フィオナ騎士団の騎士オスカ(女)   作:芥目たぬき

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フィン「何故オスカが出ない!」
オシーン「主人公だぞいい加減にしろ!」

大変お待たせしました。普段よりちょっと長いです。


ウェイバーは主役体質

 

* * * *

 

 

一方、セイバーは。

 

「バーサーカーがいなくなった!?」

 

バーサーカーと戦っていたセイバーは、突如として消えた姿に一瞬戸惑ったものの、すぐさま海魔を量産し続けるキャスターの方へと体を向けた。

 

未だ左手は動かず痛みを覚え、そのせいでバーサーカーとの戦いも防戦一方だったが……

 

「おいセイバーッ! さっさとキャスターをやりに行けッ!」

「あ、あぁ! すまない、謎の人!」

 

未だアサシン数十人と海魔を相手に立ち回っている謎の男を尻目に、森の奥へと進んでいく。そうすれば徐々に、足元に広がる海魔が凶暴になっていった。

 

おそらくこの先にいるだろうことは容易に想像が出来る。

しかし、だからこそ海魔が邪魔をしてくるのだが……

 

「くっ、この程度……!」

 

薙ぎ払い、叩き斬り、そして吹き飛ばす。

肉壁がうねうねとセイバーとキャスターの間に立ちはだかるものの、それを持ち前の剣技で叩き伏せてゆく。

 

そうして突き進んでいけば、キャスターの姿を木々の間から視認することができた。

 

———いけるッ!

 

まだ50m以上はキャスターとの間があり、その直線上には海魔がひしめきあっている。しかし、ゴールが見えている以上はいくら物量で押されても、()()()()()()セイバーの突破力の方がまだ優れているだろう。

 

最優のサーヴァントクラス、セイバー。

その中でも知名度や伝承といった観点から、サーヴァントの中でも最高クラスに位置する騎士王。

 

ならばこそ、邪悪なキャスター風情に遅れをとるわけにはいかない。

 

「うぉおおおっ!」

「おぉ、ジャンヌぅ……やっと我が元へ来てくださったのですねッ! 私の用意した贄は如何でしたかな?」

「黙れ!」

 

———もうすこしだ。あと少し走り抜ければ、あの首を取ることができる。

だが、何かがおかしい。はたしてこんなに簡単に倒せるのだろうか?

 

相手は狂ったキャスターで、扱っている魔術も召喚魔術ばかり。セイバーがよく知る宮廷魔術士(ロクデナシ)の足元にも及ばないだろう。

対魔力も優れているセイバーが遅れを取るはずはないが……しかし、何かがおかしいと直感が叫んでいる。

 

「さぁジャンヌ!!!」

 

———キャスターの飛び出た目玉が、セイバーをとらえた。

 

背筋に悪寒がぞわりと這い上がる。

その瞬間に、セイバーは己の直感に従い、身体を無理やりに反転させた。柔らかく鍛え抜かれた足に負荷と魔力を込めて、思いっきり背後に飛び退く。

 

そして先程までキャスターがいたところには傷1つなく生きた子供が3人、()()()()()()()()で鉄の棒に縛り付けられていた。

 

———子供達は間一髪、セイバーの剣で屠られる事は無かったのだ。

 

「おや……残念ですね」

「このッ腐れ外道がッ! なぜ無辜の民を、未来ある子供を殺そうとする!? 子に罪はないッ!」

「あぁジャンヌゥ……申し訳ございません。確かに清らかな貴方は、我が罪を認めてくださらないのですね……しかし貴方も覚えているのでしょう? 何故復讐しないのですか?」

「私は聖処女ではないッ!」

 

セイバーはジャンヌ・ダルクではないのだ。

何度も投げた言葉は、しかしこの男には通じない。

 

「えぇ……えぇ、わかっております。貴方はもはや聖処女ではないのでしょう……しかし私にはわかりますッ!貴方が、貴方が愛し裏切られた祖国への心をッ!」

「もはや言葉は不要ッ!貴様のたわ言など聞くことすら憚れる!」

 

セイバーは剣を強く握った。キャスターは早くに討伐しなくてはならないのだ。

こんな害悪を生かしておくわけにはいかない。だからこそ、ここで決着をつけなくてはならない。

 

魔力を回す。未だに手に力は入らないものの、それでもやらなくてはならないのだ。

宝具は撃てないが、全力の一撃を浴びせる事はできるだろう。

 

「ぅぉおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 

———しかし、セイバーの剣は雷光の如く現れた存在によって、阻まれる事となる。

 

「静まれい、王の御前であるぞ」

「貴様っ……ライダーと、バーサーカーッ!」

 

セイバーの剣を止めたのはライダーと、先程までセイバーと死闘を繰り広げていたバーサーカーだった。

 

そしてまた、反撃しようとしていたキャスターと海魔を止めるのは———先程、セイバーとともにキャスターを倒そうとして、アサシンに阻まれていた謎の男。その横には、ランサーも乗っている。

 

「今ひとときだけの停戦よォ。従わねば、余は全力を持って貴様らを片方ずつ叩き伏せるぞ?」

「クッ……」

「あぁ、ジャンヌぅ……」

 

この男の言う通りにするのは腹立たしい……が、そうしないとライダー、ランサー、バーサーカー、そしてアサシンと互角に戦った男と戦う羽目になるのは目に見えている。

だがここで下がるわけにはいかない……と、セイバーは剣を強く握りしめた。

 

キャスターをここで食い止めねば、騎士王としての名が廃る。それに第一、この狂った男はがむしゃらにセイバーの精神にダメージを与えながら殺そうとしている。無辜の民のためにも、ここで剣を下すわけにはいかない。

 

……だが。

 

「あぁ……やめます、やめますとも……ジャンヌ、おやめなさい」

 

その場にいた者の全てが驚いた。なんと、先に魔本を下ろしたのはキャスターだったのだ。

なにより、1番驚いたのはセイバーである。

 

「んなぁっ!? 貴様、正気……か?」

「おぉ、ジャンヌ。私は以前貴方に戦争を講義して差し上げたはずです。そしてその時お伝えしましたね?こういった場合はどうするか」

 

狂っていても、フランス元帥は元帥。

かつては軍人として戦場に立って駒を動かしていた男にとって、同盟や停戦などの戦争話は専門分野であった。

 

 

 

* * * *

 

 

 

こうしてセイバー、ランサー、ライダー、キャスター、バーサーカーは一時の停戦状態となった。

 

もちろんマスターの中で納得していなかったものもいたが(主にケイネスである)、ライダーと、その横にいるサーヴァントと互角にやりあう男、そして理性を取り戻して暴れることが無くなったバーサーカーの3人を相手にするとなれば受け入れざるを得なかった。

 

バーサーカーに関しては……雁夜が諸々の恩義を感じて、ライダー陣営に今だけは味方すると言ったのだ。

 

 

 

 

 

———そして。

 

「なぁ、ウェイバーくん……どうしてあの時、令呪でバーサーカーを正気に戻すなんて言わせたんだ?」

 

酒を下ろしているライダーに近寄ろうとしたところで話しかけられたウェイバーは、話しかけてきた雁夜の方へと振り向いた。

どうやら今はだいぶ落ち着いたらしく、穏やかな表情でウェイバーを見下ろしている。

 

オスカと大体同じくらいの身長の雁夜は、成人男性にもかかわらず彼女よりもずっと細く貧相であった。

 

「な……っんでって……そんなのボクの勝手だろ? そもそも、これは聖杯戦争だ。アンタの対魔力が低いから洗脳にかかったのであって、ボクは謝ったりしないんだからな」

「まぁ確かに、勝手に令呪を使ったことに関しては怒っているけれど……でも、君にはほかの方法があっただろう?」

 

例えば、「バーサーカーにランサーを倒させた後自害させろ」と言ったり。

例えば、「マスターの魔力を全部吸い取ってライダー以外のサーヴァントを皆殺しにせよ」って言ったり。

 

———それだけではない。

 

あの状況下において、ウェイバーは令呪を全部使用させることだってできた。なのに雁夜の手に最後の令呪が残っているということは、すなわちウェイバーは雁夜を見逃したという事になる。

 

「君はオレに温情をかけた、と思っているけど」

「ッ違う!」

 

急に大声を出したウェイバーに、その場にいたマスターとサーヴァント達の視線が集まる。もちろん、ケイネスもだ。

なんとなく気まずくて、ウェイバーは少しだけ人の輪から外れた。

 

