五等分の運命   作:電波少年

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前回と内容は繋がっています。


そして今回の戦闘パートは「変身」した時に仮面ライダー剣の挿入歌『覚醒』を脳内で流しながら読んでいただけると嬉しいです(笑)


第14話:研ぎ澄まされた『勇気』

剣崎はどこかにいた。

そこがどこかは分からない。右を見ても左を見ても真っ白で何も無い世界が広がっている。

「どこだ...ここ」

その空間を歩き始める剣崎。だがそこには何も無い。ただ虚無だけが際限なく広がる。

 

だがそこに『誰か』が現れた。これは誰なのか。その『誰か』を見るが全身にはモヤのようなものかかかっている。

 

「誰だ、アンタは?」

 

剣崎は尋ねる。

その『人らしき』者は何も答えない。

 

「誰なんだアンタ一体!答えてくれ!」

 

 

そしてその時剣崎の意識が急に遠のいた。

 

 

 

 

 

 

「待ってくれ...アンタはだれ......

 

ハッ!!.........夢か」

剣崎は目を覚ます。

どうやら寝てしまっていたようだ。

時計を見る。時刻は午前2時。

 

剣崎は一花を振り払ったあと、何か情報や『仮面ライダーレンゲル』の目撃情報がないか聞いて回った。

だが有力な情報はひとつも得られず、『仮面ライダー』を見たという人がいてもそれは昼間に自分が変身していたブレイドのことであった。

 

結局剣崎は何も分からないまま夜の1時過ぎまで街をさまよい続けたどり着いた広場のベンチで少しだけ寝てしまった。

 

しかも今の自分の着ている服は学校指定の制服である。もし仮に警察などに見つかってしまえば補導は免れないだろう。そうなった場合非常に面倒なことになる。

 

そうだ、服を買えばいいじゃないか。なにか安いシャツの1枚でもと思い財布を見るがそこに入っていたのは50円玉と10円玉が1枚ずつ、一円玉が5、6枚ほどだった。

 

剣崎のお腹がぐぅぅぅと音を立てる。

何せ今日は朝からアンデッドを倒しにいき、そこでレンゲルと接触ししたあと『リモート』で解放されたアンデッドを再度封印し、レンゲルの謎を調べるために街を歩いた。

 

つまり今日は何も口にしていなかったのだ。

アンデッドになっていた時は食料などは必要としなかった。なにせアンデッドは不死の生物である。食べ物を食べて味を感じることはあれど、食事はそもそも必要なかった。

 

だが今の剣崎は普通の人間の高校生である。

人間である以上どうしようもなく腹は減る。

 

「はぁ...」

 

空腹を他所に昼に自分が一花にしたことを思い出す。

 

「何やってんだ...おれ」

 

あの時は心に余裕がなく、彼女の心を考えている暇はなかった。だがある程度落ち着いた今になって先程の自分の行動を振り返る。

あの時の一花の絶望した顔が脳裏に蘇る。

 

笑顔でいて欲しいと口では言いながら、あんな行動をした自分を殴りたくなる。

 

だがそこで自分を殴っても事態が好転するわけでもない。

 

剣崎は再びベンチに寝転がり、額に腕をのせる。今自分は何をするべきか、彼にはその答えが出せなかった。

 

 

 

 

4時間ほど前

 

「ただいまー...」

「四葉!それで三玖は見つかったのですか?」

「ううん、どこにもいなかった...」

「そうですか...」

 

四葉はいつになく落ち込んでいる。結局あのあと何度も三玖に電話をかけたが繋がることはなかった。

 

「一花と二乃は?」

「二乃は寝るといってそのまま部屋に行ってしまい、一花も何も言わずに部屋に...」

「そうなんだ...」

 

五月はなんでこんなことになってしまったのだろうと考える。だが答えは簡単だった。

 

剣崎がこの姉妹の中でそれだけ大切な存在になってしまっていたからである。

 

彼女らは剣崎の優しさに、笑顔に、純粋さに、そして不器用さに知らず知らずのうちに惹かれていた。

 

 

 

そして自室に入った一花は、足の踏み場もないくらい汚い部屋の中のベッドの上で、涙も枯れ果てた目で天井を見つめていた。

 

彼女は剣崎に対する思いの正体-『恋』にいち早く気づいていた。

さらに彼女は直接剣崎から家庭教師をやめると聞かされ、拒絶されてしまった。

 

