ハーミーズとアークロイヤルのお花見成功大作戦 作:ハンバート二世
春です。
桜が満開、暖かい陽気に包まれて皆で外に出て桜でも見ながらお話したい、そんな空気が港に立ち込めています。指揮官はいったいどうやって全員分の弁当を用意しながら全員を捌こうかと思案している真っ最中でしたが、そんな事は梅雨知らず、いつになったら花見の計画が発表されるのか気が気でない獣の如き少女達で溢れていました。
そんな中、クールに
「風も、涼しくなったものだな――」
頬杖をついて窓の外を眺める黒髪ロング、スタイル抜群の美人の名はアークロイヤル。
アンニュイな表情で風に吹かれている姿はイケメンです。
その視線の先に何もなければ。
「そろそろ温かくなってきて薄着も増えてくるな……夏が楽しみだ。程よく焼けた健康的な肌――
口の端から涎を垂らしながら去年の夏を思い出す変態ロリコン空母。
今年もきっと指揮官が裏で手を回して駆逐艦達の海色肌色褐色バカンスを計画してくれるのだろうと考えつつ、視線の先で元気に遊ぶ重桜の駆逐艦達を眺めていました。
睦月、如月、卯月に磯風です。磯風の様子的に戦国ごっこをしているのでしょう。
「馬役をしたい」
今アークロイヤルがいる部屋も、元々住んでいた方に無理を言って交換してもらっていました。
しかし、決して手は出さない……もとい出せないアークロイヤルはあくまで紳士。紳士なのです。ロリコンの鑑です。だから指揮官も安心して駆逐艦に接触させているのです。
「さて……そろそろ明石を撫でに行くか」
明石は気持ちいところを撫でると途端に嫌がる素振りを見せなくなるので扱いやすかったりします。
ついでにお土産を持って行くと売店に居座る事も許してくれる従順な猫なのです。
という訳で、デイリーミッション『明石を愛でる』をこなす為にその眼に睦月達の姿を鮮明に焼き付けていると――
「アークロイヤル!」
「がはっ!?」
「え?」
突然の来客に思わず取り乱し、窓から落ちました。
その来客が大丈夫か……? と窓から下を見ると、下で遊ぶ駆逐艦達に当たらないように咄嗟に建物の壁を蹴って反対側の木に飛び移っていました。
「アークロイヤル……そんな事ができたのか」
下の方では猫がいるだのリスがいるだの足軽兵がいるだのてんやわんやしていましたが、どうやらソレがアークロイヤルだとは気が付いていないようです。気が付かれては、少なからずとも疑惑の目が向けられているアークロイヤルの事ですから、折角の特等席を失ってしまいます。
そうならない為ならば肉体の限界を超えた運動神経さえも出して見せるのが真の……いや、真性のロリコンです。
目に留まらぬ速さで木から窓に飛び移り、ついた葉っぱを取り払いながらノックをしない無粋な来客を睨みました。
「ヘルメス、私だからと言ってノックをしないのは流石に失礼だろう」
「すまないクロ。急いでいたんだ。それにそんな不純な趣味を邪魔されても文句は言えないと思うぞ」
「ぐ……それは、そうだが」
件の少女は”ヘルメス”、と言うのはアークロイヤルだけが呼んでいるあだ名で本当の名をハーミーズ。
最古参の一人であり、
アークロイヤルとは古くからの付き合いで元は師弟、今となっては無二の親友のような存在です。ハーミーズが先生、アークロイヤルが生徒でした。
ちなみにハーミーズが呼ぶ”クロ”と言うのもハーミーズだけが呼んでいるアークロイヤルのあだ名です。
「で、何の用事なんだ。その様子だと大ごとそうだが」
「ああ。大事も大事だ。指揮官が誘拐された!」
「なに!?」
――『激震走る! 指揮官、赤城に軟禁される!?』
掲示板に張り出された青葉手製の新聞を見て、アークロイヤルは絶句です。
どうやら今朝、アークロイヤルが駆逐艦を眺めている最中に事は起きたらしく、最初に気が付いたのは姉の姿が見えないと心配していた加賀でした。
あのヤンデレ女の事です。またよからぬ事を考えているのだろうとアークロイヤルは考えます。
「なんという事だ……これではラフィーちゃんを酔わせる計画が……」
「今なんと言った?」