自身のサーヴァントと距離が離れてしまったが、それは今目の前にいる雁夜とて同じこと。距離は少しばかり離れているが視界に入る場所だし、サーヴァントにとってこの距離は十分手の届く範囲である。

仮に今雁夜が戦闘態勢に入ったところで、ウェイバーが殺される前にライダーが駆けつけるだろう。

 

と、いうことでウェイバーと雁夜は改めて向き直った。

 

「……それで? ボクに手の内を見せろっていうのか? 敵マスターのお前に教える義理があるのかよ」

「もし君が同情とか憐れみとか、そういう感情でオレを見逃したのなら、オレはキミを敵だと思わないからだ」

 

その言葉に、少しだけムッとしてしまうウェイバー。雁夜はそんな反応をウェイバーが返すことをわかっていた。

 

雁夜はウェイバーの事を、背伸びをしたい思春期の子供だと思っている。

そして雁夜は大人で、ウェイバーはまだ子供だ。

だからこそ雁夜が譲れないと言った言葉に引き下がって、()()()()の令呪をかけさせたと思ったのだ。

 

情に流されて、雁夜を殺さなかったのではないだろうか?

 

「言い方は悪いが……おままごとをしている子供に、手をかけるほど落ちぶれたりしないつもりさ。……まぁ、最後には戦うことになるが、それでもサーヴァントだけを狙うことだって出来るだろう?」

「なんだよ、それ……」

「違うのかい?」

「ボクは情に流されるほど優しくなんてない。……いいか、ボクの名誉のために、少しだけ説明してやる」

 

あまり手の内を見せるのも良くないかと思ったが———ウェイバーは気を取り直した。

どうやら相手は納得するまでは下がるつもりはなさそうで、バーサーカーのマスターだから言ったところでそこまで大きい被害はなさそうだと至ったからだ。

 

 

 

 

ウェイバーは、バーサーカーの真名も知らなければどこの英霊かも知らない。

ただ、バーサーカーが()()()()()()()()だという事には気がついたのだ。

 

———ここに来るまでのチャリオットの中で、オスカはバーサーカーに対して「本当に狂化しているのか?」と言っていた。

その言葉を思い返したウェイバーは、追い詰められた際に1つの答えに思い至ったのだ。

バーサーカーは本来、()()()()()()()サーヴァントなのではないかと。

 

バーサーカーとは元々、2つのタイプに分類される。

1つは発狂した伝説がある事。

もう1つは、狂気的ともいえる在り方や行動をとっている事。

 

前者ではヘラクレスやクー・フーリン(ランサー)が当てはまり、後者においてはナイチンゲールやスパルタクス、エリザベート・バートリが当てはまる。おそらく、此度の聖杯戦争に呼び出されたキャスターも後者に当てはまるだろう。

 

どちらにおいても、召喚時の詠唱に狂化させる言葉を挟まなくてはならないのだが———なんらかの要因で発狂してしまった者と、もともと狂っている人間は違う。

そして、此度の聖杯戦争に呼び出されたのは前者にあてはまるバーサーカーだったのだ。

 

となれば、狂化を取る事で執拗なまでにセイバーばかりを狙うことは無くなるはずである。

 

仮に、狂気的ともいえる在り方や行動をとっている者がバーサーカーであったとしたら……例えばエリザベート・バートリがバーサーカーだったとして、狂化を解く事で彼女の趣味である『女の生き血を啜る』事を止めるだろうか?

 

———止めるはずがない。だって、狂化を付与される(生前)からの行いなのだから。

 

「つまり、アンタのバーサーカーは狂化を解けば、着ている鎧どおりの由緒正しい騎士に戻るかと思ったんだ」

「……あぁ、そしてそれは正しかったね」

「そして、正気に戻してやれば危機に陥っているマスターの元へと向かうはずだ」

 

———そして、何故雁夜にとって良い条件での使用を許諾したのか。

それはひとえに、雁夜とバーサーカーの方向性の違いが今後の戦いに大きな軋みを生むだろうと判断したのだ。

 

ウェイバーと雁夜の接点は今日のつい先ほど生まれたばかりだ。それも、征服王が拾ってウェイバーに助けろと命令したからである。

では何故征服王はウェイバーに雁夜の救助を求めたのか。

 

それは、表向きには『これから始まる聖杯問答にバーサーカーを連れて行くため』ではあった。

だが、それだけで果たして征服王は敵マスターの救助を行うだろうか?