この二つはいくら長女らしく振る舞うとはいえ、中身は普通の高校生の少女の心に大きな傷を負わせるのは簡単なことだった。

 

 

「フータロー君...会いたいよ...」

 

誰にも届かない手を虚空に伸ばす、一花。

そして彼女は諦めたかのように手を下ろすと泣いて真っ赤になった目を閉じた。

 

 

 

 

 

時を戻す。

 

五つ子の三女、中野三玖は剣崎に会うために東町を奔走していた。

 

だが何時間も探し回ったがどこにもその姿は見あらなかった。

 

「どこ...どこにいるのフータロー」

 

彼女はまだ花火大会で負った足の怪我がまだ治り切っていない。それなのにもかかわらず彼女は走り続けた。

 

自分の『ヒーロー』を探すために。

会ってちゃんと話をして、またいつもみたいな笑顔で笑って家庭教師をしてくれることを。

 

だがそんな彼女の願いを裏切るかのように剣崎の姿は見当たらなかった。

道行く人に目付きの悪く黒髪で背の高い男子高校生がいるか聞き回ったものの、誰もが知らないという様子だった。

 

もともと三玖は身体能力が低く体力もない。

 

半日以上街を歩き回った彼女の足は悲鳴をあげていた。怪我の鈍い痛みが自分の足の限界を伝える。

そして彼女はとうとう力尽きたどり着いた広場のベンチに座り込んだ。

 

空を見上げる三玖。月にはまるで自分の心を表すかのように雲がかかっている。

 

彼女は自分の無力を嘆いた。

あの時、自分を守ってくれた剣崎を支えていこうと決めたのに、今の自分は何もできずにベンチに座り込んでいる。

 

三玖には分かる。今剣崎は誰よりも悩んでいて誰よりも辛いはず。そんな時にそばにいてやれない自分が腹立たしかった。

 

「私...やっぱりフータローがいないと何も出来ないんだ...」

 

今の三玖の気持ちは、『彼に会いたい』、それだけだった。

だが現実は非常である。今の彼女の気持ちを嘲笑うかのように辺りは静かだ。

 

『もう帰ろう、そして何もかも忘れよう』

 

そう諦め、ガクガクと生まれたての小鹿のように立ち上がる。

 

そして広場を出ようとしたその時、

 

三玖は目にした。

 

 

ベンチに寝転がり、額に腕をのせる男の姿を

 

 

 

今自分が最も会いたくてたまらない『上杉風太郎』の姿を。

 

彼女は半ば無意識のうちに走り出した。

さっきの弱々しい足取りはどこへやら、

さながら目の前にお宝を見つけた海賊のように一目散に剣崎のもとへ走り出す。

 

 

 

「フータロー...!!!」

 

「......えっ!三玖!?」

 

剣崎は驚いて飛び起きる。そこには昨日まで自分の生徒だった、中野姉妹の三女

 

『中野三玖』の姿があった。

 

剣崎は最初逃げようとした。今の自分に関わってはいけない。

今迫りつつある得体の知れない恐ろしい『運命』に彼女たちを巻き込む訳にはいかない。

 

だが三玖は剣崎に向かって走り出した途中で派手に転んでしまった。

 

受身もとれず転がる三玖。

剣崎はいても立ってもいられず三玖の元に走る。

 

「お、おい!大丈夫か、三玖!」

 

倒れた三玖の元に駆け寄る三玖。その足はプルプルと痙攣している。まさかこの少女は、この細い足がこんなになるまで自分のことを探していたのか。剣崎は一気に罪悪感に苛まれる。

 

そして三玖は自分の元に駆け寄ってきた剣崎に涙を流しなら笑う。

 

「よかった...会いたかった...本当に会いたかったよ、フータロー...!」

 

「......!」

 

とにかく剣崎は三玖をお姫様抱っこで抱えると、すぐ近くのベンチに彼女を横たわらせた。

 

「どうしたんだ、三玖。

こんな時間まで何してたんだよ...」

 

「フータローを探してたの」

 

「なんで俺なんか...

それに俺はもうお前たちの家庭教師じゃないんだ...」

 

「だって、フータローは私の『ヒーロー』だもん。

近くにいてくれないと、私心配になっちゃう。

 

 

それに...私たちまだフータローに『笑顔で卒業する』っていう約束、守ってもらってない」

 

優しい笑顔で微笑む三玖。

そこで剣崎はハッとする。

 

『そうだ、何やってたんだ俺は!

