9‐nine‐ ここのえこころむここのいろ   作:カーバンセル

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 はじめまして。
 後2ヶ月で「9-nine-はるいろはるこいはるのかぜ」発売ですね。待ち遠しいです。
 ジャンルがジャンルなので需要はないでしょうけども、自己満足でぼちぼちと進みたい。


0 day -prologue-

 皆はオカルトというものは信じているだろうか?

 そういう俺、『春崎誠(はるざきまこと)』は全くもって信じていないが、どうやらそれを考え直さなければいけない事態に直面してしまったらしい。

 

 

 事の発端は今日の昼過ぎ――行きつけの喫茶店でブレイクしている時だ。

 大通りを行き交う人々がよく見える窓際の席でコーヒーを嗜みながらぼんやりと晴天の空を眺めているとガタガタと小さく地面が揺れ始め、地震だと理解した時には大きな揺れが始まっていた。

 

「うおっ!?大きいぞっ」

 

 咄嗟に声に出してしまったが、驚いているのは俺だけじゃない。店内にまばらだが座っていた客達も何だ何だと焦りの表情を浮かべている。あまりの揺れに店外へと出る人、俺のようにただただ揺れが収まるまで呆然と立ち尽くす人、店内の物が揺れで落ちないように押さえつけている人など様々だ。

 

 ただ幸いにも強い揺れは長く続かず、店内のテレビで地震の速報が始まると客はぞろぞろとテレビの前に集まり釘付けになる。

 

『速報です。つい先程、◯◯県を震源とする地震が発生した模様です。この地震による津波の心配はありませんが、余震に警戒してください。繰り返します――』

 

「最近地震なんてなかったのに...」

「あんなでかい地震初めてだ!防災グッズ、見直さないとな」

「嫌だわぁ...私の家古いのに...」

 

 各々が地震への不安を募らせている中、俺はどことなく地震を他人事のように思いながら席に戻って残っていたコーヒーを飲み干す。地震は怖いとは思うが、かといって家に地震で倒れたり割れる心配のある物は置いていないし、強いて言えば...

 

「あいつは大丈夫かな」

 

 強いて言えば心配なのは俺の妹の沙耶(さや)ぐらいか。

 どれ、電話してやろう。

確か俺が家を出る時はソファで雑誌を読んでいた気がするが...さて、どうだろうか。

 

「......あ、もしもし沙耶?地震大丈夫だったか?」

『うん、私は大丈夫。兄さんは?』

「俺も大丈夫だ。今から帰る」

『ん、わかった。気をつけて』

 

 今電話に出た可憐で落ち着いた声をしていた子こそが俺の妹、春崎沙耶。

 沙耶と俺は今二人暮らしをしていて、親とは別に暮らしている。

 というのも俺達が今住んでいるのは白巳津川(しろみつがわ)市といって、学園都市としてそこそこ名の知れている地域だ。去年までは俺一人が通学のために学校の近くに部屋を借りて住んでいたが、今年から沙耶も同じ学校に通うことになり今は一緒に生活をしている。

 沙耶は家事全般をそつなくこなせる為俺個人としては大助かりである反面、妹に頼りっきりのダメ兄貴になってしまいそうで危惧していたりするが...今はいいだろう。

 

 

 

 

 とりあえず、電話で言った通り家に帰る事にしよう。このまま余震が来ないとも限らない。そう思いながら会計をしようと席を立つと不意に"チャリ"っと聞き慣れない音が俺の足元から響いた。

 

「ん...?」

 

 なんだ?と思い下を見ると見慣れないペンダントが落ちていた。

 

「さっきまであったか...?」

 

 俺のいた席から隣のテーブルまでの距離はそれなりにあるし、誰かの落とし物であれば店員が回収していそうなものだが...見つけてしまった以上このままにするわけにはいかない。ペンダントを拾いどんなもんかと見てみるが

 

「なーんかパッとしないペンダントだな」

 

 シルバーを基調としているが、光沢は少なく、首にかけるにしては華やかさのカケラもない簡素なものだった。唯一取り上げるとすれば、氷の結晶のようなデザインがペンダントに施されているぐらいだろうか。

 

「まぁいい」

 

 俺はおしゃれに興味はない。特に気にすることもなくウェイトレスに落とし物だと言って渡し、会計を済ませて帰路についた。

 

 

 

 

 ――――が、

 

「ん?」

「どうしたの兄さん?」

「あぁいや...なんでもない」

「...?」

 

 家に帰った俺は一息つこうとバッグを机に置いたのだが、違和感を感じた。常備している折り畳み傘や筆記用具とは違い、何か金属的でそこそこ重さのある物がバッグの底で動いたのを感じたからだ。

 

 そんなものを入れた覚えがない俺は不思議に思い中を確かめる。すると思いもよらない物が入っていた。

 

「これはっ...なんで...?」

 

 俺が手にとったのはさっき喫茶店で店員に渡したペンダントと同じデザインのもの。なぜこれがここに?俺は確かに店員に渡したはず...?

