中々頑丈そうな扉である。剣崎が蹴ったり、ぶつかったりしても開く気配すらない。
「ご、ごめん。フータロー君...私のせいで」
「別に気にすることじゃないさ。それに俺にはこれがある」
と剣崎はバックルを取り出す。ブレイドに変身さえすれば、扉を壊すことなど造作もないことだろう。
「待って。あの扉の右上にあるやつ、多分あれ扉を壊したら警備員とかが来ちゃうやつじゃない?そんなことしたら林間学校が台無しになっちゃうよ...」
「そ、そっか。まぁでも」
と剣崎はバックルにカテゴリーAを装填しようとする。機械ならば物理的に壊さずとも、ラウズカードの『MAGNET』の力を使えば強力な磁力で機械を狂わせることができるはずである。
警備会社には悪いが、この室温が低い冬の倉庫内に取り残されるのは良くない。
そう考えた剣崎は変身しようとするが、
「ま、待って...もうちょっとだけ誰かが来るのを待ってみてもいいんじゃないかな。それにいくらなんでも壊しちゃうのはまずいんじゃ...」
と一花が歯切れの悪そうに提案する。
「うーん...まぁ確かにそうかぁ。
分かった、もうちょっとだけ待ってみるか」
そういって地面に座り込む剣崎。
ほっと胸を撫で下ろす一花。実を言うと、壊すの壊さないだのはただの建前である。彼女は剣崎と二人きりになれたこの空間に少しでも長くいたいと考え、彼を変身させなかったのだ。
そして一花も剣崎の隣に座る。
「本当にごめんね、フータロー君。私がさっき...」
「いいからいいから。気にするなって。」
「で、でも...」
言葉を続ける一花はかすかに震えている。昨日まで雪が降っていたこの場所はかなり気温が下がっている。
「にしても冷えるなぁ、ここ。...そうだ!」
と剣崎は今自分が着ていたジャケットを一花の肩にかけた。
「フ、フータローくん!?」
「寒いだろ?それがあれば少しはマシになるだろ」
「でもそれじゃあフータロー君が」
「俺は平気だよ。こう見えても俺、寒さには強いんだぞ」
とガッツポーズをしてみせる剣崎。
「なんか私、フータローくんには迷惑かけっぱなしだなぁ」
と体育座りになりながらそう呟く一花。
「そんなことないさ。仮に一花がそう思っていたとしても、俺は一度も迷惑に思ったことなんてないぞ」
と微笑む剣崎。その顔を見つめた一花は自分の心が温かくなるのを感じる。この青年の笑顔にはなにか魔法でもかかっているのだろうか、そんなことを考えている一花。
「それにもっと一花は周りに迷惑をかけてもいいんじゃないか?ちょっと前にも同じような事言ったけど、何でもかんでも一人で抱え込んじゃ息詰まっちゃうからな。
もし何か困ったりしたことがあったら、俺でよければ相談に乗るからさ」
と笑う剣崎。
「フータローくん...」
一花の心は寒い倉庫の中とは違い、暖かなもので満たされていた。
そして彼女は意を決したように口を開く。
「なら早速一つ、相談しちゃってもいいかな?」
「あぁ、なんでもいいぞ」
といつものように微笑みながら一花と目を合わせる剣崎。そして一花は少し息を吸うと、その重い口を開く。
「私、学校やめるかも」
と一花は剣崎に告げる。
剣崎は思わず
「えっ」
と言葉を漏らしてしまう。
そして一花は、辞めるとはいうものの休学の形をとること、今までも何度か学校を休んで仕事に行ったこと、他の俳優を夢見る高校生たちも休んでいることを教える。
黙り込む剣崎。
そんな剣崎に一花は続ける。
「私、この間のテストでは最低限の結果を残せたけど、やっぱり馬鹿だし。高校に未練はないかなーって...」
と言葉を紡いでいく一花。
だが彼女の思う所は少し違うところにあった。
一花は三玖が剣崎のことが好きなのを知っている。そして自身も三玖と心を同じくして彼のことが好きである。
だが一花は今日の肝試しの時、いつもと明らかに様子が違う三玖を見てしまった。
紫がかった目、挑発的な言動、そして何よりも言葉では言い表しようのない醜い『何か』
を一花は見てしまったのだ。
そのことが自身の休学の可能性を後押ししてしまった。
自分が大人しく身を引けば、きっと三玖も...