 

「ボクはここ数日でひとつわかったことがある。サーヴァント同士の戦いは、相性に依存するところが大きいってね」

 

例えば、征服王はとても有名な英霊である。アレクサンダー大王という名前やイスカンダルという名前も、日本人ですら一度は聞いたことがあるのだ。

それほどまでに有名で、そして強い英霊。それでも、相性というものがある。

 

それに気が付いたのは、ウェイバーがオスカの話を聞いてからだ。

 

オスカはキャスターに対して有利な戦い方を取れると言っていた。1対1で人質などがなければ、充分に討伐することが出来ると言って退けた。

対して、アサシンに対しては動きにくいと言っていた。削ることは出来るが、決定打は持ち合わせていない、と。

 

それまで、自身のサーヴァントが最高位のサーヴァントに当てはまり、敵はほとんどいないと思っていたウェイバーは考えを改めたのだ。

———強いサーヴァントを召喚さえすれば聖杯戦争に勝ち残れるほど、この戦いは甘くない。

 

「それなのに、バーサーカーはセイバーを倒したくて、マスターのアンタはアーチャーを倒したいなんて……それじゃあアンタは魔力枯渇で、最初の脱落者になるとボクは思った」

「うぐっ……確かに、狂化が解けたバーサーカーの負担は随分と軽いよ。

だが、それはそれとしてだ。オレが今も聖杯戦争の盤面に立てていることが不可解だ」

「……それは、アンタがボク達にとって()()()()()()()()()()()()()()()存在だからだ」

 

ライダー陣営にとって、バーサーカーは『最後まで残ることに意味がある』サーヴァントである。

 

 

 

 

 

 

———ウェイバーは以前、オスカが外出している時にライダーに聞いたことがある。

どのサーヴァントが、1番厄介かを。

 

「何故それを聞く?」

「……オマエの戦力を知っておきたいからだ。聖杯戦争は宝具の強さや英霊の強さで勝負が決まるほど単純じゃないっていうのは、オスカを見てわかった。

前回の聖杯戦争で最後まで生き残ったオスカが、一体一体は弱いはずのアサシンに手こずるってことは、聖杯戦争ってのは『強ければ勝てる』ものじゃないって事だろ?」

 

そう言ったウェイバーに、煎餅をボリボリと食べる手を止めた征服王は起き上がって身体を向けた。

そして紙とペンを持って、それぞれの絵を描いていく。

 

「まず余から見れば……()()()わかっている状態であれば、ランサーとバーサーカー、そしてセイバーには有利を取れるであろう。あと、アーチャーは……こちらも傷はつくものの、一応勝率はある」

「なんでだ? ランサーとバーサーカー、あとセイバーが対人戦スキルが高いのはわかるけど……ライダーの宝具は神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)だろ? いくらオマエの腕っ節があったって、接近されたら負けちゃわないか?」

 

それに対して、征服王は小さく首を振った。そしてしたり顔でパチンッ、とウインクをひとつ。

 

「まだ小僧には余の宝具を見せておらぬわ」

「は?」

「余の宝具の真髄は王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)である。これは対軍宝具であり、己の腕っ節1つで勝ち上がってきたサーヴァント相手なら数の暴力で押し潰すことができる」

「なんっ……だよそれぇ!?聞いてないぞ!」

「言っておらんからなぁ」

 

にやにやと笑う征服王に対してウェイバーは怒鳴ってポカポカと殴りつけるものの、貧弱魔術師の拳は柔らかく、ライダーは痛くも痒くもなかった。

 

「余の宝具は消費が激しい。故に連発することはできないが、対人宝具しか持ち合わせないサーヴァントであれば、相性の上では勝つことができるであろう。

対軍宝具を持たないランサーやバーサーカー、そしてセイバーであれば()()()()蹂躙できるであろうな」

 

おそらく、を強調する征服王に首を傾げるウェイバー。

 

「……余のように宝具をまだ開示しておらぬ者は多くいる。故に、相手の手の内がわかってからでないと宝具は開帳出来ぬのだ」

「じゃあ……例えばセイバーがビーム打てたら……いや、剣士がビーム撃つってありえないと思うけど、街1つを薙ぎ払えるような宝具を持ってたら?」

「うぅむ……ビームによって余の軍勢が焼き払われるようであれば、余は魔力消費で弱り、その間に接近され破れるだろうなぁ」

 

