フィオナ騎士団の騎士オスカ(女)   作:芥目たぬき

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fgoの幕間のようなものだと思ってください。
ディルムッドが黒子を手にした時の物語です。


カルデアマスターと恋の紋章

* * * *

 

 

それは、フィニアンサイクルの物語を調べている時に唐突にマスターが言い始めた事であった。

 

「そういえば、ディルムッドの黒子ってなんなの?」

「ディルムッドさんの黒子、恋の紋章のことですね」

「恋の紋章?」

 

マシュがマスターの質問に答えると、その物語の乗ったページを指差す。そこには恋の紋章と題されて、物語がつらつらと綴られていた。

 

「ディルムッドさんの恋の紋章では、ディルムッドさんはもちろん、カルデアにいるオスカさんも活躍する物語なんですよ?」

「オスカも!へぇー」

 

と、そこにやってきたのはフィオナ騎士団の2人、セイバーのディルムッドとオスカである。

シュミレーターを使って戦ってきたあとなのだろう。汗をかいて、そして互いの動きについて顔をキラキラさせながら話し合っている。

 

「おや、マスター。なにを調べられているので?」

「ちょうどいいところに!あのね、今ディルムッドの黒子について調べてて……」

「先輩っ!」

 

マシュは、止めようとした。

何故ならその物語が、オスカにとっては失敗した話で、ディルムッドにとっては災難の最初の1つだったから。

そして案の定———

 

「ま、マスター……それは……」

「おい、マスター……」

 

ディルムッドは渋い顔を見せて、オスカは顔を真っ赤にして目を吊り上げた。

 

「マスター、できればそれは……えぇ、閉じていただけると」

「いーますぐ閉じろ!閉じろ、閉じてくれ頼むから!」

「ヒェッ……な、なんで……?」

 

とりあえず直ぐにライブラリを閉じたマスターは、2人に向き直る。

そして、先に口を開けたのはオスカだった。

 

「あんのクソブサイクのブスアマ野郎が悪い!」

「何を言うんだオスカ。ユフは美しかった」

「あーれが美しいだ?お前の目は節穴か?」

「美しいだろう!オレはああいうのがタイプなのだ!」

「アレが!?ほーん……アレが好きなのか。ふーん……そ、そっかぁ……」

「お前だって口説いていただろう!?」

「オレは、お前があのBBAに鼻の下伸ばしてるからっ……ああもうこのニブチンのスカポンタン!」

 

突然口論を始めた2人に目を白黒させるマスターとマシュ。そして2人はつんと互いにそっぽを向くと、それからマスターに話しかけたのであった。

……仲良いなこいつら。

 

「えぇとですね、マスター。それは……私とオスカ、そしてフィオナ騎士団の仲間ゴルとコナンと共に山小屋に泊まった時の話で……」

「……あの日は、いけ好かないジジイと女に世話になったんだ。

恋の紋章などというがなんて事はない、あれは……」

 

 

 

 

その瞬間、マスターは違和感を覚える。

オスカの言葉が少し音ズレし始めて、それを認知できるときにはもう遅かった。

 

———オスカの喋る声が聞き取れなくなり。

ぐにゃり、と足元が揺れる。そして音が遠くの方で聞こえて、目の前の2人が、カルデアの景色が消えていく。

恐怖から隣にいるマシュの方を見れば、マシュも驚いた顔をしてこちらを見つめていた。

 

落ちるのか、上がっているのか。

立っているのか、浮かんでいるのか。

それすらわからない状態で、気がつくとそこは———

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここどこー!?」

「落ち着いてください先輩!」

 

そこは、オレンジ色の空が美しい草原でした。

 

思わず叫ぶマスターと、盾を構えつつもマスターを落ち着かせようと慌てるマシュ。

どうやら辺りを見渡すと2人きりのようで、マシュはいつ何が起きてもいいように盾を構えて腰を落とした。

 

「草原……ですね。綺麗な草原です」

「えぇと、私たちさっきまでカルデアにいたよね?マシュ」

「そうですね。また突発的なレイシフトなのでしょうか?」

 

さっきまでオスカとディルムッドの前にいたはずなのに……と、首を捻るマスター。こういった事態に慣れている所為なのか、すぐに落ち着きを取り戻すマスターなのであった。

 

とはいえ、今は緊急時。

辺りに敵性エネミーがいないかを、耳を潜ませて確認する。

 