俺はこの子達に約束したじゃないか。

五人揃って笑顔で卒業してもらうって...

 

いつまでも五人笑顔でいてもらうって!』

 

 

三玖は続ける。

 

「だからフータロー...もし何か言いたくないことがあるなら無理に言わなくていいんだよ...

 

 

でも、でも...今は私たちの側にいて...!

フータローがそばにいないと、今の私たちは心から笑えないから...」

 

 

その言葉は決定的だった。

 

今の剣崎が忘れていたもの、

 

 

それは『勇気』。未知の恐怖に立ち向かう『勇気』。

 

そして剣崎の願いは、

 

今の自分のことを知りたい、

この世界に潜む謎を解明したい。

 

 

だがこれらはある1つの願いに比べれば、塵も同然だ。

 

今も、昔からも、剣崎の願いはただ一つ。

 

 

 

『全ての人間が笑顔でいてくれること」

 

 

 

誰かと共に喜んで。

誰かと共に泣いて。

誰かと共に怒りあって。

 

 

それでも最後は大事な人と『笑顔』でいて欲しい。

 

それが剣崎の変わらぬたった一つの願いである。

 

覚悟は決まった。

恐らく、今の自分には未知の脅威に打ち勝つほどの強い力はない。

 

でも、『勇気』がある。そんな恐怖に自分から進んでいけるほどの、

 

研ぎ澄まされた『勇気』が今の剣崎にはある。

 

 

 

そして覚悟を決めた剣崎の前に、2つの異形が現れる。

 

1つは昨日の朝倒し損ねたトリロバイトアンデット。

1つはレンゲルによって開放されたローカストアンデッド。

 

 

「フ、フータロー...」

 

三玖が心配そうに声を上げる。

だが今の剣崎に迷いはない。

 

敵が何体だろうと関係ない。

 

 

それに立ち向かうことが出来る『勇気』を持っている!

 

 

 

「三玖、ありがとう」

 

「え?」

 

「お前が俺に気づかせてくれた。

今俺がやることはお前たちと離れて一人で悩むことじゃない。

 

今俺は、心から笑えていない人々のために!」

 

 

 

「今目の前にいる大切な人の笑顔を守るために、

 

 

俺は戦う!!!!」

 

 

 

 

剣崎はバックルにカテゴリーAを装填する。

 

そして剣崎は叫ぶ!

『仮面ライダー』として戦うために、大切な人の笑顔を守るために!

 

 

 

 

「変身!!!!!」

TURN UP

 

 

 

オリハルコンエレメントをくぐり、剣崎はブレイドへと変身する。

 

そして2体のアンデッドに同時に斬りかかる。

それを回避してすぐさまブレイドを囲むアンデッド。

 

そしてアンデッドはブレイドに一斉に飛びかかる。

ローカストアンデッドの蹴りを剣崎は横に飛んでかわす。

そしてそこに突っ込んできたトリロバイトアンデットの突進をブレイドは正面から受け止める。

 

「うぉぉぉぉ!」

 

強力な突進攻撃をブレイドは止め切った。

だがすぐさまそこにローカストアンデッドが再度蹴りを入れようとしてくる。

 

だがブレイドは止めたトリロバイトアンデットを突き飛ばし、蹴りを入れてきたローカストアンデッドにぶつけた。

 

トリロバイトアンデットをぶつけられたローカストアンデッドはその衝撃で吹き飛ぶ。

 

受身を取り立ち上がったローカストアンデッドにブレイドはブレイラウザーの切っ先を突き立てた。

 

「ガァ!」

 

と激痛に喘ぐアンデッド。

 

そしてブレイドは切っ先をローカストアンデッドに突き立てたまま、ラウザーに

『THUNDER』のカードをラウズする。

 

THUNDER

 

強力な電撃を体内に直接流し込まれたローカストアンデッドは、そのまま後ろに倒れた。

 

そしてブレイドはカードを投げ、ローカストアンデッドを封印した。

カードに『KICK』と刻まれる。

 

 

だがその隙を見て、トリロバイトアンデットは左腕の鋭い爪をブレイドに突き刺そうとする。

 

「フータロー!後ろ!」

 

