異世界に転生した双子座 -Twin Dragon Saga-   作:神鳥ガルーダ

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曹操。聖槍を持ちし転生者

 桃源郷。

 そこは、ユートピア、もしくは理想郷とも考えられる場所。

 俗界から離れた別世界。

 しかし、真実は理想郷でも何でもない、世捨て人、隠者たちの場所である。

 夢を持って田舎から都会に出て、しかし、何の成果も得らず、社会での生活に疲れ果てた者たちが、二度と俗世と関わらない事を覚悟して赴く場所。

 そして、道教や仏教などにおいての仙人、解脱者などを目指す修行者たちが住まう場所でもある。

 更には、入ることは誰でもできるが、出るには仙人に至る、解脱するなど、超常の存在に達しない限り、生きて出る事が叶わぬ場所である。

 そんな場所から、数人の男たちが脱走しようとしていた。

 彼らは、覚悟を持たずにこの地を訪れた者たちである。

 マフィアの手先のチンピラで、田舎から都会に出てきた娘を騙し、違法な借金を背負わせて、売ろうと考えていたのだが、娘がこの地に逃亡したのだ。

 マフィアの手先とはいえ、彼らは所詮チンピラであり、本人たちのシノギにいちいち手を貸して貰えるわけではない。

 ここで娘を逃がせばマフィアから負っている借金の返済が出来ない。

 その為、必死に娘を追いかけ、この桃源郷にやってきた。

 この地の事は彼らも聞き及んではいたが、それを下らない迷信と断じて、そのまま突入していった。

 桃源郷の中にある村に入り、娘を見つけて捕えようとしたが、修行者たちに阻まれた。

 仙人や解脱者を目指すだけあり、彼らの力量はチンピラ如きでどうにかなるモノではなかった。

 自分たちのみでは勝てないと感じた彼らは、手勢を集めるため逃亡した。

 

「待て!ここからは出る事は出来んぞ!!」

 

「へっ!そんな迷信が通用するか。覚えてやがれよ」

 

 彼らは来た道を戻っていった。

 そしてそれが、地獄の始まりだった。

 

 ★☆★

 

「な…何なんだここは?」

 

 今、彼らが見ているのは草一片も生えぬ岩山の頂上を目指す生気なき人々の列だった。

 彼らは知らない事だが、そこは黄泉比良坂と呼ばれるこの世とあの世の狭間であった。

 頂上にある大穴に堕ちると完全に死ぬ事になり、亡者たちはそこを目指しているのだ。

 その余りの不気味さに足がすくんでいた彼らの足を何者かが掴んだ。

 

「ヒ…ッヒィィィィィィ!!」

 

 気が付けば多くの亡者たちが自分たちの体に抱き着いてきたのだ。

 死ぬに死にきれず、この生と死の狭間の場所を彷徨い続ける者たちである。

 

「て…てめぇらは…!?」

 

 よく見るとその亡者たちは過去に彼らによって死に追いやられた者、もしくは直接殺された者たちだった。

 殺された恨みを晴らすため、彼らを引きずり込もうとしているのだ。

 流石の彼らもその事に恐怖を覚え、亡者たちを振り払い、無我夢中で走った。

 自分たちを追いかけてくる亡者たちを振り切る為に……感覚としては何時間も走った。

 マフィアの手先ゆえに、体を使った仕事もそれなりにこなすので、本職りマラソン選手には及ばないが、それなりに持久力には自信があった。

 

「こ……ここまで逃げればもう大丈夫だろう」

 

 そう思い、辺りを見回すと……そこは!?

 

「そんな…」

 

「ここは…」

 

「仏陀の掌の上!?」

 

 そう彼らの感覚では、何時間も走りぬけたと感じていたが、神仏にとっては掌程度の距離でしかなかった…。

 

「…何なんだよここは?」

 

「…本当に俺たちは帰れないのかよ?」

 

 入口に書かれていた事、そして住人たちが言っていた様に、この地は入る事は容易でも、出る事は不可能な地なのではないか?

