五等分の運命   作:電波少年

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装動のラビットドラゴン、近くのスーパーから抜き取られてて買えませんでした...


第20話:溢れだす『闇』

「グゥ...グゥ...」

と剣崎は車で寝息をたてていた。あのあと林間学校に行くために旅館を目指し剣崎一行は出発した。

だが剣崎は先日レンゲルと戦い、妹のらいはを看病していたためあまり眠れていなかった。

そんな剣崎は口を開けて頭が悪そうな顔をして寝ていた。

 

「プッ...ほんとすごい顔ね。撮っちゃお」

 

と二乃が剣崎の寝顔を撮った。それに続いて他の姉妹達もみんなで剣崎の寝顔を撮る。彼女たちは二枚目の剣崎の寝顔を手に入れた。

 

車は渋滞で1時間以上の足止めを食らったが、なんとか旅館にたどり着けた。

 

「おおっ!いい感じだな!」

 

と剣崎は泊まる部屋に入って称賛の声を上げた。

 

「でも四人部屋ですよ?」

 

「ねぇ、本当にこの旅館に泊まるの?いくらこいつとはいえ男と同じ部屋は嫌!」

 

「団体のお客さんが急に入ったとかで一部屋しか空いてなかったんだもん。仕方ないよ」

 

と四葉は二乃を宥める。

 

二乃は旅館の前の犬小屋に剣崎を泊めることを提案したが、今日は豪雪であり死んでしまうので却下となった。

 

『久しぶりだなぁ...旅館に泊まるの』

 

剣崎が最後に旅館に泊まったのは300年以上も前の話だった。そして剣崎がバッグを開けるとそこにはカラフルな紐のようなものと手紙が入っていた。剣崎は手紙を読む。

 

『お兄ちゃんへ

旅行の安全をねがってお守りを作りました。林間学校楽しんできてね。

 

P.S. お礼のおみやげきたいしてます♡

らいは』

 

と書かれていた。

剣崎は嬉しさのあまり飛び上がりそうになったが、それをなんとか抑えた。

 

そんな剣崎の後ろで五つ子たちは部屋の隅っちょでコソコソ話していた。

 

「不本意だけどご覧のありさまよ。各自気をつけなさいよ」

 

「気をつけるって何を...」

 

「それはほら...一晩同じ部屋で過ごすわけだから...

 

あいつも男だってわけよ。あの純真無垢な笑顔に騙されちゃうと、パクッといかれちゃうわよ...」

 

五つ子たちはゴクリと唾を飲み込む。

 

「そんなことありません。上杉さんに限ってそんなこと...」

 

「おーい、何してるんだみんな」

 

「な、なんでもありません!」

 

「なら...トランプやろうぜ!」

 

と剣崎はトランプを見せる。

 

「き、気が利くねーなつかしいなぁー」

 

「何やります?」

 

「七並べしませんか?」

 

「ババ抜きでしょー」

 

 

 

 

10分後......

 

「さぁ、四葉。カードを引いてもらうぞ...」

 

と剣崎はカードを見せる。その手には♠︎のAと♡の2が握られている。

 

「えーっと...こっち!」

 

と四葉は右のカードを引く。

 

「揃いましたー!」

 

と四葉は♡の2と♢の2を捨てた。

 

「ってことは」

 

三玖は本来四葉からカードを引くはずだったが、四葉は既に上がってしまった。よって残りカードが1枚の剣崎からひかざるを得ない。

 

「負けちゃった...」

 

と三玖は剣崎から取った♠︎のA、♣︎のA、そしてJOKERと書かれたカードを捨てた。

 

そして時間は流れ、夕食の時間になった。

 

「おぉ、美味そうだな」

 

「すごい豪勢ですね...明日のカレーが見劣りしそう...」

 

「三玖、あんたの班のカレーを楽しみにしてるわ」

 

「うるさい、この前練習したから」

 

「そういえばスケジュール見てなかったかも」

 

と一花がしおりを開こうとしたところで、剣崎が口を開く。

 

「2日目のイベントは10時 オリエンテーリング、16時 飯盒炊さん、20時 肝試し。

3日目は10時から自由参加の登山、スキー、川釣り。そして夜はキャンプファイヤーだ」

 

「なんでフータロー君暗記してるの...?」

 

と剣崎を変な目で見る一花。剣崎は今回の林間学校を非常に楽しみにしておりしおりの中身は全て暗記していた。

 

