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「.........」
三玖は街にある広場のベンチで1人座っていた。その顔は何かに怯えたように青白くなっている。
「...ッ!!」
三玖がいきなり耳を塞いだ。どうやら風が拭いて空き缶が転がっただけだが、今の三玖は目に映るもの、耳に入る音全てが恐怖の対象になっている。
どこからあの蜘蛛が来るかわからない。またあの醜い姿が、醜い声が聞こえてくると思うと、彼女の身体は縮こまってしまう。
「...もう、やだ...誰か、助けて...」
全てに怯え切った三玖は誰にも届かない手を虚空に伸ばす。
だがその手を不意に掴む者がいた。
「......ッ!!」
驚きのあまり声が出なくなる三玖。見上げると、
「...やぁ、三玖ちゃん。こんな遅くに出歩いてるから、姉妹のみんなが心配してるぜ」
息も絶え絶えになり、誰が見ても痛みを堪えた痩せ我慢と取れるような笑みを浮かべる下田が自身の目の前に現れていたのだった。
〜上杉家から中野家への道中〜
勇也と別れたあと剣崎は中野家を目指していた。いつもの家庭教師に行く時の道に比べて、今夜は随分と気が重くなるようなきがしていた。
事実剣崎の頭は不安で一杯である。
一花のことはどうしよう。
その前に五つ子たちに謝るのが先か。
でもまず二乃に許してもらえないと家にあげてもらえないんじゃ...
そもそもこんな時間だしみんな寝ているかも...
考えれば考えるほど、彼の頭の中は不安という2文字で埋め尽くされていく。
だがマイナスなことばかり考えてはいられない。剣崎はそんなマイナスな空気を払うかのように首を横に振った。
そして自身の頬を2回パンパンと叩くと覚悟を決める。
『とにかくまずは誠心誠意謝ろう。
そして一花とちゃんと腰を据えて話し合おう。あいつならきっと分かってくれる』
そう信じ、中野家への道を歩き続ける剣崎のポケットがブルブルと震える。中では携帯が振動していた。
まさか五つ子の誰かからでは?
そう思って画面を見た剣崎の顔は苦悶に染まっていく。
そこに映し出されるのは、アンデッドサーチャー。
そしてサーチャーが知らせるのは、カテゴリーJとレンゲルの存在。
「...!!
一花...今すぐ行くぞ!!」
剣崎は脇目も降らずに、サーチャーが示す広場へと走り出した。
〜サーチャーが反応する数分前の広場〜
「あ...あなた...は」
「私は下田。君たちのお母さんの元教え子だ。どうやらその様子だとまだカテゴリーAに意識は飲まれてないみたいだな」
「私から...離れて。声が聞こえる...あいつの声が頭に響く...!!」
三玖は頭を抱えながら幽鬼のような顔で下田を睨む。
『不味い...このままだとこの子の意識と身体が完全にカテゴリーAに乗っ取られちまう』
あくまで飄々としていた下田だったが、その額に流れる冷や汗が彼女の焦りを表している。
「なぁ、三玖ちゃん。家に帰ろう。みんな心配してるぞ」
「でも...」
「三玖ちゃん。すぐにバックルを渡すんだ。あれをぶっ壊す」
下田は優しげだったが、その言葉からは確固たる意思が感じられる。
「バックルって、これのこと...?」
「あぁ、それだ」
「分かった。なら早く壊して。私を解放して...」
三玖はバックルを恐る恐る下田に渡そうとする。
『小娘が...余計なことを』
「......ッ!!!