「……敵性エネミー、確認できません。ここは安全なようですね、マスター」

「ありがとマシュ。

うーん……ここどこなんだろうねえ」

 

取り敢えず歩いてみようか、とマスターがマシュに聞いてみれば、少しだけ緊張感を持ちながらもいつものような笑顔で頷くのであった。

 

 

* * * *

 

 

しばらく歩いていると、夕暮れも徐々に暗くなっていく。

何の準備もないが、暗くなってから動くのも危険だと思い、今日は野営をしようとマシュと意見があった、その時であった。

 

「先輩っ、私の後ろに!」

「え、マシュ……どうしたの?」

「敵性エネミーを感知しました!これは……四足歩行の魔獣もどきのようです。しかし数が多いので……マスター、指示を!」

「わ、わかったマシュ!行こう!」

 

盾を構えると同時に、木々の影からぬるりと魔獣もどきが現れてくる。

それは牙を光らせて威嚇してきて、よだれをぼたぼたと零して、そしてギラギラと光った黄色いまなこで2人のことを獲物として見つめていた。

 

マシュとマスターの2人を囲むように現れたそれらが、1匹の魔獣の叫びに合わせて飛びかかってきた。

 

即座に対応したマシュはその魔獣を盾で殴り倒し、すぐさま襲いかかってくるほかの魔獣に盾を振りかぶる。

 

「マシュ、攻撃強化!回避!」

「はい、マスター!」

 

1匹1匹は弱く、攻撃に特化していないマシュでも殴り倒すことができる。

しかし、やけに数が多くてこなし切ることができない———

 

1匹を屠り、3匹を潰し、8匹を遠くに投げ飛ばす。しかしそれでも、わらわらと現れてくるのだ。

 

マスターもガンドを打ち込みながら、魔獣もどきの爪と牙をギリギリで避けながら、マシュのサポートをしつつその場から逃げるように走っていた。

 

「マシュ———このままじゃ、ジリ貧になる!」

「マスター、広い場所に出ましょう!その方が、まだ戦えますッ!」

「走れる!?」

「———いけますっ!掴まって、マスター!」

 

強化魔術をマシュにかけて、思い切りマシュに走ってもらう。

お姫様抱っこのようにマスターを抱きかかえたマシュは素早く、しかし魔獣たちもそれに追いつこうとものすごいスピードで後ろをついてくるのだ。

 

木々の多い林の中を、大地を蹴って駆けていく。

 

ぎゅう、とマシュの首に手を回せば、マシュもマスターを抱える腕の力を強くする。

そして———

 

「お願いマシュ!絶対絶対、生きて帰ろうッ!」

「マシュ・キリエライト、突撃しますっ!」

 

爆走するマシュの前を塞ぐ魔獣が何匹も現れる。

それに対して、スピードを緩めずに盾を構えたマシュは、そのままそこに突っ込んでいった。

 

頑丈な盾が、魔獣の肉体を蹴散らしていく。

 

「ハァァアアっ!」

「いっけぇえええええっ!」

 

ありったけの魔力をマシュに回す。

全身が凍えるように痛み、マシュにしがみつくことすらやっとの状態。しかしそれでもマスターは、魔力を燃やすことをやめなかった。

 

なにか、なにか勝機があるはずだ。

 

———と、マスターの霞む視界の片隅に、煌々とした灯りが4つ見える。

どうやらそれはこちらに向かって走ってきているらしく、徐々にその灯の大きさは大きくなっていった。

 

もしかしたら魔獣の仲間なのかもしれないが……迷っている暇は、ない。

 

「マシュ……右のほうへ!走って!」

「わ、わかりました!右ですね!」

 

マシュの右手にいた魔獣を盾で殴り飛ばし、そして進行方向を右へと変える。

マシュも進行方向にある篝火4つに気がついたのだろう。再びマスターを抱え直し、そちらの方へと走り出すのであった。

 

しかし、肉体強化の魔術はもうすぐ切れてしまう。

足を動かしても先ほどのような推進力を得られないマシュは、息切れを起こし始めてしまった。

 

そしてついに魔獣の1匹の牙が、2人に迫る。

マスターの足に勢いよく噛み付いた魔獣は、千切るかのように食らいついたのであった。

 

「いッ……!?」

「せ、先輩!このっ、」

 

