異世界に転生した双子座 -Twin Dragon Saga- 作:神鳥ガルーダ
私の名前は兵藤一誠。
前世において、戦女神アテナを守護する
冥界の第八獄コキュートスの氷地獄の中で眠っていた私は、いつの間にか極東の国日本の一般家庭に生まれていた。
どうやら転生した様だ。
しかも、何故か弟カノンの記憶まである。
人格は
生まれ変わる事で、私たち兄弟は一つになったのだろうか?
そして、私はサガであると同時に兵藤一誠でもある。
前世とまったく同じというわけではない様だ。
そんな私……いや僕も今は5歳となり、肉体の年齢に精神がひっばられたのか、立ち振る舞いは完全に幼児のそれになっていた。
前世と違い、僕が生まれたのは日々を一生懸命生きる一般家庭だ。
普通の会社員である父と普通の専業主婦の母。
前世では、父の顔も母の顔も知らず孤児であった僕の家族といえば弟のカノンのみだった。
だから、知識としては知っていても、親の愛というモノを体感した事がなかった。
今日まで父と母に育てられてそれがとても尊いという事を肌身に感じられた。
ならば、今生は彼らの息子として穏やかに生きよう。
そう思ったのだが、どうやらそうもいかなくなってしまった。
僕が友達のイリナと公園で遊んでいたとき、どうも体の内側から声が聞こえるような妙な感覚に囚われた。
前世の時の様な自分のもう一つの人格からの声とはどこか違う感じがした。
ましてや一つになったと思われるカノンの声とも思えない。
「どうしたのイッセーくん?」
「……いや、何でもないよ。もうすぐ暗くなるからそろそろ帰ろうか。今日は小父さんと小母さんの帰りが遅くなるからウチで御飯を食べてくんだろ」
「うん」
黙りこんだ僕を心配したのか、イリナが声を掛けてきたので何でもない風を装った。
イリナの父親はキリスト教プロテスタント派の牧師で、母親は料理屋に勤めている。
しかも父親はこの駒王町の教会の牧師達のまとめ役らしく、それなりに忙しいらしく、母親もいずれ自分で店を持ちたいらしく、料理の勉強に勤しんでいるので、イリナはよくウチに御飯を食べに来る。
このイリナという子は、外見は綺麗な顔立ちの少年で性格もかなりヤンチャだが、実は少女だ。
まあ僕以外の友達も彼女の事を男と誤解している者も結構多いが、イリナは特に気にしていない。
どうやら本人は、同性と女の子らしい遊びをするよりも、男の子たちとヤンチャして遊ぶほうが楽しいらしい。
食事を終えたイリナを御両親が引き取りに来た後、入浴を済ませた僕は眠りついた。
「ここは?」
気が付けば私は妙な空間に立っていた。
周りはまるで実体が無いかのような様相だ。
そして精神も年相応なのモノではなく、前世の時に近いモノになっている…と、いう事は…。
「夢の中?いや、私の精神の中か」
そう結論付けた時に、昼間に聴こえた声が再び聴こえて来た。
声がする方に意識をむけてみれば、そこには赤いドラゴンと白いドラゴンの姿が見えた。
『俺の声に反応してくれたか。思ったよりも早かったな』
『この年齢で私の声に反応するとは、今代も先代と同等レベル才能の持ち主の様だな……ん?』
『『……………』』
私に話しかけてきたドラゴン達は、今初めて気付いたかのようにお互いに視線を向けた。
『何故貴様がここにいるのだ白いの!?』
『それはこっちの台詞だ赤いの!?』
いきなりギャーギャーと言い争いを始めた。
ここは私の精神世界なので、この二匹の言い争いにより頭痛が伴ってきた。
「喧しい!人の中で喧嘩するな戯け!!」
私が怒鳴り声を上げると2匹のドラゴンは興味深げに私を見つめてきた。
『中々胆の据わった奴だな』
『ああ。初対面、しかもその年齢で我らドラゴンに対しここまで強気な態度に出るとはな』
喧嘩をやめた2匹と私の話し合いが始まった。
『俺の名前はドライグ…【
『私の名前はアルビオン…【
「…兵藤一誠だ」
2匹…ドライグとアルビオンから自己紹介された私も名乗った。
それにしてもウェルシュ・ドラゴンとバニシング・ドラゴンとは……。
赤い龍なのにレッドドラゴン、白い龍なのにホワイトドラゴンと名乗らないという事は……。
「ウェールズの伝承のドラゴンか?」
グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国…日本では通称イギリスもしくは英国と呼ばれる国において6世紀初頭、ブリテン島を侵略者であるサクソン人から守ったとされるアルトリウス・ペンドラゴン、つまりアーサー王について書かれた「ブリタニア列王史」もしくは「アーサー王物語」に登場する赤い龍と白い龍だというのだろう。
つまりドライグが「ア・ドライグ・ゴッホ」であり、アルビオンが「グウィバー」だという事だろう。
『本当に何者だこの小僧は……?』