では、一人一人解説していこうではないか。

そうして、征服王はアーチャーをペン先で示す。

 

「あの黄金色のアーチャー。あそこまでの威圧を出せるということは名のあるどこぞの王であると思うが……

現状わかっているのは、宝具を射出する黄金色の波紋のみ。そして余の見立てでは、あの宝具の射出さえ切り抜ければ、充分に勝機はあるであろう。こちらもかなりのダメージを食らうだろうが、7割程度の勝率で倒せるはずだ」

 

しかし、それは現状のスペックでの考えである。アーチャーが、黄金色の波紋からの攻撃しか、してこなかった場合の話だ。

 

「隠し持ってる宝具があるかもしれない、って事か?」

「うむ。あれほどの王なのだ。それこそ、天地を破るような宝具を持っていたとしてもおかしくなかろう……いや、持っていると思う」

 

そしてライダーは、アーチャーを赤丸で囲む。どちらかというと危険だろうという意味で書き込んだのだろう。

 

「続いてはセイバーだ」

「セイバーは宝具を使って勝てるんじゃないのか?」

「ばかもん、セイバーの持つ不可視の剣を忘れたか?」

「……あ」

 

隠す、ということはあの剣がセイバーの真名を体現する剣である可能性はとても高い。

となると、それこそ凄まじい威力を持つ聖剣である可能性だってあるのだ。

 

「おそらくあの剣を隠しているということは、相当名のある宝具に違いない。

どの時代にも、剣というのは勝利を呼ぶものだ。故にオスカの持つような大剣か、それ以上の威力を秘めているであろうな」

 

あながちビームを撃つというのも間違ってはいないだろう。そうして、セイバーにも赤丸をうったのであった。

 

「じゃあ、ランサーとバーサーカーはどうなんだよ?」

「まずはランサー。オスカの話では真名はディルムッドということがわかっておる。彼奴の持っている宝具などを考えても、おそらく勝てるであろう。……しかし」

 

ランサーの宝具はゲイ・ジャルグとゲイ・ボウだ。これは伝承にもある通り、魔術的な防御を無効化する槍と、癒えない傷を負わせる槍である。

この二槍を駆使して戦うのであれば、栄光のフィオナ騎士団随一の武芸の持ち主として、1対1でディルムッドに太刀打ちできる者は少ないだろう。

 

しかし、いくらディルムッドとて大軍の波に襲われればひとたまりもない。現状わかる範囲でのディルムッドの情報から見ると、勝率は征服王の方が高かった。

 

———だが、必要なのは隠しているかもしれないスペックだ。

 

「ケルトの戦士の戦い方は知っておるだろう?特に槍使いともなると、槍の投擲が得意だろうな。

そこで考えられるのは、余の軍勢に襲われながらも槍が投擲されたら、相討ちになる可能性がある」

「なるほど……槍は避けれないのか?」

「それは宝具次第よ。必中の投擲宝具を持っていたら、余では守る術がない。

輝く貌のディルムッドと言えば双剣が有名だが、それを持っていない以上、カバーするためになんらかの槍宝具を持っているかもしれぬ」

 

———もし仮にランサーがディルムッドではなくクー・フーリンであったら、間違いなく相性が悪いと判断していた。

ディルムッドがゲイ・ボルグ相当の必中宝具を持っている可能性を少しだけ考慮して、ランサーに赤ペンで三角をつける。

 

では、バーサーカーは?

 

「奴は……正体不明だが、どこぞの名のある騎士ということはわかっておる。見るからに西洋騎士であるし、オスカのような武器を賜ったりしていなければ余の軍勢でなんとかできるであろうな。

だが……己の武器を持つものが、そこら中にある現代の道具を己の宝具に変えて使ったりするか?」

「つまり、バーサーカーは特別な宝具を持っていない?」

「ま、断ずるには早いがその可能性が高いだろう、という話よ」

 

そして征服王は、バーサーカーを青い線で囲った。おそらく勝てる見込みが高いものとして書き込んだのである。

 

 

 

 

 

 

 

「詳しくは言わないけれど、ボクはボク達のためにバーサーカーとアンタの動きを潤滑にしたんだ。決して情に流されてとかじゃない。」

 