「そういえばキャンプファイヤーの伝説の詳細がわかりましたよ」

 

「伝説?」

 

「関係ないわよ。そんな話したってしょうがないでしょ。どうせこの子たちに相手なんていないんだから」

 

「あ、あはは...」

 

と苦笑いする一花。

そういえば俺、一花と踊ることになったんだっけと思い出した剣崎。まぁ所詮は迷信だろうと剣崎は頭の隅に留めておく程度にした。

 

だがその様子を見ていた三玖の心臓は再びドクン...と音を立てる。

 

 

 

『このままだと本当に一花にフータロー取られちゃうよ?』

 

...うるさい。喋らないで。

 

 

『フフフ...いつまでそう言ってられるんだろうね...』

 

.........

 

 

三玖は怖かった。あの時、自分のことを一花だと勘違いした同級生に迫られてから、自分の中に誰かの声が聞こえてくるようになった。

三玖は首をブンブンと振る。これはきっと悪い幻聴だ。三玖はそう思い込むことにした。

 

そして夕食をとったあと、剣崎と五つ子たちは別れて温泉に入った。

 

温泉に浸かりながら五つ子たちはお喋りをする。

「上杉さん、普段旅行とか行かないのかな」

 

「まるで徹夜明けのテンションだったね」

 

「とにかくあいつのトラベラーズハイは危険よ。...そして問題は、あの狭い部屋にギリギリ布団が6枚。誰があいつの隣で寝るか」

 

「二乃、考えすぎじゃない?私たちただの友達なんだし」

 

「そうだよ!上杉さんはそんな人じゃないよ!」

 

「なら四葉が隣でいいわけ?」

 

「え!それは...どうだろ」

 

と言葉が詰まる四葉。

 

「なら一花。あんたは気にしないでしょ」

 

と一花を指さす二乃。

 

「私にきたか〜」

 

「ただの友達なんてしょ」

 

「...うん。フータロー君は...いい友達だよ」

 

「なら決て.....

 

 

「待って」

 

 

と三玖が立ち上がる。

 

 

 

その双眸を紫色に光らせながら。

 

 

「なんで一花なの?」

 

 

と三玖は告げる。

 

 

「み、三玖?」

 

と心配そうな顔つきになる四葉。

 

 

 

「え?あ、びょ...平等...みんな平等にしよう」

 

三玖の目はいつもの綺麗な青色に戻る。

だが誰もそのことには気が付かなかった。

 

そして三玖は自分の考えを姉妹たちに話した。

 

「なるほど考えたわね」

 

「誰も隣に行きたくないなら、全員が隣に行けばいいんだ」

 

「少なくともフータローから見たら」

 

三玖の考えはフータローを部屋の入口から見て右側の布団の真ん中に寝させ、左を三玖、斜め左上を五月、上を一花、斜め右上を二乃、右を四葉で固めるという作戦だった。

 

そして彼女たちは意を決して部屋のドアを開けた。

 

だがそこには一番左奥の布団でスゥスゥ寝息をたてる剣崎の姿があった。

 

「えーっと...私たちも寝よっか」

 

とみんなで布団に入った。

 

 

 

その夜、既に日も回った頃、剣崎は目が覚めてしまった。昼に車の中で寝てしまったのが原因だろう、と考えた剣崎はムクリと立ち上がると、寝相が悪くめちゃくちゃになった姉妹たちを踏まないように気をつけながら外に出た。

 

 

 

だが剣崎が起きて部屋から出たことに、一花は気がついていた。

 

 

 

剣崎は外に出る。雪はすっかり止んでいた。剣崎は手頃な岩にゆっくり腰を下ろし、星を眺めた。

 

 

300年たっても、この星空だけは変わらなかった。なにがあっても星たちはキラキラと輝き続けている。

 

そして剣崎は思い出す。自分がジョーカーだった時の最後の記憶。

 

あの時自分は砂漠の紛争地帯で戦火に巻き込まれる子供たちを守るために戦い続けていた。あの子達は大丈夫だろうか、とこの後に及んでまだ他人の心配をする剣崎。

 

剣崎は今の自分、『上杉風太郎』の手を見る。はっきりと目に映る『人間』の手。思えばこの青年の体には相当な負荷をかけてしまっている。そして自分はこの青年に成りすますことで、周りの人間を欺いている。