その声で振り向いたブレイドはその爪の攻撃を右手の剣でガードする。

 

そのまま鍔迫り合いのような形になるブレイドとトリロバイトアンデット。

だがブレイドはそのままカードホルダーを展開し、カードを取り出しラウズする。

 

BEAT

 

ブレイドはビートにより強化された左拳をトリロバイトアンデッドの脇腹に叩き込む。

 

いくら強力な皮膚を持つトリロバイトアンデットといえどもその一撃は十分に効いたらしく、膝をつく。

 

そしてブレイドは一旦距離を取ると左手に持つ三枚のカードをラウズした。

 

KICK

THUNDER

MACH

《ライトニングソニック》

 

「ウェェェェア!!!」

ブレイドは助走をつけると、ジャンプして飛び上がる。

 

 

そしてライトニングブラストを放つ時の一連の動作をとると、マッハの効果で加えた助走の威力をプラスして、雷のエネルギーを纏った右足をトリロバイトアンデットの正面に打ち込んだ。

 

「ウェェェェイ!!!!」

 

 

「グガァァァ!!」

 

アンデッドは一瞬にして吹き飛ぶと爆発し、封印が可能になったことを示すようにアンデッドバックルが割れた。

 

そこに封印のカードを投げる、そこにはMETALと刻まれた。

 

変身を解除するブレイド。

そこにはいつもと変わらぬ『上杉風太郎』の姿があった。

 

「フータロー...」

 

「三玖、俺もう一度やりたいよ。家庭教師。

お前たちのそばでお前たちに笑顔でいてもらうために」

 

「......!フー...タロー...!」

 

「多分これからもっと戦うことが多くなる。その度に俺は授業を中断してアンデッドと戦わなければならなくなってしまう。

 

そんなダメダメな家庭教師でも三玖たちが良いって言ってくれるなら、もう一度だけ俺にチャンスをくれ」

 

剣崎は頭を下げる。

虫のいい話だってのは百も承知だ。でも、俺はもう一度お前たちのそばにいたい。

 

もう二度と、大切な人の悲しむ顔を見たくない。

 

「顔を上げて、フータロー」

 

そう言われ顔を上げる剣崎。

 

 

そんな剣崎に、いきなり三玖は抱きついた。

 

 

「み、三玖!?」

倒れそうになるも踏ん張る剣崎。

 

そして三玖は本当に安心しきったような顔で

 

 

「おかえり、フータロー」

 

と言って、心から笑うのだった。

 

 

 

 

 

そして剣崎は三玖をマンションに送り届け、今日は夜も遅いしと言い去ろうとした。だが三玖はとにかく部屋に来てと言って聞かない。

 

そして三玖は

 

「みんなフータローがいなくなって悲しんでる。

まずはちゃんと謝らなきゃダメ」

 

と顔を近づけて剣崎に凄む。

剣崎は諦めたように頷くと、彼女達がすむ30階の部屋の前にたどり着く。

 

いざ部屋のドアを開けようとしたが、一花にあんなことを言ってしまい、姉妹みんなが悲しんでいるということを聞いた今、なかなか踏ん切りがつかない。

 

「大丈夫、フータロー。みんなフータローが戻ってきてくれたら喜ぶから」

 

と優しくフータローを諭す。

 

 

そして剣崎は意を決したようにドアを開けた。

 

そしてリビングからドタドタと足音が聞こえる。そこにいたのは泣き腫らして赤くなった目の五月だった。

 

「え...う、上杉さん!?それに三玖も!」

 

そう大声をあげる五月。そしてその声を聞きつけたかのようにもう1人の足音。

 

「三玖!!それに上杉さんも!どうして今ここに?!」

 

四葉もまた大声で驚く。

 

「とにかくまず入ろう、フータロー。

話は中で」

と三玖に促され部屋に入る。

 

そしてリビングに着くと、四葉は階段を駆け上がり、一花と二乃を叩き起す。

 

「二人とも!早く起きて!

三玖と上杉さんが帰ってきたよ!」

 

その瞬間飛ぶように一花と二乃が自室を出てきた。

 

そして2人の姿をしっかりとその目に捉えた一花は何も言わず剣崎の前に走ってくる。

 

剣崎は慌てて頭を下げる。

 

「ご、ごめん!一花!今朝はあんなひどいことして!

