フィオナ騎士団の騎士オスカ(女)   作:芥目たぬき

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fate/zero
受肉


* * * *

 

 

是は、血で血を流す争いである。

あれから幾度の年が回ったのだろうか。こうして、ただ生きて呼吸をしている事は果たして正解なのだろうか。

時代は変わり人は変わる。ただ、人から覚えられない自身のみが変わらない。

 

60年前から、ずっと……

 

 

 

 

 

 

 

遠坂時臣はその日、珍しく自身の魔術工房から外に出ていた。

 

……というのも、今日がかの英雄王の触媒『この世で最初に脱皮した蛇の抜け殻の化石』が手に渡る日だからだ。

夕日の眩しい、冬木が一望出来る場所で静かに待ち続ける。一番星が煌めくのを視界にいれながら、時臣はその時を今か今かと待ち望んでいた。

 

そして、突如として背後から話しかけられる。

 

「時計塔から連絡は届いているな?……なに、これがそのブツさ。帰る道すがら気をつけるんだな」

 

時計塔が安全を配慮して選んだ、運び屋の男。

フルフェイスのヘルメットを装着した男は、その箱を時臣に押し付けたのであった。

 

……ここに、あの『蛇の抜け殻の化石』が入っているとは。

 

「約束の金は振り込んでもらったからな。……精々、頑張れよ」

「ふん、言われずとも」

 

 

心の中で、金にがめついハイエナが。と、時臣は口汚く罵った。

この触媒を手に入れるのに、そして時計塔から運ぶのにどれだけの財を割いたと思っているのか。そのうちの数パーセントしかこの男の懐に入っていなかったとしても、やはり気分がいいものではないのだ。

 

遠坂家は宝石魔術を用いる一族である。そのため、何をするにもまず高価で質の良い宝石を手に入れなくてはならないのだ。

いくら湧くほどの金があると言っても、この聖杯戦争の準備だけにどれだけの出費をしたことか……

 

「(いけない……優雅たれだ、遠坂時臣。)」

 

どうでもいいことを思考する余裕はない。

去っていく運び屋の男の背後を眺めながら、今後のことを考え静かにその場に佇むのであった。

 

 

 

 

 

———時臣は知らない。

彼が、60年前の聖杯戦争の唯一の勝者であるということを。

誰一人として勝者がいなかったとされる戦いで、願わずして叶えられてしまった者であるということを。

 

フィオナ騎士団 オスカ。

彼女こそが、第三次聖杯戦争において最優のセイバーとして召喚されたサーヴァントである。

 

 

 

* * * *

 

 

 

運び屋として運んだあの箱。

中には、サーヴァントを呼び出すための触媒が用意されているらしい。

 

……なるほど、もうすぐ次の聖杯戦争が始まるのかと、1人オスカは安酒を飲みながらも夜道を歩いていた。

冬木から遠く離れた、関東の都心。そこのウィークリーマンションが今の住まいだ。

ほぼほぼ普通の人間と同じように暮らしているといっても過言ではない。

 

……あえて言うなら、かなりの頻度で引越しを行わなくてはならないのが普通の人間と違うところか。

受肉して以来、肉体的な成長が一切ないのだから、それもまた仕方がないのだが……しかし厄介な性質(スキル)を持ったものだ。

 

玄関の鍵を開けて中に入る。冬が近づいてきたこの季節、オスカはシンプルな男物の上着をハンガーにかけたのであった。

いつものように文明の機器、テレビをつけながらビールの缶を開ける。

 

 

 

ニュースでは、先日行ったばかりの冬木が映されていた。

 

「———続いては次のニュースです。またしても、冬木で一家惨殺事件が起こりました。警察では先日10日にあった事件と深く関係があるとみて調査を進めており……」

 

一家惨殺事件。その言葉に正しい騎士としての自分の心がズキンと痛む。

 

もし仮にここがかつてのエリンならば、フィオナ騎士団としてすぐさま事件の起きた街へ赴き、犯人をたちまち捕まえていたことだろう。

しかし、今は受肉したサーヴァントである。

現代では神秘は秘匿するもの。あまり表立った動きをしてはならないと厳命されている。

 

心の底で引っかかりを感じながらも、オスカは心の底から警察にエールを送った。早く捕まえて、市民の不安を解消してやって欲しいと。

———仕方がないことなのだ。現代の事件に過去の遺物が首を突っ込むなど、あってはならないのだから。

きっと英雄としては間違った選択だが、自身はサーヴァントでもある。それを違えてはいけないと、心に強く命じるのであった。

 