足に噛み付いた魔獣を盾で殴り飛ばし、しかしマスターを案じるばかりにマシュの足もついに止まってしまう。

すぐさま先ほどと同じようにマシュ達を囲んだ魔獣は、弱者をいたぶるかのようにじりじりと距離を詰めてきたのであった。

 

「ま、マスター……ごめんなさいっ」

「大丈夫だから、マシュ!……マシュだけでも逃げて、助けを……」

「出来ません!」

 

 

 

絶体絶命。その言葉が頭をよぎる

———その時だった。

 

数匹の魔獣が、首と身体を分割させて空を飛んだのだ。

 

「そこを、どきやがれッ!!!」

「ッ間に合ったか!?」

 

木々の間から出てきたのは2人の人間。

それは、マスターとマシュもよく知る人物であった。

 

「あ、貴方達は……!」

「よくぞここまで耐えた。異国の服を着た者達よ」

「ここからはオレらに任せなァ。すぐに終わらせてやる」

 

安心感か、マスターを抱きかかえたままへなへなとその場に座り込んでしまったマシュ。

彼女が見上げる先には、いつでも頼れる2人———オスカと、ディルムッドがいた。

 

そして、剣を携えた2人は自分たちを囲む魔獣達に駆け出した。

 

「フィオナ騎士団が騎士、一番槍のディルムッド!推して参る!」

「同じくフィオナ騎士団が騎士、特攻隊長のオスカ様だ!1匹残らず、生きて帰れると思うなよ!?」

 

一太刀で3匹の獣の首を落とす双剣使いのディルムッド、そして大剣を一閃して5匹の獣の胴を両断するオスカ。

突然現れた2人は疾風の如くその場を駆け回り、たちまちその場にいる獣は死に絶えて、血の匂いがむわりとあたりに立ち込めるばかりになるのであった。

 

鮮やかなまでの連携プレーにして、先ほどまでマシュ達を追い詰めていた魔獣は1匹もいなくなってしまう。

 

「まったく、この魔獣の森に入り込むなんざ危険すぎるぜ。あんたら一体、どこの誰なんだ?」

「よせオスカ、なんらかの事情があるかもしれないだろう?」

「ありがとうございます、お二人とも!」

「助かったよ。……イテッ」

 

カルデアのマスターが片足をかばいながら立ち上がると、不安そうにマスターに肩に腕を回すマシュ。

その様子に顔を見合わせたディルムッドとオスカは、すぐに馬を連れてきてマシュとマスターをその上に乗せるのであった。

 

 

 

* * * *

 

 

「今から1700年近く未来の魔術師、ねぇ……」

「その頃の我々は一体、どうなっているのだろうな?」

 

その後、オスカとディルムッドに連れられて向かった先には彼らの仲間のゴルとコナンもいて、マシュとマスターはその4人とともに行動することとなった。

 

「そういえば。ねぇディルムッドさん、ここって一体どこなの?」

「魔獣の森の近く、ブルースタックの山の麓で、ドニゴールが1番近い……といっても異邦人にはわからないな、すまない。

ここはエリンのレンスターだ。」

「なるほど、エリンか!」

 

……って、どこなの?

 

「ええとですね先輩、エリンは私たちの時代で言うアイルランドのことを指します。レンスターはその中の一国、他にもコノートやアルスター、マンスター、ミートとあります。メイヴさんはコノートの女王で、クー・フーリンさんはアルスターの騎士ですね」

「我らフィオナ騎士団は国を縛られずに活動をするから、国という括りは薄いものなのだが……とにかく、この土地はレンスター領なのだ」

 

日本生まれのマスターにとってアイルランドの伝承はあまり馴染みのないものである。

カルデアにおいて、クー・フーリンとディルムッドは同じ出身でも面識がないことを知っている程度だ。

 

「ケルトでは大きく4つの物語があります。

アルスターサイクルと呼ばれるクー・フーリンさんが活躍する1世紀ごろの物語。

そしてフィニアンサイクルと呼ばれる、この方達フィオナ騎士団の活躍の物語。これが、3世紀ごろの物語とされています。

他にも残り2つの物語がありますが……そこに登場される方々はカルデアにはいませんから、今回はカットしますね」

「うぅ……ガチャ引きたい……」

「聖晶石は無駄遣いしてはいけません!」

 

と、マシュの解説を聞いたフィオナ騎士団のメンバーは全員嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「流石は我らがフィンだな!かの光の御子と並ぶほどの伝説になろうとは!」

