異世界に転生した双子座 -Twin Dragon Saga- 作:神鳥ガルーダ
僕―――兵藤一誠は【
「さて、問題はオーフィスを何処に住まわすかだね」
オーフィスを兵藤家に住まわすわけにはいかない。
その理由は駒王町が悪魔の領地でもある点だ。
現在の駒王町は、元ソロモン72柱序列68位、ベリアル家の分家筋の上級悪魔が管理している。
最も、それは悪魔側が勝手に管理しているだけで、人間がそれを認めているというわけではなく、済し崩し的に他勢力からもそう認識されているだけだけど…。
一応、この町にも悪魔と敵対するキリスト教会があり、幼馴染のイリナの父である紫藤トウジ牧師を含めたプロテスタント系の悪魔祓いエクソシストが常駐してはいるが、対立してはいるモノの暗黙の了解で、お互い不干渉としているようだ。
僕が駒王町から離れた場所で修行しているのも、悪魔の領地であるというのが原因だ。
町中で
【
そして、そこにドラゴンはおろか全勢力中最強の【
さすがに実力行使をすれば、自分達の方が危ないから手を出しては来ないだろうが、常に監視されるだろうし、搦め手を使われれば厄介だ。
何も知らない一般人である父さんと母さんを巻き込みかねない。
オーフィスがいる事を隠そうにも彼女の力は強大すぎるから、隠し切れないだろう。
『そうだ!思い出したぞ!!』
思案に暮れていたら、ドライグが声を上げた。
『どうしたのだドライグ?』
『オーフィスの件に関して心算が出来た。相棒、【赤龍帝の籠手】を出してくれ』
…僕はドライグに言われるままに【赤龍帝の籠手】を出した。
するとドライグが何か呪文を唱えると、目の前の空間に魔方陣が展開された。
『オーフィス。相棒にしっかりと捕まっていろ。相棒、この
「これが龍門だと?普通のモノと少し違う…」
オーフィスが言った様に普通の龍門とは少し感覚が違うが、ドライグが開いた龍門なのだから、危険はないだろう。
僕はドライグを信じ、オーフィスと共に龍門に飛び込んだ。
★☆★
通り抜けた先には、宝玉を咥えた三体のドラゴンの彫像に囲まれた大きな魔方陣の中にいた。
魔方陣から出て、周囲を見渡せば、そこは自然溢れる緑豊かな大地だった。
「ここは…?」
「イッセー、ここ人間界じゃない…」
『そうだ。ここは三大勢力も、オリュンポス、アースガルズ、須弥山など他の神話勢力にも属さない…
『古代龍だと…?古代龍はエジプト文明や
『ああ。原初の神々達と同時期に存在していたドラゴン種族だったが、種族の覇権を争い滅んでしまった。この世界は先ほど開いた特殊な龍門を通らなければ来る事が出来ないので、聖書の神やゼウス、オーディン、シヴァ・ヴィシュヌ・ブラフマー、
古代龍の存在が神々に知られているのは、その争いの中、この世界からまだ神が人間を創造する前の世界に現れ、激しい戦いを繰り広げ、共に滅んだ事が確認されているとの事だ。
僕も今回初めてその存在をドライグたちに教えられた。
「そう。もはや古代龍は存在せん…。このワシを除いてな」
ドライグの話を聞いていた僕らに、一人の老人が近づいてきた。
この老人は一体?
『久しぶりだなサイエス』
「久しいのぅドライグよ。前に会ったのはお主が神器に封じられる前じゃったのぅ。まったく…いくら滅ぼされ神器に魂を封じられたとはいえ、お主を宿した
『すまんな。神器に封じられてより今まで、お前やこの世界の事をすっかりと忘れていてな。ようやく思い出した所だったのだ』
「フン。ワシの半分も生きとらん若造が、ボケるのはまだ早いぞ」
どうやらこの老人はドライグと旧知の間柄らしい…。
確かに、見た目は人間だが気配はドラゴンのそれだ。
恐らくかなり永い時を生きているドラゴンなのだろう。
『相棒。この男は最後の古代龍であるサイエスだ』
「古代龍の生き残り?」
『まさか、古代龍が生き残っていたというのか。ドライグ!?』
『そうだ。俺がコイツから聞いた話では、古代龍は確かに滅んだが、孵化寸前の卵が一つだけ残っており、その卵から生まれたのがコイツらしい』
「…でも、コイツそれ程強くない…」
『ああ。コイツはファーブニルと同じく自分が戦う事には余り興味の無いドラゴンだ』
ファーブニル?