 そんな疑問が彼らの頭に浮かんだ。

 

「そんな筈はねぇ。きっと俺たちは夢でも見ているんだ!さっさと目を覚ませばいいんだ」

 

 自分たちは夢を見ている。

 そうでも思わなければ、気が狂いそうだった。

 

「起きろ!起きろ!俺!!」

 

 そう言って自分の頬を抓ったり、両頬を平手で叩いたりしたが、周りの景色は変わらなかった。

 

「最後まで進めば、目が覚める筈だ」

 

 それでも自分たちが今が現実だと信じられない彼らは、前へと進んだ。

 ここから出れば目が覚めると現実逃避しながら…。

 そして、彼らの前に四つの門が現れた。

 その前に槍を持ち、両目を閉じた漢服を着た少年が立っている。

 彼らの脳裏に、目の前の少年の声らしきものが直接響く。

 

『戻るがよい。この「老門」「病門」「生門」「死門」の仏陀の四門のうちどれかを潜れば外には出れる。しかし、待っているのは破滅。この地から生きて出るには、超常の力を得なければ出る事は叶わぬ。戻って修行をするか、大人しく畑を耕して日々を生きるがよい』

 

「嘘だ…これは夢だ、夢なんだ!」

 

「妖怪め。失せろ!」

 

 尚も彼らは現実だと認められない。

 しかし、一人は元の道に引き返した。

 

「おい!」

 

「俺は戻る。例え夢でもこれ以上はもうたくさんだ。ここに居ればマフィアの借金を返さなくてもいいんだ。俺は戻る」

 

 この男の心は完全に折れた。

 街で何れのし上がる…その為にマフィアの手先となり、いろいろ悪事をしてきたが、命あっての物種だ。

 

「勝手にしろ。俺たちは出るぞ」

 

 そう言って、彼らはそれぞれ選んだ門へと入っていった。

 

 

 

 

 

「…戻ってきたか」

 

 一人戻った男を村人たちは受け入れた。

 完全に心を折られた男は、大人しくなり村に住まわせてくれるよう頭を下げた。

 

「ここは世を捨てた隠者の村だ。もう暴れないというのなら、この地で畑を耕して暮らすとよい」

 

 村の長老はそう言い、彼を受け入れた。

 彼らから逃げてきた娘も、何も言わなかった。

 

「他の者たちはどうした?」

 

「仏陀の四門とかいう門を潜ったよ」

 

「…そうか。では彼らは破滅したのじゃな」

 

 長老が言うにはあの門には破滅が待っている。

 「老門」を潜れば、一瞬にして老い、進む気力を失う。

 「病門」を潜れば、病に冒され、立つ事も出来なくなる。

 「生門」を潜れば、あの場所を永遠に彷徨い続ける。

 「死門」を潜れば、外には出られるが、絶命してしまう。

 

「もともとこの地を訪れた者が仙人や解脱者にならずに外に出れば、問答無用で絶命してしまう。それを防ぐ為、あの御方が幻覚を見せ、ここを出る事を思い留まらせようとなされておるのじゃ」

 

「あの御方?」

 

「そう、おぬしも見たであろう。仏陀の四門の前に立っておった……曹操様を…」

 

 ★☆★

 

 長老から曹操と呼ばれた少年は、仏陀の四門を潜った者たちの末路を見届けた。

 この地はある意味、並行世界の【聖域(サンクチュアリ)】よりも脱走が困難な修行場なのだ。

 俗世の時の権力者たちが、この地を荒らさぬ為に張られた結界によって、出る者に死を与えられるのだ。

 結界を超えるには、超常の領域に達する事のみ。

 仙人、解脱者に至る、もしくは【神器所持者(セイクリッド・ギア・ホルダー)】ならば禁手(バランスブレイク)に至る。

 そうしなければ結界を通る事は出来ないのだ。

 それ故に、曹操はあの幻覚を見せ、脱走者を引き留めるのだ。

 最も、本人もあれで全員が脱走をやめるとは思っていない。

 逆に、何としても逃げ出そうとする事は解っている。

 何故なら、この桃源郷に入る者は修行者か世捨て人か、それとも伝説を信じぬ者であり、脱走するのは伝説を信じぬ者だからだ。

 それでも今回の様に、引き返す者もいないわけではないので行っているのだ。

 

「HAHAHA!それにしてもなかなかエグイ幻覚をみせるじゃねぇか曹操」

 

「…これは、御二方がこの地に参られるとは珍しいですな」

 

 曹操の前に現れたのは、須弥山の長、天帝・帝釈天と闘戦勝仏であった。

 

「特に、二つ目の幻覚は猿から見れば思う所があるんじゃねぇか?」

 

「……懐かしいな」

 

 闘戦勝仏は、中国四大奇書、または四大名著の西遊記の主人公の一人、斉天大聖・孫悟空が師である玄奘三蔵法師と共に天竺から経典を持ち帰る偉業を達し、仏となった存在である。

 ちなみに師である玄奘は旃檀功徳仏。

 猪八戒は浄壇使者。

 沙悟浄は金身羅漢、と皆、仏になっている。

 仏陀の掌の上というのは、孫悟空が玄奘の弟子となる前、釈迦如来に懲らしめられた時の逸話である。

 当時ならば忌々しい出来事だったが、今の闘戦勝仏にとっては懐かしい記憶である。

 