「うむ、彼に従う我らも鼻が高い!」

「くぅーっ!やっぱりフィンは最高だぜ!」

「誉あるフィオナ騎士団……一生をフィンについていかねば!」

 

マシュとマスターは顔を見合わせた。

カルデアにいるオスカのフィン嫌いは誰もが知っていて、まさか「フィンは最高」だなんて言うとは思っていなかったのである。

さらに、ディルムッドが「一生をフィンについていく」と言う言葉も……その悲しい最後を知っている2人からすれば、なんとも言えない気分になるのであった。

 

と、浮かれるフィオナ騎士団と沈む2人の構図が出来上がる。

 

 

 

一呼吸置いて、話題を変えようとマスターはマシュにひそひそ声で話しかけた。

 

「(ねぇマシュ、ここのオスカってなんていうか、若いというか……)」

「(はい。おそらくカルデアにいるオスカさんは本人曰く『この体の時はだいたいアラサーくらいだった』らしいので、私達が今いるこの時代が黒子の事件や駆け落ち事件の前だとなると……)」

 

今、マシュとマスターの前にいるオスカは、どちらかというと背格好がモードレッドやセイバーのアルトリアといった15歳くらいの見た目になっている。

しかし、2人が見慣れているのは本人曰く『ディルムッドを看取った頃』だというのだ。

 

セイバーのアルトリアが成長したらランサーアルトリアになるように、このオスカも成長したらあの姿に……

 

「ん?なんの話をしてるんだ?」

「いやあの、なんでもないというか……ええと、オスカさんって今何歳なの?」

「オレか?……16歳だけど。なんでだよ?」

 

やはり若いのか、とマシュとマスターは再び顔を見合わせた。

細身の体は少年らしさが何処と無くあって、しかし女性らしい膨らみ……は隠しきっている。ぺったんこである。

おそらくカルデアにいるときにも装着しているインナーのおかげなのだろう。

 

「ちなみに。ディルムッドが18歳、ゴルは49歳でコナンは39歳だな。……なんだよその顔は。文句あっか?」

「いえ、教えてくださってありがとうございます!」

「なるほどー、ディルムッドさんは18歳か……」

 

ここのディルムッドはカルデアより若く、そして黒子が付いていない。

マシュとマスターは馬の上に揺られながらも、カルデアにいる2人とこの時代の2人を比べるのであった。

 

 

 

 

 

「あぁ、今日はあそこに泊めさせてもらおうぜ!」

 

あたりが真っ暗になり暫くしてから、オスカは灯の灯ったちっぽけな山小屋を指差した。

 

やっと身体を休められる、と一行はため息をついている。が、しかしそれに対して1人顔をしかめるものがいた。

 

言わずもがな、伝説を知っているマシュである。

 

「マスター、ここは……」

「どうしたの、マシュ?」

 

馬を馬小屋に止めて、さっさと山小屋に入っていってしまう騎士たち4人。その後ろを小さくなりながらもついていくマシュとマスター。

 

「(暗くなってから入る山小屋———おそらく、ディルムッドさんが恋の紋章を得ることになる伝承の場所と同じかもしれません!)」

「え、えぇー!?それって大丈夫なの!?」

「死の危機に至る事はないと思うのですが……」

 

入るべきか、ここで忠告して入らないべきか……。

しかしここに入らないとなると、魔獣が多くいる山の中での野営となってしまう。

ろくな準備もないマシュとマスターとしては、それは避けるべきであった。

 

「おい2人ともどうしたんだよ?さっさと中に入れよ。あと、そっちの魔術師の方の足も見てやるから」

「わっ!お、オスカさん……」

「どうしたんだ?遠慮はいらねーって中にいた優しいご老人が言ってくださった。入ろうぜ」

 

そうして、彼女に連れられて2人は山小屋の中へと入ってしまったのであった。

 

 

* * * *

 

 

「フォッフォッフォ、サンタ……ではなく、心優しいおじいちゃんじゃよ」

「アルテラさん(タ)ー!?」

「い、いいえ先輩!アーチャーのアルテラさんに似ていますが、多分別人です!」

 

テーブルに人数分の食事を並べてくれたのは、アルテラサンタ。

 

「キャットはキツネだワン!」

「キャットだー!?」

「先輩落ち着いてください!おそらく、キャットさんに似た猫さんです!」

「キャットはキツネであり客人をもてなすだワン!」

 