おそらく、ライダーにとって最も難敵であるセイバーとアーチャー。この2人に対抗できる可能性を持つ陣営が、バーサーカーであると、ウェイバーは雁夜の執念を見て気がついた。

 

雁夜は遠坂時臣(アーチャー陣営)を、そしてバーサーカーはセイバーを執拗なまでに倒そうとしている。何かしらの因縁が2人にはあるのだろう。

 

だからこそウェイバーは、あの窮地に面した状態で『狂化を解き、今すぐマスターとウェイバーを助けろ』と雁夜に暗示をかけて令呪を切らせたのだ。

互いの方向性さえ確立すれば、バーサーカー陣営はアーチャーとセイバーにとっての天敵となり得るはずだ。

 

雁夜がそこまで遠坂を憎んでいることを知らなければ、取らなかった手段である。

 

「……あの時あんなにびびってたのに、そこまで考えることが出来たのか?」

「そのくらい、できて当然だ」

 

 

 

 

ただ単にピンチを脱出するだけではない。

あの場を脱出しながらも、今後の展開を考えての行動をとったウェイバー。

 

———『ならばお前なら、余の求める答えを導き出せるはずだ』

 

そして、征服王の言葉通りに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()たのだ。

 

 

 

 

「ボクは魔術師で、感情なんかに揺さぶられるようなヤツじゃない。

ボクはボクなりの考えを持って、オマエに令呪を一画消費させたんだ。」

「それは、……強がりじゃないのか?」

「違う。確かにボクは弱いし……言いたくないけど未熟で、三流……かもしれない。死ぬのだって怖いし、正直日本に来たこと後悔する時だってある。

でもなぁ! ボクだって魔術師の端くれなんだ! バカにするなッ!」

 

そう言って啖呵を切ったウェイバーは、睨みつけるように雁夜に言い放った。

 

それはやっぱり子犬が健気にも威嚇しているようにも見えて———しかし、その姿はさっきよりもほんの少しだけ、自信がついているようにも見える。無理やり肩を張って、そう宣言する事で自分自身を鼓舞しているのだろう。

 

こんな魔術師も、いるのか。

 

「……そうか。君は、魔術師なんだね」

 

魔術師であることを誇りに思う少年。もし出会う場所が違えば、おそらく雁夜はろくにウェイバーを知らずに、魔術師というだけで拒否していただろう。

 

雁夜の近くには時臣や臓現などの魔術師しかいなかった。だからこそ、魔術師全てを憎んでいたが。

 

「……君は強敵だ。この聖杯戦争において、誰よりも

———認めるよ。ウェイバーくん、君はオレたちにとっての敵だ」

 

 

その言葉は、雁夜にとってもウェイバーにとっても、重い言葉だった。

 

今まで雁夜は、時臣を倒して聖杯を取ることしか眼中になかった。それしか、考えていなかったのだ。

 

しかし、今目の前にいる少年は聖杯戦争において、誰よりも自分達の陣営にとって脅威になるだろう。サーヴァントの力ではなく、マスターの力を含めた考えでそれに至った。

時臣を倒す———それしか考えてこなかった己にとって、聖杯を取るにあたって最大の壁になるであろう少年。

 

 

 

対してウェイバーは、いろんな感情が心の中で膨れ上がっていた。

そもそも、周囲の人間に自分を認めてもらうためにこの聖杯戦争に参加したのだ。だからこそ、その言葉は嬉しい———はずで。

 

「こんなの……できて、当たり前だ」

 

聖杯戦争が始まる前の自分だったら素直に飛んで喜んでいただろう。しかし、今のウェイバーでは何故か喜ぶことが出来なかった。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

 

ふぅ、と息を吐いたイスカンダル。

その正面にはセイバー、そして横にはアーチャーがいる。

 

そして、征服王の横にはフルフェイスのヘルメットがいて、さらに横はランサー。セイバーの横をバーサーカーとキャスターが取り合いをしていて、どちらともセイバーに酌をしようとしていた。

 

キャスターはニッコリと、セイバーの持つ杯にライダー持参の酒を注ぐ。そして、

 

「ジャンヌ、宜しいですかな。こういった場では見栄が大事なのです。いつものように、がっついて食べてはなりませんよ?」

 

そして、その言葉にこくこくこくと頷くのはバーサーカーである。

狂化をといてもクラスはバーサーカー。未だ喋れず、セイバーに対して殺意を振りまいているものの、一応この場に留まることは出来ている。

 