北欧神話に登場するドラゴンで、確かこの世界では六大竜王に数えられていたな。
『ああ。ファーブニルは龍王に名を連ねる程の力あるドラゴンなんだが、奴は戦闘よりも宝にしか興味を抱かない奴だ』
『しかし、コイツはファーブニル程の力は無いし、宝に興味がある訳じゃない。もともと古代龍はそれ程強いドラゴン種族じゃないしな』
『…神々の前に現れた二匹の古代龍はかなり強力だったというではないか?ドライグ』
「その二匹、ヴェレファングとグージェルの二匹のみが強力じゃっただけじゃ。滅んだ先祖たちの記録によれば、その二匹はお前たち天龍に匹敵する強さを持っておったらしいが……他の古代龍は、普通のドラゴンたちとそれ程変わらんわ」
僕は普通のドラゴンには会った事がないので、一般のドラゴンの強さがどの程度かは解らなかったが、このサイエスから感じる強さが普通のドラゴンのレベルというわけか…。
成る程、この程度ならば
しかし、それ以外の人間にとっては余程強力な武器、もしくは
『コイツの趣味は魔法と錬金術や科学だからな。昔から何か新発明があると人間に変身して、それを学びに行っていたからな』
知識欲の塊りで、何かの新発見や新発明などがあれば人間に変身して、貪る様に学ぶらしい。
それを元に、自分でも発明したり、既存の物を改良したりとしているとの事だ。
「何なら、ワシの発明品を見学するか?」
興味本位で見させてもらったが、確かに色々なモノを作っているようだ。
有用なモノもあれば、しょーもないモノまで様々な発明品があった。
中には現在、人間界で使用されているモノを改良したモノ、改悪したモノなどもある。
見学が済み、僕たちはここに来た理由を話した。
「なるほどの。この世界にオーフィスを住まわせるというのか?」
『ああ。駒王町にオーフィスを住まわせるのは何かと不都合だ』
オーフィスをこの世界に住まわす理由は冒頭の事情だけではない。
彼女が言うには、悪魔たちの中の『旧魔王派』と呼ばれる者たちと接触したとの事だ。
この旧魔王派というのは、かつての四大魔王に数えられた【レヴィアタン】、【ベルゼブブ】、【アスモデウス】の血族やその派閥で構成されている。
先の大戦において、魔王はすべて死亡し、代替わりしている。
当然血族の連中らは面白くないだろう。
しかも、現政府は天使、堕天使との戦争を望んでおらず、戦争継続を主張する旧魔王派との争いが起こり、現政府の勝利によって旧魔王派を冥界の片隅に追いやられた。
ちなみに【ルシファー】の血族とその配下は先の内乱では旧魔王派に属していたが、現在は加わっていないらしい。
彼らは現在の状況を打破する為にオーフィスの力を利用しようと接触してきたらしい。
グレートレッド打倒に協力する事を条件に、自分たちの力になってもらいたいとの事だ。
彼女が作った【蛇】を呑み込めば、凄まじいパワーアップが望めるらしい。
オーフィスはグレートレッド打倒に協力という事に関心を寄せていたらしいが、僕は反対した。
絶対に約束を守るわけがないからだ。
「オーフィスとグレートレッドが戦ったら世界にどれほどの影響を与えるかなど、奴らも承知のはずだ。オーフィスの力を利用するだけ利用して、用が済めば反故にするに決まっている」
相手を疑うという事を知らないオーフィスは、反故にされる可能性を考えず、正式な契約など行っていないのだ。
悪魔に対してはきちんと契約しなければ駄目だ。
正式な契約ならば、悪魔はそれを破る事は出来ないが、口約束程度ならば破る事は簡単だ。