「何も言っていない。言っていないぞ何も」
「何故二回言った」
「ともかく! 他の子達は今どうしているんだ!?」
ハーミーズによると、事に気が付いたのはいつものように指揮官の下へふらっと行ってしまう姉を探していた加賀でした。探し疲れて部屋に戻ると、赤城からのものと思われる置手紙があったのです。
『――指揮官様は預かりました。今年のお花見は私達二人だけで行いますので探さないでください。P.S.ちなみにこれ以降の行事も全て私達だけで行いますのであしからず。 赤城』
「またあの女は……確かクリスマスの時も執務室を爆破して指揮官を拉致しようとしていなかったか?」
その時は先回りしていた、指揮官サンタを楽しみにしていた駆逐艦達によって食い止められましたが、今回はより隠密性を向上させた作戦を練っていたのでしょう。それに加えて指揮官は非常にお人好し、たとえ何度、同じ相手から貞操の危機に晒されようと受け入れてしまうのですから仕方ありません。
これは最早自分に対する危機管理能力が執務室の椅子にでも吸い取られているのではないかという呪いぶり。
「既に捜索は始まっている。クロも加わってくれ。それとも駆逐艦を眺める方が大事か?」
「ぐっ……その訊き方は卑怯がすぎるぞヘルメス……も、勿論閣下を探すに決まっているだろう! よし、すぐ行こう」
「どちらにせよその内この母港全域に事が知れるだろう。そうなれば駆逐艦達も探し回るはずだから、クロのお望み通りになるな」
そのハーミーズの言い方に何か、少しひっかかったアークロイヤル。小さかった頃からハーミーズをずっと見てきたのですから、細かな感情な動きには機敏なのです。
散々言われたお返しとして、卑しく口角を上げながら言い放ちました。
「ヘルメス、それは嫉妬しているのか?」
「…………………………………………………………
「その反応は図星と受け取るがいいんだな?」
「闇のカードの呪縛に囚われてしまったか――ならば
「私が進水してから訓練生時代に比べて相手してくれる時間が減ったからな。自分で言うのもなんだが、なにかにつけて駆逐艦達や閣下にスキンシップをとっていたから、それで嫉妬していたんだろう」
時間が止まったかのようにフリーズするハーミーズ。
拳と体を震わせて俯き気味に何かを呟いています。
そして、
「――――――ッ!!」
目尻に涙を浮かべながら一目散に走り去ってしまいました。ドアをけ破るように出て行ったのでこれは相当怒っています。
アークロイヤルもこれには「あっ……」という情けない声を出すしかありません。流石に言いすぎました。大人げなかったとすぐに反省。先に言い出したのはハーミーズの方ですが、彼女の感情に気が付いていたのであれば、それに答えてあげるべきだったのでしょう。
ハーミーズはきっと、アークロイヤルと”一緒に”指揮官を探したかっただけなのです。
追いかける以外の選択肢はありません。
深く深呼吸、すぐに部屋を出て走り去った方へ向かいました。
「しかし、本当に嫉妬だとすると、ハーミーズは私の事を……? いやいやいや、長年付き合った同性の仲だ。そういうものにはなり得ない。ああその通りだ。なにせあの決闘の事しか頭にないハーミーズの事だ、その感情が何なのか気が付いていない……はずだ」
それにしてもなんでしょうかこの視線。
さっきからずっとすれ違う子達から『あり得ないだろコイツ……』みたいな視線を向けられているのです。もしかしてあの部屋の事がバレたのか? と
その代わり、アークロイヤルは人生最大の危機を迎えるのです……!!」
「これがその青葉の記事か」
丁度そこを通るので、件の事件、その記事を拝見しておこうと掲示板の前に立ちました。
ふむふむと読んでいると、すぐ横に”速報!!”と書かれた新聞が貼ってありました。これも青葉のものでしょう。事件に進展があったのか、と視線を移すと――
『悲報! アークロイヤルがハーミーズを泣かせた!? 長年付き添った女性同士の複雑な恋のもつれか……!? 指揮官が誘拐されている最中に
「青葉ァ!!」