『ああ。先代の白龍皇も私と話こそ出来なったものの、この男と大して変わらぬ年齢で神器に目覚めたが、さすがに我らがウェールズの伝承のドラゴンであるという知識はなかったぞ』
「私の事は今はいい。それよりもその伝説のドラゴンがどうして私の精神世界に現れるんだ?まずはそこから話してくれ」
こうして、私は現世での自分の宿命を知る事となった。
この2匹は、龍神に次ぐ強さを誇る「天龍」という位階のドラゴンであり、2匹合わせて「二天龍」と呼ばれていたが、かつて天使と堕天使、悪魔の三つ巴の戦を繰り広げていた時に突如として現われ、お互い争いながら、戦場で大暴れしたらしい。
三大勢力からの苦情を一蹴し、しかも自分達の邪魔をしたとして彼らを排除しようとし、それに対抗する為三大勢力は共闘し、多大な被害を出しながらもこの2匹は遂に倒されたとの事だ。
その後、聖書の神は彼らの体を切り刻んで魂を取り出し、【
その二つが私に宿っているというのだ。
しかし、生来神器が宿るのは一つのみであり、他者から神器を奪ったのなら兎も角、最初から二つ宿すなど、本来ならば有り得ず、しかも【赤龍帝の籠手】と【白龍皇の光翼】を持つ者は、常に互いに争いを続けていた宿敵同士。
その相反する神器が一人の人間に宿るなど、更に有り得ないとの事だ。
この話を聴いた私は、転生しても【双子座】の宿命である魂の相克に翻弄されているのだと感じた。
これからの自分の未来を思うと気が遠くなるが、今は考えないようにしよう。
それよりも私が気になったのは、伝説のドラゴンが今までどの様な戦いを繰り広げてきたという事だ。
二天龍などと呼ばれ、ドラゴンの中でも上位の強さを持つ2匹の歴史に興味が湧いてきたのだ。
私がその事を尋ねると、彼らは懐かしがりながら語ってくれた。
★☆★
俺はドライグ。
誇り高き二天龍である【
聖書の神に魂を神器に封じられて幾星霜…今代で有り得ない事が起きた。
俺の宿る【赤龍帝の籠手】と、我が宿敵にして同じ二天龍である【
俺を宿した者が【赤龍帝】、白いのを宿した者が【白龍皇】を名乗り、俺達の代わりに争い続けてきたのに、何故今代に限り、こんな訳のわからない状況になったのか?
それに俺たちを宿したこの小僧も妙だ。
まだ5歳前後の幼児だとは信じられないほど聡明であり、まるで成人した者のような口調で話している。
そして今、小僧がこれまでの俺たちの戦いの詳細を聞いてきたので、かつての事を思い出しながら語る事となった。
『ふははははっ!そうだあの時はああやって…』
『そうだあの時の私の会心の一撃が見事に決まったな』
『ああ。あれは堪えたぞ!しかし、その後の俺の逆転劇が……』
・
・
・
・
『赤いの今度は千年前の話をしようではないか』
『ああ。楽しいなぁ白いの…』
小僧が最初に聴いてきた「何が理由でドライグとアルビオンは争うようになったか?」という問いには答えられなかった。
何せ俺も白いのも全然憶えていなかったからだ。
しかし、最初の戦いがどういう戦いだったのか、というのははっきりと憶えているので、俺たちは語り続けた。
すべて語り続けた後、俺の白いのに対する嫌悪感が薄らいでいた。
むしろ古くからの旧友のような感覚が芽生えてきた。
それは白いのの方も同じらしく、俺たちは過去の話を楽しく語っていた。
昨日の敵は今日の友。
この国の故事にこんな諺があるらしいが、まさにそれだ。
そして俺たちが滅んだ後、俺たちが封じられた神器を宿し、怨念に塗れた歴代【赤龍帝】と歴代【白龍皇】がほぼ全員、碌な最後を迎えなかった事に俺たちは忸怩たる思いを抱いていた事も共通していた。
そして、俺は白いの……いやアルビオンといつの間にか和解していた。
俺とアルビオンが和解するなど、つい先日まで考えられなかった。
俺たちが同時に一人の人間に宿った事が起こした奇跡なのだろう。
【赤龍帝】と【白龍皇】が出会う毎に争い続けた故、奴と長々と語り合った事などない。
言葉を尽くせばお互い解り合える事も不可能ではない…と、いう事例を俺たち自身が証明した事になった。
無論、噛み合わなければ逆に反発し、もっと険悪な仲になっていた可能性もあったが…な。
しかし、俺とアルビオンが和解した事とは別に気になる事がある。
『ところで、兵藤一誠よ。お前は何者なのだ?』
そう、アルビオンが今問うたこの疑問、俺たちを宿したこの新たな相棒の正体だ。
やはり、どう考えてもまだ生まれて数年余りの幼児とは思えない。
そもそも、俺たち二天龍を同時に宿すなどあり得ないのだ。
「……そうだな。これから一生付き合う事になるのだ。私の事をお前達だけには話しておかなければならないな」
★☆★
私の名はアルビオン。
かつて【
幾星霜と争い続けた宿敵であるドライグと和解した私は、我ら二天龍を宿した規格外の宿主、兵藤一誠の正体を聞いた。
はっきり言って、想像の斜め上の回答だった。
前世の記憶を持つ……だと?