料理を作ってくれたのはタマモキャット。

 

「んで、お前が怪我をしたっていうドルイドか?全く、ドルイドのくせに怪我ひとつくらい自分で治せよな。

ほら、足見せてみろ」

「アラサーオスカちゃんが女装してる!?」

「落ち着いてください先輩!オスカさんは実は女性なんです!」

 

そして、ちゃんとした女性の服を着たオスカちゃんが出迎えてくれたのであった。

やはり胸が大きく、腰がキュッと引き締まっていて、カルデアでもトップクラスのナイスバデーである。

 

どうやら16歳のオスカはアラサーオスカちゃんのことを自分だと認識していないようで、彼女を見て鼻の下を伸ばしている騎士3人を強く睨みつけるのであった。

 

「けっ、そんなBBA(ボインボインのアマ)の何処がいいんだか」

「はっはっは、まだガキのオスカにはわからん良さだな」

「テンション上がるな!」

「オスカ、お前もあと2年すればこの良さがわかる。あぁ彼女はなんというお方なのだろうか……あの胸に抱かれて一晩過ごしたい」

 

オスカが鼻の下を伸ばしているディルムッドに殴りかかり、それを抑えるコナンとゴル。

女性を見てテンションが上がっているディルムッドを見るのは、マスターとマシュとしても新鮮であった。

 

「フォッフォッフォッ、客人らよ、クリスマスイブはたらふく食べて早く寝るがよいのじゃ」

「キャットのディナーを楽しむがよいぞ、ご客人らよ!」

「酒も用意してやったからな。好きなだけ飲んで食って、英気を養うといい」

 

そう言って、アラサーオスカちゃんそっくりの女性はみんなに酒を注いでいく。

もちろんマスターとマシュにも注ごうとしてくれたが、2人は未成年だからと本来ならこの時代にあるはずのない『クリスマスにはよく見かけるシャンメリー』を注いでもらった。流石サンタさんである。

 

そして、みんなの手に飲み物が行き渡った時であった。

 

「さぁ、各自美酒とソフトドリンクで乾杯をしようではないか。

聖夜の虹、軍神の剣(きゃんでぃすたー・ふぉとんれい)!」

「メェエエエーーー!!!」

 

アルテラサンタがシャンメリー……ではなく軍神の剣(フォトンレイ)を掲げたのである。

煙突から無数の(ツェルコ)が飛び込んできて、騎士達とマシュ、マスターをこれでもかともみくちゃにし始めたのだ!

 

「フォッフォッフォッ、ぷれぜんと・ふぉー・ゆー!」

 

キャンディと虹色、羊の鳴き声が小さな小屋の中いっぱいにもふもふになってしまう。

 

「なんだこの羊この野郎!うわっぷ!」

「くっ、迎撃……げいげ……あっやわらかい……」

「いやされるぅ……」

「もふもふ……もふもふ……」

 

強靭な羊を前に、なすすべなくやられていく屈強な騎士達!

そしてマシュとマスターも……

 

「先輩……!げいげきの指示を……しじをぉ…」

「ふぁあもふもふぅ……ツェルコさんもふもふ……」

「あぁこの感触は……またフォウさんと違ったモコモコさ……」

 

こうして騎士とカルデアの異邦人、計6名はなすすべなくもふもふにされてしまったのであった。

 

もふもふ。もふもふ。もふもふもふ……

 

 

 

 

 

 

それからどれほど皆がもふもふを楽しんだのだろうか。

しかしご飯が冷め切らないうちに、そのもふもふ体験は終了することとなったのである。

 

「コラー!キャットが叱りに来た!オコであるゆえサンタに鉄槌をー!!!」

 

キャットの宝具がアルテラサンタに炸裂する!

途端に消えていった羊の集団。残されたのは、もふもふで癒された人たちであった。

 

「キャットのご飯をそっちのけでもふるとはー!