無論、オーフィスの怒りが自分達に向けば、対応が出来ないのは解っているだろうが、オーフィスに対して有効な何かを見つけているのかも知れない。
それはともかく、奴らが正式に契約していない事を逆手に取り、こちらから反故する事も可能だという事だ。
オーフィスも僕の意見を了承し、既に旧魔王派に協力しない旨を奴らに通信した。
奴等は相当焦って、再考を求めてきたがオーフィスは一方的に通信を切り、話を終わらせた。
どうやら、奴らよりは僕の方に信頼を寄せてくれているようだ。
彼女の信頼を裏切る真似はすまい。
「つまり、オーフィスは旧魔王派との約束を反故にした。ならば奴らも黙ってはおらず、必ず報復してくるだろう。最もオーフィス相手に喧嘩を売るなど無謀もいいところだが、何らかの策を考えている可能性があり、オーフィスはともかくその周りに被害が及ぶかも知れんから、奴らが手を出せないこの世界でしばらくオーフィスを匿おうという事じゃな」
「はい。その通りです…」
「まあ、この世界にはワシしかおらんから、別にオーフィスがいても特に問題はないので、ワシは構わんよ」
「ありがとうございます」
『すまんな。サイエス』
これでオーフィスの事は片付いたね。
「…しかし、お主本当に人間の小童なのか?」
さすがに神器が覚醒しているとはいえ、僕の行動は人間の幼児とはとても思えないだろうね。
仕方が無い…協力してくれるのだ。
彼にも僕の事を話そう。
★☆★
「ぬぅ…俄かには信じがたいが……お主のその聡明さの理由にはなるのぅ」
「我もますますイッセーに興味が湧いた」
僕も前世の時分にこのような話を聞かされればとても信じられなかっただろうね。
でも、今の僕は肉体に精神が引っ張られているから多少幼くなっているとはいえ、考え方は30代前後の成人男子のそれだからね。
「それにしても
サイエスがなにやら懐から取り出した。
「お主の小宇宙という力。魔力を魔力弾として撃つ様な事が可能か?}
「うん。それくらい造作も無い事だけど…?」
「では、これに手を触れながら撃ってくれんか」
「…?」
僕は疑問に思いながらもサイエスのいうとおり、彼が取り出した水晶玉の様なモノに手を触れ、小宇宙を手に凝縮させた。
すると小宇宙が水晶玉の中に吸収されていった。
「うむ。上手く注入できたのぅ。この小宇宙がこれからのワシの研究対象じゃ。しばらく退屈せんですむぞ。ではな」
そういうとサイエスは自分の部屋に向かっていった。
「ああ。オーフィスの件は任せろ。時々そちらに行っても問題ないようにしてやる。あとここの魔方陣の宝玉にはすでにドライグのモノが登録されておるが、ついでにオーフィスとアルビオンの力も登録しておいたのでここにおる全員、自由にこの世界とあちらの行き来が可能じゃ」
『どういう事なのだサイエスよ』
「この世界は龍門を用いなければ来る事は出来ん。しかもあの宝玉に登録されたドラゴンの力を用いた龍門でなければな。つまり例え魔王だろうが聖書の神だろうが、破壊神だろうが、この世界に無断で侵入する事は出来んのじゃ。だから、ここに居る限り旧魔王派の連中もオーフィスに手を出す事は出来んという訳じゃ」
つまりこの世界を僕らの本拠地に出来るという事か。
『ついでにこれからの修行もこの世界で出来るな』
『しかも全力で行えるわけだ』
うん。今までは隠れて修行をしていた為どうしても程度を抑えなければならなかったが、これからは気にする必要がないね。
こうして、諸々の事が解決した……と、思われたが、更に厄介な事が待ち受けている事を、この時の僕は知る由もなかった。