それは五つ子の長女としての一花の妹たちに対する思いやりからきたことだった。
だがそんな一花に剣崎は優しく話しかける。
「すごいな、一花は。こんなに若いのに自分のやりたいことが見つかってるなんて」
「え?」
の目をぱちくりさせる一花。
「正直いうと俺、今自分が何をやるべきか...何も分かっちゃいないんだ。今の俺は周りの環境に流されるままに動いてるだけ。右も左も分からない。
それなのに一花は『女優』という一つのゴールを見つけられている。それって凄い立派なことじゃないか」
と素直に思ったことを口にする剣崎。剣崎の顔を見つめる一花に、彼は続ける。
「もし一花が自分の夢を叶えるためにどうしてもというのなら、俺は止めない。
確かに俺はお前達五つ子を笑顔で卒業させるって言ったけど、俺はそれよりお前達五人にいつまでも笑顔でいてほしい。お前が夢を諦めることでお前の笑顔が失われちゃ本末転倒だ。
あいつらも最初は悲しむだろうけど、お前の想いを聞けばきっと分かってくれるし、絶対その想いを応援してくれるはずだ。
それに自分の『やりたいこと』に向かって一直線に突っ走っていけることって、本当にすごいことだと思う。
まぁとにかくまずは『挑戦』だな!」
とその優しい笑みを崩さず一花に告げた剣崎。
その笑顔を見た一花は自分の心のブレーキが効かなくなったことを確信する。
でももう手遅れだ。伝えよう。何事もまずは『挑戦』。
『君のことが好き』
この想いを伝えるのなら今しかない。一花はスクッと立ち上がり、真っ直ぐな瞳で剣崎を見つめる。
剣崎は「一花?」と言いながらキョトンとした目をしている。
一花は先程の休学のことを伝える時よりも、さらに深く深く深呼吸をする。
そして自身の頬をパンパンと叩くと視線の先に見据える剣崎にその想いを伝えるべく口を開く。
「フータロー君。実は、私...君のことが...」
そう言いかけたところで、一花の足の踵が壁に立てかけておいた丸太にぶつかってしまった。
それによりバランスを崩した丸太は、その横にいた一花を潰さんとばかりに倒れ出す。
咄嗟のことに反応出来ない一花。
そしてその丸太が一花にぶつかろうとしたその時、
「危ない!!」
と剣崎は一花の手を引いた。
そして勢い余って二人は倒れ込んでしまう。
目を開ける一花。
その視線の先には、まん丸とした瞳。
二人の顔は今にもくっつかんばかりのところにあった。
一花の心でアラートが鳴る。『もうダメだ』。平常心ではない一花はその顔をゆっくりと剣崎に近づけようとする。
その時、ビー!ビー!といううるさいサイレン音が2人の耳に入る。
やっと気を取り戻した剣崎は一花から離れると
「っとっと!す、すまん!一花!」
と手を合わせて謝る。そして一花もハッとした様子で
「だっ、だだだだ大丈夫!!!そ、それこそフータローくんの方は怪我は...」
「いや、俺の方はなんともないけど...ってか何だこの音...」
そう辺りを見回すと、警報機から『衝撃を感知しました。30秒以内にアンロックしてください。解除されない場合直ちに警備員が駆けつけます』と音声がなる。よく見ると、倒れた丸太が倉庫の扉の一部を破壊していた。
「や、やば!とにかく逃げるぞ!」
「あ、う、うん」
としどろもどろになりながら答える一花。
「うわっ!なんだこれ!」
と驚く剣崎。2人の頭上からは、以上を感知してかスプリンクラーから水が噴出されている。
もうこうなったら仕方あるまい。ブレイドに変身して『MAGNET』の強力な磁気で機械を壊すしかない。そう考えた剣崎がポケットのブレイバックルに手を当てたその時、倉庫の扉が開かれた。剣崎はすぐにバックルをしまい込む。
「た、助かっ...」
と言いかけた剣崎は扉の外にいた人物に目を見開く。
「一花、上杉さん。2人してこんなところで何してたんですか」
そこには心配そうな顔をした四葉と、眉をひそめる五月の姿があった。
そして剣崎と一花の二人はこのあとこってりと五月に絞られることになる。
そして、その四葉と五月の後ろで、
倉庫の中の剣崎と一花を見た、『三玖』は
「あっ」
と声を漏らす。
彼女の心の中の何か大事な部分が、パリンと音を立てて割れた。
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『ほうら、言わんこっちゃない』
え...あ...
