「すごい...これが今の私...フータローを守る力を持つ私...」
レンゲルは自分の両手を見ながらそう呟く。
三玖は己の闇を増幅され、それに塗りつぶされてしまった。結果彼女はカテゴリーAに適合してしまい、レンゲルに変身してしまった。
「まずは、フータローに私が味方って分かってもらわなくっちゃ」
少し無邪気そうにいうとカードホルダーから適当なカードを一枚取り出し、それを放り投げる。
そして『リモート』のカードをラウズする。
REMORT
レンゲルラウザーの先端から紫色の光が放り投げたカードに照射される。するとカードに封印されていた♥10 センチピードアンデットがその姿を現した。
そのままアンデットはのそのそと歩き出す。そしてレンゲルは姿を消した。
その頃、剣崎と一花は四葉や五月によって質問攻めにされていた。どうしてこんなところに二人きりでいたのか、丸太が倒れているのかなどキリがない。
「上杉さん!正直に言ってください!今ならまだ罪は軽くなります!」
「だから本当に何かしたわけじゃないんだって!頼むから信じてくれよ〜...」
とタジタジになる剣崎。そんな剣崎を一花が庇う。
「い、五月ちゃん!
フータロー君は何も悪くないの。全部私が勝手にやったことだからフータロー君を責めないであげて」
と頭を下げる一花。
どうこの場を切り抜けようか、そんなことを考えていた剣崎の思考を邪魔するかのように彼のポケットの携帯がなる。
スプリンクラーの水で故障などはしていなかったようだ。
そもそも携帯があるなら姉妹の誰かに連絡をとればいいのではないか。だが悲しいかな、剣崎の携帯には父親の勇也と妹のらいはの携帯の電話番号しか登録されていなかったのだ。
「上杉さん、携帯なってますよ」
「あ、あぁ」
と四葉に促され携帯を見る剣崎。そこにはアンデットサーチャーが表示され、近くにアンデットがいることを示していた。
「...!! みんな!すぐにコテージに戻っててくれ。絶対にそこから離れるなよ!」
というと剣崎は走り出す。
だが
「ま、待って!フータロー君...」
と心配そうに剣崎を見つめる一花。
「ちょっと上杉さん!まだ話は終わって...」
と五月も引き留めようとするが
「ごめん!話は後で!とにかくコテージに戻るんだぞ!」
とだけ伝えると彼はサーチャーの示す場所に全力疾走で走り出す。
「くそっ...!確かにあいつ東町には出現しないって言ってたけど、ここには普通に現れるのか...!」
と悔しそうに歯噛みする剣崎。
そして雑木林を抜ける。
そこにいたのはセンチピードアンデット。アンデットは剣崎を見るなりすぐに飛び掛ってきた。
だが剣崎はその飛びつきを回避するとバックルを腰に装着する。
「変身!」
TURN UP
剣崎は出現したオリハルコンエレメントを走ってくぐり抜け、『仮面ライダーブレイド』に変身した。
ブレイドは右手にブレイラウザーを構えると、アンデットと一定の距離を保ち、お互いに出方を疑っている。
そしてブレイドが先にしかけた。
急接近し、右手の剣を叩きつけようとするがアンデットはそれを回避した。
そしてアンデットは口から猛毒を吐き出す。
さらにそれを避けたブレイド。的を外した猛毒は地面に生えていた低木にかかり、猛毒を浴びた低木は一瞬で枯れてしまった。
アンデットは続けて手に持っている鎖鎌-ピードチェーンをブレイドに放とうとしたその時、
アンデットは背面からの衝撃によって弾き飛ばされた。
「グガッ!」
と喘ぎ倒れるアンデット。
ブレイドは咄嗟のことに何が起きたか分からなかったが、目の前の存在が全てを分からせた。
「...! 何故お前がここにいる、レンゲル!」
とレンゲルに対し怒りをぶつけるブレイド。だがレンゲルは何も言わない。
そのままレンゲルは醒杖-レンゲルラウザーを構え突貫してくる。
ブレイドは剣を構え迎撃しようとした。
だがレンゲルはブレイドではなく、ブレイドの後ろで不意打ちを仕掛けようとしたアンデットを打ち据えた。
またも吹き飛ばされるアンデット。
レンゲルはカードホルダーから三昧のカードを取り出すと、ラウズする。
RUSH
BLLIZARD
POISON
《ブリザードベノム》
電子音がなると、レンゲルは冷気を纏わせたラウザーでアンデットに突きを放つ。先程剣戟を浴びせられ、なんとか立ち上がったアンデットはそれを回避できずもろに食らう。
その瞬間アンデットの体は氷漬けになり、そこにPOISONのカードで付与された猛毒を流し込み、そのまま吹き飛ばされた。
アンデットは爆発し、アンデットバックルが割れる。レンゲルはそこにカードを投げ、アンデットを封印した。カードには『SHUFFLE』と刻まれる。