でも悪気があったわけじゃなくて...」

 

と言う剣崎に一花は無言で抱きついた。

 

一日で二人の女の子に抱きつかれた剣崎は目を白黒させる。そんな剣崎に一花は

 

「よかった...フータロー君...

もう二度と会えないのかと思った...

帰ってきてくれて...本当に良かった...!」

 

と安堵の声をあげる。

 

そして

「嘘...本当に二人とも帰ってきたの...?

私、夢見てないわよね...!?」

二乃は信じられないものを見るかのように、2人に駆け寄る。

 

「二乃...ごめん!

この間あんな偉そうなこと言っておいて...

全部俺の責任だ...本当に済まない!!」

 

と謝罪する剣崎。

 

「ほ、本当よ!あんたのせいで大変だったんだから!そんな頭を下げたくらいじゃ私は許さないわ!」

 

「二乃、今はそんな意地張ってる場合じゃない」

 

「な...!み、三玖!というかあんたにも言いたいことが山ほどあるわ!

さっきはよくも私にあんな偉そうな口を聞いたわね!?」

 

「別に五つ子の姉妹だし偉そうも何もない。

 

 

でも...ごめん、二乃、五月。

さっきは言い過ぎた...反省してる」

とペコリと頭を下げる三玖。

 

「いえいえ...私は三玖と上杉さんが帰ってきてくれただけで嬉しいんです

そんなごめんだなんて...」

 

と三玖を気遣う五月。そこで「みんな!」と剣崎が大きな声で五つ子たちの注意を集める。

 

そして剣崎は正座すると、頭を地面につけ手を前につく。

いわゆる日本人が最大の謝意を相手に示す最高位の謝罪スタイル―――土下座だ。

 

「今回は俺のせいで、迷惑かけて本当にごめん!

一花にはひどいことを言ったし、一花にも他のみんなにも心配をかけた...

 

俺、家庭教師失格だ...」

 

と土下座したまま謝る剣崎。

 

「あんたはそもそももう家庭教師辞めたじゃない!それに私はあんたのことなんかこれっぽっちも心配なんか...」

と言いかけた二乃を、

「二乃!今は上杉さんの話を聞こう!」

と四葉がその口を塞ぐ。

 

「許してくれとは言わない。

 

だけど、どうか一つだけお願いがある...

 

 

もう一度、俺に...お前たちの家庭教師をやるチャンスをくれ!」

 

と剣崎は精一杯謝罪の意を込めて、頭を地面に擦り続ける。

 

「こんな都合のいい話、聞いてくれるわけがないってのは分かってる。

 

でも俺は...みんなに『笑顔』で卒業して欲しいんだ!その思いに嘘はない!

 

だからその手伝いをもう一度俺にやらせて欲しい!」

 

 

 

「フータロー君、顔上げて」

 

そう言われると剣崎は顔を上げる。そして一花は優しい顔で

 

「私はもう一度君に家庭教師をやって欲しい。もう一度私たちのそばにいて欲しい

 

君がいるだけで、私たち姉妹は前より何倍も笑えるようになったから...」

 

と顔を赤らめて答える。

 

「だから君がもう一度家庭教師をしてくれるなら私は大歓迎だよ。

 

みんなは?」

と妹たちに聞く一花。

 

「賛成。フータローにはちゃんと責任取ってもらう」

 

「はい!私も賛成です!これからまたお世話になります、上杉さん!」

 

「わ、私もです!上杉さんがまた家庭教師をして下さるというのなら是非!」

 

と三玖、四葉、五月は一花に賛同する。

 

「二乃は?」

一花に聞かれた二乃は答える。

 

「賛成なんて出来るわけないわ。

そもそも今回の原因は全部こいつにあるわけだし、まず私はこいつを家庭教師だと最初から認めてないわ」

 

二乃はどうやら剣崎を許すつもりはないらしい。

 

「でも...