 

 

 

それはまるで、『SPIRIT』のカードに封印されているヒューマンアンデッドの姿を借りて、自身がジョーカーであることを偽っていた『相川始』ように。

 

 

 

だがそれと同時に剣崎は今の自分を手放したくない気持ちに狩られる。今の自分は『人間』として、人間社会に存在している。

 

剣崎は『人間』を愛している。

だからあの時、愛する全ての『人間』を守るために、『人間』だった自分を愛すことをやめ、『アンデッド』になった。

 

そして一人の『アンデッド』を『人間』として生きさせた。

 

剣崎は人間を愛していると言いながら、その愛すべき人間を騙している自分を憎む。

 

だがそれ以上に剣崎は今の自分の『人間』を手放したくなかった。

 

ため息をつく剣崎。部屋にもどろうか、そう考えた時、後ろから

 

「何してるの?フータロー君」

 

と声がかけられる。振り向くとそこには一花がいた。

 

「ちょっと目が覚めちゃって。そういう一花は?」

 

「えっ!えーっと、わ、私もかな?」

 

言えなかった。前で寝ていた剣崎のことが気になって、中々眠れなかったなんてそんなこと一花は言えなかった。

 

「そっか。俺そろそろ部屋に戻ろうかなって思ってたんだけど」

 

「そ、そうなの?私、今ちょっとフータロー君とお話したい気分なんだ。あともう少しだけ付き合ってくれない?」

 

と上目遣いに尋ねる一花。剣崎は「あぁ」と言って笑うと

 

「いいよ。俺で良かったら、話し相手になるよ」

 

と快諾する。

一花の胸が高鳴る。

 

「ほんと!?良かったぁ」

 

「で、話したいことって?」

 

「実を言うとこれといったことは無いんだよねぇ。じゃあ...最近の私たちのこと、フータロー君はどう思う?」

 

「うーん。四葉が言うからにはみんなすごい変わったらしいんだけど...俺そう言うところ見抜くの苦手で、みんなに『笑顔』が増えたなってことくらいしか分からなかったな」

 

とはにかむ剣崎。

 

「やっぱそこかぁ。なんでフータロー君ってそんなに『笑顔』を大切にしてるの?」

 

「何でって言われてもなぁ。人間悲しい顔でいるよりは、『笑顔』でいる方が前を向けていいと思わないか?」

 

「へ〜...やっぱフータロー君って優しいなぁ。もう1つ、いい?」

 

「あぁ、いいぞ」

 

と剣崎は一花に返す。

 

「どうしてフータロー君は『仮面ライダー』になったの?どうして名前も知らない人のために戦えるの?」

 

「え!」

 

と剣崎は上擦った声を上げる。まさか仮面ライダーの事を聞かれるとは思わなかったからだ。

 

「仮面ライダーを...辞めたくはならないの?」

 

「仮面ライダーをやめたい...か。そう思ったことは一度もないな」

 

「なんで?辛くはないの?」

 

「辛い時もあったさ」

 

剣崎は昔を思い出す。何度もアンデッドに傷つけられ、仲間に裏切られ、身も心もボロボロになってしまうこともあった。

 

「でも、俺が戦うことで誰かの『笑顔』を守れるんだ。俺は、たとえそれが知らない人であっても...その人の涙を見たくないんだ」

 

「フータロー君...」

 

「なんでライダーになったかは、まだ答えられない。話すにはちょっとばかし自分の方で整理してからにしたい」

 

「...そっか」

 

「ごめんな。なんか中途半端な回答になっちゃって」

 

「ううん!いいの。なんだか少しだけフータロー君のことが分かった気がするから。やっぱすごいなぁ、フータロー君は。私は優しくないから、そんな風にはなれないや」

 

と笑う一花。

 

「一花は優しいだろ」

 

と返す剣崎に一花は「え?」っといって固まる。

 

「一花はいつも姉妹のことを一歩離れたところで見守ってあげている。そしてみんなを立ててあげられる一花が優しくないなんてことは無いだろ」

 

「そ、そうかな...?」

 

「そうだよ!きっとほかの姉妹たちも一花の優しさに何度も救われているはずさ」

 

と微笑む剣崎。彼は「だからさ」と続ける。

 

「一花ももっと自分を出していいと思うぞ。長女だからしっかりしなきゃ、ってのは分かるけど少しくらいは自分に甘えていいんじゃないかな」

 