と紫色の双眸を携えた『三玖』が、ショックのあまり言葉を発することができなくなった青い瞳の『三玖』を見てクスクスと笑う。
『これでもう分かったでしょ?今のあなたになんか、フータローは振り向いてはくれない』
嫌...!嫌...!見捨てられたくない...!フータローに『だけ』は...見捨てられたくない!
と頭を抱えて悶える三玖。
そんな彼女にトドメを刺さんばかりに、紫色の瞳の『三玖』は告げる。
『ならあなたができることは一つ。もう自分でもわかってるでしょ?』
......あ、ああ、ああ.........
『言って。あなたの口からハッキリと、私を『受け入れる』と言って』
...わ、私は...私は...あ、あなたを...
「違う。『あなた』じゃない。私は『私』。今目の前にいる私は、『中野三玖』という人間の一部。
いや、もう一部じゃない。今の中野三玖は、ほとんどが自身が抱えていた『私』という闇によって占められている。
だから私は『私』。今の中野三玖は『私』』
最早青い瞳の三玖に選択の余地は残されていない。
...わ、私は...
『私』を受け入れる...
そうハッキリと口にした三玖。
その瞬間、彼女の瞳は今までよりもさらに深く、妖しく、濃い『紫色』に染まった。
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三玖はゆっくりと目を開く。
その瞳は濃い『紫色』に染まっている。
そして妖艶に笑うと、その場を後にしてある場所へと向かう。
そこは森の開けた場所。森の中で何故かそこだけ、木が生えていなかった。
「やっぱりもう来てたんだね」
というと彼女は足元に落ちている
『レンゲルバックル』と『カテゴリーA』を拾い上げる。
そして彼女は少し辿々しい動作でバックルにカードを装填する。
カテゴリーAが装填されたレンゲルバックルは自動で彼女の腰に巻き付く。
「そうだ、私しかいない。フータローを守ってあげられるのは、私だけなんだ。
一花にも、二乃にも、四葉にも、五月にも誰にも譲らない。
フータローは...私『だけ』のもの...!」
三玖は止まらない。彼女の心の中から溢れ出した闇は彼女の身体を、精神を侵食していく。
そうだ、確かフータローは...いつもこうやって
三玖は思い出す。剣崎が何かを守るために『仮面ライダー』に変身するあの姿を。
そして彼を守る決意をした今、まさに自分は『あの言葉』を口にする資格がある!
「安心してね、フータロー。もうあなたを危険な目に合わせたりはしない。フータローが私の事だけしか見れなくなるよう、私が守ってあげる......
『変身』」
OPEN UP
三玖がレンゲルバックルの扉を開くと、そこから紫色の壁-スピリチアエレメントが出現する。
その壁は立っている三玖に対し、自動で動き出し、その体を通過する。
そしてスピリチアエレメントをくぐった三玖の身体は鎧を纏う。
元の華奢な体からは想像もつかないくらい、屈強な体躯、そしてその荘厳さが紛れてしまうほどの禍々しさ。
今ここに、第二の『仮面ライダーレンゲル』が誕生した。
〜病院〜
「医院長...!」
とモニターを眺める研究員らしき男が手を震わせながら口を開く。
「どうした」
と医院長と呼ばれた男-『中野マルオ』はそちらを向く。
「レンゲルが...『中野三玖』がとうとうレンゲルに変身しました...!」
「......!! それは本当か?融合係数は?」
マルオは一瞬驚いたように目を見開くと研究員に尋ねる。
「はい...融合係数は......!!
せ、1418です!!!」
と研究員は驚きながら告げる。
「やはりだ...彼女が『アレ』を成し遂げるか...
ありがとう...上杉風太郎くん...
これで私の計画の第一段階はクリアだ...!」
とマルオは小さく笑うのだった。
また少しの間投稿できません。ご了承ください。