2人のお節介に、セイバーは自身の持つ杯を握りしめる力を強くしてしまった。ギリリリリ、と嫌な音がする。

 

「落ち着けい、セイバーよ。そして、キャスターとバーサーカーもだ。よもや、貴様らの主人は誰かが近くにいないと会食も満足に出来んのか」

 

ライダーのその言葉に、バーサーカーは一歩引き下がり、そしてキャスターも少し不安げな顔をしてから一歩下がったのであった。

 

セイバーはいまだ不満げな表情を浮かべているものの……しかし、キャスターとバーサーカーに敵意はあれど悪意はない行為だ。ライダーが鎮めた今、あえてぶり返す必要もなく黙ってその場に座していた。

 

 

 

 

———しかし、ここにも問題が1つある。

それは今の今まで、ずっと無言を押し通してきたアーチャーだ。

 

彼は、やっと皆が杯をとれる段階になってから、ぶわりと殺気を撒き散らした。

 

「……雑種よ、王たる我と共に犬如きが宴を共にすると? 」

 

全員に向けられた言葉。すなわち、この場にいる全員に敵意を向けられる。

 

彼の背後に黄金色の波紋が現れた。

波紋からは少しだけ宝具が顔を見せており、それが射出されればここにいるサーヴァントとしても、回避をするのは苦労するだろう。

 

だが、そんな事は関係ない。

アーチャーは無慈悲にも、処刑するように言い放つ。

 

「その不敬、万死に値するぞ」

 

———だが、それに対して怖気付くようではここにそもそも呼ばれていない。

誰もがなんらかの戦場に立ってきたものなのだ。セイバーもライダーも、そしてランサーやバーサーカー、挙句キャスターに至るまで。

 

そして、物怖じせずにライダーはアーチャーへと言葉を向ける。

 

「ここに集いしは曲がりも何も英霊どもよ。よもや、お主にはこの者らが敬意も払えぬモノだと言いたいのか?」

 

ちらり、とライダーはフルフェイスの男にちらりと目を向ける。それにわかっている、と答えた男は、礼儀正しく膝を折った。

片膝を立てたその姿勢、まごう事なき騎士の姿である。

 

「何処の名高き王よ。勝手な拝謁、誠に申し訳ございませぬ。此度の聖杯戦争にて、王たる貴殿らに拝謁出来た事、喜び申し上げます。

……そしてアホ征服王の思いつきで、私のような者にも言葉を頂戴出来ること、大変遺憾のイッ……」

 

どかんっ!と征服王がグーパンをヘルメットに打ち込み、ウェイバーは息を飲んだ。あんなの、自分が食らったら頭が陥没しても仕方がない。

しかし、男はやけにピンピンとしていてライダーに噛み付くように起き上がった。

 

「イテェな畜生ッ!……ええと、まぁアレだ。本来なら繋がりのない王と言葉を交わせられる事、光栄に思う」

 

そして横の騎士達を見てひとこと。

 

「おいなにやってんだお前ら。やれよ」

「そういうお前は誰なのだ」

 

ランサーのツッコミも当たり前である。しかし、その質問には答える気がないのか、男はバーサーカーとキャスター、そしてランサーに視線を向けた。

 

「他国の王だろうと、王は王。それともなんだ、貴様らは自分の知らない国であれば、やんごとなきお方にも敬意を払わないのか」

 

騎士たるもの、この場が戦場でないのなら他国の王には敬意を払うべきだろう。それが例え亡国の王でも、敵の王であっても。

それは、当たり前の話である。

 

———例えば、キャスターやバーサーカーの生まれた国・フランスでは。

3300年前の王、ファラオ・オジマンディアスが来仏する事となった際には、敬意を示し彼にパスポートを作成したのだ。

また、迎え入れる際にはパレードを開く程の徹底ぶりである。

 

———また、ある時はアメリカにて。

この国の天皇陛下が高速道路をお通りになる際に通行止めとなった。普段であれば大ブーイングが起き上がるだろうが、相手は日本の天皇陛下。アメリカの国民は敬意を持ち、誰一人としてクレームを入れるものがいなかったとか。

 

 

 

ここが血で血を洗う戦場ではなく、酒を囲んで話し合いをする場であるならば、常識ある者として騎士は王に対して敬意を見せるべきだろう。

 