「フー...タロー...君...」

 

「それにそれだけ優しくて周りのことがしっかり見えてる一花なら、女優業の方も大丈夫さ。俺は一花の夢を応援しているぞ」

 

と言うと剣崎は一花の頭に手を載せる。

 

一花は不思議な気分だった。その笑顔は子供みたいなのに、自分の頭に載せられている手は大人みたいに大きく感じる。

 

そしてそんな不思議な気分を吹き飛ばすくらい、彼女の心は喜びに充ちていた。

 

「フータロー君」

 

真剣な顔で剣崎に向き直る一花。

 

「三玖が言っちゃったらしいけど、やっぱり私からも言うことにする。私と、キャンプファイヤーで踊ってくれませんか?」

 

と一花真っ直ぐな視線で剣崎を見つめる。

 

「今のフータロー君の言葉で決めた。今の私は、フータロー君と踊りたい」

 

一花はいつになく真剣だった。

そんな一花に剣崎は優しい笑みで返す。

 

「一花は本当に俺でいいのか?なんかキャンプファイヤーには伝説みたいなのがあっただろ。共に踊った人と一緒に結ばれるって。別に俺は信じてるわけじゃないけど、一花は本当にそれで構わないのか?」

 

「私だってそれを信じてるわけじゃないよ。でも、それでも私は、君と踊りたい」

 

「なら喜んで引き受けさせてもらうよ。言っとくけど俺、ダンスとかやったことないからな」

 

と言うと一花はプッと吹きだした。

 

「それくらいお姉さんがリードしてあげる。ね、私の『仮面ライダー』」

 

とウインクを剣崎に投げる一花。

剣崎は少し恥ずかしそうな顔をすると

 

「なら決まりだ。明後日はよろしく、一花」

 

「うん!よろしくね、フータロー君」

 

と二人は笑い合うと、旅館に戻りそのまま布団に入ると、眠りについた。

 

───────────────────────

 

 

『だから言ったのに...』

 

...やめて

 

『結局フータロー、一花に取られちゃったね』

 

やめてって言ってるでしょ!?

 

 

実は三玖も一花同様剣崎のことが気になってろくに眠れなかった。そしてずっとうつ伏せで目を開けていると、剣崎が外に出たことに気づいた。剣崎を追いかけようとしたが、一花が先に行ってしまったため1度は諦めた。

 

だが結局諦めきれず、三玖は数分たったあと自分も外に出ようとした。だがその時聞いてしまった。一花が剣崎に自分からキャンプファイヤーのダンスの相手を申し出たことを。

そしてそれを快諾する剣崎の姿を。それだけ聞いた三玖はすぐに部屋に戻って寝たフリをした。

 

幸か不幸か、一花が剣崎のことを『仮面ライダー』だと呼んだことまでは聞いていなかった。

 

そして謎の『声』は三玖に話しかけ続ける。

 

『だから私を認めちゃえばいいのに。そうすればきっとあなたがフータローと踊れていたんだよ』

 

...別に踊れなくなって構わない。一花は独り占めなんてしない。

 

『どうかなぁ?もしあなたが一花ならきっとフータローを独り占めしようとするはずたけど』

 

...何なの...あなたは誰なの?!なんで私に話しかけるの?!

 

『だから言ったじゃん。私は三玖、中野三玖。五つ子の三女で、フータローを自分だけのものにしたいと思ってる本当のあなた」

 

...違う...違う!

 

『いいよ。どうせあなたは私を認めることになる。その時まで、そうやって自分を騙し続ければいい』

 

それだけ言い残すと『声』は聞こえなくなった。

 

「私は...今の私は...何がしたいの...」

 

と弱々しく三玖は呟く。だがその声を聞き届けた者は誰もいなかった。

 

───────────────────────

 

チュンチュンとスズメの鳴き声がする。日が昇りすっかり朝になっていた。

 

「...んー」

 

と一花は寝返りをうつ。そしてゆっくり目を開くとそこには剣崎の寝顔があった。

 

昨日の夜からだったが、部屋の中は姉妹たちの寝相の悪さのせいでめちゃくちゃになっていた。

 

一花はムクリと起き上がり、剣崎の寝顔を見つめる。剣崎の寝顔を見るのはこれで三度目だったが、相変わらず子供みたいだなぁと感じた一花。

 