 

「なに固まって...お?兄さんが珍しいもん持ってんね」

「あっおい!」

 

 あからさまに不自然な挙動をしている俺を不思議に思った沙耶が横からペンダントをぶんどって光にかざしてみたり、まじまじと観察を始めた。

 

「ほほ~これはこれは...飾りっ気はないけど中々いいもんじゃないの」

「お前なぁ...人の勝手に取るなよな」

「へっへっへ...んん?これロケットじゃん」

「ロケット?」

「うっそ...ロケットペンダントも知らないの?いくらオシャレに無頓着とはいえ一般常識レベルだと思うよ...?」

 

 沙耶がうわーっと可哀想な人を見る目で睨んでくるがもう気にしない。というかそれぐらい知っているわ。

 

「そうじゃねぇ。ただ本物のロケットペンダントを見たことがなかったからピンとこなかっただけだ」

「彼女できたらどうするのさ~プレゼントとか困るよ?」

「余計なお世話だ。というかそろそろ返せ」

「はいはい...でもそれホントどうしたの?兄さんが自分で買った訳じゃないでしょ?」

「まぁな...」

 

 意外と沙耶はこのペンダントが気に入ったのか、渋々返した感じがしたが俺にはよくわからない。

 

「なにその煮え切らない返事。...まさか!実は兄さんに彼女ができてその忘れ物?」

「いねぇよ」

「だよねぇ~知ってた。でもだったらどうしたのさ?」

「拾ったんだよ。たまたまな」

「拾ったの?ダメだよ兄さん落とし物はちゃんと届けなきゃ」

「それが...いや、なんでもない」

 

 つい無意識にそれができれば苦労しない、と言いそうになったがここで言った所で笑われるだけだし、俺自身も現状を整理しきれていない。ひとまず落ち着くことにした。

 

「とりあえず明日届けに行くから」

「はいはーい」

 

 クールダウンだクールダウン。

 俺は自室に戻るとすぐにドアを閉め深呼吸。状況を整理しよう。

 

 まず俺は喫茶店でペンダントを見つけた。そしてそれを会計の時に対応してもらったウェイトレスに確かにペンダントを渡した。ちゃんとこの目でウェイトレスがペンダントを握ったのを見ている。

 

「2つあったってのか...?」

 

 俺が渡したのと別のがここに...それが現実的だが俺が意味もなくバッグに入れる訳がないしそもそも買わない。

 

「ペンダントになんか興味なんて...あ」

 

 くるくると手の中でペンダントを転がして遊んでいると偶々ロケットのボタンを押したらしく、カシュッと開いた。

 中には紫陽花の花を象った紫色のアクセサリーが入っていて陽の光に反射してキラキラしている。控えめな印象の外装とはうって変わってとても鮮やかだ。

 

「へぇ...ぐっ!?」

 

 だが呑気に関心している余裕はなかった。アクセサリーが紫陽花だと認識するや否や、目の裏に電撃が走るような感覚が俺を襲う。反射的にペンダントを手放して頭を抑え、何が起きたかわからずに混乱するが、改めて手放したペンダントを見ると不思議とナニカが頭に流れ込んできた。

 まるで今まで知っていたかのように。

 

「なんだ...これ」

 

 映写機のように次々とナニカ...否、このペンダントの"力の情報"が俺の頭から溢れ出てくる。

 力の概要、具現の方法...力を扱うための要件が今俺の頭の中に定着していた。

 あまりの出来事に俺は理解しようとするのをやめてしまう。というかやめなければおかしくなりそうだったから。

 

「ははは...俺疲れてんのかな」

 

 2,3度深呼吸をして鼓動を落ち着かせてみるが、中々収まらない。

 混乱というよりも、得体の知れないナニカへの恐怖が俺を強く威圧する。

 

「へっ...どうせ今朝にでも見た夢のせいだろ」

 

 未だ現実味のない事態に俺は夢で見た内容が現実とごっちゃになったのだ。と現実逃避を始めるが、それもすぐに砕ける。

 今を否定するために頭に浮かんでくる"力の情報"――『闇の氷』を具現させる事にした俺は、情報通りに意識を集中させて目の前にあるペン立てに氷を生やすイメージをした刹那――――ペン立ては見事に...光をも吸い込むような禍々しい黒さをした氷に、さながら樹氷のように覆われた。

 

「ひぃっ!?」

 

 あまりの非現実に腰を抜かした俺は足を情けなくも震えさせながら、直ぐに氷が消えるようにイメージをペン立てに上書きする。すると直ぐに氷は何もなかったかのように霧散した。

 

「な、なんだってんだよホント...」

 

 恐る恐るペン立てやその中に入っていた鉛筆等を触ってみるが、特別冷たかったり濡れている様子もなく、特に変化は感じられなかった。

 

「......」

 

 これで元通り。何もなかったかのように日常に戻ればいい。

 そう思いとどまれればよかったのだが、そこは男としての(さが)...かもしれない。コントロールができるとわかってしまった非現実な現象に心が踊ってしまった俺は調子に乗り始め、他にも部屋に散らかっているあらゆるものに力を使い始める。

 洋服、制服、ベッド、床...あらゆるものに掛けては消してを繰り返す事数十分。突如沙耶が部屋のドアを開けてきた。そこで初めて正気に戻った俺はコンマ差で氷を消し、平常心を装って沙耶に体を向ける。

 

「おっおぉ...どうした?」

「どうしたじゃないよ!さっき言い忘れたけど兄さん夕飯の材料買ってきてくれたの?さっき見た感じ買ってなかったみたいだけど...夕飯どうするのさ」

「あっ...忘れてた!いっ行ってくるわ!!」

 

 好奇心に負けた自分の幼さと心が踊っていた恥ずかしさに耐えられなくなった俺は足早に財布を持って部屋を飛び出す。あそこで沙耶が部屋に入ってこなかったらどうなっていたことか。

 沙耶に氷が見られていないことを祈りながら俺は己の未熟さを自戒した。

 

「兄貴面してられねぇなこれじゃ...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぅ大げさな...あれ?」

 

 一方、買い出しの事を伝えるといきなり切羽詰まった顔をして出ていった兄に一人置いていかれた沙耶は日頃とは違う雰囲気兄に少し不審に思いつつもとある違和感に気づく。

 

「おかしいな...兄さんとすれ違った時はベッドにペンダントがあったような...?気のせいかな」 




閲覧ありがとうございます。
続けていけるようがんばります。
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