別に他の子達に教えるというなら勝手にしなさい。あんたに教わるか教わらないかは自分で決めることだわ」

 

と曲がりなりにも剣崎が家庭教師に復帰することを認めてくれた。

 

「二乃...ありがとう!」

 

「な、何よ気持ち悪いわね!」

 

剣崎は泣きそうになりながら二乃に礼を言う。

だがそこで五月が1つ呟いた。

 

「でも、お義父さまがそれを許してくれるでしょうか?」

 

「「「「「あっ...」」」」」

 

と五月を除く5人の声がこだまする。

 

「ならちょっと遅いけど今から電話して聞いてみればいいんじゃない?」

と一花は提案する。

「そうしなよ。もしお義父さんが何かを言うようなら私が一緒に説得する」

と三玖も乗り気だ。

 

時刻は既に午前の3時を回っている。今の時間に電話をするなど失礼にも程がある。

 

そして二乃は、躊躇う剣崎の携帯を勝手にとると素早く電話番号を入れて電話を繋ぎ、携帯を剣崎に投げる。

 

「に、二乃!」

「ったく男ならウジウジしてないでシャキッとしなさいよ!」

と剣崎に言う。

携帯を受け取った剣崎は仕方なくベランダに出る。

そして通話は繋がった。

 

「なんだね、上杉くん。こんな時間に電話とは感心しないな」

「お、お父さん...」

「君にお父さんと...まぁいいだろう。用件はなんだい?今月分の給料なら後日渡すと言ったはずだが」

 

そこで剣崎は大きく息を吸うと、意を決して喋り出す。

 

「お父さん、お願いがあります!

もう一度...もう一度俺を家庭教師として雇ってください!」

「それは何故だね?」

「俺、どうしてももう一度だけ娘さん達に勉強を教えたくなったんです。

なんなら給料は今までの半分でも!それでもダメなら最悪タダ働きでも...」

 

剣崎はやけくそ気味に言う。だが返ってきた答えは意外なものだった。

 

「そうか、いいだろう。ではもう一度君を雇うことにしよう。給料も今まで通り支払わせてもらうよ」

「ほ、本当ですか?!ありがとうございます!お父さん!!」

剣崎にとっては願ったり叶ったりの返答だった。だが喜ぶ剣崎に「ただし」と続ける。

 

「一つ条件がある」

「え?」

「何、簡単なことさ。次回の中間テスト、娘達全員を赤点回避まで導いてくれ」

「ぜ、全員ですか?!」

「そうだ。それに一度仕事をやめた者をもう一度雇うのだからね。これくらいのハードルは設けさてもらうよ。もし達成出来なければ、君には再びこの仕事を辞めてもらう。

 

やるかやらないかは君の自由だ」

 

だが剣崎の答えは決まっていた。

 

「やります!やらせて下さい!必ずや娘さん達を赤点回避に導いてみせます!」

「そう言ってくれて嬉しいよ。

では、健闘を祈る」

とそこで通話は切れた。

 

ベランダを出てリビングに戻る剣崎。

 

「どうでしたか?!上杉さん!」

 

五月たちはみな心配そうな視線を剣崎に向ける。

 

「いいってさ。もう一度雇ってくれるそうだ」

 

ワアッと姉妹達は湧き上がる。

二乃は相変わらずツンとしていたが、どことなく嬉しそうだ。

 

「でも、一つだけ条件が出た」

「条件って?」

三玖が聞く。

 

「次の中間試験でお前達全員に赤点回避をさせろってさ」

「「「「「え?!」」」」」

 

しまった、と剣崎は思った。この状況でこんなことを言ってはプレッシャーになるに決まっている。

剣崎は歯噛みした。だがもし言わずに彼女らの誰かが赤点を取ってしまった場合のことを考えるとそれはそれでゾッとする。

 

だが彼女らは驚きこそしたものの、悲観的な事は一切言わなかった。

 

「そっか、ならひとつ前の私たちと違うってことを見せちゃおうかな?」

 

「随分と簡単な条件ね。

でっ、でも!別にあんたの助けは受けないし、何もあんたのために勉強するんじゃないんだからね!自分のためよ!」

 

「絶対にやり遂げる...!もうあんな悲しい思いはしたくないし、フータローにもさせたくない」

 

「よーし!私も頑張っちゃいますよ〜!上杉さんがいてくれれば百人力です!」

 

「わ、私だってやってみせます!上杉さんを解雇なんてさせません!」

 

五人は決意を新たにした。

 

剣崎は彼女らへの感謝の気持ちで一杯だった。一度家庭教師を勝手に辞めて、姉妹の輪をめちゃくちゃにした自分をもう一度受け入れてくれた。

 

そしてその五人に剣崎はかつての仲間たち、

虎太郎、広瀬さん、橘さん、睦月、始の姿を思い出した。

決して最初から一つになれていたわけではなかった。何度もいがみ合ったし、裏切りもあった。

 

だけど最後に彼らとは最高の仲間になれた。

 

 

だから剣崎はもう一度心に誓う。

もう二度と彼女達を悲しませないと。

 

彼女達を『笑顔』にさせると。

 

「みんなありがとう...本当にありがとう...」

剣崎はつい泣きそうになってしまった。

 

「おっとフータロー君泣いちゃったのかな?