「これくらい平常心でいられなきゃ、一緒に踊ったりなんてできないもんね」

 

と一花は剣崎の頬に触れようとする。

 

 

 

そこで部屋のドアが開かれる。

 

「もう朝ですよ。朝食は食堂で」

 

そこで五月が見たのは眠る剣崎の頬に手を触れようとする姉妹の誰かの姿だった。

 

五月は勢いよくドアを閉める。窓から差し込める太陽光のせいで顔はあまり見えなかった。

 

『う、嘘...あれって』

 

ともう一度確認しようとドアを開ける。だがそこに剣崎に触れようとする誰かの姿はなく、全員が横になって寝ていた。

 

すると後ろから五月を呼ぶ声があった。

 

「中野!ここで何やってるんだ!」

 

「えっ、先生...?」

 

 

その後、剣崎一行はたまたま同じ宿に泊まっていた学校のみんなと合流することが出来た。

 

姉妹たちはクラスごとに分かれ、剣崎と五月は同じバスに乗り込む。

 

「まさか同じ旅館だったなんてな」

 

と驚く剣崎。だが五月はそれどころではなかった。

 

『よく見てないから判断つかないけれど...あれは...私たちの中の誰かが...上杉くんを...』

 

と考え込む五月。

 

 

 

そして一花はバスの中でスマホの画面を見つめる。彼女はさきほど剣崎の頬を撫でようとしたのが五月にバレていないか心配になっていた。そして彼女が気をまぎらわせるために読んでいた記事は

『女優業と学生の両立の厳しさ-休学も選択肢の一つ』

という見出しがつけられていた。

 

 

 

 

オリエンテーリングを終え、飯盒炊さんの時間になった。

 

二乃は調理班のリーダーとなり場を仕切っていた。

 

「じゃあ私たちでカレー作るから。

男子は飯盒炊さんよろしくね」

 

男子達は「うーい」というと、その場をあとにする。

 

「わっ、二乃野菜切るの速っ。家事やってただけのことはあるね」

 

「これくらい楽勝よ」

 

と二乃は野菜を切り続ける。

 

だがそこで後ろから「おおっ」との声がする。

 

「すげぇな、上杉。お前料理もできたのか」

 

「いや、できるって言っても簡単なものだけだよ」

 

「本当にこいつなんでも出来るなぁ」

 

と剣崎の班の男子達は感心する。

 

「ちょっと!上杉くんに感心してないで薪でも割ってきてよ」

 

と女子達が男子達に促す。が

 

「いいよ、俺がやるから。野菜切るの任せてもいい?」

 

と剣崎が薪を割りに行こうとする。

 

「え、本当にいいの?」

 

「あぁ、任せてくれ。こういうのは男の仕事さ」

 

と剣崎は笑って女子達に返す。

剣崎に野菜を切るのを任された女子は顔を手で覆う。

 

「やっば...最近の上杉くん、マジでやばいわ...」

 

「いやでも、上杉くんは無理でしょ〜。あの五つ子達じゃ私たちなんて相手にもならないって」

 

「たしかになぁ。上杉くんは無理かぁ」

 

と言いながら彼女らは中野姉妹たちの方を見た。

 

 

「これもう使った?片付けておくね」

 

「は、はい」

 

と一花が計量カップを片付ける。

 

「中野さん美人で気が利いて完璧超人かよ」

 

「俺の部屋も片付けて欲しいぜ」

 

と男達は一花にうっとりとした視線を向ける。まぁ自分の部屋すらろくに片付けられないような一花が他人の部屋を片付けるなんて点で無理な話ではあるが。

 

四葉はひたすら薪を割っていた。

 

「いやもう薪割らなくていいから!」

 

「あはは、これ楽しいですね」

 

と四葉は額の汗を拭う。

 

 

五月はカレーを煮込んでいる鍋の前でスマホのタイマーとにらめっこをしている。

 

「そろそろ煮込めてきたかな」

 

「待ってくださいあと3秒で15秒です」

 

「細か過ぎない?」

 

 

三玖は何やら茶色いものをカレーの鍋に入れようとしていた。

 

「三玖ちゃん何入れようとしてるの!?」

 

「お味噌。隠し味」

 

「自分のだけにして!」

 

「あはははは」

 

と五つ子たちはそれぞれ飯盒を楽しんでいた。薪を割り運び終えた剣崎はご飯が炊けたが見に来ていた。

 