あ、あ...ああ...あぁあぁぁ...」
三玖がバックルを持ったまま蹲る。
「ど、どうした三玖ちゃん!」
三玖に駆け寄ろうとした下田だが、三玖が纏うオーラが変わったことですぐにその歩みを止める。
そして下田に向き直った三玖の瞳は、暗く濁った『紫』に彩られている。
「貴様.....獣風情が姑息な真似を」
「カテゴリー...A!!」
下田は三玖の意識がカテゴリーAに乗っ取られたのを察知すると、すぐに自身の身体をウルフアンデッドに変化させ、三玖が握るバックルを奪おうとする。
だが1歩遅かった。
三玖が持っていたバックルには既にカテゴリーAが装填されており、自動で腰に巻き付き、オリハルコンエレメントを出現させる。
紫色の壁にウルフアンデッドは吹き飛ばされる。
そして下田が何とか起き上がって三玖を見ると、そこには『仮面ライダーレンゲル』がその身を顕にしていた。
「わざわざ自分から死にに来るとはな...いいだろう、ここで貴様を完全に封印する!」
「やってみろよ...!」
ウルフアンデッドはその体に残る力全てを稼働させ、レンゲルに飛び掛る。先程レンゲルから受けた傷はまだ生々しく残っており、骨格、内蔵の損傷と共にとても戦えるような状態ではない。人間では既に死んでいるだろう。
だがアンデッドは不死生物である。たとえどれだけのダメージを受けようと死ぬことはない。ただ痛みは人間と同じように感じるし、傷も度を超えると動けなくなる。
だが今の下田は痛みも傷そのものも気にしてはいなかった。
下田はとにかくレンゲルを鋭い爪やその強靭な顎を使って攻め続ける。
『零奈先生。アンデッドの私を...人間として導いてくれた、私の恩人。
先生、できれば私は教師として娘さん達をあなたが私にしてくれたように導いてあげたかったです』
ウルフアンデッドは自分の恩師への思いを胸に、レンゲルに猛攻を加える。レンゲルはジャックフォームになるタイミングを失い、その火事場の馬鹿力すら超えた攻撃にたじろいでいる。
「三玖ちゃんを...返せ!!」
「この獣がッ!! その汚らしい爪を俺に触れさせるな!」
「汚ぇのはテメェだろうが!!」
そう啖呵を切るウルフアンデッドだったが、着々とその身に限界は迫っていた。
そしてレンゲルは反撃はしないが、ウルフアンデッドの攻撃を確実に防御し、既に体力が尽きかけているウルフアンデッドの自滅を狙っている。
誰の目にもウルフアンデッドが先に力尽きるというのは明白であった。
「どうした。先程の勢いはどこへいった」
「く...そ...!」
とうとう限界が来た。腹部の凍傷と内臓の損傷が彼女の身体の活動を停止させようとしている。
「貴様は嬲り殺しにしてやる。封印される前に最大の苦痛を味あわせてやる」
そういうとレンゲルは2枚のカードをラウズした。
POISON
SMOG
するとレンゲルラウザーの先端から紫煙が辺り一帯に充満し、その煙はウルフアンデッドを包み込む。
「......煙...?......!
ガハッッ......?!」
突然ウルフアンデッドがえずきながら地面に緑色の血を地面に吐き出してしまう。
「ガハッ......ア......ガ......」
ウルフアンデッドは毒の煙を吸い込んだ。そのせいで彼女の身体は内側から破壊され、耐え難いほどの激痛がその身を襲う。
「ガァっ...ゲハっ...この...下衆が...!」
「馬鹿なヤツだ。あの時大人しく封印されていればここまでの苦しみを味わうことはなかったというのに...」
「あ......く、そ......」
毒はその体を容赦なく蝕んでいく。とうとうその身体を維持することが出来なくなり、ウルフアンデッドの身体は下田の姿に戻る。
アンデッドは不死生物であり、むしろその特性が下田を永遠の苦痛に誘ってしまった。
「内臓が溶かされていく感覚はさぞ苦痛だったろう。
もはや嬲ることするも飽きた。これで終わりだ」
レンゲルはゆっくりと封印のカードを持って近づいてくる。
『まだだ......まだ、まだ終われねぇ...
『あいつ』がここに来るまでは...まだ!』
だが下田の身体は動かない。その体はもはやボロ雑巾のように外も内も傷だらけになっている。
どうやらもう終わりのようだ。下田が諦めその目を閉じたその時だった。
TACKLE
MACH
「ハアッ!!」
背中に大きな6枚の翼を携えた騎士、『ブレイド-ジャックフォーム』が圧倒的な加速と共に、レンゲルを体当たりで吹き飛ばしたのだった。
「来たぞ......レンゲル!」
「...ブレイド...!」
『やっとこさ...間に合ってくれたか...』
下田は安堵からか一気に脱力した。安心感のせいなのか、身体の苦痛がほんの少しだけ和らいだ気がした。
「だが...お前にこいつを傷付けられるかな?