特に、己が仕える者がいる騎士ならば尚更。この敬意こそ、率いては主君の誉れとなる。

そう言って男は騎士達を見やれば、確かにと頷いた。

 

———そして、それを言った男は少しばかり驚く。何故なら、あの狂ったキャスターも、ランサーやバーサーカーのように納得していたためだ。

 

そして、ランサーは男と同じような姿勢を取ると堂々と言葉を紡いだ。

 

「最もだ……非礼を詫びよう。アーチャー、そしてセイバーとライダーよ。この時この瞬間だけは、貴殿らという王に拝謁し言葉を頂戴出来ることを喜ぼう。

そしてライダーよ、一介の騎士たるオレにこのような場を作ってもらい、感謝する」

 

しかし、戦となれば立場は対等だからな。と、ランサーは最後にセイバーに向かって強く視線を送る。

それを受けたセイバーもまた、その言葉に強く頷いたのであった。

 

「aaaaaaa———」

「お前は……まぁ、うん。言わんとする事はわかる。よかろう」

 

そして、バーサーカーは言葉が発せないため姿勢だけは正しくあろうとする。それに対して征服王は良しとした。

喋れない者ながら誠意を見せたのだ。それで良いではないか。

 

「私とて……かつては元帥でありました。故に、王というものに……貴殿らに、敬意を払いましょう」

 

最後に、黒衣のキャスターはその青白い腕を折って深く礼をした。それは、征服王とアーチャーに対してだが———幸いにも、彼の座っていた場所的に、セイバーに対しても礼をしているように見えるので良いとする。

 

 

「……よかろう。貴様らには我の玉体を拝む事を、そして玉音を耳に入れる事を許す。その光栄に咽び泣くが良いッ!」

 

この言葉に一番安堵したのは征服王であった。

彼とて人を見る目はある。いや、この場において誰よりもその能力は高いだろう。

 

それ故に、アーチャーほどの王がどこまで許し、どこまで許さないかのラインを見極めていたのだ。

騎士達の、騎士としての器。そしてアーチャーの王としての器。征服王は、この2つが自身の見誤りでは無かったと頭の片隅で安堵していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、これで騎士の器は見てとれた。ならば次は王の器を比べようではないかッ!」

「———よかろう。」

 

そうして会話の席に着いたアーチャー。こうして、聖杯問答は幕を開けたのである。

 

 

* * * *

 





征服王から見る宝具相性

対セイバー
現状において約束された勝利の剣(エクスカリバー)を知られていないため、征服王の王の軍勢で潰せる、と思われている。
カリバっちゃえば余裕。征服王の勝率20%↓

現状では左手が負傷しているために宝具打てない。今なら勝てる。

対アーチャー
現状において天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)を知られていないため、征服王の王の軍勢で潰せる、と思われている。
エヌマエリシュで余裕で勝てる。勝率20%↓

慢心してくれたら征服王も勝てる。だが相手は曲がりも何も征服王。そこまで慢心しない。

対ランサー
対軍宝具には弱い。もともと対軍で戦うことも少ないので、対軍相手には勝てない。
必中の投擲宝具など持っていないので、現実は非情である。征服王の勝率90%↑

もしランサーがディルムッドではなくクー・フーリンだったら、王の軍勢を相手にしても1人で戦い抜いて勝利できるかもしれない。
(生前において、メイヴちゃんの大軍勢相手に1人で立ち回って勝てているため)

対キャスター
魔力消費など諸々を考えると、肉壁相手には決定打がない。(そのためにオスカを連れているといっても過言ではない)
勝率 --% 削れるが決定打は持たないため。征服王1人では勝てない敵。

対アサシン
オスカから聞いた話ではおそらく勝てるものの、全員を根絶やしにしなくてはならないとなると魔力消費がえげつないために出来れば相手にしたくない。
アサシンが全員一斉に出てきてくれたら絶対に勝てると思っている。
勝率40%↑ 戦うメリットがない。

対バーサーカー
現状において、征服王が1番勝利を収めやすいと認識している。
相手の宝具を自身の宝具とする所や、現代武器を宝具にすることから『己の武器がないのではないか』と思われている。
また、セイバー相手に全力で殴りかかっていることから、宝具を隠し持っている可能性が低いと考えられている。
そのため、王の軍勢で潰せる。
勝率80%↑


という予想です。
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