だがそこにはこの前三玖を一花だと勘違いしてキャンプファイヤーのダンスの相手を申し込んだ男子高校生がいた。

 

「よし、ご飯は炊けてそうだな」

 

「おいコラ。気付かないふりしてんじゃねぇぞコラ。俺を忘れたとは言わせねぇぞコラ」

 

「やだなぁ忘れるなんて。名前は...えっと」

 

「前田だよ」

 

と案の定絡まれ、彼の恋の悩みを散々きかされたところで、誰かが何やら言い合いをしていることに気づいた。

 

「なんでご飯焦がしてんのよ!どーせ放ったらかしにして遊んでたんでしょ」

 

「ちげーよ、少し焦げたけど食えるだろ」

 

とかなり険悪なムードだ。止めに入ろうか、そう思った剣崎だったが

 

「じゃあ私たちだけでやってみるからカレーの様子見てて」

 

と二乃が顔は笑いながらもめちゃくちゃ怒ってることに気づき、火に油は注ぐまいと見て見ぬふりをした。

 

そんなことを考えていた剣崎の横に、リボンが特徴的な少女が現れる。

 

 

「上杉さん、肝試しの道具運んじゃいますね」

 

「ん?あぁ、四葉か。というかお前、キャンプファイヤー係だろ?別に無理して手伝ってくれなくてもいいよ」

 

「いえ!無理などしていませんよ。これくらいやらせて下さい!」

 

「...よし!前田。うちの班の飯の世話、任せてもいいか?」

 

「あ?んなもん誰がするかよ」

 

「そこをなんとか頼むって。それと後でやる肝試しは自由参加だ。クラスの女子と一緒に来てくれよ。」

 

剣崎はスっと金髪のウィッグとピエロの仮面を被る。そして

 

「な?」

 

と顔をしたから懐中電灯で照らして、前田を驚かせた。前田とその横にいた女子は「ひいっ!」というと走って逃げてしまった。

 

「その調子ですよ、上杉さん。これ上着です」

 

と四葉が先日二乃が選んでくれたBOARDの支給品によく似たジャケットを剣崎に渡す。

 

四葉も顔に包帯を巻きコスプレをする。彼女も準備万端と言った様子だ。

 

「上杉さん。悔いなんてこれっぽっちも残さないぐらい、楽しい林間学校にしましょうね」

 

「あぁ、もちろんさ」

 

と返す剣崎。ただ剣崎はこの幸せな時間がいつまで続くか、そのことが頭の隅から離れなかった。

 

「あ、次の人来ましたよ!」

 

「よし、いくぞ...」

 

「ばあっ!」

 

だが驚かせた相手の反応は随分とつまらないものだった。

 

「あ、フータロー」

 

「四葉もいるじゃん」

 

「ってなんだ二人か」

 

と剣崎は肩透かしをくらったような気分になる。

 

「なんだとは心外だなー。それにどうしたのその金髪。妙に似合ってるじゃん、染めたの?」

 

「カツラだよ」

 

と一花は剣崎に近寄って話す。

 

その光景を見た三玖にまたあの『声』が聞こえる。

 

 

───────────────────────

 

『見て、あの二人。すごい楽しそう』

 

...だから何

 

 

『きっとフータローもこんなつまらない私より...一花のことを大切に思ってるんだろうなぁ』

 

そ、そんなことはない!フータローはみんなに優しいから...

 

 

『みんなでいいの?』

 

...え?

 

 

『フータローの笑顔を、身体を、心を、私だけのものに...独り占めしたくないの?』

 

フータローを...私だけのものに...?

 

───────────────────────

 

 

「どうした、三玖?聞いてるか?」

 

剣崎に声をかけられハッとする三玖。

 

「え?何?」

 

「そっちは崖だから危険だ。ちゃんとルート通りに進むんだぞ」

 

「わ、分かってるよ。行こう、一花。」

 

「え?うん」

 

と三玖は一花を連れて歩き出す。

 

だが三玖の心は恐怖に塗りつぶされそうだった。

 

『助けて...助けてよ、フータロー。私、もう自分がわからなくなりそう』

 

 

三玖はそんな恐怖を払拭するかのように、ただ黙々と歩き続ける。

 

 

その頃二乃と五月も肝試しに参加し、森の中を歩いていた。五月はビクビクとしているが二乃は心なしかつまらなそうだった。

 