いまレンゲルに変身している、『中野三玖』という女をなぁ!!」
レンゲルは大仰に手を広げ、ブレイドに現実を突きつける。
「...何? 三玖が...レンゲル?」
「そうだ。
こいつは貴様に恋焦がれていた。そして貴様が他の女と会話をすることにすら焦りと苛立ちを覚えるようになり、その心に闇が生じた」
「......」
ブレイドはただ黙ってレンゲルの話を聞いている。
「こいつは常に心の中で慟哭していたぞ。お前がレンゲルに一花という女の名を吐く度にこいつはその心の闇を増幅させて行った。
たとえ俺がいなくともこいつはいずれその嫉妬心から壊れていただろう。先の突撃の時も貴様に傷つけられたことにこいつは涙を流したぞ。
むしろ俺がこいつの意識を借り受けてやることで、こいつをその苦しみから解放させてやっていたのだ。
それなのに...お前は俺を倒すというのか?」
「.........」
尚もブレイドは何も答えない。
これも全てスパイダーアンデッドの計画通りだった。
三玖の本心を全て赤裸々に剣崎に語ることにより、自身を封印しようという剣崎の心を動揺させるという狙いだった。
そして今ブレイドはただ黙って突っ立っているだけである。
スパイダーアンデッドは完全に自身の術中にブレイドが嵌ったと確信した。
その様子を見ていた下田は心の中で強く歯噛みする。ブレイドに声をかけようとするが、毒によって声帯すら破壊されてしまい、掠れた息が漏れるのみである
『ダメだ...あの蜘蛛に惑わされるな...』
そう心で呼びかける下田だったが、当然その声はブレイドには届かない。
レンゲルはその仮面の裏で笑う。見事にブレイドは自分に手出しが出来なくなった。
そしてレンゲルはラウズアブゾーバーに2枚のカードを挿入する。
ABSORB QUEEN
FUSION JACK
レンゲルもブレイドと同じようにジャックフォームへと変身する。
そしてブレイドに歩み寄り、その巨腕に見合う力を持って、醒杖を振り上げる。
「死ね、ブレイド!!」
醒杖の刃がブレイドへと振り下ろされた。
だが、その刃がブレイドを斬り裂くことは無かった。
「な、何だと...」
ブレイドは刃が自身の体に触れる寸前で、醒杖の柄を左腕で掴み、その動きを止めていた。
「な、何故だ...同じジャックフォームでもパワーは完全にこちらが上回っているはず...
なのに、なぜ押しきれない...!」
レンゲルはその手に力をこめ、レンゲルラウザーを押し込もうとするものの、一切動かない。
「たとえ今俺の前にいるレンゲルが、一花でも...三玖でも...俺がやることはただ一つだ、カテゴリーA。
お前を解き放ち、そして完全に封印する。
もうこれ以上、お前なんかに彼女らの『運命』を弄ばせてたまるか!」
そしてブレイドは醒杖を掴んだ左腕を振り払い、レンゲルの体勢を崩させると、その胸に思い切り正拳突きを食らわせた。
その突きをもろに食らったレンゲルは後ろによろめく。
「ガァっ...!
き、貴様...なぜ攻撃できる...この女を、貴様が攻撃できるはずが...」
「三玖!!!」
『剣崎』は空気が震えるくらいの大きな声でレンゲルの中にいる『三玖』の名を呼ぶ。
「三玖、よく見てくれ。この広場、お前なら覚えているだろ?」
レンゲルは剣崎の言葉を受けて、ほぼ無意識に辺りを見回す。
そこは剣崎はレンゲルの存在を知って、五つ子達から距離を置くために逃げて来た広場だった。
「貴様の声など...こいつに届くわ
『ここは...』」
「...!!!」
レンゲルの様子が変わる。
「三玖!!お前はあの時、思い出させてくれた!!!
お前を...お前達五つ子を必ず『笑顔』にさせると!!
あの時、目の前に残酷な『運命』を突きつけられて、自分が果たすべき責任から逃げ出した時...
真っ先に俺の事を見つけ出してくれたのが、お前だったんだ!!!