キャットは耳毛もモッフモフ、なんなら肉球付きの方がお得なのでは!?マスター殿にはキャットの尻尾をお見舞いしてやりたいワン!?」

「はわわわわ……やめるのじゃ子猫ちゃんや。サンタにバーサーカーの攻撃は刺さるのじゃ。このプレゼントで手を打とうではないか」

「ニンジンであるか!?100ニンジンであるな!?キャットよろこびネコジャラシビーフジャーキーであるなー!?」

 

 

 

 

その後、無事にご飯を食べることができました。

 

 

 

 

* * * *

 

 

 

「おそろしい時間でした……いや本当にもふもふってすごいのですね」

「キャットが止めてくれなかったら廃人一歩手前だったよね。危ない危ない」

 

こうしてやっとご飯にありついた一行。

騎士達がお酒をべろんべろんに飲んでいる中で、ジュースを飲みながらもマシュとマスターは話し合っていた。

 

「先ほどの出来事も……まぁ概ね、伝承通りといえば伝承通りでしたね」

「そうなの?伝承でももふもふになってるの?」

「いえ、そういうわけではありませんが……」

 

 

———山小屋についた騎士の4人を待ち受けていたのは、老人と娘、そして羊と猫であった。

 

老人は食事を用意して歓迎するも、いざ騎士が椅子に座ると羊が暴れ始めたのだ。

そんな無礼な羊に腹を立てた騎士達4人は、羊を捕まえようとする。しかし、いくら腕っ節の強い騎士が4人がかりで捕まえようとしても、羊は逃げ惑い嘲るように鳴き始め、いよいよ捕まえられなかったのだ———

 

 

「腕自慢だった4人はそれはそれは落ち込んでしまいます。

しかし、老人が猫を呼ぶと、その猫は二足の足で立ち上がり羊に首輪をかけて、羊小屋へと繋いでしまうのです。」

「あぁ、じゃあその猫がキャットだったのかな」

「おそらく、そういうことなのでしょう。

そして猫に負けたと落ち込む4人に対して、老人はこう言うのです」

 

 

———羊は『生きる力と世界』の別の姿であり、そしてそれを従える猫は『死』の別の姿である。

 

 

「羊が生きる力の象徴で、猫が死の力の象徴?」

「今ここにいる4人はフィオナ騎士団でもトップクラスの腕の持ち主です。力に奢りかけている彼らを諌めるための、ドルイドの策だったのではないでしょうか?」

「ふーん……なんというか、わかりにくいね?」

「そうですね。しかし、神話ってそういうものですから」

 

しかし、まだ話は終わらなくてですね———と、話を続けようとしたマシュが言葉を切り上げる。

それは、突如として酔っ払ったゴルが立ち上がったからである。

 

「美しいボインボインのご婦人よ!!!!」

 

ゴルは、アラサーのオスカちゃん(女装)を指差して大声を出していた。

突然のことにびっくりするマスターとマシュだが、そんなことは構わずにキョトンとしているアラサーオスカちゃん(女装)に対して言葉を続けていく。

 

「(えっボインボインのご婦人って、アラサーオスカちゃんのこと?え?)」

「(ダメです先輩、多分今は黙っているタイミングです)」

 

「———そなたは、大変魅力的なボディをしている!!!その艶かしい胸元と腰つきに、当方の下半身大変ビビビッとくる!キテる!!!!!

故に、当方は貴殿と今宵のベッドを共にしたいです!!!!!」

 

うわぁ、というのがマシュとマスターの感想であった。

 

「(なんだろう、フェルグス叔父貴の5倍酷い……)」

「(そ、それはフェルグスさんにもゴルさんにも不名誉といいますか……)」

 

「お願いします!!!!!」

「え、遠慮する……」

「フラれたーーーー!!!!!!!!」

 

当たり前だろう。

その場にいる全員の心が一致した。

 

フラれた瞬間に床に倒れこんだゴルは、ぐーぐーと寝息を立て始めた。多分、酒に酔いすぎた勢いの蛮行なのだろう。

常日頃の彼がこんな人だと思いたくない。

 

すぐさま床に倒れたゴルはキャットが回収し、1人寂しくベッドに寝かされたのであった。

 

 

 

 

 

さて、と次は突然コナンが立ち上がる。

 

「ボインボインのご婦人よ!!!!!」

 

コナンも酔っているのか、ゴルと同じことを言い出した。

 

「吾輩の下半身をこんなに滾らせてくるボインボインめ!!!顔も可愛いし仕草もいいし尻でかいし匂いもいいしーーーッ!!!!好きーーー!!!!今夜1発だけでもお願いします!!!!!」

「遠慮します」

「フラれたーーーーー!!!!!!」

 

コナンも即就寝した。

 

 

 

 

