フィオナ騎士団の騎士オスカ(女)   作:芥目たぬき

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教会にて

 

 

言峰璃正がため息をついても、これは仕方がないだろう。オスカは居心地が悪そうに視線を彷徨わせた。

 

 

 

彼とは60年前からの付き合いで、一時は彼のもとで保護を受けた身でもある。かつては敵にもなり、そして最終的に世話になった相手だ。

オスカとしては『信用出来ないが悪いやつではない』『ビジネスライクで行きたい』相手である。

 

先ほどの子供の手当てをし寝かせてきた璃正は、咎めるようにオスカを見下ろした。

 

「例の不届き者がキャスターを召喚、それにより聖杯戦争は開始、か……」

「サーヴァントを召喚する前にとっ捕まえておけば……いや、言っても仕方ないか」

 

最善はサーヴァントを召喚する前に処理することだっただろう。そうすれば聖杯は『真に正しい魔術師をマスターに選び』、戦争は正しく稼働する予定だったはず。

 

言峰璃正の仕事はただひとつ。

監督役として、正しい聖杯戦争を執り行うことにある。

その中でこの一連の事件は、度し難いものであった。

 

「アンタが求める正しい聖杯戦争の道から外れちまったな」

 

聖杯戦争をめちゃくちゃにしそうな、神秘の秘匿すら知らないような素人が参戦となると困るのだ。

神秘の秘匿もまた監督役の勤め。その風紀を乱すようなら、たとえマスターであろうと処理しなくてはならない。

 

———となると、ここからは聖杯戦争の参加者として奴等を処理したほうがいいのかもしれないのだが……さて。

 

「で、どうするんだよ。これより先は手だしすんなってか?」

「いや、」

 

璃正は考える。

 

最善としては聖杯戦争で一番に狙われ脱落してくれればいい……が、それは高望みというものだ。

 

方法の1つとして、正規の聖杯戦争の参加者であり自分が最も信頼できる遠坂時臣の顔が浮かぶ———しかし、その考えはすぐに棄却した。

 

最強であるだろうアーチャー(遠坂)陣営は、肝心のサーヴァントを下ろしきれていない。時臣は最後まで勝ち抜くことは出来るだろうが、他のサーヴァントを自ら倒しに行くようなことはしないだろう。

サーヴァントが動かないなら、時臣に頼み込んでも無駄という事。令呪を用いれば可能だろうが……早々に考えを破棄する。

 

ではセオリー通り、聖杯戦争を見守って他の陣営任せというのも考えるが———それもまた妙案ではない。棄却する。

この問題は早期に片付けなくてはならない事である。最初に脱落するのがキャスター陣営であればいいものの、鼠のようにコソコソとされたら最後の方まで生き残ってしまう可能性はかなり高い。

その場合の被害を考えると———大変な事になる。

 

では、全ての陣営にキャスターを最初に狙うようにと通告するか……?

それもまたダメだ。本来ならそれは教会(言峰璃生)の仕事であり、それを依頼するなら報酬を請われるに違いない。

誰もいうことを聞かないだろうし、キャスター陣営を無駄に警戒させる事になるだろう。

 

 

と、なるとやはり。

 

「よし、任務は続行し不届き者を粛清せよ。尚、サーヴァントは殺しても殺さなくても良い……そして、出来る限り他サーヴァントに存在を知られぬように」

 

承知した、その言葉だけを放ってオスカは立ち上がる。

やるべきは単純だ。キャスター陣営を潰す、それだけである。

 

———オスカとしては、あのマスターは警察に引き渡すべきだと思ったが仕方ない。

聖杯戦争に参加し、璃正がそのような判断を下した時点で彼の『一般人としての処罰』は無くなってしまったのだ。もはや、『ひとりの魔術師』として殺されねばなるまい。

 

今までの惨殺は現代日本人として処理されるべきだったが……サーヴァントを召喚してしまった以上、考えても仕方のないことである。

 

「マスターを殺すとなりゃ、いくら外道でもサーヴァントが黙ってねぇさ。罪なき子を嬲り殺そうとする奴だ、あのキャスターは俺がみっちり殺してやるよ。

しかし……いいのかよ。聖杯戦争の参加者にオレみたいな部外者(イレギュラー)が手出ししても?」

 

渋い顔のまま、璃正は答えた。

 

「それ以上に、キャスター陣営のような存在をのさぼらせる訳にはいかない。冬木のためにも、聖杯のためにも。早々に退場してもらわねばなるまい。」

「フン。まぁいいぜ、そこらへんは聖杯戦争の監督役の考えに準じて動いてやろう。……金も貰ってるしな」

 