その光景をただ呆然と眺めていたブレイドは我に返る。
「レンゲル!お前の目的はなんだ!何故俺の代わりにアンデットを倒す?」
黙ったまま何も答えないレンゲルにブレイドはなおも叫ぶ。
「いつか必ずお前の正体と目的を暴いてやる。
だがその前にひとつだけ、どうしても答えて欲しいことがある。
何故お前はあの時、俺に五つ子たちを守るように言った?」
だがそうブレイドが告げた後に、異変が起きた。レンゲルがいきなり頭を押さえ悶え始めたのだった。声は出すまいとしているのか、声は聞こえない。
ブレイドはレンゲルがなにか狙っているのか警戒する。
だがレンゲルはフラフラとおぼつかない足取りでブレイドから離れる。
そして『スモッグ』のカードをラウズし、辺り一面に煙幕をはる。
「待て!」
とブレイドが煙幕を突っ切って追いかけたが、そこにレンゲルの姿はなかった。
「何なんだ...俺は一体...何をどうすればいいんだ...」
一人で問う剣崎。
ただ夜の静寂だけが、その答えをいう者はいないということを示していた。
「ハァ...ハァ...」
とレンゲルは息も絶え絶えと言った様子で頭を抑えている。
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なぜ...もう完全に...己の闇に囚われたはずなのに...
『やめて!私を受け入れるとは言ったけど...フータローを危険な目に合わせることだけは許さない!』
......
『いいから返して!この身体は...『私』のもの...!』
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「......ハッ!」
と三玖は意識を取り戻したかのように我に返る。地面を見ると、そこにはレンゲルバックルとカテゴリーAが無造作に転がっている。
「こんなもの...!」
と三玖は再びその場から走り去る。 バックルとカテゴリーAから背を向けるように。
まるで己に突きつけられた『運命』から逃げるかのように。
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『なぜ...先程は完全に飲み込まれていたはず...』
カテゴリーA-スパイダーアンデットは三玖の姿から元の醜い蜘蛛の姿に戻る。
彼はかなり困惑していた。あの時、上杉風太郎と中野一花が二人でいた姿を見て、三玖の心の『闇』は暴走したはずだった。
スパイダーアンデットの目的は簡単だ。
自身の『闇』に囚われ、完全に暴走した三玖を『仮面ライダーレンゲル』として戦わせてアンデッドを封印させ、二体を残した時点で三玖の意識を完全に乗っ取り、自身が封印されている『CHANGE』のカードをリモートさせる。それだけで自身はバトルファイトの勝者に一気に近づくことになる。
つまりスパイダーアンデットは三玖のことを都合のいい隠れ蓑としてしか見ていない。
もとから中野三玖はその心に小さな闇を抱えていた。そもそもそういった汚い部分はどの人間でも持っているものである。
だがアンデットはその三玖が持つ『闇』の可能性に目をつけた。
「この女の闇は普通の人間が持つものとは比べ物にならない」
そのことを瞬時に見抜き、アンデットは三玖の心の闇に剣崎を独占するようけしかけたのであった。
しかも不幸なことに、三玖の置かれていた環境が彼女の闇の侵食を加速させてしまった。
姉妹は同じ顔の五つ子、それなのに自分はみんなと違って何も無い。中野三玖は本当にそう考えていた。だがそこにあの男-『上杉風太郎』が現れた。三玖がその青年に陶酔するようになるまで時間はかからなかった。
ほかの姉妹と違って何も無い自分を命を呈して守ってくれて、太陽のような眩しいくらいの笑顔で笑いかけてくれて、
他の姉妹は誰も知らないとっておきの『秘密』を教えてくれたことが、彼女を変えた。
一花みたいに美人じゃなくて、
二乃みたいに料理ができなくて、
四葉みたいに運動ができなくて、
五月みたいに皆に愛されてなくて、
そんな自分に唯一与えられた、愛おしくてたまらない大事な人の『秘密』。
この『秘密』が三玖の心に残されたほんの小さな光だった。
しかしスパイダーアンデットはその光の正体にまだ気づけてはいない。
この『秘密』が自分のだけのものではなかったのだと本人がわかってしまった時、彼女の心が本当の闇に塗り替えられることになる。
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「はぁ...つっかれたぁ」