「それで今日は何用で須弥山から参られた?」

 

 帝釈天は前々から、曹操に興味を持っていた。

 一つは彼が、神滅具(ロンギヌス)の代名詞ともいえる最強の神器【黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の所持者である事。

 幼い頃、妖怪に襲われたがまったく慌てる事なく、聖槍をもって打倒した。

 どうやら前々から、自分の中に何かが眠っている事を悟っていたらしい。

 そして、闘戦勝仏と出会い、自分が三国志で有名な曹魏の武帝、曹操の末裔であり、宿っていた聖槍が聖書の神(ヤハウェ)の意思が宿りし【聖遺物(レリック)】である事を教えられた。

 その後、金に目がくらんだ両親によって、神滅具を欲するとある組織に売られるも、その三日後に行方を晦まし、消息を絶っていた。

 組織の者は両親に心当たりのある行き先を聞くも、すべてが外れており、やがて頼りにしなくなった。

 曹操を売った金で贅沢を覚えた両親は、身を持ち崩し大量の借金を抱え、やがて自殺するのだが、本人は気にもしていなかった。

 一応、別れの際に「身の丈を超える財は身を亡ぼす」と自分を売って得た金は老後の為にとっておくか、貧しい村の発展の為に寄付するよう忠告したのだが、それを聞かず破滅した事まで責任を感じなかったらしい。

 自分を売った両親を恨んではおらず、破滅した事を憐れんではいるようだが…。

 今では聖槍を完全に使いこなし、並みの超常の存在はおろか、神格を持つ者すら討ち滅ぼせる程にまでなった男を自分の勢力に加えようと考えていた。

 帝釈天は、かつてはインドラと呼ばれるインド神話において、最も信仰された神であった。

 しかし、現在においてはシヴァ、ヴィシュヌ、ブラフマーからなる三柱神にとって代わられている。

 その為、三柱神…とくに破壊神シヴァに対抗心を燃やし、彼を打倒すべく戦力を集めている…と言われている。

 その中で最強の神滅具を持つ曹操は魅力的だ。

 しかし、曹操の返事は否であった。

 

「私は無益な争いは好まない。あなたとシヴァとの争いは私事に過ぎぬ。故に私が介入するとすれば、あなた方の争いに無辜の者たちが巻き込まれた時だろう。そしてどちらが巻き込んだかによって、味方に付く方を決める…もしくはどちらとも敵対するかもしれませんな」

 

 ★☆★

 

「あの野郎…中々言ってくれるじゃねぇか…」

 

「あの男ならばそう答えると思っておったがな。それは天帝もわかっておったじゃろう?」

 

「まあな…。奴は今の段階で釈迦如来…ガウタマ・シッダールタだった頃に解脱した時点に匹敵してやがる。何れ奴は自力で今の釈迦如来並みに至るだろうな」

 

 釈迦如来が悟りを開いたのは35歳の頃であり、曹操はまだ10代…これは帝釈天から見ても驚異的と言えた。

 

「とにかく奴は俺様と敵対する気はないらしいから、今はそれでいいZE。俺も無辜の民を巻き込む気はサラサラないし、シヴァの奴もそうだろうからな」

 

「しかし気になりますな。曹操の奴が仲間になるなら、自分の同類たちだろうと言った事?」

 

「…どうやら同類とは神器所持者の事じゃねぇみてぇだが…」

 

 曹操ほどの男と同類とは如何なる意味なのか?

 天帝と闘戦勝仏には見当もつかなかった。

 

 ★☆★

 

 天帝たちを見送った曹操は、再び瞑想に入った。

 

「私がこの様に転生している以上、他の者たちも転生している可能性は高い。彼らが表舞台に出た時、その行動が共感できるモノならば、私は再びかれらと共に歩む事になるかもしれんな。曹操としてではなく、黄金聖闘士(ゴールドセイント)乙女座(バルゴ)】のシャカとして…」

 

 




と、いうわけで曹操の転生者は乙女座のシャカでした。

曹操は神話のごった煮であるハイスクールD×Dにおいて、三国志、古代ローマ、ギリシャ神話、インド思想を纏めた存在なので、聖闘士星矢においてアテナに仕える黄金聖闘士でありながら、自身は仏教徒というシャカの方がシオン様より曹操に相応しいのではと思い、彼に変更しました。

次回、幕間のラスト。
一誠=サガの話になります。
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