確かに仏教などの体系には輪廻転生という概念があるが、生まれ変わった者が前世の記憶をハッキリと有するなど有り得ない。
しかも双子の弟とは他人の記憶も受け継いでいるなど…。
悪魔が用いる【
それにしても、前世の奴の一生の波乱万丈振りに、私は同情してしまった。
二重人格という宿命により、本来の想いとは真逆の行動をせざる得なかったなど……【
しかしそれよりも気になるのは……。
『小僧、アテナの聖闘士なる存在など俺は知らんぞ。確かに
そう、ドライグの言うとおり私も聖闘士など聞いた事がない。
兵藤一誠が言うような存在ならば、表の世界なら兎も角、我らや各神話体系にその存在が広まっていないわけがないのだ。
しかもアテナがポセイドンやハーデスと幾たびも争いを続けたなど……。
確かにアテナは伯父であるポセイドンとアッテカの地を巡って争ったという伝承はあるが、ハーデスと争ったというのはトンと聞いた事が無い。
だが、兵藤一誠が嘘をついているとは思えない。
確かに我らが宿っているこの男の中に、奴が【
今まで、私が宿った【白龍皇】にも、今まで敵対したどの様な奴からも感じた事がない……しかし、とてつもなく強大な力が……。
『それにギリシャ神話体系の神であるハーデスは冥界全土を支配しておらず、冥界の最深部である【冥府】を支配する神だ。冥界を支配するのは悪魔と堕天使たちだ』
私の答えに兵藤一誠は納得の表情になった。
「なるほど、これで確定した。私の前世はこの世界ではなく、別の世界……いや
★☆★
私――――兵藤一誠はドライグとアルビオンとの対話の中で、今まで疑問に思っていた事を解決できた。
それは今、私が生きているこの世界は前世とは違う世界……いや、似て否なる世界、並行世界なのだという事を…。
私は以前、父に連れられて訪れた図書館で、幼児向けとの絵本などを読みさらに 児童向けコーナーの漫画で読む日本の歴史、世界の歴史などで、人の世の歴史は私の知る通りの歴である事は確認していた。
そして、父が母に電話を掛けに行った隙に一般書籍の方で調べ物をした。
幼児である私が1990年の新聞を求めた事に司書は奇妙な顔をしたが、職務に忠実なのか求めたとおり新聞を見せてもらった。
かつて教皇に扮していた私を誘き出す為に、アテナが開催した聖闘士同士の格闘技戦【
全世界で話題になったあのイベントを取り扱わなかった新聞など一部の専門的な新聞以外なかった筈。
しかもアテナが総帥を務めるアジア最大の財団である【グラード財団】が存在していないのだ。
それどころか私の知るどの企業も財閥も存在していなかったのだ。
その事から、私はこの世界が並行世界であると確信するに至った。
『……成る程、そう説明されれば納得がいくな…』
『しかし、そちらの世界のギリシャ神話体系の神々は、我々の知る彼奴らよりも遥かに強大な存在の様だな』
【
少なくとも此方の世界の冥府の神であるハーデスとは二天龍もそれなりの因縁があるので知っているが、さすがに太陽系の惑星を永遠に直列させられる程の力はないらしい。
最強の力を持つ龍神や、それに次ぐ力を持つインド神話の宇宙の創造、調和、破壊を司る【
そして我等【黄金聖闘士】も、人間でありながら最上級の天使、堕天使、悪魔すらも凌駕する力を持つとまで言われてしまった。
『小僧……いや相棒。これからどうするつもりだ?』
「これまでと変わらず普通に生活していくつもりだが……」
『それは無理だな』
ドライグたちはこれからの私の行動を否定した。
『ドラゴンは力の象徴。ドラゴンが宿る神器、しかも【神滅具】を宿し、しかも2つも宿したのだ。絶対に厄介事に巻き込まれる』
『神器を宿している事を隠しても、何れは何処かの神話勢力に絶対に気付かれるだろう。そうなッた時、お前に力が無ければ、お前だけでなく、お前が大切にしている両親や友すら巻き添えにしてしまうだろう』
「……つまり、俺に前世で持っていた力を取り戻しておけ……という事か…」
『それだけでは足りない』
『如何にお前の前世が下手な最上級の天使や悪魔、
『我らドラゴンは力任せに世界を何度も滅ぼせられる……しかし、最強の龍神に次ぐ力を持つ我等【天龍】でさえ、最後には滅ぼされ、神器に魂を封じられてしまった』
なるほど、つまりいくら力があっても個人では限界がある。
そういった脅威に対抗できる手段を模索せねばならないという事か。
父よ、母よ。
どうやら私は、貴方たちと穏やかな生活を送る訳には行かないようです。
ですが……貴方たちだけは必ず守ります。
貴方たちの息子として、そしてアテナと最強の黄金聖闘士【双子座】のサガの名に掛けて…誓います。