上がらないね。正直2回の授業で5万円などでは足りないくらいだよ」

「しかし実戦調整がまだ...」

「安心してくれ、江端。

これは私が試そう」

 

そう言うと男は蜘蛛が描かれたカード

♣︎A スパイダーアンデッドが封印されたカードをレンゲルバックルに装填する。

そしてラウズカードが入ったレンゲルバックルは自動で男の腰に装着される。

 

 

 

「変身」

OPEN UP

 

 

電子音と共に紫色の光の壁-スピリチアエレメントが出現する。

スピリチアエレメントは自動で男に迫りその姿を壮麗かつ禍々しき姿

 

 

 

『仮面ライダーレンゲル』へと変身させた。

「おぉ...」

男は感嘆の声を上げる。

 

だがそんな男の脳内にカードに封印されたスパイダーアンデッドが語りかける。

『俺を受け入れろ、俺の力を...』

「黙れ」

 

そう男が冷たく呟くとその声はしなくなった。

「所詮カテゴリーAとはいえこの程度か...江端、融合係数は?」

「はい、旦那様。現在の融合係数は...1052です。初変身でこれはかなり高い数値化かと」

「いや、これではまだ足りない。それに私ではこれ以上この力を引き出しきるのは難しいだろう。それにまだ完全な適合者は現れていない。現状、これは私が使うしかなさそうだ」

 

そう言うと男はレンゲルバックルの開かれた扉を閉じ変身を解除する。

 

パソコンを見る。そこには『適合可能者リスト』と書かれた表があった。

そこにはあらゆる人間の名前が羅列されている。

 

そしてそこには

『中野一花』

『中野二乃』

『中野三玖』

『中野四葉』

『中野五月』

 

と五つ子たちの名前も書かれていた。

 

 

 

 

 

剣崎や五つ子たちの知らないところで、新しき『運命』が動き始めていた。




今まででこの12話が1番書くのが大変でした。一花の説得のところは原作と同じオーディションの練習にしようか迷いましたが少しでも『仮面ライダー』感を出そうと思い、このような形にしました。

そして一花も三玖もまだ『自分以外の人間は風太郎が仮面ライダーだということを知らないと思っている』ということを頭の片隅に置いておいて頂ければ幸いです。

そして次回は完全にオリジナル内容でやります。
話が少し動きつつ、いつもよりはかなり重い展開になってしまうことをご了承ください。苦手な方はご注意ください。

今後も応援よろしくお願いします。

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