「セイバー」

「ンだよ?」

 

教会から出て行こうとするオスカを引き止めた璃正。

言うか言わざるか迷って———それから、彼は気を引き締めて言葉を出した。

 

「お前はもう聖杯戦争から切り離された存在だからな」

「わーってる」

 

今度こそ出て行くオスカの背中を見送る璃正。その背中はこれからの戦いを楽しもうとする、戦士の背中であった。

 

「……ほんとにわかっているのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教会に子供は置いてきた。おそらく璃正がうまくやってくれるだろう。

今後の彼のことが不安だが……しかしうだうだと考えても仕方がないことである。なにせ彼とオスカの人生はこれきりの接点でなければならないのだから。

 

 

 

フルフェイスのヘルメットを被ったオスカは、教会前に止めておいたバイクへと向かって歩く……が。

突然その場に立ち止まり、何もない空間に向けて声を出していた。

 

「言っておくが———オレは監督役・言峰璃正より依頼され『聖杯戦争における、魔術の神秘の秘匿』に関して任されたものだ。

敵対ないし、詮索するようなら———容赦はしない。」

 

そういって右手を見せるように佇むこと、10秒。その間、なんの物音もしなかったため、オスカはため息をこぼした。

 

「全く難儀だな……っと」

 

3.4個石を拾い、力を込めて近くの木へと投擲を行う。力を込めたそれは一直線に目的を破壊。

ひしゃげたような鳴き声が一瞬聞こえ、それから動物が地面へと落下した。

 

「悪いな。詮索されるのは趣味じゃねぇ」

 

続いて投擲を繰り返す。機械が割れるような音を立てて落下し、ぐちゃりと何かが潰れる音、そして再度動物が悲鳴をあげて地面へと落ちていった。

 

……これで全てか?よし。

 

「悪いな。……まぁ、教会を見張るんならまた新しく新調しておいてくれ。くれぐれも、オレを狙うなよ?」

 

フルフェイス越しにそちらを睨みつけてから、オスカはバイクに跨ってエンジンをふかした。その場を颯爽と去れば、残されるのは使い物にならなくなった聖杯戦争参加者の使い魔のみ。

 

———様子を見ていた時計塔の魔術師が舌打ちし、蟲を扱う翁が面白くなさそうに顔をしかめ、そして魔術師殺しがため息をついた。

使い魔ないしカメラも、ただではないのだから。

 

 

 

* * * *

 

 

「どういうことですか?」

「アレは無害です」

 

一方、オスカが教会から出て行った後、すぐさま遠坂時臣は璃正に連絡を取っていた。

 

璃正の目の前では使い魔の1匹、腹に宝石を取り込んだリスが人間の言葉を発している。

それに対して、璃正はしかめっ面で答えていた。

 

「最初は貴方の選んだ時計塔の運び屋かと思いましたが……アレは貴方の子飼いの魔術師、いや、あんなのは魔術師ではない。

一体、誰なんですか!?」

 

怒声をあげる時臣に対して、あくまでも冷静に、言葉を返す。

 

「聖杯戦争とは無関係だから、余計な気を持たせるのも良くないと思っていたが……さて、時臣君が知る必要は無い事ですが?」

「だが、彼にキャスター陣営の粛清を依頼したのでしょう?ならば私は、今後の作戦のためにも知る必要があります」

 

———それもそうだろう。

魔術師にとって不測の事態は出来る限り回避したいものであり、『サーヴァントであるキャスターを1人単身で相手取ることが出来る人物』がこの冬木にいる事自体が、遠坂時臣にとって好ましく無い事態なのかもしれない。

 

別段、隠そうとしていたわけではない。

しかし話す必要もないと、放っておいたが……

 

「まぁ、相手は時臣君だ。隠し立てするような事でもないでしょう」

 

彼、いや彼女の正体は、前回の第三次聖杯戦争の生き残り。

ユグドミレニアの召喚した、セイバーのサーヴァント。

大聖杯に触れ、受肉した———

 

「フィオナ騎士団のオスカ、それが彼女だ」

「60年前の、生き残り……だと!?しかし……」

「第三次聖杯戦争において『勝者はいなかった』———しかし、勝利と願いの受理は別だったのです。」

 

その10年後、死にかけていたオスカを拾った璃正は死なせまいと看病をし、彼女が生きていけるだけの金と、コネで作った身分証などを渡したのだ。

出て行く彼女の背中を見送ったのは、今でも覚えている。

 