 

 

———まだモヤモヤするものの、気を取り直して。

適当に冷蔵庫から肉や野菜を取り出して、一口大に切ってから雑に炒め始める。日本で生活して早50年近く。醤油をかければなんでも美味いと言う事は、よくよく知っていた。

 

料理を作りながらも発泡酒をゴクゴクと飲み続ける。野菜がしんなりして肉に火が通ったら醤油を回し入れて完成。

そのまま鍋敷きの上にそれを置き、皿にも移し替えずそのまま箸を入れて食べ始めるのだ。うん、酒とよくあう味である。

 

フライパンから直で食べるのを咎める女房も、ましてや料理を作ってくれるような嫁もいない。そのために、オスカはこの食べ方に慣れ切ってしまったのだ。

おそらく今のオスカを見たら、彼女は怒り狂うのだろう。目に見えている。

 

この時代の酒というのはケルトの酒よりもずっとアルコール度数が高く、それでいて美味い。

そこまで裕福ではない一人暮らしのオスカは、発泡酒で気分良く酔える人間であった。

 

 

 

「———この二回に渡って起きた事件では犯人は魔法陣のようなものを描いているらしく……」

 

テレビのニュースではまだ惨殺事件について取り上げられている。

ぼんやりとニュースを見ながら食事をしていたオスカだが、その一言には一瞬だけピクリと体を動かした。

 

「(魔法陣……?)」

 

冬木・聖杯戦争の時期・魔法陣。

その言葉がくっついて、嫌な予感が感じられる。

 

だがそれは万が一にもあり得ない、と思った。

なぜなら魔術は秘匿されるもの。そして秘匿されなければすぐに魔術協会やらが動いて粛清されてしまうのだ。

 

仮にこの犯人が魔術の全くの素人で、形だけ魔術の真似をしているというのであれば警察の仕事となるが、しかしどうにも引っかかる。

なんだこの、モヤっとした感じは……

 

 

 

 

 

———と、考えている時であった。

寒空の下、窓の外からコンコンという音が聞こえる。

ふいとそちらを向けば、いつものように白鳩がパクパクと口を開閉させて、無機質な目でこちらをじっと見ていた。

 

相変わらず、趣味が悪い。

 

まぁとりあえずは『仕事』だと、オスカは窓を開いた。すると、バサバサと遠慮なしに部屋の中に飛び込んでくる鳩。

そしてあたりを見渡してから、パカっと口を開けた。

 

フユキ(冬木) ニテ(にて) シンピヲボウトクスル(神秘を冒涜する) ムチノ(無知の) マジュツシヲ(魔術師を) ショブンサレタシ(処分されたし)

ホウシュウ 1,000,000 エン! ホウシュウ ヒャクマンエン!』

 

 

 

———あぁ、やっぱりか。

そう思ったのも仕方がないだろう。

 

オスカは早速、冬木のウィークリーマンションを物色するために慣れないインターネットを開いたのであった。

 

 

* * * *

 

 

引っ越しも慣れたものである。

オスカは早速、冬木市の新都にあるウィークリーマンションを借りていた。

昔に比べて随分と様変わりをしているものの、愛車で冬木をグルリと回れば変わっていないものも確認できる。

 

かつてのランサー達のマスター、双子の拠点となっていた双子館。

協会、間桐家、遠坂家。

そして古い武家屋敷も残っている土地。

 

「……意外と変わってねぇもんだな」

 

そして、件の惨殺事件があった場所も見て回ったオスカ。

場所に規則性などなく、あえていうなら『夜ちょっとばかり人通りが少ないだろう通りにある家』を狙っているといったところか。

 

……狙われるのは若い女性、そして子供のいる家庭。

少し前までは女性が狙われていたが、最近では子供も狙っているということか?