「え、えぇと、マスター。」

「ナニコレ?」

「平常心を保ってくださいマスター、おそらく伝承の通りでしょう。」

 

ゴルは厚かましく。

コナンは馬鹿にしたように。

そして、オスカは横暴に。

それぞれ美女に告白をし、玉砕するのです。

 

「え、ケルト人の告白って酷くない?ゴルさんもコナンさんも、ドン引きなんだけど」

「ま、マスター、もう少しオブラートにですね……」

 

 

 

と、次に手を上げたのはオスカであった。

彼女は椅子をひっくり返す勢いで立ち上がると、アラサーオスカちゃんの胸ぐらを掴……身長が足りずに、下から見上げるだけにするようだ。

 

「オスカさん大丈夫かな?凄い酔ってるみたいだよ?」

「ま、まぁ彼女の恋愛の対象は1人だけですし、告白はしないと思うのですが……」

 

オスカは、アラサーオスカちゃんにガンつけながらも叫ぶ。

 

「テメェこの野郎、ディルムッドを誘惑しやがって!!!!!!なんだこの……なんだこれ!?こんなん見たことねぇぞ!?

ディルムッドはここばっかり……こ、こんなっ……こういうのじゃないとっ……グスッ、ウワーーーーン男の馬鹿ーーーーー!!!!!」

 

嫉妬か。

 

「あー、オスカさんと言ったか?その……大丈夫。あと10年もすれば成長するから。な?」

「うるせー!その乳寄越せ!!もぐぞこのやろう!!!」

「いだだだぁっ!引っ張るな引っ張らないで痛い千切れる!!!」

「うわぁぁあんっ!ディルもディルだぞ畜生めーー!!!なんだよ乳ばっかり!乳ばっかり!!!!!!」

 

言いたいことを言い終えたのか、疲れて力が果ててしまったのか。

それだけ言い残して、オスカもまた床の上に倒れこんで寝息を上げ始めてしまった。

 

そんなオスカを回収しようとするキャットを止めて、アラサーオスカは彼女の体になにかのルーンを刻み込む。

チラリとマシュの方を見たアラサーオスカは「お前には必要ないな」といって微笑んだのであった。

 

 

 

「よし……お前達の仇はオレが取ろう!フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド!!」

「なんでだろうマシュ、私これ見たくない予感がする」

「私も同感です。しかし……これがディルムッドさんの黒子のルーツですから。しっかり見てあげましょう。ね?」

 

今のディルムッドは、普段の女性怖いといっている姿からかけ離れていた。

……というのも、この事件があったからこそディルムッドの女性嫌いが生まれたのだから、その前は女好きでもおかしくはないのだ。

 

「ボインボインで魅力的な身体をしたご婦人よ!!!!!!」

「やっぱりそれから始めるんですね」

「ドン引きだよディルムッド」

 

酒に酔っているディルムッドはそんな言葉が聞こえてきても気にせず、思いの丈を伝えるのだ。

 

「オレは童貞だ!!!!!!!」

「は、はぁ……」

「オレは女性の身体というモノは知らない!!!!穴があるとは聞いたがケツと何が違うかわかっていない!!!!!身近には男しかおらず、女体というものにはとんと縁がない生活を送ってきた!!!!!」

 

このセリフを美丈夫な男が叫んでいるのだから、(ケルト)も末である。

 

「ここで貴方のような美しくて仕草も可愛らしくてボインボインでキュッとしててボインボインな女性に会えたのも運命に違いない!!!!!」

「遠慮します」

「フラれ……っいや、まだだ!!!!!」

 

ゴルやコナン、オスカのように倒れそうになったディルムッド。しかし、彼はその場で食いしばって態勢を治したのだ!

 

もうやめろよ、とマスターとマシュは俯いた。

 

「ボインボインのご婦人よ、名前は?」

「……ユフだ」

「ではユフ様よ、哀れな童貞のオレに一度だけでも!!!!一度だけでいいから女体というものを教えてくださいお願いします!!!!!」

「遠慮します」

 

もう見ていられなかった。

マスターもマシュも、いつもは冷静で清く正しい騎士であり続けるディルムッドのこんな姿は見たくなかった。

 

しかし、ディルムッドはまだ食い下がるのだ。

 

「お願いします!!!!初めてを貴方で卒業したいのです!!!!!オレは女性と会話することすら珍しいのです!!!!お願いします!!!!」

「いや、ほんと困るっつーの……」

 