「はぁ...林間学校ってもっと楽しいと思ってたんだけどなぁ」

 

「まだ始まったばかりですよ?」

 

「そもそも最初から躓きっぱなしじゃない!それで何も無かったからよかったものを...」

 

「!ということは今朝のは二乃じゃない...」

 

「え?何が?」

 

ここでようやく剣崎が木の上から足を紐で吊るして驚かせにかかった。

 

「わあぁぁああ!もう嫌ですぅうぅ!」

 

と五月は逃げ出してしまう。二乃も「五月!待ちなさい!」と五月を追いかけて行ってしまった。

 

「まさかここまで効果抜群だとはな」

 

「やりすぎちゃいましたかね...」

 

「あれ?あいつら今どっちに行った?」

 

 

 

その頃、一花と三玖は暗い森の中を早足で歩いていた。

 

「ねぇ、三玖」

 

「何」

 

と一花に素っ気なく返す三玖。

 

「私、フータロー君にちゃんと自分から言えたんだ。キャンプファイヤーで踊ってくださいって」

 

「ッ......」

 

三玖の胸がざわつく。いけない、これ以上はいけない。なにかがいつもと違う。

 

その時、三玖の手が緩み手に持っていた懐中電灯を落としてしまう。

 

「あっ」

 

と懐中電灯はコロコロと後ろにいた一花のさらに後ろに転がっていってしまう。

 

「もう三玖ったら」

 

と一花は懐中電灯を拾いに行く。

 

 

 

 

だが三玖は目の前にあるものを見つけていた。

 

それはトランプらしき1枚のカードだった。

 

『確かこれって、フータローが仮面ライダーになってる時に使ってる...』

 

と考えながらそのカードを拾い上げる。

 

そこには

 

 

 

 

禍々しき『蜘蛛』が大きく描かれていた。

 

 

───────────────────────

 

それを見た瞬間、三玖の心に溜め込まれていた黒い何かが、それを包んでいた膜を破るかのようにして溢れだす。

 

 

 

三玖は真っ暗な空間で目を覚ます。そして目の前にいたのは、まさしく蜘蛛の化物だった。

 

 

『やっと俺を手に入れたな』

 

...何!?あなたは誰なの?!

 

 

『何を言っている...俺は...

 

私は...』

 

 

蜘蛛の見た目がぐちゃぐちゃと変わっていく。そしてそれはある少女-『三玖』と同じ姿になる。ただ一つ違う点は、瞳の色が『紫色』になっている所だった。

 

そしてそれは三玖の心に響いていたあの『声』で三玖に告げる。

 

 

 

『私は...中野三玖だよ。あなたが元から心に抱えていた、黒い部分』

 

...え?

 

 

「あなたは私、私はあなた。あなたがもっと自分のやりたいことができるように、私を受け入れて?」

 

私は...私は...!

 

───────────────────────

 

 

三玖の双眸が妖しい『紫色』に変わる。

 

三玖はカードをポケットにしまい込むと、一花の方に向き直る。

 

 

「はい、三玖」

 

と一花が三玖に懐中電灯を手渡そうとする。

だが三玖は受け取らない。

 

そして三玖は『紫色』の目を、一花に向けながら口を開く。

 

 

「おかしいよね、フータローはみんなの家庭教師なのに...

 

 

 

一花だけで 『独り占め』なんて、良くないよね」

 

 

 

三玖の心が、黒く、汚く、醜く染まり始める。

 

 

 

 

その頃、二乃は一人で走っていってしまった五月を探していた。

 

「五月ー。どこ行ったのよー」

 

 

すると二乃のスマホのライトが突然消えてしまう。

 

「嘘っ、もう!?昨日充電忘れてたかも」

 

あたりをキョロキョロとしながら足を踏み出そうとした二乃。

が、足元にあった木の根に躓いてしまう。

 

「あっ!」

 

しかしそこで何者かが二乃の腕を掴む。そのおかげで二乃は転ばずに済んだ。

 

 

「あ、ありがと...ってあなた」

 

「ったく大丈夫か?」

 

「嘘...キミ...写真の...」

 

 

そこにいたのはまさに二乃が一目惚れした写真の少年を、そのまま成長させたような金髪の青年だった。

 




次の投稿がいつになるか分かりません。申し訳ないです。
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