この連続惨殺事件も、最近唐突に起こったということと、県を超えて行われているため、警察は追いきれていないのだろう。

 

夜道の警備をしてみるか、と思いながらその場を後にする。

 

 

 

 

さて。とりあえずは今日の活動を切り上げたオスカ。

ショッピングモールに行って、引っ越しの際に捨ててきたものを買い足さなくてはならない。

もっというと昼食は美味しいものを食べたい。ショッピングモールなら色々とレストランが出ていることは知っていた。

 

 

……と、バイクを走らせていると街中で知った顔を見かける。それも、60年前の知り合いだ。

忘れもしない。アレは……

 

「(アヴェンジャーのマスター?……いや、でもアイツは死んだはず。じゃあ彼女は一体……)」

 

ちょうど赤信号で止まったため視線をほんの少しだけそちらに向ける。顔はフルフェイスのヘルメットで覆っているし、隣にいるサーヴァントもこちらがマスターを見ているなどと思っていないだろう。

 

アヴェンジャーのマスターが従えているのは金色の女男だ。真面目そうな面をしていて、あたりを警戒しながらも騎士らしくエスコートしている。

 

おそらく、前回のアヴェンジャーと違って名のある騎士なのだろう。

あの時はすぐに敗退していたのだ。今回は有名どころを召喚していてもおかしくはない。

 

なるほど。———強そうだ。

 

と、そこまで考えたところで目の前の信号が青に変わったのでエンジンをふかす。

50年近く味わっていなかった強者との遭遇。

オスカは高揚感を覚えながら、愛車を走らせるのであった。

 

 

 

 

 

「———」

「どうしたの、セイバー?」

「いえ、今……なんでもありません」

 

 

* * * *

 

 

 

 

夜。

 

オスカが昼に目星をつけた場所をバイクで回っていると、微かな血の臭いが鼻についた。

普通の人間なら感じ取れないだろうそれは、しかし慣れたものならわかるそれである。

 

———早速、当たったか。

 

おそらくこの様子では犠牲は出ているかもしれない。オスカは急いで、臭いの元を辿り始めたのであった。

 

 

 

オスカが辿り着いたのは、なんの変哲も無い家であった。

微かに感じられる血の匂いと、くぐもったような泣き声。そして感じられる物音。

 

……バイクから降りたオスカは現代服から鎧へと姿を変えると、壊・虹霓剣(ゲル・ナ・グコラン)を構えて一息。

きっとここにホシはいるだろうし、仮にいなかったとしても血の匂いと泣き声を聞いて助けないなど騎士の名折れである。

 

鬼が出るか蛇が出るか、素人の魔術師か魔術師の素人か。

ドアを蹴り破り飛び込む———そこには。

 

 

 

 

 

「たっ……たすけっ」

 

こちらに手を伸ばす子供と、そしてその後ろに立っているのは、紫色のコートを着たサーヴァント、赤茶色の髪色をした優男。

奥からは濃厚な血の匂いがむわりと立ち込めており、子供の後ろからは冒涜的な青紫の触手が迫ってきている。

 

すぐさま剣を振り上げたオスカ。

子供の顔が恐怖に固まるが、そんなのは御構い無しだ。すぐさま子供の後ろに回り込み、触手の全てを切り落とした。

 

「気が早いサーヴァントがいたものですねぇ。まだこちらも準備が出来ていないのですが……仕方ありませんね。

我が涜神の宴へようこそ……さて、いきますよ」

 

呆然としている子供を背に、オスカは剣を構えてサーヴァントを睨みつける。

そして———

 

「ガキ、走れ!逃げろ!」

「う、う、ぁあああああ!」

 

敵サーヴァントまでおよそ5mもない、オスカが跳躍すればすぐだ。

その首を掻っ切って、マスターを無力化する。それだけを考えて、オスカは剣を最速で振り下ろした。……のだが。

 

「貴様、キャスターか!」

「ご名答。……そういう貴方はセイバーですね」

 

切った。そう思ったのはどうやらキャスターの召喚したバケモノのようだ。

青黒い血のようなものが吹き散らかされ、そして右のほうからキャスターの声が聞こえる。

 

再度振りかぶって斬りつけようとするものの……この狭い家の中、壁に剣が当たって思うように扱えない。

チッ、と舌打ちひとつ。構えを変えて、キャスターに剣先を向けた。

 

「貴方のような大剣使いが、この狭い場所で勝てるとでも?」

「ハン、魔術工房も準備できてない三下のキャスターが!オレに勝てるわけッねェだろ!」

 

魔力を流せばギュルギュルと回転する、我が壊・虹霓剣(ゲル・ナ・グコラン)。その勢いはもはやドリルやチェーンソーに近いと言っても良い。

 

狭い家の中だと剣の振り回しに不自由を感じる。ならば家を破壊すれば良い。

剣の振り回しに邪魔な壁ごと、キャスターの頭をぶっ潰そうとした。

 

その時であった。

 

「———ウワァァァアーー!!!!!!」

 

先ほどの子供の声だ。

……ちらりと外を見れば、外には大量のバケモノがうじゃうじゃと湧いて、子供を囲んでいる。

 

……こいつ!?