もはや土下座の勢いである。

しかしユフはディルムッドのそんな哀れな姿を見ても首を縦には振らなかった。

……当たり前である。

 

「しかし、お前が童貞を卒業したい気持ちはよく伝わった。男でもここまでの童貞力を持つ人は珍しい。……故に、私はお前に施しを与えよう」

「それは……?」

 

するりと、ユフがディルムッドの目元に唇を近付ける。

 

そしてキスをひとつ。

ちゅう、と甘い音がしてから溶けて消えたユフと、残されたのは呆然としているディルムッドのみ。

 

こうして、ディルムッドは愛の黒子の呪いを授かったのであった。マシュとマスターは、こんな情けない姿の騎士を見たくはなかった。

 

 

 

 

* * * *

 

 

気がついたらそこは、カルデアの食堂でした。

 

「あれっ……ここは?」

「ま、マスター……」

 

どうやらマシュも突然戻ってきたことにびっくりしているようだ。

しかしこの場にいるサーヴァントの誰1人として、突如現れたマシュとマスターに気がつくものはいなかった。

 

まるで、ずっとそこにいたかのような空気。

 

「あ、あはは……なんだか、へんな体験したね。マシュ」

「そうですね、先輩」

 

そして、椅子に座っているとやってきたのはタマモキャットである。

彼女の手には2つの、クリスマスのご馳走が乗っているのであった。

 

「お待ちどうなのだ!キャット渾身のご馳走であるがゆえアツアツホクホクで食べるが良いぞ!

……しかしクリスマスとは随分と季節外れなのでは?」

 

目の前に置かれたそれはずいぶんな量があって、マスターとマシュは眉を困らせてしまう。

そして。

 

「……ごめんタマモ、さっきこれと同じ料理食べたからお腹いっぱいで……食べれないや」

「申し訳ございません、少しおかしな事情がありまして……」

 

と、2人が断ろうとするとみるみるうちに耳が垂れて尻尾も力をなくしていくタマモキャット。

きっとこの料理も彼女が作ったのだろう。

 

「そんな、そんなご主人よ、タマモの手料理はおいしくないのか?」

「いやいやいや、そういうわけじゃないんだけどな!?」

「そうですタマモさん、美味しいんですけれど、お腹がいっぱいで!」

「ごっごごごしゅじん……うぅっ……たまも、ごはんんん……これではタマモはダンボール行きであるか!?拾ってくださいにゃあにゃあと泣くばかりの哀れなキャットであるか!?」

 

と、ついには泣き始めてしまったタマモに、2人は困って顔を見合わせた。

 

そんな時に、後ろから腕がにゅっと伸びてくる。彼らは骨つき肉をマスターの背後から持っていくと、パクリとひとくち食べたのであった。

 

「お、うまいじゃねえかこれ。もらっちゃダメか?」

「みっともない真似をしてしまい失礼しました、マスター。しかしどうにも困られている様子。」

「オスカ!ディルムッド!」

 

チキンをマスターとマシュから奪ったのは、先ほどまで一緒にいたケルトの2人であった。

 

これ幸いと言わんばかりに、マスターは2人に声をかける。

 

「じゃあ、ディルムッドとオスカも少し食べてくれる?1人じゃ食べきれないけど、せっかくタマモの作ってくれた料理だからさ」

「承知致しました、マスター」

「ラッキー!マシュからも、もらっていいか?」

「は、はい!もちろんです!私も、1人でこの量を食べれないと思っていたので……っ!」

 

 

そうして、オスカとディルムッドはマシュとマスターの正面に座りなおして、4人で季節外れのクリスマスディナーを食べるのであった。

 

「そういえば、恋の紋章を得た時もこれと似たご馳走だったな。覚えているか?オスカ」

「覚えてるに決まってるじゃねーか。……あんまいい思い出じゃねーけど、飯がうまかったのはよーく覚えてるぜ」

「こうして思い返すと、やはりユフはとても美しかったな。また再び彼女のような美しい女性が現れないだろうか」

「……ま、カルデアにいればいつか、もしかしたら会えるかもな。うん。気が向いたら」

 

 

 

目の前のやり取りの口直しに、マシュとマスターの2人はシャンメリーをごくりと飲み込むのであった。

シャンメリーは、それはそれは甘かったとさ。

 

 

* * * *

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