今でも年に何回か、璃正からオスカには連絡を入れている。それは魔術的な依頼であったり、適当な使いっ走りであったりと様々だが……とにかく、『オスカの唯一の収入源は言峰璃正からの依頼』なのだ。

 

璃正としても常人離れしたサーヴァントを扱えるのに、大変便利を感じている。

対してオスカが生活費を稼ぐには、璃正からの仕事の依頼を受けなくてはならない。即ち、win-winの関係なのだろう。

 

「わかってくれましたかね?彼女はキャスターを討伐した後に、速やかにこの冬木から離れるよう手筈を整えてありますよ」

「……冬木に滞在することはないのですか?それこそ、元は聖杯を求めて召喚されたサーヴァント。いくら受肉したからといえど、再度聖杯を求めることも……」

 

その時臣の疑問に、璃正は首を振った。

 

「……もはや願いは『忘れている』のです。アレは、ただ生きるだけの目的のない屍なのだから」

 

 

 

 

 

 

ふぅ、と溜息をついた璃生は後ろを見ずとも、そこにいる人間が誰かをわかっていた。

振り返ると———佇んでいるのは、いつもと同じ表情の息子、言峰綺礼である。

 

「聞いたな、綺礼。」

「はい」

「奴についてもう少し伝えておこう。……いずれは、貴様が契約する者なのだから」

 

かつてのセイバーのマスター、ユグドミレニアの魔術は『魂喰い』であり、それによって魔力を補っていた。

そしてオスカは、受肉した際にそのマスターの魔術を『スキル』として取り込んでしまったのだろう。

 

第三次聖杯戦争の最終の盤面、その時に聖杯を巡って起きたことを璃正は知らない。

監督役としては失格だったが、あの場で意識を保っていたのはマスターとサーヴァントのみであったのだ。

 

再び意識を取り戻した時には、マスターはその場におらず、聖杯は姿をくらましていた。璃正は早々にその場を後にしたのだ。

 

きっと、その時にオスカは受肉を果たしていたのだろう。そして聖杯戦争の影響で死にかけていたオスカは、あの聖杯が現れた場所で10年間を回復のために眠り続けたのだ、と璃正は推測している。

10年間、オスカは自身の眠る土地の上に住んでいた人間の魂を無意識に喰らい続けていたのだ。そして魔力が回復した後に蘇生し、彷徨っていたオスカを璃正が保護した———

 

 

「ひとつ、疑問があります」

「言ってみよ」

「セイバー……第三次聖杯戦争のセイバーの持つ『魂喰い』のスキルとは何ですか?」

「アレは、一種の呪いだ」

 

50年を生きてもなお、永遠に同じ見た目なのは。

———彼女が生きる限り、その周りから魂を無意識に喰っているからだ。

そのおかげで魔力を精製し、宝具を解放する事ができる。

 

1年、同じ場所に滞在すればその町には病が流行るだろう。5年もいればその土地は魂が無くなり、植物も何も育たない土地となる。

 

だからこそ彼女は一箇所に居続ける事ができない。

『常に引っ越しをし続けなくてはならない』のだ。おかげでオスカは定職にもつけないと言っていたが……ここでは余談だろうと、璃正は口を噤んだ。

 

「……奴は魂を取り込み過ぎたのだ」

 

フィオナ騎士団 オスカ。彼女はそのガワだけを被った人間に成り果てた。

数百、数千の魂をほんの少しずつ、今も喰らい続けている彼女は、魂を希釈され、原型を無くしてしまった生き物に過ぎないのだから。

 

『願いを忘れた』———誰を救うための願いだったかを。

 

名前は覚えている。しかし、その感情は50年を生きている間に、多くの人の魂を吸収している間に風化してしまったのだ。

だからこそオスカは聖杯を巡って戦わないだろう。もはやそこに、聖杯を必要とする理由はないのだから。

 

「もし奴が聖杯を必要とするとしたら……そう、『友を思い出す』事だが。1700年前の人間をどうして思い出す事が出来る?写真も、絵すらまともなものが残っていないというのに」

 

 

 

綺礼はその言葉に、自身のサーヴァントを思い出した。アレは11世紀頃の遺物である。

 

しかし璃正は、それに対して危惧していないのだろう。

数百、数千もいる英霊の中から、わざわざケルト神話に登場するオスカの親友が召喚される事など奇跡に近い。

 

だからこそオスカにかける願いはなく、今後も生まれないはずなのだ。

 