と剣崎はヘトヘトになった様子だ。あのあとレンゲルに逃げられた剣崎は仕方なくコテージへと戻った。明らかに様子のおかしいレンゲルだったがその原因が剣崎に分かるはずもない。彼は諦めたように一旦レンゲルのことを考えるのを辞めることにした。
「フータローくん、本当に大丈夫?怪我とかしてない?」
「大丈夫さ。ひとつも怪我なんてしてないよ」
と一花を宥める剣崎。だが一花はまだしょんぼりとした顔をしている。
「そんな顔するなって。林間学校はまだ一日残ってる。そんな顔してちゃに明日のキャンプファイヤーも楽しめないぞ」
「...!!そ、そうだよね!私がしっかりしないとダンスが下手なフータローくんが困っちゃうもんね!」
といつものように笑う一花。そんな顔を見て安心した剣崎は部屋に戻り、疲れた身体をベッドに運ぶとそのまま横になりぐっすりと寝てしまった。
剣崎たちがコテージに戻った少し前に、三玖も部屋に戻っていた。同じ部屋のクラスメイトたちは他のクラスメイトの部屋の友達のところに遊びに行っているようで、この部屋には誰もいない。
三玖はすぐさまベッドに潜り込むと、すぐに掛け布団を被り目を瞑った。
そして一人、ベッドの中で呟く。
「私、どうなっちゃうんだろ...」
まさか自分が『仮面ライダー』になってしまうだなんて思いもしなかった。今は自分の中のドス黒い『闇』をなんとか押さえ込んでいるものの、きっとあの声が直ぐに聞こえてくるはず。その時自分が何をしでかすかわかったものでは無い。
あの『私』を受け入れた時、自分の中の『上杉風太郎』への愛情が、恐ろしい勢いで流れたのだった。
愛してる。
他の子を見ないで欲しい。
自分だけのものになって欲しい。
そんな独占欲が彼女の理性を壊そうとした。それでも自分を抑えられたのは、上杉風太郎の『秘密』を自分だけが知っているからであろう。他の姉妹と違って何も無かった自分に、唯一与えられたかけがえのないもの。
それが『秘密』-上杉風太郎が『仮面ライダー』であるということだった。
この『秘密』はほかの誰も知らない、そう信じて疑わなかったからこそ三玖は何とか自分を取り戻すことが出来たのだった。
「怖いよ...助けてよ、フータロー...」
その嘆きは誰にも聞こえることはなかった。
林間学校三日目
「上杉ー、起きろー」
「ん、んぅ...よっと...」
と友人に起こされた剣崎は起きて伸びをする。先日は二乃を助けるために崖から飛び下りたり、一花と倉庫に閉じこめられたこともあってかなり疲れが溜まっていた。
剣崎は眠い目を擦りながら部屋に備え付けの洗面所で顔を洗い、同じ部屋のクラスメイトたちとジャージのまま食堂に向かうところで、
「おっはー、フータローくん」
と一花が声をかけてきた。
「ん。一花か、おはよう」
「もうフータローくんったら寝癖ついてるぞ」
「朝遅かったら直してる時間が無かったんだよ」
と剣崎は自分の頭のはねた部分を手で抑える。手を離した瞬間ピコンと元に戻ってしまったが。
一花はその様子を見て「フフフ」と笑う。
そして剣崎の手を取ると、
「ほら行こ!このあとスキーもするんだからさっさと食べちゃわないと」
「お、おい。わかったから引っ張るなって」
とそのまま引っ張っていってしまった。
「やるなぁ上杉」
「やっぱあの噂って本当だったのか」
「あー...上杉と一花さんが付き合ってるってやつか。こんなんもう確定だろ」
「俺も早く彼女欲しいなぁ」
と男子生徒たちは羨ましそうに剣崎を見る。
そしてその後ろを四葉と五月が歩いていた。
「怪しい...」
「本当に上杉さんと一花が...」
と疑うように彼らを見る四葉と少し心配そうな顔をする五月。
「二人と合流しちゃおう!」
「ま、待ってください!四葉!」
と走り出した四葉を追いかける五月。
「おーい、一花ー!上杉さーん!一緒に食べましょーう」
「四葉...うん!一緒に食べよっか!フータローくんもいいでしょ」
一瞬残念そうな顔をした一花にそう提案された剣崎は「構わないよ」というと一花、四葉、五月、剣崎の4人で朝食を摂ろうとした。
その後五月が一花の顔が赤いことに気づき、彼女が風邪をひいたことが分かるのはもう少しあとのことである。
♥10 センチピードアンデット
肩の大ムカデは、無数の小ムカデの集合体で、分離しての活動が可能。
鎌が付いたピードチェーンは100メートル先の獲物を仕留め、口から出されるセロトニンとヒスタミン系の猛毒は相手を激痛と高熱で苦しめ、死に至らしめる。
また、上記の毒の解毒剤はセンチピードアンデッド自身が持つ抗体でのみ作られる