『三玖』!!!」
剣崎はあの時を思い出す。あの時の自分はこれから己の身に降りかかるであろう『運命』という荒波に誰も巻き込まんと、自分は周りにいた全ての人間を遠ざけようとした。
でもそんな自分に、戻ってきて欲しいと手を差し伸べてくれたのが、三玖だったのだ。
剣崎はあの時自分を見つけてくれたことが嬉しかった。
そう思っては行けないと思いつつも、そう思わずにはいられなかったのだ。
「『三玖』!!!戻ってこい!!
お前の心は、そんな蜘蛛なんかを住まわせていいところじゃない!!
人間誰しも闇を抱えてる!!
だったら俺も一緒にそれを背負う!!
だから......
自分を取り戻せ!!三玖!!
俺にもう一度、もう一度だけお前達五つ子を『笑顔』にさせるチャンスを俺にくれ!」
「『......!!!!』」
その時、暗く寂しい深淵に沈んだ三玖の心が、『剣崎』という男によって引っ張りあげられた。
「『フータロー!!』」
今確かに三玖は、自分が愛すべき者の名を、己の意思で、自分自身の心で呼んだ。
するとスパイダーアンデッドはその意識を再び支配しようともがき出す。
レンゲルはまた頭を抱えて、暴れ出す。
『その体を...俺に寄越せェェ!!!
バトルファイトに勝つのは俺なんだぁ!!』
「今ならハッキリと言える!!もう私にあなたは必要ない!!
お願い!フータロー!!
この『蜘蛛』を...追い出すのを手伝って!」
レンゲルは三玖とスパイダーアンデッドの声が混じった声を上げる。
「任せろ!」
その三玖の声を聞いた剣崎はカードホルダーを展開し、その中から1枚のカードを取り出すとラウズする。
REMOTE
するとブレイラウザーの切っ先から、青い光
がレンゲルに照射される。
その光を浴びたレンゲルは気が狂ったかのように暴れ出す。
『ガァァァァ!!!やめろ....やめろォ!!俺を...追い出そうとするなぁぁ!!!』
「出て行って!!もうあなたには惑わされない!!私のこの想いを...もうあなたには利用させない!!
この身体は、私...『中野三玖』のもの!!」
『あ、が、アァォアアアァォアア!!!』
するとレンゲルの身体が淡い光を発する。
そしてその変身は解除され、三玖の体から、居場所を失ったスパイダーアンデッドが飛び出してきた。
三玖はその衝撃で気を失い倒れてしまう。
「やっとその姿を表したな!!スパイダーアンデッド!!」
ブレイドはその姿を確認すると、スパイダーアンデッドの身体に、斬り掛かる。
ディアマンテエッジで強化された刃が、アンデッドの身体をズタズタに裂いていく。
「ゲアッ!!この...人間風情がぁ!!」
怒りで我を失ったスパイダーアンデッドはまるで猛牛のように、ブレイドに突進を仕掛ける。
だがブレイドはジャックフォームの飛行能力を活かしてその突進を回避し、すれ違いざまにまた斬り裂く。
そして2枚のカードを取り出す。
「これで終わりだ、スパイダーアンデッド!
三玖の心を利用し、五つ子たちの『運命』を翻弄したお前の『運命』を...ここで終わらせる!!」
SLASH
THUNDER
《ライトニングスラッシュ》
ラウズされた2枚のカードの中で、アンデッドが動く。
そしてブレイドは上空に高く飛び上がると、グルリと旋回し、雷のエネルギーをブレイラウザーに集中させる。
「ハァァァァ...ウェェェェイ!!!」
ブレイドはその雷のエネルギーが凝縮された剣を、上空から下降するスピードを加えて、スパイダーアンデッドに振り下ろす。
「グギャアアアアア!!!!」
スパイダーアンデッドの身体はライトニングスラッシュの一撃で頭から真っ二つに斬り裂かれた。
そしてブレイドはアンデッドバックルが割れたのを確認し、
「これで...終わりだ」
封印のカードをスパイダーアンデッドに投げて、完全に封印した。
今『蜘蛛』によってかき乱された剣崎と五つ子たちの物語が、終わりを告げたのだった。
原作のムッキーのように三玖がスパイダーアンデッドと一騎打ちするような展開を期待された方には申し訳ありませんが、この物語ではこのような展開にさせて頂きました。
そして次回からopが『ELEMENTS』に変わるイメージです。