お姉さんが慰めてあげよっかぁ〜?」

 

「い、一花!別に泣いてなんかないぞ!」

 

「まったく男のくせに情けないわね〜。

これじゃあ泣き虫フータローね」

 

「に、二乃まで...もう勘弁してくれ!」

 

アハハハハ!と楽しそうな声が部屋中にこだまする。

 

「みんな、今日はすまなかった。そして本当にありがとう。

じゃあまた明日...」

 

「フータロー、今から帰るの?

もう遅いし泊まっていって」

 

「え!?いや、さすがにそこまで迷惑は...」

 

「あ、それ賛成!フータロー君も疲れたでしょ?泊まっていっちゃいなよ」

 

「ちょっと、一花!三玖!あんた達自分が何言ってるか分かってんの!?

女五人の空間に男一人を泊めるなんてそんなこと許されるはずないわ!」

 

二乃は反対する。

 

「でもまぁ上杉さんも疲れてそうですし、今から帰るくらいなら泊まっちゃった方が楽だと思いますよ?」

 

「う、上杉さんがどうしてもと言うなら私は構いませんけど...」

 

と二乃を除く四人は剣崎を泊めるのに賛成のようだ。

 

「ったく仕方ないわね...

でも寝るならそこのソファで寝なさい!

それなら泊めてあげるわ」

 

と条件付きで泊めることを二乃も許した。

 

四葉はお客様をソファで寝させられませんと言ったが、剣崎は泊めてもらうだけありがたいよと言い、ソファに寝転がった。

 

そして泥のようにすぐに眠ってしまった。

 

そんな剣崎の寝顔を見た全員は、記念にその寝顔を撮影すると自分の部屋に戻り、登校時間までの少しの間でも眠ろうとした。

 

 

 

そして全員が寝静まったと思われるその時、階段に一番近い部屋がそっと開かれた。

 

その部屋は一花の部屋だった。

一花は基本寝る時は全裸だが今回は珍しくパジャマを着ていた。

そしてゴミだらけの部屋を自分のベッドの掛け布団を持って、そっと抜け出た。

 

そしてソファでいびきをかきながら爆睡する剣崎の前に立つ。

 

そして剣崎に掛け布団をかけると

 

「あれだけ心配させられたんだもん。

これくらいなら...許されるよね...」

と言い、自分も掛け布団の中に入る。

 

ソファは剣崎が寝ているので剣崎と背もたれの僅かな隙間に体をねじ込むようにして入る。かなり剣崎に体重を預ける形にはなるが、何せ爆睡している剣崎である。そう簡単には起きそうになかった。

 

明日一番最初に起きて部屋に戻ればいい。

 

そう考えた一花はそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

「上杉風太郎君、私にはわかっていたよ。君が家庭教師を辞めることは無いと。

君にはまだやってもらわなければいけないことがある。

そして今の君は彼女達のかけがえのない存在になりつつある。

 

このままいけば、あの中の誰か一人は...」

 

五つ子達の義父、中野マルオはパソコンに映し出された、五つ子達の予想融合係数をみる。まだ全員300台に乗るか乗らないかとあまり高くない数値である。これでは変身すらままならない。

 

「上杉風太郎君の最大融合係数は...1265か。

まだ変身してそこまで経ったわけではないのに、ここまでの数値を出すとはね」

 

そして彼はパソコンから目線を離すと、いつもより無機質に冷たく呟く。

 

「私は...__を...君を拒んだこの世界を許さない。たとえ私のしようとすることで、君が愛したあの子達を犠牲にしようとも」

 

そして男はパソコンの電源を切ると、すっかり冷めたコーヒーを一口だけ口にした。




今回のタイトルは仮面ライダー剣の前期op『Round ZERO〜BLADE BRAVE』の一節です。

そして五等分の花嫁の8巻を読みました。
それにしても面白かった。や三N1(やはり三玖がNo.1)

てかマルオって...マルオって...

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