 

「おやぁ?余所見をしている場合ではないでしょう」

「んなっ……グッァア!?」

 

バケモノがオスカの首を掴んでいた。

いや、……囲まれている。部屋の至る所、そこら中にひしめく大量のバケモノ。

 

———なるほど、場所が悪い。そして状況もだ。

 

本来ならキャスター程度、倒しきれたかもしれない。だが思った以上にこの英霊の召喚するバケモノはコスパがいいらしく、自身も召喚されたばかりだというのにバケモノを召喚しまくっている。

およそ目視で30匹ほど。ちらりとキャスターのマスターらしき男を見れば、魔力不足で床に倒れ込んでいた。

 

———マスターを気遣わずにここまで好き勝手するとは、酷いサーヴァントだ。生前はおそらく悪名だけを轟かせていた外道なサーヴァントなのだろう。

 

このまま戦い続けるとなれば勝てるはず。

しかし今は子供が人質に取られていて、さらにもうすぐ朝がやってくる。

……自分にとっても、状況はかなり不利だ。

 

仕方ない、ここは。

 

「チィッ……テメェ、覚えとけよ!」

「逃がしませんよ」

 

首にへばりついていたバケモノを振りほどくと、オレは一目散に玄関へと走り抜けた。

しかし廊下には、バケモノが壁のように連なって、道を閉ざしている。

 

後ろから迫り来る触手。前には分厚い肉壁。

キャスターが勝ち誇るように嘲笑しているのが腹立たしい……が!

 

壊・虹霓剣(ゲル・ナ・グコラン)!!!」

 

螺旋する折れた大剣を前に突き出し、そのまま掘り出すように肉壁を粉砕して外に飛び出る。

後ろから迫り来る触手などは気にもとめず、ただまっすぐ子供に向かって駆け抜けた。

 

「……ッ!ひっ……ぐっ……」

 

そして、やっと出た家の外。朝日がじわじわと登り始めている群青色の空の下。

 

そこでは、子供が四肢を触手にそれぞれ引っ張られてじわじわといたぶられていた。関節が抜け、今にも肉が千切れそうなのだろう。絶叫すらままならない状態の少年だ。

 

なんて、なんて酷いことを。

 

オスカはすぐさま少年を拘束する触手を叩き切り、少年を抱きあげると、乗ってきたバイクに飛び乗った。

 

「生きてるか!?生きてるな、僥倖!」

「あっあっあ、ううううう!!」

「掴まれ、男なら泣くんじゃねぇ!!!」

 

ぶらぶらになった四肢は力なく、ただただ泣きじゃくるばかりの少年。

バイクのエンジンを思い切りふかして、一気にスピードをかける。ぐん、と後ろにGがかかるのを感じつつも、思い切り力を込めてバケモノの上を飛び上がったのであった。

 

無理矢理の魔力放出と騎乗スキルを発揮してバケモノの大群の上を飛び越えていく。その真後ろからやってきていた触手も振りほどき、公道を150kmオーバーで走り抜けたのであった。

 

 

 

 

 

 

泣きじゃくる少年の頭を抱きしめながら、大通りを走り抜ける。

一晩で随分な目にあったのだろう。ちらりと見えたリビングは臓物と血が壁に塗りたくられていた。元は人間だったものが2体、倒れていたのだ。

 

目の前で親が殺され、自身も殺されかけた。

こんなに幼いというのに憐れだと思って、再度オスカは少年の頭を強く抱きしめたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「———すまん、言峰。今からそちらに向かうが……失敗した」

 

 

 

 

 

* * * *

 




セイバー オスカ

身長:170cm
属性/特性:秩序・中庸・地・愛する者
コマンドカード:BBAQQ

宝具
壊・虹霓剣(ゲル・ナ・グコラン)(Buster)
オスカが持つとされる宝具で、折れたカラドボルグ。
デイシーの王アンガスからの貰い物。
フェルグス・マック・ロイのカラドボルグと同一。

折れているのでリーチは短いものの、対軍宝具としての価値を持っている。
真の虹霓(こうげい)には程遠いが、これもまた彼女から見える虹霓なのだろう。
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