「と言うわけで、アレにはキャスター陣営を潰すように伝えてある。くれぐれも……手出しなどしないように」

 

 

 

……杞憂であればいいのだが。

綺礼はぼんやりと、それだけを思うのであった。

 

 

 

* * * *

 

 

「何故だろう。今、物凄く『志村〜!後ろ後ろ!』と言いたくなった気分だ」

 

1965年から1985年までやっていた『8時だョ!全員集合』を、オスカはもちろん見ていた。その中でお約束なのが、観客の野次である『志村!後ろ後ろ!』なのである。

 

———背後から危険が迫っていることに気づいていない人物(志村けん)に、注意勧告する際の定型句である。

この場合、背後から金タライが落ちてきたり、水がぶっかかったりするのだが……

 

「……9年前か。いやはやアレは面白かったな、ウン。」

 

現代に染まりきったオスカは、現代人と同じような生活をしている。

 

もちろん『ファミコン』だって買った事があるし、今は『ゲームボーイ』で『ポケットモンスター』をやっている。

たまごっちとやらもやってみたし、なんなら『セガサターン』と『プレステ』も最近買ってみた。

 

パソコンゲームだってもちろんやっていて、『大戦略』シリーズだってやり込んでいるのだ。あのゲームは素晴らしいし、なんならテンションが上がってTシャツも買ってしまった。

今では、数少ないオスカの一張羅の1つである。

 

———と、そんなことはどうでもいいのだ。

オスカは、付けていたテレビへと視線を向ける。

 

「そろそろ準備するか……」

 

『東京フレンドパークⅡ』では番組も終盤にかかり、パジェロのコールがテレビから流れてくる。これを見終わったら準備しようと考えて、飲み干した発泡酒の空き缶をグシャリと片手で潰した。

 

時刻は……19時40分。そろそろ動き出してもいい時間帯だろう。

 

 

 

 

 

キャスター陣営は果たしてどこにいるだろうか。

……霊脈沿いの何処かに陣取る可能性はかなり高いだろう。となれば、柳洞寺や、その辺りが狙い目となってくるが……果たしてあのマスターとサーヴァントがそんなところに陣地を構えるだろうか。

 

キャスターといえば陣地作成で自分のいる場所を神殿化、そこにやってくるサーヴァントを迎え撃ちにするのが常習手段である。

というか、前回のキャスターがそういった手口だったのだ。

 

「……全く、どういうサーヴァントかもわからんのであれば、やりようがないな」

 

あのマスターだけならば話は早かった。アイツがやってる前例があるから、それを予測して先回りすることは可能だったのだ。

しかしサーヴァント付きとなるとどこにどう出没するかもわからない。

 

手掛かりが一切無い。

だが、オスカにはひとつアテがあった。

 

———おそらく今日、聖杯戦争の最初の火蓋が切って落とされる。はず。

 

肌でほんの少し感じられる、町全体のピリピリとした空気。魔力の肌触り。緊張感。

そして町中を駆け回って挑発していた、どこかのサーヴァント。

 

おそらく何組かの陣営は正々堂々と出てくるだろうし、もしかしたらキャスター陣営だってそれに乗じて現れるかもしれない。

出てくる確率は低いが、それしか現状で取れる手段はないだろう。

 

 

「よし、いってきます」

 

炊飯器のタイマーをセットし、家の電気を全て切ったことを確認。ついでに、火の元も確認。

鍵をしっかりとかけたオスカは、申し訳程度の小銭が入った財布とバイクの鍵だけをもって、颯爽と住処を後にしたのであった。

 

 

 

 

* * * *

 




最初に考えてた事:ダーニックがフィンじゃなくて、誤ってオスカを召喚する未来というものもあるのでは?
そこで受肉したって事にすれば、zeroにもそこまで違和感なく登場できるのでは!

途中で引っかかった事:60年間の間で歳を食うのはどうしようもない
(天草四郎は宝具の力で、ギルガメッシュは若返りの薬で加齢を防いでいたが、オスカはどうしようもない)

最終的に至った事:受肉時にダーニックの魔術を引き継いだことにすれば、永遠に同じ歳で生き続けられるのでは!?
(ダーニックは90歳くらいでも20歳くらいに見えるため)

結論:魂が希釈されたかわいそうなオスカ


という段階を踏んでここに至ったのでこれ以上の穴は隠せません。違和感や原作とあってないところがあったら『ここの世界線だとその問題はなかった』と思ってください。


作者、8時だよ全員集合を見たことないです。
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